鉄樹開花、湖面に咲く水の華‐②
ああ、これで晒菜の冒険もジ・エンドか……
あっけない幕引きだった……
ドシン。
ただ、その音だけが辺りを支配した。
「……なーんてね☆」
そう言ったのは、二目木林檎である。
「……え?」
晒菜の隣には緑の巨人が仰向けになって倒れていた。
「いったいどうやって……」
「なんとかぎりぎり間に合いましたよ……危ない所でした、危機一髪の間一髪ですよ。まったくもう世話の焼ける人ですね」
そう言って二目木は緑の液体でまみれた脇差をみせながらえへへと笑った。
なんてやつだ、この二目木という少女、あなどれないな……
晒菜はまた彼女にピンチを救ってもらい窮地を脱することとなった。
「ありがとう、林檎」
「いいですいいです、この借りはきっちりと返してもらいますから……きっちりとね」
こればっかりは、ただただ頭が下がるばかりだ。いくら恩着せがましい物言いをされても仕方がないだろう。
「本当にありがとう……」
「そんなのはもういいですから、升麻! 今からどこ行く?」
「そうだな……俺が行かなきゃならないのは……」
もちろんというか、本来の目的というか、一寸木木呂子という少女と俺が外の世界に出た目的というか、その一切合切がこの目的のためだと言っていいだろう。たとえその真意が外に出る口実だとしても、たとえそれがただの動機づけにすぎなかったとしても、俺はこのために外に出たんだ。
「――午時花病院だ」
再びあの場所に帰ったとしてもどうにもならないのかもしれない。でも、俺には帰る場所はここしかない。外は危険だとわかった今、どこかで隠れ、下手に動かないのが正しい判断だといえるだろう。
「へえーここが午時花病院っていうんですか……」
二目木は感心したような合点がいったような顔をしながらそう言った。
「……まあ、知ってますけど」
な、なんだってー!まさかの展開、略してMTだった。
「どうして林檎が知ってるんだよ」
まあ、冷静になって考えてみれば、この近辺に住まうものならば知っていても何もおかしくはないし、ここは秘密結社のように人里離れた場所にあるってわけでもないし、知っていてもいたしかたないのかもしれない。
だが、二目木の口から予想もしない言葉が口にされた。
「だって、私、ここに住んでましたもん」
な、なんだってー!さらにまさかの展開、略してSMTだった。
「住んでたって、嘘だろ。俺もここでずっと過ごしてきたんだ。ってか俺が確認した時は誰もいなかったぞ」
「まったく、嘘だなんてひどいですね。私はここで作られた。メイドイン午時花病院なんですよ。そんなことも知らなかったんですか升麻は……」
やれやれという風に両手でジェスチャーしながら二目木は言った。
「作られた……!?」
人造人間ってことか!?まさか俺の隣にいる少女が人工的に作られた少女だなんて、どこのSFだよ。そんな話が信じられるかよ、まったくもって信じられない……
「そうです、信じられないかもしれなませんが、私は雄山院長に作られました。ほら、これが証拠です」
と言って二目木はスカートをまくりあげてパンツを見せた。
そこにはただただ普通の少女のパンツがあっただけだった。
「し、白……」
思わず俺は眼前の光景に対してコメントを残してしまった。我ながら迂闊だったぜ。
「おっと、間違えました、まったく……升麻はエッチですね」
頬を赤らめる二目木。
「エッチもなにも自分でみせたんだろ!!」
これは自業自得ってやつだと思う。俺に非はない。
「そうそう、こっちこっち」
そう言って今度はシャツをまくりあげて、へそを見せてくれた。
……へそ?なのか?よくマンガなんかで見かけるようなバツ印。二目木のへそはいわゆるでべそってやつだった。
「やーい、お前のおへそはでーべーそー」
「あら、失礼な。これはチタン合金でできてるんですからね!」
よく見るとそのへそはギラリと輝いていた。これはでもあれだ、まだファッションの一部としてみなすことも可能な範囲だと思う。へそピアスってやつかな。
「それくらいなら証拠にはなんねーよ。もっとあれだ、ロケットパンチとかぐらいじゃないとびっくりしないぜ」
「うげげ。升麻はアニメの見すぎですよ……可憐な少女にいったい何を要求してるんですか、気持ち悪い」
普通に引かれた。ちょっとくらい期待しちゃってもいいじゃないか。人造人間なんだしそれくらいできるかもって思うじゃないか……
「まあ、出来るんですけどね」
「ぶへらっ!」
晒菜の顔面に二目木の右腕というか右手の拳が勢いよく激突する。やっぱりあるんじゃないかロケットパンチ。
「でも、期待していたところ申し訳ないんですが、おっぱいからミサイルは無理ですからね」
「…………」
誰もそこまで期待してねーよ……ロケットパンチで十分だ。
「まあ、無理といってももちろんギミック的な意味ではなく、こんな公衆の面前では恥ずかしくて無理という意味ですけど……」
「出せるの!? おっぱいミサイル!?」
だったら緑の巨人に襲われているときにでも発射してほしかったものだぜ。
「これは、親密になった殿方の前でしか見せないって決めてますからね、そうやすやすと見せれませんよ。私は軽い女じゃないんだからねっ!」
至極どうでもよかった。ってか親密になったらミサイル直撃なんて御免こうむるところだ。
いや、まあこれでとりあえず林檎があの巨人を簡単に倒したということについて納得がいった。
「にしても、林檎もこの午時花病院出身だったとは……林檎も部屋にずっといたってことか?」
「まあ、そうなんですけど、どうしたことか、いきなり部屋のロックが解除されたんですよ。だから私は急いでこの病院を飛び出して外に出たってわけです。ぜひとも一回外の世界ってやつをみてみたかったですからね」
これはやっぱり雄山院長が倒れたことと関係しているのだろうか……
「いやでも、雄山院長はいったい何のために二目木を作ったんだ……」
雄山院長はこの事態を予見していたのだろうか、わかっていて二目木林檎を製作したのだろうか……いや、それはあまりにも考えすぎなのだろうか……
晒菜がそう考えているところに懐かしい声が……
次回は8月13日(日)7時更新です☆