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プロローグ



「待て!」


 月の光によって照らされる城のテラスに青年の声が響く。

 青年の銀髪は異常なほど輝き、赤色の瞳は妖しい色をともなっている。


「来ないでくださいっ! どっかに行ってください!」

「私は、君と話がしたいんだ!」


 青年が追いかける先には、一人の少女が走っていた。

 ドレスを着ているとは信じられない速さで走るため、なかなか捕まえられない。

 それでも青年は、少女との距離を少しずつ詰め、手を捕まえ自身に引き寄せることに成功した。


「……捕まえた」

「ハァ ハァ……はっ、離して下さい! なぜ! わたしを追いかけるのですか?!」


 青年に手を掴まれた少女は、恐怖心や驚駭心で周りが見えていないようだった。


「落ち着け」


 乱れた息を整えた青年は、まず目の前の少女を落ち着かそうと思い、顔を見る。

 薄暗い中とはいえ、青年は普通の人間ではない。

 暗闇だろうとハッキリと見える目は、少女の輪郭はもちろん、顔の精緻な作りでさえ鮮明にうつす。


「私は君に……っ?!」


 少女の顔をはじめてしっかりと見た青年は言葉を失った。

 目元に陰影を落とす長い睫毛。その下には、サファイアのような青の瞳が覗く。

 細い鼻梁に、淡い赤の唇──そう、全てが計算されたかのような造形。


「……ッ?!」


 月の女神だと言われても、疑いを持たないくらい美しい少女が目の前にいた。

 さらに走ったせいか、顔が赤く紅潮し、恐怖から瞳は潤んでいて、青年の嗜虐心を煽った。

 時間が止まってしまったかのように見惚れていると、少女は手で青年の胸を押し、抵抗してきた。


「顔を見ないで下さい!! あなたなんかに、わたしの気持ちは分からないのでしょう? 不細工なわたしの顔を見てきっと笑ってるのでしょう?」


 自分を不細工だという少女は先ほどよりも強い力で青年の胸を押す。


「何を言って……っ!?」


 一瞬、少女が何を言っているのかわからなくて、青年は手が緩んでしまった。

 その隙に、少女は青年の腕の中から抜け出して逃げる。


「逃がしは……っ?!」


 追いかけようと思ったが、振り返った少女の瞳に浮かぶ涙によって、その場に青年は縫い付けられてしまう。


「金輪際、わたしに関わらないで下さい!」


 自分とは対照的な金髪が揺れる背中を見つめながら、青年は一人テラスに残された。


「──様! どこにおられますか?!」


 遠くで青年の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 いきなり会場を抜け出したから、部活の一人が心配して、探しに来たのだろう。

 それか、問題が発生してしまって、事態を収拾するために探しているのだろうか。

 しかし、青年の心は先ほどまで腕の中にいた少女でいっぱいで、それどころではなかった。


「不細工なんかじゃない……君は本当に……」


 青年の最後の言葉は、掠れてしまって声にはならなかった。

 どんな女性を見たところで、自身の心から思い、紡くことのなかった言葉が、青年の心の中で、静かに響く。

 

 

 

 

※物語の先取りです!!

視点が誰なのかは、御察しの通りだと思います……

 

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