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25、お仕置き


 

 ヨシュアに会った後、時間潰しに本を読んでいたアシリアは、あること(、、、、)を忘れていた。

 そう、部屋においてきた侍女のことだ。

 縛って放置していたことを忘れ、その日は夕方まで、一人で書庫に篭ってしまったのだ。

 本来なら、アシリアが部屋に戻るまで分からなかった事態だったのだが、侍女はなんとかして縄抜けをし、侍女長に知らせた。

 それによって事なきを得たのだが、今回はアシリアに非があった。

 お詫びに自分に出来ることならなんでもする、と安易に約束したら、次の日、アシリアは大変な目にあうのであった……

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「さぁ、アシリア様。次は、このドレスですよ!!」

「もう、十着以上は着替えたんだけど……」

 うんざりするアシリアとは対照的に、若い侍女は興奮気味である。

 侍女へお詫びをしようと思って、申し出たところ、提示されたのは、一日中思い通りにドレスを着続けることだった。

 お天道様が真上に上がったのに、いまだ侍女に離してもらえない。

 その証拠に侍女は、次々と新しいドレスを持ってくる。

「まだ、十着です!! 私を縄で結んでおきながら、それを忘れて本を読んでいるなんて酷いです、お嬢様は!! まだまだ、私の思い通りになって頂きますからね!!」

「ひいぃ……」

 自分から申し出たこともあり、アシリアに拒否権などなかった。

 それに、着替えくらい数着で終わると思っていた。

 ようは、安易に考えていたのだ。

(あと、何着かしら? 多分二、三着のはずよね?)

 いつまで続くのか頭の中で計算していたら、部屋の扉が開き、侍女が何人か入ってきた。

 嫌な予感がした。

「ねぇねぇ、私もお嬢様のドレスを選んでもいい?? 飾りつけたい!!」

「私も! 私も! お嬢様は、同じようようなドレスしか着ないから、こんな機会があるならやりたいわ!」

「えぇ、いいわよ! 今日のお嬢様は貸し切ってありますので、皆んなでやりましょ♪」

(うそ〜〜)

 さらに侍女仲間が五人ほどきて、アシリアの部屋は一気に賑やかになった。

 だが数に比例して、終わりそうになくなるから、やめてほしかった。

「ねぇ、あなた達は、私のような不細工な女を飾って、何が楽しいの? お母様にやってもらった方が絶対楽しいでしょう」

「何を仰いますか? システィーナ様に頼めるわけありませんし、楽しくないですから。あの方に似合うドレスを考えるのは難し過ぎます。こちらが逆に滅入ってしまいます」

「む、難しい?」

「ええ。それに比べお嬢様は、本当に何でも似合ってしまうので、着せがえがあります」

「そうそう!! こんな黒のドレスが似合うのはお嬢様くらいですよ!!」

 侍女たちが、アシリアをそっちのけて、また楽しみ始めた。

(……なるほど、お母様に変な服は着せられないが、わたしなら気にする必要がないということなのね! なんなのよッ!!)

 気にする必要がないほど不細工だといいたいんだな、と心の中で文句を言いまくった。

 一方侍女たちは、隣にある衣装部屋でこんな会話をしていた。

 もちろん、アシリアには聞こえないようにだが…………

「どれにするか悩むわ! 白を着せれば慈愛の女神様(、、、)、黒を着せればそれこそ魅惑の女王様(、、、)……まぁ、一番は青のドレスが似合うのですけどね。人間の枠を超えてしまった、気高き令嬢様(、、、)って感じになりますよね〜」

「ええ。実際、システィーナ様は、暗い色のドレスはあまり似合わないのですよね。明るい色のドレスなら、それこそ女神様ですが、前回着たドレスのデザインとかぶらないようにするのは大変ですよね〜」

 そんな感じの話をしていたのだが、もちろんアシリアには聞こえなかった。

 むしろ、キャッキャッ という声が衣装部屋から聞こえ、アシリアは絶望的になっていた。

 本当に夜中まで逃してくれなさそうな勢いなのだ。

 とにかく早く解放してくれ、とだけ切実に願っていると、部屋の扉が、また勢いよく開いた。

「お姉ちゃん〜〜!! 遊びにきた、よ……?」

 姿をあらわしたのはヨシュアだ。

 部屋に入った瞬間、アシリアのことを見て目を丸くしている。

「真っ赤な、ドレス? 似合ってるけど、今日はパティーとかあるの?」

 ヨシュアは、首をこてんと傾げた。

 その顔を見れば、ヨシュアが何を考えているのか容易に想像できた。

(よ、喜んでるように見えるわ。ヨシュア君って、こんな派手なドレスが好きなのっ?!)

