21、これが運命……そう感じてしまった(ルイ視点)
(こいつ……)
ルイは入室してきた男を観察した。
応接間に入ってきたのは三人であるが、ルイが気にするのは真ん中に立つ男性だけだ。
(……妙な気配だ)
茶色の短髪で深い緑色の瞳をもつ男は、オーウェンと言う名らしい。
物腰からして、武術においてはかなりのやり手だ。
だが、ルイを警戒させるのは、人間にしては妙な気配だった。
(人間じゃないのか? それなら、微量でも妖力を感じるはずだ……)
人族にはないが、吸血鬼や狼男のような種族には『妖力』と呼ばれる力がある。
魔女や魔術師でいう『魔力』のようなもので、魔法を使うときに魔力を消費する。
吸血鬼や狼男も力を使う際は、妖力を消費して姿を変化させたりできる。
妖力や魔力を感じなければ、人族だと言っても良いのだが、オーウェンの纏う雰囲気からは、人ならぬ者に感じた。
(たまに、人族の中にも優れた個体がいると聞く。人族の器を越えた者なのか?)
疑問を感じせずにはいられないが、思索は後にして対話をしよう。
黙っていては、何か警戒されると思った。
「あぁ、君がヨシュアを助けてくれた人なんだね。改めてお礼を言わせて欲しい」
ルイはソファを立って、男の元に行き軽く頭を下げた。
ヴァシリアン帝国で高位貴族と身分の高いルイが、オーウェンのような者に頭を下げることはまずない。
だが、ヨシュアを助けてくれた恩人に、ルイは誠意を示したかった。
「私達は当然のことをしたまでです。ルイ宰相こそ、遠方よりおいで下さって、私達のような者に会って下さるなど恐悦至極に存じます」
オーウェンはルイよりも深く頭を下げた。
護衛者と聞いていたが、身分に関わる作法を知っているのだろう。
無礼と言われることが多い護衛者には、珍しいと思った。
(こうなると何者か気になるが、今日はそのために来たのではない。今しか聞けないことを聞こう)
ルイは一度目を長く瞑って、頭を切り替えた。
そして、書簡に記されいた内容から質問することを絞っていく。
「書簡で大体の話は聞いているが、君の口から状況を聞きたいと思ってな。まず、ヨシュアを救ったのは君たち三人なのか? 敵は多かったと聞いたが」
敵は少なくとも百人のはずだ。
目の前にいる三人の護衛者が全員倒したとは思えなかった。
「いいえ、もう一人いました」
「? その者には今日会えないのか?」
「すみませんが会えません。その方はギルバート家に関わりがなく、救出が終わった時点で姿を消してしまいましたから」
続けて、私達ももっと礼を尽くせねばならなかったのに、とオーウェンは言った。
「それは残念だが、仕方ないな。しかし、そうだとしても、敵の数は百を超えていたと聞いている。四人だけで対処を?」
「四人で対処したとは、少し違います。私達三人は敵の一掃を第一に、もう一人の方は、捕まっている方々の救出を第一にやりました。つまり、私達が相手をしたのは合わせて九十人ほどだったと思います」
となると、残りの十人程度は四人目の人がやったということになる。
十人程度なら一人でも対処できるかもしれないが、九十人を三人では、単純計算で三十人だ。
まだ四人で纏まって戦った方が、危険を侵す可能性が低いと思った。
「九十人も、三人だけで相手するのは危険では?」
「それは、心配に及びません。私達三人は、ギルバート家の護衛者の任を受け賜ってます。ならず者を一人 三十人相手するなど余裕でございます」
ルイの質問にオーウェンはハッキリとした声で、負けるはずがないのです、と言い切った。
護衛者としての自信、誇りが見えて、ルイは口の端をつり上げ笑った。
「勇ましい」
自身の力を過信して無茶な事をしようとする者がいるが、そんな人間をルイは嫌いではなかった。
「だが、一人で先に行かせてしまった者の安全は? 奥にもっと敵がいる可能性を考慮しなかったのか」
「考慮する必要がないほど、その方も強い剣の腕をお持ちでした。それに敵は、私達を罠に嵌めて多勢で襲って来ました。数の利を使うなら分散させたりしません。また、私達の目的はあくまで救出でした。戦っている間に逃げられては元もないので、一人は救出に回した所存です」
戦闘において冷静さを失わず、ここまで考えて行動していたオーウェンを凄いとルイは関心した。
「質問に答えてくれてありがとう。最後に質問をしても?」
「私に答えられることならどんなことでも答えましょう」
オーウェンの深い翠の瞳を見て、真剣な声でルイは言葉を紡いだ。
「ヨシュアは…………君が、あの子を見つけた時どんな様子だった?」
静養しているヨシュアに会う前に、ルイが一番聞きたかったことだった。
「……見つかったときは、弱っておいででしたが、命に別条はありませんでした」
ルイと対峙するオーウェンは、一瞬言葉を詰まらせたが、先ほどと同じく淡々とした声で答えた。
「そう……なら、助かったのは本当に君たちのおかげだ。褒美を後で届けるから、受け取って欲しい」
「有り難き幸せ。では、私達はこれで失礼致します」
オーウェンは一度深く礼をして下がった。
それと同じく、横にいた二人の護衛者も礼をして部屋を退出していった。
その間、退出する男の背中をルイは横目で見ていた。
(ヨシュアのことを聞いたとき間があった。何故だ……)
ルイがヨシュアの様子を聞いた時に合った言葉との間。
あれほど淡々と救出中の状況を話していたのに、一瞬でもあった間には違和感を感じた。
トントン
間について考えていると、扉を軽く叩く音がした。
「父上、ミカエルです」
「来たか。入れ」
応接間に一人の青年が入ってくる。
「あぁ貴方が、かの有名なルイ宰相ですか。お会いできて光栄です。ルシウスが嫡子、ミカエルです。以後お見知り置きを」
綺麗な礼をする青年が入ってきたと思い見上げてとき、ルイの世界は一瞬にして止まった。
「………………っ?!」
ルイの視線の先にあるのは、窓から差し込む朝の光を受けて輝く青年の髪。
色合いといい、明度といい、完璧に計算されたかのような金髪であった。
(綺麗だ……これが求めていたものだ……)
ルイは歓喜した。
物心がついた頃から、ずっと探し求めて来たものがそこにはあった。
思考が停止していたルイだが、「どうかしましたか?」とミカエルに声をかけられ、我にかえった。
「すみません。あまりの美しさに思考が停止してしまいました」
「え、え、い、いや、貴方みたいに美しい男性に言われても……」
変に狼狽えるミカエル。
ミカエルが話しているのは聞こえたが、目の前にある金髪に集中していたルイに、内容は入ってこなかった。
(こんなに綺麗な金髪なのに、持ち主は男。女なら運命を感じたかもしれないのに……ん?………待てよ……)
ルイは近くのソファに一緒にならんで座っている公爵夫妻を見た後、ミカエルを見た。
金の強い金髪の公爵。
白の強い金髪の夫人
そして、自分の好みがど真ん中の金髪の嫡子。
結論──二人の金髪は、子供に半分半分で遺伝している
(なんていう奇跡っ!! それなら、公爵令嬢の髪も同じ金髪じゃないのかっ?! 見たい!! 側に置きたい!! 眺めていたい!!)
冷静な顔の裏で、ルイの心臓は激しく高鳴った。
※恋愛っぽくなってきたと、一人は歓喜しております。
序盤の方は全然恋愛要素がなかったので、つまらないと思って読んだ方には申し訳ありませんでした。




