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緑夢童話~三人の木偶娘~  作者: 阿礼 泣素
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鉄樹開花、湖面に咲く水の華‐①

 緑の瞳の少女と、緑の眼の怪物。晒菜はその二つのグリーンアイに板挟みにされたままどうすることも出来ないのであった……

 


 グリーンマンという人間が存在する。まあもちろん、存在すると言っても実際に存在するわけではなく、中世ヨーロッパの美術において存在する葉で覆われた人間のことである。森林や樹木へのアニミズムの名残とも言われている、グリーンマン。存在するはずのない架空の人間、グリーンマン。


――だが、グリーンマンは実在した。晒菜と二目木の前に現れた緑の巨人は紛れもないグリーンマンのそれであった。全身葉っぱで覆われたような表皮、大きな木が歩いているような巨躯。二人はこの予想だにしない事態になす術がなかった……




「そうだ!! 升麻! 私にいい考えがあります!!」


 二目木が活路を開く、打開策をひらめいたようだった。


 晒菜は藁にもすがるような思いだった、このままでは二人ともこの巨人にやられてしまう……もちろん晒菜の脳内マニュアルに緑の巨人に出会った際の対処法など当然あるはずもなく、茫然とただただ立ち尽くすのみだった。


「林檎!! その考えってのは!!」


 二目木は鼻の下を人差し指でさすりながら誇らしげに言った。


「へっへーん! よくぞ聞いてくれました! 聞いて驚け! 見て笑え! これこそまさに文殊の知恵ってやつですよ!!」


「よし! その文殊の知恵を披露してくれ!」


「わかりまし……ウっ……」


 そう言い終えるか終えないかのタイミングで二目木は喉を両手で押さえ、もがき苦しみだした。


「おいっ! 林檎!大丈夫か! おい! しっかりしろ!!」


 二目木は苦しくて立ってすらいられないようで、その場にバタリと倒れこんでしまった。


 だが、その時晒菜ははっきりと見た。


――二目木は倒れざまに晒菜に向かってウインクをしたのだ。


「おい! これって……」


 擬死かよ、タヌキ寝入りかよ……熊の前で死んだふりなんてのはイソップ寓話の中だけであって、実際やると即死だぞ……


 まあ、目の前にいるのは熊ではないにせよ、それでも分の悪い賭けであることは確かだった。死んだからといって巨人が襲うのをやめない保証なんてどこにもなかった。だからこそ晒菜は逡巡する。こんな方法で大丈夫なのか、これであっけなく殺されてしまえば今までの努力も何もかもすべて無意味だ、水の泡ってやつだ。だからこそ、二目木の提案に安易に賛同することはためらわれた。


「…………」


 迷って迷って晒菜が導き出した結論は……




 便乗。つまり、擬死を選んだ。晒菜も突然心臓発作にみまわれたかのように胸のあたりを押さえつけ、無残にも崩れてゆく様を演出した。決して自暴自棄になってしまったわけではない、このまま逃げ切るか、ここでうまくやり過ごすか、どちらのほうが生存する可能性が高いかを考えての選択である。晒菜は倒れた後でも相手が見えるようにうつ伏せではなく仰向けに倒れた。最悪の場合、その場から逃げれるように、そのままつぶされてしまうことのないように。


 その選択が功を奏した――わけではなかった。


 むしろその逆だった。巨人は轟々と雄叫びをあげながら二目木の前を通過し、晒菜の前までやってきた。巨人がこっちに近付いているのが目を開けなくても地響きで分かった。


 死んだふりをしている二目木を通過したということは死んだふりは有効であったということが証明された。



 よし、このままやり過ごせる――晒菜はそれを確信した。



 その時だった。晒菜は無意識に油断した。刹那で、ほんの一瞬、目を開けてしまった。開けてしまったといってももちろん薄目であり、瞼をほんの少しほんの一瞬開けた。開けてしまった、



――だけだったのに。



 巨人とバチッと目が合った。もし仮にこの目が合った相手が美少女であったならば、ここからラブコメが始まってもなんら問題はない。だが目があったのは謎の緑の巨人。巨人ルート?ないない。



 気がつくと、巨人の拳が天に向けて振り上げられていた。そしてそのまま寸分違わず、間違いなく、晒菜のもとに下される鉄拳。その一部始終が晒菜の目にはコマ送りにして見えていた。


 ああ、これで晒菜の冒険もジ・エンドか……


 あっけない幕引きだった……


 ドシン。


 ただ、その音だけが辺りを支配した。



次回は8月12日(土)7時更新です☆

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