 真っ赤なドレスが好きだったんだ〜、みたいな好奇な目が混じっているのだ。

 それに、アシリアは焦った。

 断じて違う。

「ヨシュア君!! 勘違いしちゃ駄目よ!!」

 悪目立つするこんなドレスなんて、好んで着ないから! とヨシュアにアシリアは言い聞かせた。

「それに、パティーなんてありません。大事なことを忘れたお詫びに、着せ替え人形になっているのよ」

「そ、そうなの? ふーん。なら、僕もお姉ちゃんに似合うドレスを見つける〜〜ッ!!」

「なっ……?!」

 ヨシュア君は嬉しそうに、衣装部屋に入っていった。

 た、助けてくれるはずじゃなかったのか、ヨシュア君……

 一人裏切られた気持ちになっていると、隣からヨシュアの声が聞こえてきた。

「僕、これがいい!!」

「まぁ、やっぱりこのドレスですよね!」

 どうやらドレスが決まったようだ。

 侍女も興奮しているので、何を持ってくる気だとアシリアは身構えた。

「お姉ちゃん! これ着て〜ッ!!」

「…………」

 露出が激しく、派手なドレスなら断ろうと思っていたのだが、満面の笑みのヨシュア君に、アシリアはついつい頷いいてしまった。

(わたしの馬鹿ーーッ!! ヨシュア君の笑顔に、なにイチコロになっているのよ!!)

 断るという正常な判断が出来なるほど可愛いので、ヨシュア君はある意味恐ろしい存在だ。

(これじゃあ、断れない……)

 ヨシュア君が、目をキラキラと輝かせているので、はぁ、とため息をつきながら、アシリアは衣装部屋の中に入った。

(こ、このドレスなのね……)

 目の前にあるのは、深い青色のドレスだ。

 光沢のある深青(しんせい)色ドレスは、首から肩が露出している。

 胸元には、青い薔薇を模された飾りがつけられ、布地は腰までアシリアの体にぴったり合うように作られている。

 裾は床に広がるように何枚もの生地を重ねられているが、広がり方の曲線美が美しかった。

 今流行りのドレスだそうだ。

 しかし、アシリアは着るのも億劫だった。

 大胆に見えるくらい露出していないとはいえ、肩は丸見えだし、はっきり言って恥ずかしい。

 なのに、侍女たちの中でもこのドレスは好評だった。

 試しに着たとき、側にいた侍女の感想曰く、神秘的なドレスなのだとか。

 アシリア自身、この光沢あるドレスに原因があると思っているが、着る本人にも原因があるなど知らない。

 むしろ、似合わないと思い込んでいるので、公共の場でさえ、着たことがなかった。

「さぁ、着ますわよ」

「……こ、こんなの、着たくない」

「お嬢様に拒否権はありませんよ。ほら、ヨシュア君も待っているのですから……」

 凄味のある顔で、ニッコリと微笑まれて、アシリアは泣きたくなった。

 嫌がっても、五人かがりで囲まれてしまえば、大人しくしているほかない。

(か、髪もやるのね。もう、パティーに行ける格好なのだけど……)

 着替えるだけでなく、髪も結ばれ、髪飾り首飾りまでもつけられてしまった。

「うーん、耳飾りは今のままで似合いそうです。綺麗な青ですらから。では、靴はこんなものでどうでしょう??」

 侍女たちにあれこれ言われ、上から下まで、パティーに行くような格好にされ、気が重くなる。

 しかし、今か今かと待っているヨシュアがいる。

 気持ちは乗らないが、ヨシュアに会いに行くと、それはもう凄い喜びようだった。

「うわぁ。綺麗ッ!!」

 とても喜んでいるようで、嬉しいのだが、どっと疲れがくる。

 喜ぶヨシュアには悪いが、早く脱いでしまいたい。

 いつもの格好に戻ろうと思っていると、また扉が開いた。

 次は誰だ、と思っていると、部屋に入ってきたのは茶髪の男性だった。

「失礼します。塩の事業のことで……ッ?!」

 入ってきたのはオーウェンだ。

 事業の話をしに来たらしいが、目を見開いてこちらを凝視している。

 今の状況に、きっと驚いているのだろう。

 なんたってアシリアは、『豚に真珠』ということわざが似合う状況なのだから。

 何か感想くらい言って、笑えばよいと思った。

 その方が気が楽になると自嘲気味に笑っていると、オーウェンは扉を勢いよく閉めて、

「す、すみませんでした!」

とだけ残して、逃げた。

「はぁ?! なんで、逃げるのよ!!」

 感想も言えないくらい酷かったのか。

 捕まえて、感想を吐かせてやろうと思ったが、いつの間にか移動した侍女に肩を掴まれた。

「お嬢様、まだ終わっておりません」

「逃げるなど出来ませんよ」

「今はそれどころじゃ……」

「そんなこと知りませんよ。さぁ、次いきますよ!! ヨシュア様も手伝ってくださいますか?」

「うん!!」

 恐ろしいほどの笑みを浮かべる侍女と、眩しいくらいの笑みを浮かべるヨシュアを見て、アシリアは心の中で絶叫した。

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