出立
「親父ー!」
僕は自分の家の戸を叩く。その向こうに親父がいるかはわからないけれど一応確認してみる。
すると、家の中からタッタと音が聞こえて来た。どうやらいるっぽい。
そして、家の戸が開いた。そこには親父がいるのは当然として、家の奥には見慣れた顔が少しばかりいた。みんなニヤニヤしている。
「お、お前か。どうした?」
「出立の前に挨拶しようかなって思ったけど…なんでみんないるの?」
「あぁ、ならちょうどよかった。アーカスのやつも呼んでもっかいこいよ」
「…?まぁわかった。呼んでくるね」
なんだろう。とりあえず呼びに行こう。
アーカスくんはすぐ見つかった。どうやら家に親父がいなかったらしい。とりあえず言う通りに連れて行くことにする。
「何されるんだろうな俺たち」
「うーん…色んな人がいたからなぁ…わかんない」
そんな話をしていると、僕の家に着いた。
僕はコンコン、と扉を叩く。
「親父ー!連れて来たよー!」
すると今度は声だけが聞こえて来た。
「お、来たか。じゃあ入れ入れ」
今度は自分で入るのか。扉の取っ手に手を掛け引く。すると、眩い光が僕とアーカスくんをもてなすように包み込んだ。
「小僧ども!出立おめでとう!」
村長の声が始まりの合図だった。
僕たちはなにもわからないまま席に誘われた。
そこに着く前に、色んな人が僕たちの事を話している。
「いやぁ、ついにこいつらが旅立つとはな!」
「若いのがいなくなるのはちょっと厳しいが、これはこれでめでたいからよしとするか!」
「ヘンリーのところはともかくバズのとこもか!こりゃ驚いた!」
「ウチの子はどうなるもんかな」
「おめぇんとこのは虚弱だからな。力仕事は(無理だし文官にでも士官したらどうだ?」
「そりゃいいな!」
「誰だよ!僕のこと言ったの!」
ーーーーーーーハハハハハ!
えーと…これはつまり?
「こりゃお前らのための宴だ!存分に楽しめよ?」
そうだったのか…
みんな僕らのために…嬉しいな、これは。
なら楽しまないと失礼だよね!
よし!羽目を外して騒ごう!
……
…
.
「はー…羽目外しすぎたよ…」
「そうだな…行く前から疲れちまった」
アーカスくんは少し呆れながらも顔は笑ってる。
それほど楽しかったのだ。
「おうここにいたか小僧ども」
この声は村長だ。村長は高齢だけど未だ衰えていない。覇気もあってなかなか凄い。
「村長!今日はありがとうございました!」
「おうよいよい。楽しんだのならな。と、要件は別だったな」
「要件?なんの?」
「これを渡しに来た。本当は儂からではなく小僧どもの父から渡すものじゃが…なにを恥ずかしがってるのやら…」
そう言って村長が取り出したのは魔道具のあの測定器と、護拳がついたナイフだ。
「この魔道具は小僧のだ。バズからの餞別。そしてこっちのナイフはヘンリーからの餞別だ」
僕たちはそれぞれ受け取った。よく見ると測定器の形が変だ。レンズの部分は変わらずだけど小さくなってる。これ眼鏡に似てるな…もしかして耳に掛けて使えるようになってるかもしれない。どうやって加工したかわからないけど…
とりあえず掛けてみたら安定した。そして測定…出来た。これは凄い。
そうこうしていたら、アーカスくんが
「これ…父さんのだ…」
と呟いた。
アーカスくんのはヘンリーおじさんが使ってたナイフだ。かなり切れ味が良かった気がする。
「あとでお礼言わないとな」
「ちょっと恥ずかしいけどね」
そう言い合ってると村長が
「のう小僧ども、時間はいいのか?」
と、聞いて来た。
「時間?」
「馬車の時間じゃ。もう祭りは終わってあるぞ?」
「えっ!?やばい、アーカスくん早く行こう!」
「マジかよ!早く言ってくれよじーさん!」
僕らは馬車に向かって駆ける。荷物準備しといてよかった。間に合うかな…
少し不安になっていると大声が聞こえてきた。
「バカ息子ー!達者でやれよー!」
「アーカス!そのナイフ託したんだからしっかりやれよ!絶対だぞ!」
大声の主は親父とヘンリーおじさんだ。物を渡すのは恥ずかしがってたのに激励だけはちゃんとするんだ。その様子に僕らは顔を見合わせて少し笑った。そして、一緒に後ろに叫んだ。
「「いってきます!」」
この後なんとか馬車に間に合い、村にお別れをする。また、戻ってこよう。そして村の人たちをあっと言わせるような成長をしよう。僕らはそう誓った。
バズ→「僕」の親父の名前
護拳付きナイフ→サーベルを刃の部分だけ縮めた感じ