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23、吸血鬼少年は、ある意味危険です 其の一


「──お姉ちゃんも一緒に寝ようよ……」

 そう言って、アシリアの手を掴み、ベッドの上へと引っ張る少年。

 少年の黒混じりだった髪は、既に銀の色を取り戻していて輝いている。

 ただ、まだ熱っぽいせいか、少年の頰は朱に染まっていた。

「駄目だよ、ヨシュア君。わたしは、ここにいちゃいけないの」

 アシリアはそう言って少しだけ抵抗をするものの、少年──ヨシュアは引っ張るのをやめてくれない。

(無理に離せないし。かといって、ここに長居は良くないんだよなぁ。はぁ、まさかこんなことになるなんて……)

 どうすればヨシュア君が自分を離してくれるのか分からなくて、アシリアは天井を見上げた。

 そして、少しだけ前の自分の浅慮(せんりょ)さを悔いた。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

二時間ほど前──

 

 

 アシリアは、部屋の出窓の下にうずくまって、カタカタと体を震わせていた。

「……なんで、目があっただけなのに……こんなに震えるの?」

 体の震えは、寒いとかからくるのではない。

 あの冷たくて、鋭くて、何も写していない赤の瞳が、恐ろしかったわけでもない。

 それなのにどうして、体が自分の意思に反してこんなにも反応するのか、アシリアも分からなかった。

(恐怖からじゃない。なら、この震えは何からくるの……?)

 真紅の目を見たとき感じたのは、恐怖ではない全く違うものだった。

 言い表せない感情の正体を、アシリアは必死に探す。

 今まで感じたことがない感情で、恐怖とは別のもの……

 感情の正体は、もはや感情という言葉にはならなかったが、アシリアは無意識のうちに、声を出していた。

「あぁ、分かった。

壊しても…………壊しても、壊しても、止められない歯車が、わたしの中で動きだしたんだ」

と。

 無意識に出てしまった言葉なのに、アシリアは胸の奥がすっとした。

 あの震えは、勝手に動き始めてしまった歯車を止めようとする本能的な拒絶。

 自分が望んで、決めたわけではない運命が動き出してしまって、敏感にそれを感じた体が、本能的に拒絶したのだと思った。

 何故、自分がそんな馬鹿げたことを思ったのか、分からない。

 でもそれと同時に、アシリアの口からは、乾いた笑いがでた。

「運命ね…………フフッ、笑えるわ。どうして、わたしみたいに不細工な女が、あんな綺麗な男性と運命の糸で結ばれてるなんて思うのよ」

 自分は両親が隠したくなるほど不細工な公爵令嬢。

 遠目でも分かるほど美しかった青年の目に止まるはずなどないのだ。

 運命で繋がれてると思うなんて、不細工な自分には甚だしい勘違いだと思った。

「ハァー、震えていた自分が馬鹿馬鹿しいわ」

 深く長い息を吐きながら、アシリアは立ち上がって、出窓の外をみた。

 窓の外にはもうあの青年はいない。屋敷の中にもう入ったのだろう。

 どうせこれからも会うことがない人だし、この際青年のことは忘れることにした。

「暇だし、本でも読もう。たしか〜、あっちの本棚に、東方の本が置かれてたはず……」

 部屋から出るな、と父に言われているので、異国の本でも読もうと思ったとき、外が騒々しいことに気づいた。

(なにかしら?)

 気になって、扉を開け隙間から覗くと、侍女や執事達が慌てて動いていた。

 客が来ていると言っても、いつもこんなにバタバタはしない。

 事情を聞こうと部屋の外出待機していた侍女にアシリアは話しかけた。

「ねぇ、何事?」

「お、お嬢様ッ! 外に出てはなりません!!」

 事情を聞こうとしただけなのに、新人の侍女はアシリアが部屋から脱走しようとしていると思ったようだ。

 いつも脱走しているけど、そんなに警戒しなくてもいと思った。

「わたしは逃げませんから。それで、この騒ぎは何? お客様が来たからと言っても、こんなに多くの使用人か慌てて動かないばすよ」

 脱走するのではなく、この騒ぎを気にしていると知った侍女は、しばらく警戒の目で見ていたけれど、信じたようだ。

(新人の侍女にも警戒されるなんて。どんな教え方してるのよ)

