光の陰る速さで散りゆく君は
過去の作品です
至らない点は多々ありますが、どうかご容赦下さい
「光の陰る速さって知ってる?」
夏が過ぎる少し前、秋の気配が街に漂っていた。高校からの帰り道、君は僕に訪ねてきた。陽の光が反射して、眼を眩ませる。
「……知らない」
二人で自転車を押し歩きながら、急勾配の坂道を登る。汗が滴り落ち、地面に潤いを与える。ほんの、一瞬。そして、すぐに乾く。
「秋と同じなんだよ。秋の季節と同じ」
「秋の季節と?」
うん。と、彼女は僕の方を振り向かずに呟く。少しずつ、少しずつ、その歩調を強めながら。逆光で彼女の姿を遮られながらも、必死でその存在を探す。そうしていないと、すぐに見失ってしまう不安があったからだ。陽炎のように揺らめいて、蜃気楼のように逆さまで。そういった精神的な危うさを、彼女は持ち合わせていた。
「秋が過ぎる速さで、光は陰るの」
彼女が自殺したのは、三年前の事である。
昔から彼女は、人の痛みや心、喜怒哀楽といった感情に理解が乏しい娘であり、度々、誰彼と構わず衝突を繰り返していた。その様子を幼稚園、小学校、中学校、高校と、一番近くで見ていた。
「私さ、おかしいのかなぁ」
中学時代、ふと、休み時間に彼女が言った。そのか細い声は周囲の喧騒に紛れ、最初は気のせいかと思った。しかし、どうにもそれが気のせいだとは思えず、彼女の顔をジッと眺める。誰かに見られていたら嫌だな。とは、不思議と感じなかった。
「……おかしい?」
誰にも聞かれたくなかったのか、独り言だったのか、僕の言葉に驚いた彼女も、しばらく僕の顔をジッと眺めた。
「おかしいって、何が?」
「なんでもないよ」
そう言って彼女は微笑む。
その日の夜、彼女は飛び降り自殺を図った。
あの時、彼女が微笑んだ事に違和感を感じるべきだった。元々、何かを誤魔化す為に笑うような娘ではなかったのだ。それを汲み取れずに、彼女を追い詰めてしまった僕は、彼女から生涯許されてはいけないのだ。僕の一生をかけて、彼女を守ろうと決めた。
※ ※
ジリリリ、ジリリリ。と、地面で蝉が這い蹲っていた。
「あ、タンポポだ」
意識してないのか、意図してなのか、花を避けた彼女は、代わりに蝉を踏み付けた。ジリリリ、ジリリリ。という鳴き声が止まる。
秋が過ぎる速さで、光は陰るの。
彼女の言葉を思い出す。
長い夏が終わりに差し掛かり、もうそこまで、秋が迫っていた。
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