27
迷宮に転送されてから、数時間が経過した。歩き続けるが、未だに出口は見つからない。何体もモンスターが出てきた。どれも強敵だったが、何とかシラファを守りながら、倒すことが出来た。
モンスターを倒す度に俺の力は上がっていくが、器はまだいっぱいにならない。ブロズとセリアは、どちらも四個目がいっぱいになったといった。二人より多くの敵を倒しているので、俺の器は一個で四個以上の容量があるのは間違いないだろう。
「お腹減ってきましたねー」
腹を押さえながらセリアは言った。確かに空腹を感じる。恐らく外は夜になっているだろ。
「食料は持ってきたし食べようぜ」
「そうですねー」
「いつ出られるか分からないから、きちんと計画的に食べないとね」
持ってきた食料は多くはない。一日に食べる量を極限まで少なくても、五日ほどしか持たないだろう。それまでに出口を見つけられなかったら、俺たちは飢え死にする。
俺たちは端っこに移動して、座りながら食事を始めた。
それぞれにパンを半分ずつ配る。少ないがこれ以上食べるのは、これからの事を考えるとやめた方がいいだろう。
「……」
シラファが配られたパンをじっと見つめる。
「どうしひたんれすかー? おなかへってないんれすかー?」
パンを口に入れながらセリアは尋ねた。
「……何で食料に限りがあるのに、私なんかに渡すんだ。三人だけで食べたら、生き残れる期間が増えるだろうが」
「えー? そんな鬼畜なマネできませんよー」
「それが一番合理的な判断だ。人間なんて我が身が一番可愛い。自分が不利益を被ってまで人を助けようなんて、おかしな話だ」
シラファの口調は戸惑っているように感じた。本当に心の底から、俺たちの行動が理解できないでいるようだ。
「あのなぁ。お前が今までどんな奴と会ってきたから知らないけど、俺をそいつらと一緒にすんなよ」
「人間なんて皆一緒だ。平気で嘘を吐く。人を騙す」
「違うもんは違うんだよ。俺は仲間を見捨ててまで助かろうというクズじゃねーんだ」
「……仲間? お前は私を嫌っているだろう?」
「まあ、確かに性格は気に入らないが、一緒に洞窟クリアして、そのあともこの塔までずっといるからな。仲間と言ってもいいだろう」
「……」
シラファは何かを考えるように俯いた。
「俺も仲間だと思ってるよ。確かに変なとこあるけどさ。強いし、格好いいからねシラファさんは」
「わたしは、出身国が一緒って聞いてから、仲間意識バリバリですよー」
ブロズとセリアは微笑みながらシラファにそう言った。
「わたしもスレイさんと一緒です。他人を見捨ててまで生きようとは思いません。一緒に生きてここを出ましょう」
「そうだね。それでちょっとリハビリすれば、また戦えるようになると思うよ。てか、俺も死んだら戦えなくなるかもしんない。そ、その時は皆助けてくれるよね」
「そりゃ助けるだろうが、流石にこの洞窟内でそうなられたら、俺たちは終わりだから、死んでくれるなよ」
「う、うん、頑張る」
ブロズが不吉な事を言ったが、確かに今回の症状はシラファだけがなるとは限らない。むしろ、一度死んだら冒険者のほとんどが、戦いに恐怖心を抱くようになるかもしれないな。それを克服出来た者だけが、先の世界へ進む権利を持つのだろう。シラファの性格なら、そのうち克服できるとは思う。この洞窟内では難しいかもしれないけど。
シラファはしばらくパンを見つめながら黙りこくる。数分経過して、やっとパンを食べ始めた。
食事を取ったあと少し歩いたら、今度は睡魔が襲ってきた。全員が一度に寝るのはあまりにも危険なので、誰か一人は起きている状態で仮眠を取った。三時間ほどしか寝られてないので、眠気と疲労は取れていない。それでも先へ進むしかない。
先へと進む。この迷宮はからくりの塔に出てきた奴らより、強いモンスターが出てくるのは確かだが、思ったほど強いわけではない。ゴールドドッグとノコギリ野郎以上の敵は出てこないし、魂力をだいぶ吸収した俺は楽に倒せるようになっていた。
これは案外抜けられるのではないか?
希望を持って歩いていると、
「あ、あれ!!」
セリアが遠くを指さして叫んだ。指さす先に何があるか見えない。どうやら彼女は、弓使いというだけあって、視力が優れているようだ。
「何だ?」
「と、扉が見えます! 出口じゃないでしょうか!」
マ、マジか。シラファが戦えなくなったと判明したときは、絶望的な思いだったが、思ったより楽勝だったのか? ビッツとガジットの考えは甘かったということか。
出口と思われる扉まで一直線で歩き続ける。しばらく歩くと、俺の目にも扉がはっきりと見えた。
数秒歩き続け、扉のすぐ近くまで到着した。開けようと扉に触れた、その時、
『脱獄を許すな。脱獄を許すな。脱獄を許すな』
からくりの塔一階で聞いた、男とも女とも分からない声が響き渡った。