第4話
「はぁ、ようやく戻って来られた……」
「ここが憑神さんの事務所? すごいお屋敷だね」
運転席に居る憑神に一葉は楽しそうに喋り掛ける。
一葉にとっては車だけではなく、建物、電柱、舗装された道路でさえ見たことがない未知のものであった。そしてその都度、一葉の『なにあれ攻撃』を憑神は受け続けていた。
「屋敷ではないな。まあ、現代の生活にもそのうち慣れるさ」
付喪神のハイエースを事務所の駐車場に入れると勢いよく一葉は助手席から飛び降りる。
その様子を軽く笑いながら憑神もまた運転席から降りるとボンネットを優しく撫でる。
『よしよし、お疲れ様』
憑神が優しく撫でると同時に、ボンネットが僅かに揺れる。
そしてまるで猫が鳴くような音がエンジンから響き、ハイエースは完全に動きを止める。
「憑神さーん、まだー? ボク、お腹空いたよう」
「ああ、今行くから。ちょっと待って」
憑神はのそりと動き出すと『芸能プロダクションZOZOZO』の看板を見ながら事務所の扉へと手を掛ける。
そしてドアノブを捻った瞬間。
ガシャン。
事務所から響く何かが割れる音と重たい音が床に転げる音。
憑神は慌ててドアを開けると、そこには床に口から血を流している土瑠衣と土瑠衣を囲むようにしている三人組の女。
三人組のうちの二人は顔や背丈がそっくりであり、双子のようであった。
土瑠衣は壁に手を着けながらゆっくりと立ち上がると、そこで憑神が事務所に入ってきていることに気が付いた。
そして制止させるように手を広げる。
「……おおっ憑神マネージャー、戻ったか……。それで新人の子は……見つけたのか……?」
「土瑠衣社長っ!そんなことよりも何ですかこの状況はっ!?」
「……まーあ、古い馴染みよ。待ってろ、すぐにこいつと話を付けるから」
「あらあら、アナタいつから新人を雇える立場になったってわけ?」
クスクスと三人組の中でももっとも身長の高い女が笑いながら、土瑠衣の顔を指でなぞる。
その女の後ろに居る双子もまたクスクスと馬鹿にしたような笑い声を上げる。
「あんたの下から出ていったときからだ、飯綱様よ」
「昔はあんなに可愛かったのにねぇ。今じゃこんな厳つくなって。しかもこんな狭くて臭いところに居て可哀想」
「……ほっとけ。もう用事がないなら早く出て行ってくれ」
「今日はここまでにしてあげるわ。また今度話し合いしましょ? さっ、早くこんなところ出て行くわよ、二菜、三佳」
飯綱はそういうとヒールの音をわざとらしく立てながら、後ろに居た双子に声を掛けて部屋を出て行く。
双子はクスクスと笑いながら、飯綱の後を追う。
「ちょっと邪魔よ、ボーヤ」
事務所の扉を開けた格好で立ち止まっていた憑神を、邪魔そうに突き飛ばす飯綱。
普通の人間相手、しかも女相手なら何でもない一押し。だが相手は人外。とっさに反応も出来ずに憑神は尻餅をつき、壁に頭を強くぶつけてしまう。
「あーっ、だっさいんだー。きゃははっ」
「ホントにダサーい。きゃははっ」
双子はそんな憑神をあざ笑うかのように笑い、わざと憑神を踏みつけて外に出て行く。
痛みで朦朧としている憑神を一葉が助け起こそうとしたとき、あることに気が付く。
「もしかして、お姉ちゃん……?」
その言葉に双子の二菜と三佳は一瞬だけ真顔になるが、またすぐに笑い出す。
「えーっ? アンタなんか知らなーい。きゃははっ」
「アタシたちにはお姉ぇがいるだけだもんねー。妹なんていなーい。きゃははっ」
「ウソ……お姉ちゃんたち、ボクといっぱい遊んでくれたじゃない。忘れたの?」
「「知らなーい。きゃははっ」」
二菜と三佳は本当に楽しそうに笑いながら飯綱の後を追って事務所から姿を消す。
あとに残された憑神と一葉、土瑠衣は荒れた事務所にただただ取り残されるばかりであった。




