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17、父との対話

 

 

「んっ……あぁ、自室か……」

 目が覚めた時、よく見慣れた部屋の天井が目に入った。

 だがすぐに視界がぼやけてしまって、アシリアは重い瞼を何度も動かした。

(怠い。寝たら元気になるはずなのになあ。血を吸われすぎたからかな。久しぶりに頭が痛い)

 アシリアは額に手を当て、顔にかかる乱れた前髪をかきあげた。

 喉も渇いたので水を飲もうと、上半身を起こそうとすると、誰かが手を添えて助けてくれた。

「お加減は大丈夫ですか? アシリア様」

「……オーウェン? あぁ悪いんだけど、水をくれない??」

 侍女の一人かと思ったが、手を貸してくれたのはオーウェンだった。

 オーウェンに水の入ったグラスをとってもらい、飲み干しながら彼の様子を伺う。

 先ほどのような私服ではなく、いつもの黒い服を身に纏う彼は、穏やかな顔でアシリアを見ていた。

「ありがと。で、どうしてここに? いつからいたの?」

 アシリアが目を覚ますまで、オーウェンはずっと自分の部屋にいたのだろうか。

 起きてオーウェンが目の前にいるなんて珍しいことだったので、アシリアは首を傾げた。

「先ほど部屋にきて、控えていた侍女と交代しました。アシリア様がお目覚めになったら、お連れするよう旦那様に言われて部屋を訪れたのですが、まだ目を覚ましてはいないようだったので、僭越ながら待たせて頂きました」

「お父様がわたしを? はぁ、お父様は家出したわたしを怒る気かしら」

 オーウェンに言われて思い出したが、アシリアは父に何も言わず家を出たのだった。

 父に怒られるであろう未来が容易に想像できて、アシリアは余計頭が痛くなった。

「このままベットに篭ってようかな。うん、そうしよう」

 怒られるのは嫌なので、もう一度布団を被って寝よう。何日かしたら、父もきっと忘れるはずだ。

 アシリアは起こした体をベッドにもう一度倒して、さぁ寝ようと目を閉じると、オーウェンが布団をすごい勢いで剥いできた。

「何してるんですか? 目覚ましたなら旦那様の所に行きますよ」

「嫌だ! まだ寝るの〜っ!!」

 ベッドから出てやるものか思って、攻防戦を続けるものの、オーウェンに全ての布団を取られて悲しくなった。

 いつもなら体に布団を巻きつけて死守するのだが、今のアシリアにそんな体力は残っていなかった。

(恨んでやるオーウェン!!)

「……仇を見るような目で見てきても、布団は返しませんよ」

 恨みがましい目でオーウェンを見ていると、呆れた声を返された。

「鬼ね、オーウェン。はぁ、具合悪いって言ったらお父様だって、説教の時間を短くしてくれないかしら」

 怠さを感じるが、オーウェンが急かすし、仕方なくアシリアはベッドから足を出した。

 用意してあった踵の低い靴を履いて、オーウェンに手を借りてアシリアは立ち上がった。

「? ……もう、夜か」

 ふと窓の外を見ると、空が真っ黒色な闇に染まっていたので、夜まで自分は眠っていたことに気づいた。

 夜になっていた、ということを知って、先ほどまで感じなかった肌寒さを感じていると、オーウェンが上着を着せてくれた。

 相変わらず気が効くオーウェンに、アシリアは笑ってしまった。

 

 

「…………アシリアさまが寝ている間、旦那様に会いましたが、旦那様はアシリア様を怒っているように見えませんでしたよ。心配はしていましたが」

「えっ?」

 気乗りしない執務室への廊下の途中、アシリアとオーウェンは談笑していたのだが、彼の言葉に驚いて、アシリアは立ち止まってしまった。

 すぐに我に返り、慌てて前を行くオーウェンに追いついたアシリアは疑問を声に出した。

「お父様は、怒ってないのですか?」

「私の見解になりますが、旦那様は怒っていないと思いますよ。むしろ、塩の物価の件と奴隷貿易のことに関して、褒めておられました」

「説教されないような気がしてきた。はぁ〜、気が楽になった」

 あの長〜い説教が消えたと言うだけで、執務室に向かうアシリアの足取りが軽くなった。

(ただの家出だけだったら、絶対に怒られてたと思うのよね。そんなの覚悟の上だったけど)

 家に戻れば怒られることはあらかじめ予想していた。

 覚悟があったぶん、領民のための事業の話や、奴隷貿易事件の解決が仮に無かったとしても、春祝祭を楽しめたアシリアは満足であった。

 だが、説教がないに越したことはない。

「そういえば思ったんだけど、偉大なる今日の功績の成果は、オーウェンのおかげなんだね。ありがとう」

 アシリアはオーウェン方を見て、ニッコリと笑った。

 アシリアの家出を見逃し、護衛の保険として呼び寄せていた二人の護衛者がいなかったら、これほど順調に物事は進まなかったと思う。

 心からオーウェンに感謝を伝えると、彼は面食らったような顔をした。

「きゅ、急になんですか」

「んー、オーウェンがわたしの家出に気づかなかったら、今日起きたことは無かったなぁと思ってさ」

「私は、アシリア様の護衛をしていただけです。ただ、それだけです」

「でも、わたしはオーウェンのおかげだと思うから。本当にありがとうね」

「……もう、好きにしてください」

「うん」

 ニコニコと笑ってお礼を何度も言うと、照れくさいのかオーウェンは目を背けた。

 そんなオーウェンにまた笑っていると、アシリアたちは、いつの間にか執務室に着いていた。

 

 

