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19、本能的な拒絶

 

「ふぁー」

 大きな欠伸をしながらアシリアは目を覚ました。

 昨夜、オーウェンが部屋を出ていって直ぐに、アシリアは目を閉じて爆睡した。

 意識が落ちるのに、十秒もかからなかったと思う。

「よし、血は漏れてない。んーっ、眩しい」

 部屋の窓から、光の筋が差し込む。

 いつもは薄暗いうちに、使用人の誰かが起こしに来てくれるのに、窓の外は既に明るかった。

 アシリアの体調を気遣って、起こさなかったのだろう。

 そのおかげで、心ゆくまで寝ることが出来たので感謝である。

「起きたし、着替えるか」

 アシリアはベッドから体を出して、夜着を着替えに行く。

 王都に住むご令嬢達は、朝から体をコルセットで締め、ドレスを着て過ごすそうだが、アシリアには考えられなかった。

 動き辛いし、息苦しい以外のなんでもない。

「うーん、今日はこれにしよう」

 設けてある衣装部屋から、適当に服を取り出し着てみて、自分の格好を確認してみる。

 今日はあの有名な吸血鬼宰相が来るらしいが、挨拶をしなくて良いと言われているので、アシリアは質素な服装を選んだ。

 首元に青のリボンがあしらってある長袖の白い服で、アシリアはクルリとその場で試しに回ってみた。

 刺繍が施されているスカートが、動きに合わせてフワリと翻ると、心も弾んだ。

 世間で不細工など言われていても、他の女の子同様アシリアも可愛ものが好きである。

 自分に似合うと思う服を着ていたい。

 動きやすく、こんなもんで良いかと思っていると、ガチャリ という音がした。

「入りますよ。あら、起きていらっしゃったのですね」

 誰かと思っていると、侍女のアーニャが部屋に入ってきた。

「おはよう、アーニャ」

「おはようございます。お着替えの方は済んでいっらしゃるようなので、髪の方を結わせて頂きますね」

「うん、よろしく」

 アシリアが椅子に座ると、アーニャが背後から櫛で梳かして髪を編み込んでいく。

「今日はお客様が来るようなので、髪飾りをつけますね。さぁて、どれにしましょう」

「…………あの、お客様に会わないんだけど?」

 ワクワクしながら、髪飾りを選ぶアーニャに悪いが、アシリアは訪問者とは会わない。

 なので、つける必要がないと思う。

(わたしの髪を弄るのが好きなのようだけれども、邪魔になるから好きではないのよね。それに、派手だし……)

 飾る必要もないので、そのままで良いと言おうとしたら、アーニャはニッコリと笑った。

 不敵な笑みだったので鳥肌がたち、逃げようと立とうとしたら、肩にアーニャの手を置かれた。

「そう、アシリアお嬢様はお客様に会わないのですね。ですが、屋敷に人が来るのは紛れもない事実。間違って出会ってまったら、恥ですので飾りましょう」

「ちょ、ちょっと?!」

 どこから取り出したのか、アーニャは縄でアシリアの体を椅子に拘束する。

(逃げられない……なんでわたしの家の使用人って、みんな強いのよーーっ!!)

 対抗もできず、派手なものだけ勘弁して欲しい、と願う事しか出来なかった。

「……ふぅ。こんなもんでどうでしょうかね」

 数分後、アシリアの髪を弄ったアーニャが満足げな声を出して拘束を解いた。

「さぁ、ご覧あれ」

「…………はぁ」

 アシリアは、アーニャが持ってきた手鏡をみて深いため息をついた。

 横の髪が複雑に編み込まれて、後ろで纏められているのは、まだよしとしよう。

 しかし、金髪に劣ることなく輝く色とりどりの装飾に口が引きつってどうしようもなかった。

「どうですか? 派手なのはきっと嫌がるでしょから、軽めのにしましたよ」

「これで、軽めなの??」

 ホクホク顔のアーニャとは違い、アシリアはげんなりした。

(毎回毎回こんなのつけていったら、悪目立ちするわよ。それが、社交界に出ないのわたしが原因だとしても)

 アシリアは社交界の場に滅多に出ない。

 飾り付ける機会がないせいか、飾ることが好きな侍女たちの不満は大きい。

 そのせいで、色々なところに反動が出てきてしまっているのだ。

「あのね、これじゃあ、重いから。軽めの青の装飾一個で充分だがら」

 流石にやりすぎなので、青の宝石と真珠の装飾だけを残すして、他は全部取る。

「あーー、私の傑作品がっ!」

 アーニャがその場に倒れて悲しんでいるが、無視して取り終わると、頭が軽くなった。

「諦めなさい。そんなことよりも、朝食を食べに行くわよ。お腹が空いて体力もつかないわ」

「…………かしこまりました」

 未練がましい目のアーニャであるが、素直にアシリアに従ってくれた。

 まだ本調子ではないアシリアを気遣っているのだろうけど、そんな死んだ魚のような目をしないで欲しいと思った。

 

