21
足が動かせなくなって俺は困惑する。
突然光り始めた床に、足がへばりついているみたいだ。
「う、動けないですー」
「な、なんだこれ」
「くっ……」
周囲の様子を確認してみると、セリア、ブロズ、シラファも俺と同じく、動けなくなっているようだった。
光りから逃れているのは、ガジットとビッツの二人だけ。
あの二人はこの球を動かしたら、魂石を大量に落とすレアな魔物が出現すると言っていた。しかし出てきたのは動けなくなる光の床。
勘違いしたという可能性も、二人だけ回避してことからありえない。
俺はガジットとビッツを見た。すると、俺たちを見て、ニヤニヤと笑っていた。
「貴様ら……どういうことだ」
シラファが怒気を込めて問いかけた。
ガジットとビッツは、数秒間高笑いをし、笑いすぎて浮かんでいた涙を拭いた。
その後、ガジットがシラファの問いに答えた。
「ハッハッハ……また馬鹿なルーキーを騙すことが出来たぜ」
邪悪な笑みを浮かべるガジットに、セリアが焦りながら言った。
「だ、騙したってどういうことですかー!?」
「言葉通りの意味さ。あの球を動かしてもレアなモンスターなんて出やしない。足元の床が突然光って、動けなくなり、あと三十秒くらいで、からくりの塔の地下に転送される。そこにはルーキーじゃとても倒せないモンスターがうようよいるんだ。君たちはそこで死ぬんだ」
ビッツは笑みを崩さず、俺たちの状況について説明した。
「な、何でそんなことをするんだ」
ブロズが困惑しながら、もっともな疑問を口にした。
俺たちを罠にはめて、何の得があるというのだろうか?
「理由は単純だ。人を騙して陥れるのが、たまらなく好きだからだ。アウターに来るような奴は、元の世界で居場所をなくしたが、アウターにはあるかもと希望を持って来るような奴がほんとどだ。そんな奴を再び絶望の淵にたたき落とすのほど、愉快な事はない」
「まあ、本当は別の罠に仕掛けて、君たちが絶望する表情を見たかったけど、君たちはルーキーにしたら強い方だったからね。ほかの方法なら、生きながらえる可能性があったしね
あ、直接殺すのは駄目なんだよ。人を殺すとマークがついて、それで分かっちゃうからね。こうやってモンスターに殺させるのが一番なんだ」
二人の言葉を聞いて、こいつらがどうしようもない、クズ野郎だというのが分かった。
シラファが話を聞いた後、激怒したような表情で、セリアに指示をする。
「おい、あいつらに矢を放て」
「……え?」
「早くしろ! このまま言われっぱなしやられっぱなしでいいのか!?」
手は動かせるので、攻撃することは可能だが、人間に矢を放つことに抵抗があるのか、セリアは矢を撃とうとしない。
「早く!!」
シラファがそう叫んだ時、俺たちは先ほどまでとは、全く別の場所に立っていた。
薄暗い部屋だ。床は光は消えていた。
骨が床に散乱している。何の骨かは分からないが、もしかしたら人骨かもしれない。
恐らく俺たちは、ガジットとビッツが言っていた、からくりの塔の地下とやらに、転送されてしまったようだ。
「クソッ!!」
シラファが騙された怒りを石床にぶつけた。思い切り拳で床を殴りつけ、石にひびが入る。魂力なしなら、手の骨が折れそうであるが、結構大量に魂力を吸収しているシラファなら、怪我はしていないだろう。
ただ不用意に床を殴られて、床が抜け落ちたり、罠が発動すると困るので俺は止める。
「怒るのは分かるがやめろ。床を殴るのは危険だ」
「……」
シラファは俺を無言で睨み付ける。
「ふん、元はと言えば、あいつらを信用するなという私の言葉に、耳を貸さなかったお前らが悪い」
その言葉に俺は返答に詰まる。
確かにあの二人が悪人だとは見抜けなかった。結果的に正しかったシラファの言葉を聞かなかったのは、確かに悪い事だった。
ただ、それでも、俺も奴らに騙された側なのに、責められるのは、納得のいかない気分になった。
一言謝るのが筋かもしれないが、色んな感情が邪魔をして、口にすることは出来なかった。
俺とシラファはしばらく睨み合う。
そこにセリアが割り込んできた。
「ここで喧嘩するのはやめてくださいよー。確かにわたしたちがシラファさんの言葉を聞かなかったのは、悪かったです。それは謝ります。ごめんなさい。でも、ここで喧嘩してたら、外に出られなくなっちゃいます」
セリアの言葉は正論だった。ガジットとビッツの言葉が正しいのなら、相当危険な場所に飛ばされたということだ。全員で協力していかなければ、進むことは出来ないだろう。
俺はシラファの言葉を信じなかったことを素直に謝った。
ブロズも一緒に謝った。
シラファそれで少しは、俺たちと協力する気になったようだ。
「……そもそも外に出られるのか? 強いモンスターがいるというだけでなく、出口のない場所に飛ばされた可能性もある」
シラファの言葉を聞いて、俺たちは顔を青ざめさせる。あり得ない話ではない。ここに一生閉じこめられる可能性もある。
「そ、そんな暗い事言ってたら駄目ですよ! ぜ、絶対出口があると信じて進みましょう」
セリアは前向きにそう言ったが、心の底では不安を感じているようだった。
ふと俺の耳に、何かが聞こえた。
何かの足音だ。俺は三人に静かにするように言って、耳に神経を集中させる。
聞き間違いではなかった。数体の何かがこちらに向かって近づいてきている。
俺以外も聞いており、迫りくる敵を迎え撃つ準備をした。