HK~失われた三色の巻紙を求めて~
食堂は満席だったので、相席を余儀なくされた。隣との距離は、腕がぶつかるほど近い。見るともなしに隣の席の男の皿が目に入った。
皿一杯の柿。ただそれだけ。
いつも来る食堂だから、どんな料理があるかメニューを見ずともわかる。柿を使った料理は、この食堂で扱っていない。
男はひたすら柿をフォークに突き刺し食べる。あっという間に皿の柿を食べつくした。
「姉ちゃん、お替りくれる?」
男はカウンターの中にいる店員に向かって言った。
「お替りね。はいよ。あら、そちらの兄ちゃんご注文は?」
姉ちゃんというか店員のおばちゃんに言われるまで、自分がまだ注文していないのを忘れていた。俺はいつもの定食を頼んだ。
「兄ちゃん、俺の柿が気になるか?」
男は俺を見てそう言った。
「ああ、その柿どこで手に入ったんだ?」
俺には病気の妹がいる。妹は柿が好きだ。だが、今年は柿が不作でどこに行っても手に入らない。男はまた皿一杯の柿を食べ始めた。
「通りの向こうに最近バスが走り出しただろ、むしゃ、ごくり。アレに乗って、赤、青、黄色の三食の巻紙を探しに行くといい。そこに柿のありかが書いてある。そこで手に入る柿は、どんな病気も直す、すげえもんだ。そこで手に入れた柿を、食堂の姉ちゃんにむいてもらっていたんだ」
食事を終えた俺は、通りの向こうに停まっているバスに向かった。今日の仕事は早く終り、少しダンジョンに行って仕事(副業)をしようと思っていたところだからちょうどいい。この町の移動手段は馬車が中心で、バスは最近走り出したらしいが、通りの向こうに停まっているのを見るくらいで、乗る人をみかけない。
俺は意を決してバスに乗り込んだ。50人くらい乗れそうなバス。運転席が曇りガラスで覆われていて、運転手の姿が確認できない。「料金後払い」とバスに表示されている。俺は一番後ろの席に座った。他に客はいない。
バスの乗車口が閉まった。何も言わずにバスが発車した。どこにいくんだこれ。
閉まった乗車口の方から、赤い筒のようなものが降ってきて、俺の顔に当たった。
「これは、赤巻紙・・・」
赤巻紙をほどくと、文字が書いてある。
【このバスは、ガスで爆発します】
バスがガスボンベの前を通ると、爆発音がし、バスが消滅してしまった。乗っていたバスが急になくなったので、俺は腰をしたたかうった。
目の前にあるのは青い巻紙。そこには
【ひきにくいくぎを抜け】
くぎなんてどこにあるんだと、周りを見回すと目の前に急に、俺の身長と変わらない高さのくぎが現れた。
「この釘大きすぎる」
俺は持っている短剣で釘を引き抜いた。
釘を引き抜くと、引き抜いた釘の穴からカエルが、ぴょこ、ぴょこ、ぴょこと三匹現れた。カエルたちはそれぞれ、赤、黄、青の寝巻のような服を羽織っている。
俺は、カエルは苦手なんだ、どうすればと思っていたら、後ろからもカエルが合わせて6匹。カエルの一匹が黄色い巻紙をくわえている。俺は巻紙に狙いを定めた。短剣を投げて、巻紙に当てた。巻紙をほどく
【魔術師、魔術修行中。】
魔術師? そういえば俺は最近魔法を勉強している。唯一出来る炎の魔法。
炎はほんの小さなものだったが・・・。
カエルはぴょこぴょこと倒れて行った。
その先に、たくさん実っている柿の木を見つけた。
巻紙は求めずに降ってきた。