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シラファは、恐怖心、屈辱感、羞恥心、様々な負の感情を抱えながら、スレイたちと首なしが戦う様子を見ていた。
情けないことに、セリアとブロズが死んだのを見てから、体が震えて思うように動けなくなっていた。どうしても、自分が死んでしまう光景が、頭の中に浮かんできてしまう。
首なしがこちらに鉄球を投げようとしてきたときは、あまりの恐怖心にシラファは動けなかった。スレイが首なしに盾の残骸を投げ、気を逸らした時は助かったと安堵したが、同時に強い羞恥心が湧いてきた。
また足を引っ張ったという意味の恥ずかしさでもあるが、こんな状況になっても自分を助けてくれるスレイを疑ってしまったことに、強い羞恥心を感じていた。
思えば会ってからスレイたちには何度も助けられた。最初蜘蛛との戦いでも助けられ、あの時はすぐ借りを返したが、そのあと、町で食料を恵んで貰った。からくりの塔に来て、迷宮に落とされてからは、まともに戦えないのに何度も助け、見捨てずにいてくれた。
間違いなくスレイたちは善人だ。過去の体験にとらわれ、善人も疑わなければならない自分の心が、シラファは忌まわしく思えた。
やがてスレイが首なしを倒した。
また助けられた、これだけの借りを返すにはどれだけの事をすればいいだろうか、と思っていると、新しい首なしが三体出現した。
シラファは驚愕しながら三体の首なしを見た。ほかの三人も全く予想していなかったのか、言葉を失っている。
いち早く動いたのはスレイだ。一番近くにいた首なしを倒すため、急所を突こうとジャンプした。一体一体を確実に倒していく作戦だろう。
ただほか二体の首なしが、シラファを狙っているのを見て、スレイは作戦変更を余儀なくされた。一度刺すとすぐに引き抜いて、首なしを引き付けるためにほか二体を剣で斬りつけた。
それからはスレイは苦戦を強いられることになる。三体同時に狙われると、不要にジャンプもし辛く、躱すのが精いっぱいであるようだ。
シラファはその様子を見て、また私が足を引っ張ったと、歯を噛みしめた。
セリアとブロズが遠距離からスレイを援護する。しかし、劣勢は覆せそうにない。
シラファは戦っているセリアとブロズの姿を見て、強い屈辱感を覚えた。この二人はシラファ同様一度死んでいる。それなのにセリアは死んだことなど何だという感じで、矢を放ち続け、ブロズの方はかなり強張った表情で、強い恐怖心を感じてはいそうだが、それでも敵を両目でしっかりと見据えて、フレイムを打ち続ける。ただ震えてみているだけのシラファとは、大違いであった。
――クソ……私は何をやっている……!
屈辱感は怒りへと変化した。
シラファは眉間にしわを寄せ、槍を強く握りしめた。
戦わねば――強くそう思った。
しかし、恐怖心は消えない。足も震えたままだ。
シラファは槍の柄を自分の額に強く打ちつけた。消えろ、消えろ――と心の中で何度も念じながら、五度打ち付ける。額から血が流れ、頬を伝い地面にぽたりと落ちた。完全にではないが、少しだけ恐怖心が消えたような気がした。足の震えも収まっている。
――これなら戦える。
シラファは首なしの姿を鋭い視線で見つめた。スレイが必死に三体の相手をしている。一刻も早く助けに行かないと、そう思って走り出す前に、ふと、大きな魂石が目に飛び込んできた。
最初の首なしが死んだときに落ちた魂石だ。シラファの魂力の量は、器二個分と決して多くはない。このまま戦いに行っても、精神的な面ではなく実力的に足を引っ張る可能性が高い。
あれは、スレイが倒した首なしが落とした物なので、食べていいのか一瞬考えたが、そんな事言っている状況ではなかった。僅かでも強くなって救援に向かわなければならない。食べると決め、大きな魂石を手に取る。大きすぎて口に入れることは不可能、どうするか悩み、かぶりついた。歯が魂石に触れた瞬間、魂石は液状になり、シラファの口に吸い込まれていった。
自身の体が大幅に強化されたことを感じた。シラファは槍を強く握りしめ、首なしに向かって走り出した。