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金喰い召喚士、流離う。  作者: きん
1/1

風天の召喚士が行く


「召喚士〜、召喚士はいらんかね〜」


ボロボロの旗を背負って、1人叫び歩く男。中肉中背、目を惹くのはその後ろを飛び跳ねる、麻袋。

その麻袋には口が付いている。どうやらモンスターである。「ハッハッ」と犬のように付き従う様子は、まさに飼い主と飼い犬といった様子であるが、飼い主は一向に構わないようだ。


「お、召喚士さんよ、ちょいといいかい?」


「へい、お待ちで。御用は?」


「ここらは最近日照り続きでよ、井戸は枯れそうだわ、田んぼは干上がりそうだわ、水不足で困ってんだよ。なんかいいモンスター、そうだねぇ、ウンディーネなんか呼び出してもらってよ、パーっと景気良く、雨降らしてくんねぇか?」


「ウンディーネとは、豪気ですな。あっしは構わないんでやすが、キンスはいかほど?」


「気づかねぇか、俺はこの町の町長だ。日照りへの対策は、国から補助が出んだ。ザッと20万Gってとこだな。どうだい、これ全部やっから、一つ頼むよ。」


「・・・一つ伺いやすが、ご依頼は『雨を降らせること』で、よろしいですか。」


「なんだよ、そう言ってんじゃねぇか。あれだろ、『召喚術』ってのは、魔本陣やらの準備に時間と材料がいるんだろう?ウンディーネともなれば、一週間とは言わねぇだろ?宿代は出すからよ、井戸の水がいっぱいになって、田んぼが水で潤うほどほどの雨を頼むよ!」


「時間はいりやせん。その20万Gをこちらへ。どーも。ザック、来い。」


足元で飛び跳ねる麻袋のようなモンスター“ザック”は、その大きな口を開けた。


「100Gって、とこかな。」


男はその手にある小銭だけをモンスターの口に入れた。モグモグと咀嚼するやいなや、麻袋の頭頂部にある紐が解け、そこから真っ黒な雲がモクモクと立ち昇った。


「初めて見たが、ウンディーネってのは、まさに『雲』そのものだな。ところで、あんた、ゴールドイーターかい。道理で貧乏な身なりだ。お、降ってきたな。」


シトシトと降り出した雨は、すぐに車軸を流すような雨に変わった。井戸からは水があふれ、田んぼの水は満遍なく土を潤した。


「おお、ありがとうよ。これで助かったよ。また頼むよ。おっと名前を聞いてなかったな、なんて呼べばいい?」

「名乗るほどのものじゃありませんが、これを。」


男が差し出した名刺には「なんでも召喚士 デク」とある。

「デクさん、今度もなんかあったら、よろしくな!」

「へい、あっしは風天の身、明日の居場所もわかりやせん。また縁に期待しやしょう。」










「おい。」


「・・・へい。」


「へい、じゃねーよ。宿は?」


「・・・ここ?」


「ここ?ああ、満天の星空と、ふかふかの土のベッド、焚き火を囲んだ自然派キャンブ場のここを、宿と?」


「へい!素敵でしょ、ほら、聴いてごらんなさいよ、耳を澄ませば聴こえるフクロウの鳴き声、眠気を誘われやすね。」


《ワオーーーーーーーン》


「・・・フクロウ?」


「魔狼でやしたね。」


「野宿?」


「・・・野宿もいいでやんしょ?」


「馬鹿が!!!!!!!!」


《ワオーーーーーーーン》


「遠吠えに返事してどうするんでやすか!!」


《ワオーーーーーーーン》ーーーーン》ーーーン》


「・・・」

「・・・」


そこに見えたのは、先ほどの麻袋モンスター“ザック”と召喚士“デク”、どうやら二人(?)は訳ありだ。


「お前な、俺が見せた「フーテンの寅さん」の影響受けすぎだな。」


「かっこいいでやんしょ?」


「ああ、寅さんはかっこいい。現代では典型的な発達障害だろうが、それでもそこに美学があった。」


「ね?ね?だから、ちょっとフーテンぽさを出したくなっちゃって。」


「その結果が野宿だろうが!!」


《ギャオオオオオオオ》


「・・・」


「・・・魔狼?」


「とにかく、飯にしよう。」


「へい、こちらがアニキの分でやす。あっしはこれを」


アニキと言われた麻袋”ザック“は、皿に乗った山盛りの金貨をペロリと食べ尽くした。


「さすが20万ももらえりゃ、こんだけ食っても明日の心配はしなくて良さそうだな。」


「へい、そうでやすね。今日のは2万G分っす。」


「この身体になって、だいぶ経つが、割と便利で気に入ってんだ。なにより儲かる。今日だって、あれ、ウンディーネなんかの高級モンスターの訳ないじゃんな。」


「そうでやすね、あれはただのエレメントでやしたね。」


雲とはすなわち、雨粒の集まりだ。極小の水エレメントが気化したもの。それが集まり、やがて雨粒となって落ちる。わざわざ気象変化魔法有するウンディーネを始めとする高等モンスターに力を借りるまでもない。


「しかし燃費のいい能力でやすね。あっしも高々100万Gで呼ばれたんでやんしたっけ?」


「高々て、お前なんかこれっぽっちも役にたたねぇのにな。」


「アニキの言う通りでやす。あっしの『世界を旅したい』なんていう願いを聞いてくれて、助かりやした。」


「・・・よせよ。俺も寂しかったんだ。お前がいてくれて助かるよ。」


「「へへへへ」」


さぁ未だその正体が掴めぬ麻袋”ザック“と召喚士”デク“。二人の旅は気が向くまま、風が吹くまま。

その旅に待ち受けるものはなんなのか、もはやなにもないのか。主従関係どうなってんねん。何がどうなってんねん。


様々なツッコミをひたすら無視して、二人の旅は明日も続くっ!




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