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4、ルーツィブルト王国とヴァシリアン帝国の歴史

 

 

 吸血鬼の血液に関する内容を読み終わったアシリアは本をパタンと閉じた。

「はぁ〜〜。これじゃあ、お父様はまた苦労しそうね」

 アシリアは溜息をついて、問題に頭を抱えた。

 本には、『吸血鬼の血液:病気や致命傷も簡単に治すことが出来る、まさに夢のような万能薬』と記載されていた。

 まさにその通りで、本の内容に偽りなどはない。

 だが、吸血鬼の血液に関する仔細が本に書かれていたことに対して、アシリアは頭が痛くなる。

(万能薬と書いてしまったら、薬目的で吸血鬼がより襲われてしまうんじゃないかしら?)

 父から貰った紙にも書かれていたが、現在吸血鬼は人間たちに襲われている。

 アシリアの推測が正しければ、人間たちが吸血鬼を襲うの目的は、血液だろう。

 薬に対して豊富に知識があるからこそ、吸血鬼の血液の効力が桁違いであることはよく知っている。

 だから、欲しくなるのもわかる。

 金のある人間なら、自身の身に危険が迫った時のために、手元に置いておきたいだろう。

 しかし、万能薬だからと言って襲っていい理由にはならない。

 襲って自身の利益のため血を貰う、だけでは済まされない問題につながるのだ。

 これから起きるであろう問題を予測して、もっと行動には気をつけて欲しいと思ってしまった。

(と言っても、わたしには何も出来ない問題なのよね。そもそも、領地に吸血鬼が来たことなんてないし、生態とかよく知らないし)

 それでもアシリアが何か出来ることといったら、本でも読んで、父に助言をすることだろうか。

 ギルバート家の書庫には莫大な量の本が置いてある。

 今まで興味がなかったので、一度も手に取って読んだことはないが、吸血鬼に関する本もそれなりにあるはずだ。

 アシリアは早速温室から出て書庫に向かった。

 書庫に向かう途中、ついつい速足になってしまうのは、他人の役に立ちたいという気持ちからだろう。

 人間ではないけれど、吸血鬼だって生きている。

 襲われているのをただ傍観しているだけなんてアシリアに出来なかった。

 それに、吸血鬼との今の関係が崩れてしまうのは非常に危険を伴う。

 だって吸血鬼は、この国には、なくてはならない種族なのだから…………

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ある歴史の本によると、ルーツィブルト王国の歴史の始まりは、初代国王エリージャが王位についた千年前までさかのぼる。

 あらゆる種族が覇権を争っていた中、エリージャは人間の上に立ち、ルーツィブルト王国を建国した。

 エリージャは国中から有能な人材を集め、国の基盤をつくった賢王であったが、彼の手腕だけでは今日(こんにち)まで国が続くことはなかっただろう。

「『今の我々に必要なのは、異種族に差別の目を向けることではない。多種族から蹂躙されるこの国に必要なのは、強固な盾(、、、、)だ』」

 この言葉は、エリージャが周りの人間を説得するときに、実際に話した言葉だそうだ。

 彼は、今までの人間の王とは違い、柔軟な考えを持っていた。

「『真に我々が必要なのは、共存(、、)である』」

 争うことよりも、共に生きていくことが、揺るがない国をつくる故で重要だとエリージャは考えた。

 そして、その相手してエリージャが選んだのが、吸血鬼(、、、)だった。

 吸血鬼が住むヴァシリアン帝国と、ルーツィブルト王国は、隣国同士だった。

 最初は睨み合っていた両者であったが、エリージャと彼の部下の働きによって、協定を結んだ。

 

 

──ブルート()の協定

 

 

 王国の人間なら誰でも知っている吸血鬼との協定。

 戦闘種族の中でも群を抜いて強い吸血鬼は、人間の脅威であったが、この協定により味方となった彼らは心強い存在になる。

 昔から人間は、狼男や吸血鬼の餌の対象であった。

 狼男は人間を襲って食べることがあって、吸血鬼は生きるために人の血を吸う。

 さらに、二つの種族は自身の子孫を残すために人間の女性を襲い、攫い続けてきた。

 その名の通り狼男には、種族の中には男性しかいない。

 また、それと同じく吸血鬼にも男性しかいない。

 性別が男性しか生まれないので、子孫を残すためには一番近い種族である人間の女性との間に子供をなす必要があった。

 毎年、沢山の女性が両方の種族の犠牲となった。

 それなのにどうして王国は、吸血鬼の国であるヴァシリアン帝国と協定を結んだのか?

 ここで、重要なのが二つの種族の繁殖能力の違いである。

 狼男の平均寿命が百年に対し、吸血鬼の寿命は一千年ほどで、繁殖能力が極めて低かった。

 さらに、吸血鬼は一度伴侶を得ると、その者の血しか飲まなくなり、狼男が襲う人の数よりも、圧倒的に少なかったのだ。

 これらが、エリージャが吸血鬼を相手として選んだ理由である。

 しかし、協定を調印する際、リスクがなかったわけではない。

 吸血鬼は人間を守る報酬として、血の提供と街を自由に歩く権利を主張した。

 そもそも吸血鬼は、狼男や他の種族との戦いには危険を伴うので、皇帝に協定を結ぶ気はなかった。

 だが、国中の女性の人数が極端に減り始めていることをエリージャから聞いて、考えを改めて条件付きで協定を結んだ。

 吸血鬼の出した条件を呑み、協定を結ぶことこそ最善の策だったため、エリージャの選択は一つしかなかった。

 

 

 そして後日、エリージャと皇帝が直接まみえたとき、ルーツィブルト王国とヴァシリアン帝国の間で、『ブルートの協定』は結ばれた。

 

 



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