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6、春祝祭


 

「オーウェン、貴方の私服って……意外とカッコいいのですね」

「…………アシリア様、それはどう言う意味でしょうか?」

 合流したアシリアとオーウェンは、春祝祭で盛り上がる道を歩いていた。

 道には屋台が沢山並び、美味しそうな匂いが漂ってくる。

 アシリアも祭りの賑わいに心が弾む一方、横を歩くオーウェンが気になってしょうがなかった。

「だってさ、いつも黒の服しか着てないオーウェンがだよ? まともな服を着てこれるのかな〜? って思っちゃうでしょ」

「…………失礼ですね」

 アシリアの発言に、心外だとばかりにオーウェンが睨む。

 オーウェンは職業柄、黒ずくめの格好しかしない。

 なのに、今は白いシャツに皮のベストを着ている。

 普段のオーウェンからは絶対に想像出来ない装いだ。

「いやいや、褒めてるんだよ。わたしが普通の女の子だったら、オーウェンみたいな人を好きになるのかな? って」

 日頃から鍛えてあるので、体は引き締まってるし、顔も良いのだから、モテるだろうなぁと不覚ながら思った。

 自身の護衛者の格好良さにフムフムとうなづいていると、オーウェンが顔を真っ赤にする。

「す、好きとかやめて下さいっ!? 私からも言わせて頂きますけど、アシリア様もっ………………お、おかしいですからね!!」

「お、おかしい?? それって、似合ってないってこと?!」

 アシリアにとっては、今回の男装は会心の変装だった。

 それなのにおかしいと言われ、心に少し傷がつく。

「お兄様のお忍び服を参考にして、自分に似合う服装にしたんだけどなあ。おかしいのか…………」

「っ?! ちょっ! 帽子っ!!」

 ガックリと首を落としたら、反動で帽子が脱げそうになる。それを間一髪で、オーウェンがおさえた。

「危なかったわね。ありがとう、オーウェン」

「ま、まったくです。気をつけて下さい」

 眉間に皺を寄せてオーウェンはため息を吐いた。

 帽子が脱げそうになったことを、アシリアはそれほど気にしてはいなかったが、オーウェンはまだ不安そうにしていた。

 アシリアの顔が見られて、おおごとになるのが嫌なのだろう。

 オーウェンが気にし過ぎるような気がして、アシリアは「用心するからそんなに警戒心を出さないで」と言おうと思った。

「あっ……」

 だがその前に、オーウェンは何かを見つけたようで、アシリアの言葉を遮る。

「アシリア様。いいことを思いついたので、付いてきてください」

「え?」

 オーウェンに腕を掴まれ、アシリアは彼の思うがままに人が行き交う道を横切る。

 移動中、道は沢山の人で溢れているのに、アシリアの体に一切ぶつからず、さらにオーウェンの歩幅が歩きやすくて、見かけによらず紳士だなぁ、など呑気に考えていたら、目的地に着いたようだ。

 どこに着いたのか確認しようと、前を見て目を見張った。

「この店って……服屋?」

 アシリアの目の前に建つのは、色とりどりの服が並ぶ店だった。

 何故こんな所に? と首を傾げていると、オーウェンは一つの外套を取り亭主に声をかけた。

「亭主。この外套を下さい」

 オーウェンが取ったのは、紺色の外套で、動きやすそうなものだ。

「へい! 料金は二千ゴールドです」

 オーウェンは、提示された金額を恰幅(かっぷく)の良さそうな亭主に渡すと、手にとって満足そうにうなづいている。

(ん? オーウェンが着るには、サイズが小さすぎない?? もしや、締め付けるような感じの服を着るのが趣味なのかな?)

 謎の買い物に、オーウェンの性癖の変な想像をしていると、オーウェンはアシリアの所へ来た。

「オーウェン終わっ! ごふッ?!」

 オーウェンに外套を買った理由を聞こうと、言葉を続けようとしたが、頭の上から何かを着せられた。

「外套を着ていてください。気にしていないようでしたが、帽子だけでは顔がちらちらと見えてます。だから、フードも被ってくださいね」

 いきなりの事態に吃驚していると、オーウェンに帽子を取られ、代わりにフードを目深く被せられた。

(前が見えないんだけど……)

 困るアシリアとは反対に、オーウェンは外套を羽織る姿を確認して、いい仕事をしたとばかりに満足げに笑みを浮かべた。

「うん、いい感じです。これで絶対に見られませんね」

 顔を見られてしまうかもしれないと、本人よりも警戒して、外套を買って来たオーウェン。

(複雑なんだけど……)

 紳士なオーウェンな行動に、アシリアの心はまたもや傷ついた。

(きーーっ! 紳士とか思って損した!! それになんだが、ムカムカしてきた!)

 無性に苛立ちも感じて、世間で言う「やけ食い」なるものをしてやると心に誓う。

「まあ、いいわ。それよりあそこの屋台の焼き鳥を食べるわよ!」

 金はある。

 沢山食べるぞッ! と鼻息を荒くすると、満足げな笑みを浮かべていたオーウェンは眉間に皺を寄せた。

「見苦しいですよ。食い意地を張らないで下さい」

「知らないわよ、そんなの!!」

 オーウェンとしてはアシリアに早く帰って欲しいのだろうけど、そんな願い無視だ。

「あそこに焼き鳥と牛串焼きがあるわ!! 何本食べられるかしら??」

「ちょ、どんだけ食う気なんですか?!」

「いいから!!」

 先ほどとは立場がうって変わり、やけ食いする気満々の様子を見て、うんざりするオーウェンの腕をアシリアが掴む。

 そして、オーウェンを引きずるようにして連れるアシリアは、賑わう屋台に足を進めた。

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