 新人の侍女が自分につくのは珍しいのだが、とても信用されていないなと苦笑した。

 まぁ、それに値することを、やっているからなのだろうけど、もちろん反省する気はなかった。

「本当に逃げないんですよね? はあ、じつは、昨日アシリア様が助けた子供に問題があるんです。目が覚めてからずっと騒いでいて、よほど怖い思いをしたからなのでしょう。それで、怪我しないように押さえたり、薬を投与したりしているのですが、効き目がなく、余計暴れてしまって」

「…………」

 じっとしていられない、と思ったり

 薬が効かないのは、子供の体に合いにくいからだろう。

 自分なら、処方薬を見れば、どの薬が効くのか分かると思った。

(わたしが行って直接見れば分かるけど、この子はわたしを通す気はないわね……)

 侍女の方は、断固としてアシリアを通す気がない。

 構えてるので、一筋縄で行かないだろう。

(ふぅ、相手をするのもいいけど、すぐに連れ戻されそうね。代役でも立てれば大丈夫なのかしら? でも代役なんて……あっ、いいこと考えた)

 部屋にアシリアがいるとすれば、他の使用人にもバレず、いいのではないかと思った。

 目の前にいるのは、丁度自分と(、、、、、)同じ金髪(、、、、)の侍女なのだ。

「分かったわ。行くのはやめる。でも、やって欲しいことがあるの。わたしの服を試着してくれないかしら?」

「……は? 意味が分かりません。もしや、何か企んでらっしゃいますね」

「……ち、違うわよ〜」

アシリアは笑って誤魔化した。

(す、鋭いわ)

 侍女は疑いの目をアシリアに向けている。

 ここは嘘の説明でも作って納得してもらおう。

「フフフ、今度ね、お母様に見せるドレスがあるのだけれども、着ている姿を見てみたいの。ほら、わたし鏡が怖くて見れないから、是非貴方に着て欲しいのよ」

「は、はぁ。それなら、受けましょう」

 かなり疑っているけれど、侍女はドレスを着てくれるようだ。

 そうと決まれば、早速衣装部屋から着るのが面倒なドレスを取りだしに行く。

(着るのも脱ぐのも面倒なドレスは……これね)

 手に取ったのは紫の綺麗なドレス。

 しかし、飾りがついて動きにくいし等の短所がありすぎて、アシリアはきたことがなかった。

 でも、このドレスほどいい役目をしてくれるものはないと思った。

「さぁー、これよ!! 手伝うから着てみなさい!! 遠慮はいらないわ」

「っ?!」

 これを着るんですか?! みたいな目で侍女には見られたが、そこは無視だ。

(選んだだけあるわ。着せるのも難しいなんて)

 手早く……なんていくはずもなく、苦戦する。

 多少時間はかかったが、何とか侍女にドレスを着せることが出来た。

「……」

 案の定侍女は、重いドレスを着て、放心状態に陥っていた。

 まぁ、こんな豪華なドレス普通は着れないので、ときめいたりしているのかもしれません。

(あとは縄で結ぶ!!)

 この新人侍女には、部屋にいる代役もして貰うつもりだ。

 椅子に座らせて、アシリアは縄で縛りにかかった。

 抵抗があるかと思ったが、心ここにあらずの状態なので、縛りやすく助かった。

「……よし、出来た。じゃあ、ここで待ってね。よいしょっ、と」

「へ? え〜〜ッ! アシリア様なにをっ? んぐ、んーーッ!!」

 我に帰った侍女は、んーんー!! と騒ぐが、時すでに遅し。

 扉から見て、縛っている位置が分からないようし、侍女の口に布をかませた。

「フフフ……じゃあ、代役お願いしますね」

 アシリアは侍女にニコリと笑いかける。

んーーッ(そんな〜)!!」

 そして、涙目の新人の侍女を残して、アシリアは部屋を出た。

 

 

 

※題名の指摘を受けましたので、直しておきました!!

ありがとうございました!!

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