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「み、見捨てろって、そんなことできるわけないじゃないですか……」
俺も同意見だった。シラファを気に入らない奴だと思っているとはいえ、ここで平気で置き去りにできるほど、俺は情け容赦ない性格はしていない。
「私はもう戦えない……体が思うように動かなかった。恐怖が頭に染み込んでいたんだ。これ以上無様を晒すわけにはいかない。私はここに置いていけ」
「戦えなくても私たちが守りますから大丈夫ですよー」
「……ここのレベルは、決して低くはない。足手纏いを連れて攻略するのは困難だ」
「そ、そんな足手纏いだなんて……」
戦えないシラファを守りながら進むのは、確かに負担が大きい。さっき一回死んだから、魂力を消費して弱体化しているだろうし。
だからと言って、置き去りにするなんていう結論にはならないがな。
「シラファ。お前、アウターに来たのは何か理由があんだろ? 確か復讐って言ってたな。ここで死んでお前はそれでいいのか?」
俺がそう尋ねると、シラファは歯を食いばり、拳を強く握りしめた。
その表情から、シラファは深い恨みを抱いていると感じ取れた。細かい理由は知らないが、どうしても殺したい人間がアウターのどこかにいるのだろう。
「戦えない状態のお前がいると、確かに足手まといになるだろうが、それでも見捨てるなんて選択は、俺にもセリアにもブロズにもできない。なら、足手まといがいる状態で、何とかするしかないんだよ」
「そうだよ。俺の盾も破られなかったし、守るくらいは全然できるよ」
「わ、わたしはさっきの目玉の奴なら倒せますよー。……それ以外は役に立てるかわかないですけど、気を逸らすくらいは出来ます」
「俺は結構魂力吸収したからか、体がすげー軽い。今ならゴールドドッグも、ノコギリ野郎ももっと楽に倒せると思うぜ」
若干虚勢を張ったが、以前より楽に倒せるのは間違いない。
あれ以上の敵がこの先出てきたら、どうなるかは分からないがな。
「……私はこれ以上無様な姿を晒したくない」
「お前誰かに復讐したいんだろ? ここで死ねば、復讐も当然出来ないぞ。それなら無様な姿を晒してでも生きないといけないんじゃないのか?」
俺の言葉を聞いたシラファは俯いた。どうするか考えているようだ。
そのあと立ち上がり、
「行く……」
と呟いた。
それから俺たちはシラファをかばいながら出口を探す。
再びゴールドドッグが出てきた。今度は全部で五体いる。
こいつらは確実な攻略法があるので、楽な敵だった。五体いるとブロズに負担がかかったが、彼のガードとしての能力は高かった。セリアとシラファを守り抜き、自身も傷一つ負わずに済んだ。
ゴールドドッグを倒す役は俺なので、魂力は全部俺が吸収してしまったが、ブロズにも分けてやりたいくらいだ。どうやればいいのか分からないので、出来ないけど。
ゴールドドッグを倒し切り、俺の力はさらに増した。器がいっぱいになったという声はいまだに聞こえない。どれだけ溜まるのだろうか。
ノコギリ野郎とも再び遭遇した。今回は強くなった俺は、目を刺したあと一瞬で後退することで、怪我をするのを防いだ。一撃の威力が増していたので、それで十分倒し切れた。
ノコギリ野郎は俺だけでなく、セリアとブロズも倒せるので、二人とも魂力が溜まった。二人とも三つ目の器がいっぱいになったと報告してきた。
シラファは何とか恐怖をこらえて戦おうとしていたが、やはり難しいようだ。ただ俺たちが強化されているからか、ここまではそこまで負担を感じることなく守り切ることが出来ていた。
正直ノコギリ野郎とゴールドドッグだけが出るのなら、やられることはないだろう。しかし、この二種類以上のモンスターが出ないとは、俺は思えなかった。ガジットとビッツの二人は、俺たちの死を確信していた。よほど困難な場所でないと、確信は出来ないだろう。もっと強いモンスターが出る可能性が高い。最悪の場合、出口が存在しない場合もあるが、それは考えないようにしておく。
「あ、宝箱ですよー」
セリアがそう言った。道の脇、分かり辛い場所に宝箱があった。よく見つけたな。
「開けましょうー」
「ま、待て。ミミックって奴かも知んねーぞ」
「あ、そうですねー。確か観察してれば、目を開いたり閉じたりするんでしたっけー」
「それ、ビッツとガジットが言ってた事だろ。奴らのいう事なんぞ、信用できんぞ」
「うー、それもそうでしたねー……。でも、あの二人わたしたちに信用してもらうために、五階の罠以外の事は、本当の事言ってたんじゃないでしょうかー」
「……うーん、確証はないが。その可能性もあるな」
どうするか悩む。この宝箱を観察したところ、瞬きをしていたりはしない。
出口に繋がる何かが、宝箱から出てくるかもしれないし、ここは開けることにした。
結果宝箱はミミックではなく、本物だった。中から魂石が20個出てきた。出口に繋がる何かではなかったが、魂石が貰えるのはありがたい。さらに今回は白だけでなく、紫の魂石が四つあった。それ以外は白色である。
「魔法が習得できるのか。まあでも、使う条件が分からないから、覚えても使えないかもしれないか」
「フレイムならわかってますけどねー」
俺たちは魂石を四等分する。
「ま、待て。何で私も貰うんだ。お前らだけで食べろ」
シラファが困惑したように言った。
「えー、二十個なんで四人で分けるとちょうどいいですよー」
「私は強くなろうと戦えないんだ。お前らが食べた方がいいだろ」
「戦えなくても、防御したり逃げたりは出来るだろ? これからもし敵が強くなったら、かばいきれんかもしれないから、その時、お前が弱いままだとすぐ死ぬけど、強かったら何とかなるかもしれん」
それに器の数が多い方が、死ねる回数も多くなる。シラファはもう死にたくはないだろうが、守り切れなくても蘇れる回数は多い方がいい。俺たちも確実に守り切れる自信なんてないからな。
しばらくシラファは納得できないようだったが、俺たちの説得により五個ずつで分けることになった。
紫の魂石からは俺は『サンダー』という魔法を習得できた。試し打ちしたかったが、魂力を無駄にしたくないので、やめておいた。
セリアは『ヒール』を習得。ブロズはフレイムが被ったようだが、被ったらフレイム改になったようだ。被ったら魔法が強化されるようである。シラファは、ウォーターボールを習得した。




