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「た、倒せましたー……」
「う、うん……」
セリアとブロズはほっとしたように呟いた。危機的状況だっただけに、俺もほっと胸を撫でおろす。
そして、ゴールドドッグを三体倒し、自身がかなり強化されていると思った。強めの敵だったから、吸収した魂力の量が多かったのだろう。今ならばゴールドドッグを金の装甲ごと、切り裂けるような気がする。
シラファはずっとしゃがみ込んでいた。足元には自らが流した血が溜まっている。呆然としており、まだ完全に気を取り直してはいない様子だ。蘇ったとはいえ、彼女は間違いなく致命傷を受けた。無理もないだろう。
「シラファさん、大丈夫ですか……」
差し伸べられるセリアの手を、シラファは取らなかった。一度自身の額を殴り、自分の力で立ち上がった。気を取り直したようだ。
立ち上がった瞬間、シラファはよろめいた。
慌ててセリアが、彼女の肩を支える。
「だ、大丈夫ですか?」
「……体が重い……何か変だ」
怪訝な表情でシラファが呟いた。
「もしかして蘇ると言っても、完全に血の量などが戻るわけじゃないのだろうか」
俺がそう言うと、ブロズがその説を否定した。
「……いや……町長さんは器一個分を消費して蘇るって言ってたよね。だから、一回死んじゃって蘇ったせいで、シラファさんの魂力の量が、一気に減ってしまった。強化された体に慣れているから、一気に弱体化して体が重く感じちゃってるんだ」
なるほど、そういう事か。生き返ることは出来るけど、その代わり魂力を大きく消費し、弱体化してしまう。生き返るという、強力な効果だが大きなデメリットもあるようだ。
「な、なるほど……ま、まあでもスレイさんが金の犬を倒して、多分強くなったと思うので、それでおあいこですね……」
シラファが弱体化したのと同じくらい、俺が強くなれたかは分からない。しかし、強くなったのは事実なので、ここから出るには、俺の働きにかかっていると言っても過言ではない。
「よし、とにかく先に進もうか。早く出口を見つけないと、餓死しちまう」
俺がそう言うと、ブロズが「あ、そうだ」と言った。何か思いついたようだ。
「俺たちさっき魂石いくつか取ってたよね。あれ食べようよ。金にするために取ってたけど、今はそんな事言ってる場合じゃないし」
「そういえば、あったな」
手に入れたのはつい先ほどの出来事だというのに、頭から抜け落ちていた。衝撃的な出来事が起きすぎたせいだな。
ブロズの言葉は正しいので、反対の声は上がらない。
「あ、シラファさん。私の魂石上げますよ」
セリアは魂石をシラファに差し出す。一人弱体化したシラファを気遣っているのだろう。
大きく弱体化したものが一人いると、かばって戦わないと駄目なので、戦いにくい。セリアの行動は、ここから抜け出すという目標を考えても、合理的だった。彼女はその事を、考慮にいれていないとは思うけど。
シラファは差し出された手を見て、困惑したような表情を浮かべた後、セリアの目を見て睨み付けた。
「情けを受けるつもりはない」
「えー、でも器回復させた方がいいですよー。魂石を五つ食べれば器が溜まるって言ってましたし―。わたしの二つと合わせてちょうど五つで、復活しますよー」
「だからいらんと言っている!」
シラファはセリアを突き飛ばした。施しを受けるのが、プライドに触るのだろう。困った奴だ。
「セリア、お前がやる必要はない」
「え? でも……」
「シラファには俺の魂石をやる。一番魂力を持っているのは俺だし、俺のをやるのが一番全員の強さのバランスが取れるだろ? その方が戦いやすい」
「あー……それもそうですね……考えが至りませんでした」
「貴様のもいらん! 私は施しは受けんぞ!」
シラファはあくまで頑なな態度だ。
俺はため息を吐く。そして彼女の説得を試みる。
「お前さぁ。これ食わないとモンスターに食われちまうぞ? いいのかそれで」
「ふん。私は貴様らより元の強さが違うのだ。そんなものなくても十分戦える」
「お前は確かに強いよ。ただ、強い奴だからこそ、勝てるか勝てないかくらいは分かるはずだ。お前が今の状態でさっきのゴールドドッグに勝てるのか?」
「……」
「人から施されるのが嫌いなようだが、このまま行けば俺たちの足を引っ張る可能性があるぜ? それと今ここで魂石を貰うのと、どっちがいい?」
「ぐぐぐ……」
返す言葉がないようだ。顔を真っ赤にして、歯を食いしばっている。
しばらくそうした後、シラファは俺の魂石を取り、自分の持っていた魂石と一緒に食べた。
「これでいいんだろこれで」
「最初からそうすればいいのに」
「ふん」
ツンと俺から目を逸らした。
初対面のイメージは得体のしれない奴だと思ったが、ちょっと一緒の時間を過ごし、シラファのイメージは少し変わった。
ひねくれた子供。
そう言い現わすのが、一番正しいだろう。
「よし、今度こそ先に進むぞ」