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ファーストシティに到着。
ビッツとガジットを探す前に、獲得した金属をルバに変えて、ブロズの鎧や盾、セリアの矢を買い、そのあと腹ごしらえをすることにした。
ビッツとガジットと会ったら戦いになる可能性がある。奴らが戦っていた姿は見たが、あれが本当の実力かは分からない。
思ったより強い可能性があるので、万全な状態にして戦う方がいいと俺は判断した。
市場に行き、からくりの塔で宝箱から出た黄王石と、迷宮で取った金っぽい金属を売った。
「黄王石四個と……おお、これはレアゴールドじゃないか!」
「レアゴールド?」
「通常の金より軽いけど、硬度は高く加工もしやすい優れた金属だ。珍しい金属だから結構高いぞ」
「そうなのか、いくらだ?」
「一個三万ルバはするな」
「さ、三万?」
百ルバで五日間飲み食いに困らないくらいの額なのだ。これ一個で四年くらいは食べて行けるってことか? それは相当凄いぞ。六つもあるからとんでもない金額が貰える。
「ちなみに黄王石は一個千ルバだ。どうだ売るかい?」
俺はコクコクと頷いた。全部で十八万五千ルバを獲得した。大袋四つに大量のルバが入っている。ちょっと多すぎないか。初心者冒険者が持ってたら狙われそうで不安になる金額だ。
四人でルバは山分けした。シラファは少なめで良いと言ったが、きっちり四等分にした。
そのあと市場を歩き、防具店を発見。ブロズと一緒に中に入る。俺も良さげな防具があったら買ってみるつもりで、店の中を見回った。
俺は動きやすい服装がいいので、ブロズのように大きな鎧は嫌だが、アウターなら軽くて動きやすいけど、それなりに防御力の高い鎧もありそうだ。
そう思って探していたら、その予想は当たった。
発見したのは胸と背中だけを守る胸甲だ。手足の防御力は落ちるが動きに制限を掛けることはなく、さらに軽い。まるで、紙を持っているみたいだ。問題は硬さだが、こればかりは試すのは難しいし、店長に尋ねてみることにした。
「この鎧は凄く軽いけど、硬いのか?」
「ん? あぁ、そいつはサイクロプスのパンチでも砕けないぞ。おすすめの品だ」
「サイクロプス?」
「知らんのか。一つ目の馬鹿でかいモンスターだ。そいつのパンチは鉄の塊でも楽勝で砕く」
そんなモンスターがいるのか、見てみたいような怖いから見たくないような。
店主の言っていることを鵜呑みするのも危険かもしれないが、嘘をついている感じには見えないし、ここは信じてみよう。値段は5000ルバ。決して安くはないが、買ってもまだまだルバは残る。思い切って買うことにした。
買った後早速身に着けた。軽くて悪くない感じだ。元々来ていた服の下に着ているので、見た目に変化はない。これを着ているだけで、安心感がだいぶ違った。
ブロズも新しい鎧と盾を買い終わったようだ。
青色の大きい鎧だ。盾は銀色の巨大なカイトシールドだった。盾の真ん中にはライオンが描かれている。
「中々良いよ。前までより軽いし、硬度も問題なさそう」
満足げな表情でブロズは言った。新しい鎧と盾が気に入ったようだ。
次は武器屋に行って矢を買った。セリアは矢筒を三つ持っており、一つを携帯して残りは袋にしまっていた。一つの矢筒に24本入るので、全部で72本矢を購入した。
「これ矢じりが凄い金属で出来てて、刺さりやすいんですってー。この矢なら、あのゴールドドッグでも貫けたかもしれませんねー」
セリアの購入した矢の矢じりは、薄緑色の金属で出来ていた。刺さりやすいかは試してみないことには分からない。
シラファは武器屋で新しい短槍を購入したようだ。柄の部分が黒く、先端の刃の部分も黒い。元々の槍より、作りが数段丈夫な物のようだ。
俺は今のところ自分の剣が気に入っているので、新しい武器は買わなかった。
店を出て、本格的にビッツとガジットの捜索を開始する。
市場にいた人たちに話を聞いても、ビッツとガジットという名を知る人はいなかった。市場はここ以外にはなかったはずなので、この町で生活する以上、訪れたことがないという可能性は低い。
ビッツとガジットという名前が偽名か、市場の人たちに名前を知られていないかのどちらかだろう。
身体的特徴を言って尋ねてみたら、知っている人を早速見つけた。
「あー、見たことあるぜ。名前は知らねーけどな。俺の良くいく酒場で姿を見るから、夜に行ったらいるかもな」
「何て酒場だ?」
「ランドール店だ。酒の質は悪いが値段がとにかく安い。俺みたいな貧乏人にはいい店だ」
それから男からランドールの場所を聞いた。
早速向かう。古めかしい建物があり、目の前の看板にはランドールと書かれていた。ここで間違いないだろう。
中に入ると、昼間だったからか客はあまりいなかった。
席に座り、料理を頼んだ後、入り口を見張りビッツとガジットが来るのを待つ。
出された鶏肉の入ったスープを一口飲んだ後、セリアが口を開いた。
「あの二人に仕返しするのは良いんですけど、痛めつけるだけで良いんですかねー。もう二度と同じことを出来ないようにするべきだと思うんですよー。後から来る冒険者さんたちが同じ目に遭うかもしれませんしー」
「そうだね……でも、殺すのは抵抗あるな俺は」
ブロズが返答した。俺も殺すまでしようとは思っていなかった。
「この町にも、法律みたいなのがあるんじゃないのか? 殺しをした奴らは何らかの罰が与えられるみたいなやつが」
「どうですかねー。冒険者って自由な感じで決まり事とか、守れそうにない人多そうですし」
セリアの言葉にも一理はあった。
この酒場にはほかにも客がいる。もし、新人冒険者を騙して、からくりの塔の罠にかけさせるような奴がいた場合どうなるかと質問した。
「そりゃ死刑だろ。何だ罠にかかったのかお前ら、そりゃ災難だったなぁ」
酒場の客は笑いながらそう言った。
死刑なのか。どっちみち殺すことになるだろうが、決まり事となっているのなら、納得は出来た。
「犯人を捕まえたら、どこに連れていけばいい?」
「町長の家に行けばいい。ちなみに魔法で罪を犯した証明は出来るから、特に証拠を持って行く必要はねぇぞ。間違った犯人を連れていった場合は、罰金取られたりするから、そこは気を付けろ」
結構いい人だった。
俺たちは酒場の席に座り、入ってくるのを待ち続ける。
しばらくして、小さい男と大きな男のコンビ、ビッツとガジットが、店の中に入ってきた。