トントン

「オーウェンです。アシリア様をお連れしました」

「遅くなりました」

「来たか。入れ」

 部屋の中から父の声が聞こえたので、アシリアとオーウェンは入室した。

「お父様。心配をおかけして、すみませんでした。だいぶ気分が良くなりました」

 父は自分を心配していた、とオーウェンに言われていたので、アシリアは安心させようと笑った。

「気分は大丈夫なのか? 本当に心配したのだぞ」

「えぇ、もう大丈夫です。あと、家出したことですが、後悔はありませんから、お父様」

「こちらは心配していたと言うのに……はぁ」

 家出したことに後悔はないとニヤリと笑っていうと、ルシウスは息をついてから苦笑していた。

「そういえば、塩の事業のことは、ウィルターナの方からも昼頃聞いた。よく思いついたな」

 昼頃に話を聞いたということは、ジュジラーはアシリアと別れてすぐに父に話をしてようだ。

「娘がどこにいる分からなくて心配している中、おまえの筆跡があったから驚いたぞ」

「でも、安心してサイン出来たでしょうお父様」

「ああ」

 ウィルターナ商会の現(トップ)とジュジラーが、執務室にいきなり来て、紙を見せてきた時の様子を父は楽しそうに語っる。

「物価の上昇は私も悩まされていた。特に、塩は領民の必需品だ。この事業を成功させれば、物価も安定し産業になる。これで一つ問題が解決しそうだ」

「それは良かったです。しかし、本当に偶然の産物でしたね。家出していたわたしが異国の塩づくりを知っていたこと、ジュジラーがその場にいたこと。こんなに話が進むなんてわたしも驚いています」

「ウィルターナ商会はやり手だからな。おまえは、ジュジラーを見てどう思った?」

 父に言われアシリアは昼に会ったジュジラーを脳裏に浮かべる。

「ンー、やり手な方だとは思いました。商人として優秀そうでしたね」

「そうか。土地の利用で私が簡単にサインしてたから、おまえの正体に戸惑っていてな。面白かったぞ」

 アシリアが意味深な言葉を残していき、半信半疑でジュジラーは紙を領主に提出したのだろう。

 通りにくい案件であったにも関わらず、了承の返事があっさりと返ってきて、驚愕の表情を浮かべるジュジラーの顔がアシリアでも想像できた。

「ジュジラー様のことはまず置いといて。お父様にお願いなのですが、塩作りの事業は、わたしが取り仕切ってもよいですか?」

「ほぉ? どうしてだ?」

「今まで薬草のことにしか興味が湧かなかったのですが、塩にも興味ができたので。それに異国の本をわたしは難なく読めますから、効率がよいと思います」

 五言語の翻訳を出来るのは、ギルバート領でもアシリアくらいだと思う。

 王都に行けば、もしかしたらいるかもしれないが、それでも和葉少ないはずだ。

 それにルラ語とは違い、ジパン語を話すだけではなく字を読めるのは稀な存在であった。

「確かにそうだな。よし、許そう。しかし、ミカエルもこの件には関わらせるぞ。領政に詳しいし、役に立つだろう」

「まあ、ミカエルお兄様が? 心強いです。ありがとうございます」

 いずれ父の後継者として名を轟かせるであろう兄が、事業に協力してくれるのは百人力だった。

 これからのことに一人胸を馳せていると、父にソファーに座るように促され、アシリアは腰をかけた。

 オーウェンも近くに呼ばれ、アシリアの後ろに控えた。

「それで、ここからが本題なのだが…………此度の奴隷貿易に関して、アシリアおまえは関わりがなかった。そういうことにするつもりだ」

 塩づくりの話とは一転して、父の顔が真剣になったのをアシリアは敏感に感じ取った。

 しかし、関わりもないも、今回の事件は、盗賊にある貴族の屋敷を襲われ、救出するために警邏隊が入り、奴隷貿易の現場を偶然抑えたという流れだったはずだ。

 どうして、改めてそう言われるのか、アシリアは疑問に思った。

「別に構いません。褒章があるのなら彼らに。オーウェンたちは頑張ってくれましたから」

 淡々とアシリアは答えるが、オーウェンは不服そうに唸った。

「オーウェン、おまえが不服なのは分かるが、アシリアをこの事に関わらせてたくない」

 しかし、父は譲る気はないようだった。別に褒章が欲しい訳ではないが、どうしてそこまで父が固執するのか、アシリアは首を傾げた。

「私だって、アシリアの功績を無にするようなことはしたくない。だが助けた吸血鬼の少年が、少々厄介な身分にあって……」

 そう言って、父は眉間に皺を寄せた。

 ここまで父が嫌そうな顔をするということは、相当な事態のようだ。

「何かあったのですか?」

「──ルイ・フルア・サクシード。この名を聞いたことがあるだろう?」

父に言われた名は、聞いたことがある名だった。

 思い出そうと頭をめぐらせていると、一人だけ思い当たる人物がいた。

「…………ヴァシリアン帝国の宰相でしょうか?」

 アシリアがまだ小さかった頃、父の執務室で何度もその名前を見たことがあった。

 それに父がいつも、「若僧っ! 若僧っ!」と叫んでいたような気がした。

 まだ何か思い出があったよな? と悶々と考えていると、父から答えが返ってきた。

「そうだ。あのヴァシリアン帝国の宰相の若僧だ。そして、助けた吸血鬼だが、あれは若僧の()だ」

「…………は?」

 アシリアの頭に、ものすごい衝撃が走った。

 

 

 

※名前だけは出てきたヒーロー……やっとだ(笑)

投稿が出来なくて、時間を置いていました!

反映も遅いので様子見を…………

明日もチャレンジしてみます!

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