 

「おはようございます、お父様、お母様、お兄様」

 空腹で鳴るお腹に押さえながら食堂に向かうと、デーブルには既に朝食がのっていて家族がいた。

 先に食べていたようで、両親や兄の朝食は半分まで減っていた。

「おはよう、アシリア。気分はどうですか?」

「良好ですよ、お母様」

 心配する母に、アシリアはそう返した。

 質素な服装のアシリアと反対に、良好と聞いてニッコリと笑ったシスティーナの服は、ギルバート公爵夫人に相応しいものだった。

 お客様仕様だなぁ〜と思って見ていると、視線を感じた。

「……なんですか? お兄様」

 視線を感じた方向を見ると、兄のミカエルが肩を震わせて笑っていた。

 何故笑っているのか分からなくて、アシリアは首を傾げた。

「ふぅ。いや、編み込まれた髪が凄いなぁと思って……もしかして、遊ばれた?」

 兄が笑っていた理由が分かった。

 不満が溜まった侍女によって、髪を弄られたと知っているからだろう。

「これでも、軽い方なのですよ? だいたい人と会わないわたしを飾り付ける意味が分かりません」

「確かに、そうだね〜。でも似合ってるよ」

 クスクス笑われて、馬鹿にされているような気がしたので、アシリアは兄のことを無視して食べることに集中することにした。

 しかしそこで、肩を震わせて笑う兄に一矢報いたいと思ってしまった。

(そもそも、わたしが頼んでやったわけじゃないのを知ってながら、からかってくるなんて意地悪よね? お義姉様(、、、、)に言って反省させましょう)

 アシリアの兄には婚約者がいる。

 完璧無敗の貴公子で知られている兄だが、一目惚れした勝気な婚約者によって、尻に敷かれている。

 そのため、婚約者は兄の弱点であった。

「…………」

「何か悪巧み、考えてない??」

 不穏な気配を察したのか、ミカエルが眉間に皺を寄せて睨んでくるが、もちろん無視する。

 兄の婚約者様に頼んで反撃することは、アシリアの中で決定事項になっている。

 でも、兄の反応を見たくて、アシリアは悪巧みの一片を話すことした。

「ご馳走様でした。そういえば、お兄様。お義姉様には十分にお気をつけくださいね」

「……ちょ、アシリアっ!?」

 勘付いて血相をかえた兄を見て、アシリアは細く笑った。

 人を遊んだ罰だ、と思った。

 止めようとする兄と、無視するアシリア。そんなやりとりをしていると、使用人の一人が焦って食堂に入って来た。

「すみませんッ!? お知らせがあります!!」

 相当焦って来たのか、使用人は息が乱れていた。息を乱すことがないギルバート家の使用人には珍しかった。

「申し上げます!! 今しがた、サクシード宰相の馬車が敷地内に入ったと連絡がありました!!」

「「「ッ?!」」」

 もう少し時間がかかるだろうと思われていた訪問は、予想を超えて早かった。

 そのため、アシリア以外の三人の間に緊張が走った。

「アシリア、お前は部屋に戻れ」

「はい、お父様」

 もう少し食休みするつもりだったが、父に戻るように言われ、アシリアは食堂を出る。

 慌てる使用人を見ながら一人自室に戻ると、家の門の前に一台の馬車と数人の騎士が止まっているのが分かった。

「会わないけど、どんな顔なのか気になるなぁ」

 宰相とやらに自分は会わないが、お父様があれほど警戒する男の顔だ。

 どんなに面構えしているのか見てみたいと思った。

 男の顔を拝もうと出窓の部分に身を乗り出していると、従者が馬車の扉を開ける。

 そして、一人の男が出てきた。

「さぁ、どんな顔し、っ?!」

 男の顔を見た瞬間、アシリアは床の上に反射的にしゃがみ込んだ。

(嘘……いま、目が合った……?)

 心臓が煩いほどなる。

 中から出てきた男と、合うはずもない目があったよう気がしたのだ。

 見たのは一瞬であったが、男は一生忘れないような顔立ちであった。

 冷酷さを感じさせる切れ長の目の中に輝く赤い瞳。

 高い鼻梁に、形の良い薄い唇が一文字に結ばれていた。

 白い光を纏っている銀髪が風に靡く姿さえ、美しい絵画のように見えたが、アシリアの心に漂うのは全く別の感情だった。

(……なんて、冷たい、表情)

 父や兄の顔とは全く違う異質な美貌の男を、アシリアは苦手な雰囲気を纏った人だと思った。

 視線を一瞬向けられただけだが、アシリアの体は拒絶していた。

 本能的に関わりたくないと思ったのだった。

 

 

 

※遅れた投稿は、明日やります!

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