4話
ギルドは俺が住む町より大きな街にひとつだけある。首都に行けば地区ごとにあるらしいのだが……まぁ田舎なんてそんなものだろう。
あの女騎士、シルファに説得され、冒険者として今一度立ち上がることとなった俺は、さっそくそのギルドに来ていた。
なんでもパーティに登録するのも手続きが必要なんだとか。
家を出発して次の日の朝に着いた。しかし馬車での一睡は身体に堪え、やや寝不足気味。
「ほら、ここで登録するの」
漆喰を塗ったギルドの扉を指してシルファが言った。
「ああ、前にも来た事あるし……」
「ここで私のパーティメンバーと待ち合わせしてるの。その子とも挨拶をすませてね」
「パーティメンバー?」
俺は初耳だとばかりに聞いた。
「他にも仲間がいたのか?」
「そう、ひとりだけね。ただちょっと変わった子だから――アンタも変わってるけど――慎重に接してね……」
「ほーん……」
俺は興味なさげに扉を開いた。
ギルドの中はまるで酒場のように騒がしかった。というか酒場が併設されていた。
ろうそくやランタンが内部を薄暗く照らし、木造のテーブルやカウンターがところせましとつめられていた。
「いたわ。あの子よ」
シルファの一言に俺の視線が右へずれる。
「おっ」
そこにはかなり美少女がいた。シルファも美少女だが、彼女もまた負け劣らずの美人だ。綺麗な金髪を後ろで束ね、赤いベレー帽を被っている。珍妙なデザインのマントを彼女が翻すと、豊満な胸がたわわと揺れた。
胸デカッ。
あまりの衝撃(特に美少女という部分)に俺は思わずシルファに耳打ちした。
「あのイスに座って何か描いてる子がもう一人のメンバー?」
「そう、リーナよ。変なマント着てるけど彼女は――」
「芸術的よ!」
突然リーナと呼ばれた女の子が叫び声を上げた。
「いい! いいわ! 今作も素晴らしいデキよ。さすが私!」
リーナは描いていた羊皮紙を上に掲げる。
「こんなに才能ある芸術家は二人といないわ。きっともうすぐ皆から注目されるようになって……世界中からファンレターが来ちゃう。サインの練習しなくちゃ! やだ、私ってば人気者~、困ったなぁ~」
リーナは嬉しそうに足をバタバタさせる。
「でも、そんなにたくさんサイン描くのは疲れちゃうわね。誰かに手伝ってもらわないと……弟子……そう、弟子! 弟子が必要ね。100人ぐらいは最低必要だわ」
「戻ったわよ。リーナ」
シルファがついに声をかけた。
「あ、シルファ。ちょうどよかった、ついさっき作品が完成したの」
「ま、待って! その話は後で。先紹介させて。この人はコジロー、新しい仲間よ。コジロー、こっちは――さっきも言ったけど――リーナ。ヒーラーよ」
「ヒーラー? いいえ、違うわ!」
美少女は俺とシルファの前に立つと自信に満ち溢れた目を輝かせた。
「私は芸術家よ。しかもそこらの芸術家とはわけが違うわ。いえ、むしろ私こそが真の芸術家! ゴールデンな芸術家! つまり私以外に芸術家は存在しないの。そこ勘違いしないでね、そこのワンダーボーイ!」
お、おう。
ワンダーボーイである俺はいきなりパンチを食らい、ひるんでしまった。
「えーっと、おまえさんがシルファの仲間か。よろ――」
「そう、芸術家仲間! いわば同人、いえライバル!」
さっき自分以外に芸術家いないっていってたじゃないか。
「誰が芸術家よ」シルファが低い声でツッコんだ。
「そういうアナタは?」
「いやさっき言ったでしょ。彼は――」
「あ、待って! 言わないで、当てるから。 うーん……ふふ、わかったわ!」
美少女リーナはシルファと俺を交互に見つめ、確信を得たようにマントを揺らした。
「アナタ! 私の弟子になりたいのね!」
「は? や、違うけど――」
「いいえ、間違いないないわ! アナタからは才能……ゴールデンなオーラを感じる。 芸術家の卵ね」
「いや、俺は単に――」
「ふふ、しょうがないわねぇ~。いつもはこういうゴーインな弟子志願者は断ってるんだけど……将来性を見込み、弟子入りを特別に認めてあげよう! ん~素敵だわ。ゴールデンね!」
「聞け」
「まず弟子として私の肩を揉みなさ――」
「ストップ。リーナ、ストップ」
見かねたシルファが止めに入る。
「彼は私が誘ったの。仲間になって欲しくて。今日はその手続きに来たの」
「シルファの弟子なの?」
「いえ。彼の強さを見込んで私がお願いしたの。パーティに入ってって」
「強さ……?」
リーナは目を丸にしたまま俺の頭上を見つめた。
「……Lv1なのに?」
「そう、それなにの強いの。何故かはわからないけど。あの四天王の一人を一撃で倒したほどよ」
「へぇ~……」リーナは興味なさげに言った。
「……アンタは四天王って言われてもピンとこないでしょうが」
「うん、全然わかんない。けどすごいってことはわかったわ。ゴールデンね」
リーナは何故かくるりと回転すると俺に向き合った。
「仲間になるんでしょ? 私、リーナ。よろしくね。私の弟子であることを常々意識しながらゴールデンな芸術家になること! いいわね? 私、ご飯取ってくるわ」
リーナはマントを翻し、コツコツと足音をたてて消えた。
なんだか嵐のような女だ……。しかも俺は弟子扱いのままだし。
「ごめん。ああいう子なの。でもヒーラーとしてのウデは確かよ」
シルファはギルドのカウンターを指差した。
「手続きはあそこ。早めに済ませましょう」
俺はなんとなくだが、このパーティに入ったことをほんのちょっぴり後悔した。