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16、誠意と決意


「吸血鬼? 貴方は吸血鬼のことを知っているのですかっ?!」

 アシリアは少年を吸血鬼だと言った男に必死な目を向けた。

 人間なら今ここで死んでしまうかもしれない命だが、吸血鬼は違う。

 傷に対しての再生能力が他の種族より群を抜いて高く、そんな彼らなら救えるかもしれない。

 何かしら手があるのなら、この弱っている命を救いたいと思った。

「あぁ、知っているぞ。俺の村は、吸血鬼と仲良しだからな」

 吸血鬼について知っているのは、非常に珍しいことだ。

 詳しく話を聞いてみたところ、もともと住んでいた男の村が、吸血鬼の国であるヴァシリアン帝国に近かったそうだ。

 それで、吸血鬼に関する話が代々伝わっていて、知識があるのだとか。

──運命の巡り合わせだ

 一筋の光が見えて、アシリアは喜んだ。

 またその運の良さに、助けたいという想いも強くなって、少年を抱く腕に力がこもった。

「脈を診て、この少年はいま限りなく弱ってると思います。どのような状態なのでしょうか?」

 アシリアには薬草の知識があり、人の体の状態からどのくらいの症状なのか見極める力はあるが、吸血鬼に関しては専門外である。

 自分の好きなものばかり勉強するのではなく、吸血鬼に関しても人間同様知識を深めておけば良かったと思った。

「わたしは吸血鬼に関して存じ上げておりません。どうか貴方の知識を貸して頂けないでしょうか?」

 自分に知識がないことを、これほど後悔したことはなかった。

 男を助けたのはアシリアだが、今は、アシリアが男に助けを求めていた。

「ああ、もちろんだ。少年にはまだ息があるんだろう? なら、救える」

「よか、った……」

 暖かな感情が身体中に流れていく。

 安心してもよい、と男が笑ったのをみて、アシリアの目から涙が流れた。

 仮面の下でアシリアは誰にも気付かれないように泣いていた。

 それは安堵の涙だった。

「じゃあ、説明するぞ。この少年は吸血鬼だ。俺が最初に少年をみた時は、もっと髪の毛が銀色に輝いてたからな。間違いないだろう」

「?」

 男は少年の髪を指して言ったが、アシリアには男の言っている言葉の意味が分からなかった。

「あぁ、普通は分からないよなぁ。吸血鬼の力はな、髪の毛や瞳の色に出るんだ。力が強ければ強いほど、髪の銀の色が強くなって白銀になる。瞳も同じで、真っ赤になっていって血みたいな色になるんだ」

「そ、そうなのですか」

 そんな話は初耳だった。

「本とかには書かれてないからな。まぁそれで、俺が捕まった頃は、この少年はもっと銀色の髪で、強い個体なんだなって俺は思ったんだ。でもよ……」

 男は少年の腕のシャツを捲った。

 しみひとつない真っ白な少年の肌は、土や血で汚れていなかったら、綺麗な肌なのにと思ってアシリアはみていた。

 だが、

「っ?!」

「やっぱりな。ったく、ひでぇ」

 男は「治癒できないくらいにやるなんてな」と呟いて、少年のシャツを下ろした。

 男がシャツを戻している間、アシリアは言葉を失っていた。

(やっぱり、吸血鬼を襲っていたのは…………)

 少年の腕は無傷なんかではなかった。

 前腕のあたりから青黒い痣が目立ってきていたが、それよりもアシリアを驚かせたのは、何度も針のようなものを刺された痕だった。

(攫ったやつの目的は、血だ…………)

 本を読んでいても分かっていたが、吸血鬼の血は薬になる。

 貴族でさえ欲しがる代物だとアシリアだって思った。

「奴らの目的は血だ。知っているか? 力の強い吸血鬼ほど血の効力は高くなるんだ。こんな少年でも、効力は強いからな」

「しかし、薬になるからといって、襲っていいわけじゃないです。実際に被害に遭っている吸血鬼をみれば、薬にしてなんかいいものじゃない」

 吸血鬼の血は人間の病や怪我を治す万能薬であるが、それは人間だけの視点でだ。

 吸血鬼からすれば、命を削っているようなものだった。

「ああ、同感だ。こんな痛めつけてまでやっていいことじゃない」

 悲しそうにつぶやき、男は少年の体に食い込むほどまで強く結ばれていた銀の鎖を取ろうした。

 だが、力が入らないのか、鎖を解くことができないようだった。

「銀はな、吸血鬼の力を弱める。これが取れれば、再生能力も上がるのだが……」

「あなたは消耗しています。わたしが鎖を取ります」

 男の代わりにアシリアが少年の体から鎖を解く。

 怪我に触らないように解くと、少年の顔が苦痛から少し解放されたような気がした。

「だいぶ楽になったようだが、まだ瀕死の状態だがな。仕方ない俺の血を……」

「な、何をっ!?」

 男はアシリアが持って来ていた剣で自身の腕を軽くだが切ろうとしていた。

 自分の血を少年に与えようとしているのだが、それは危険な行為だった。

「あなたは消耗しているのです!! それ以上血を失うのは危険です!!」

「わかってる。でも、俺がやらないと、こいつは死ぬんだ!! こいつには自分の牙でのむ力さえできねぇ!」

 男の行為を止めようとするが、男は少年に血を与えようと力を弱めなかった。

「この中で一番元気なのはわたしです!! わたしが血を与えます」

 アシリアは驚く男の手から剣を奪い、自身の腕に軽く切れ込みを入れた。

 真っ赤な血が流れ、アシリアの腕を伝っていく。

「血を与えれば、この子は助かるのですね?」

「そ、そうだが……」

 アシリアは少年の頭を持ち上げ、自分に寄りかかるように抱え直す。

 そして、切れ込みを入れたところを少年の口を押し開けるようにして当てたれば、吸血鬼特有の長い牙が見えた。

 グッと腕に力を入れれば、アシリアの血が、ポタリ、ポタリと少年の喉に流れていった。

「き、君は躊躇わないんだな。吸血鬼に血を与えることは誰だって最初躊躇うのに……」

 アシリアの行動の早さに、男はびっくりしていた。

 こんな場面じゃなければ、アシリアだって躊躇(ちゅうちょ)していただろうが、状況が状況なだけに躊躇ってなどいられなかった。

「んっ……」

「?」

 血を与え続けてから間も無く、今まで動かなかった少年の腕がピクリと動いた。

 意識が回復したのかもしれない見ていると、先が黒かった髪も少しずつ銀色を取り戻し始めていた。

 

……グサッ

 

「ッ?!」

 アシリアは腕に走ったいきなりの痛みにビクッとした。

 血を与えてから少年の顔から苦痛が消え始め、体に残る暴力の痣が消え始めて来たと思った。

 この調子なら、足りるだろうかと腕を離したとき、無意識に動いた少年の腕に手を掴まれ、そして自身の腕に牙が埋まった。

「っ?!」

 少年は目を瞑っているが、アシリアの血を確実に吸っていっていた。

 事実アシリアは、体から力が抜けるのを感じて、どうすれば良いのかわからなくて男の方を見た。

「どうした? おっかない顔し……ヤバい! な、なんとかして手を抜けッ!! 命が危険に晒されたせいで、本能的に吸ってるんだっ!」

 男が焦って少年の頭をアシリアの腕から外そうとしていた。

 しかしアシリアの腕を掴む少年の力は強く離れない。

「このままじゃ君が倒れるっ! 牙を手から外せ」

 噛まれてびっくりしていたが、牙を抜かないと非常にまずいらしい。

 まだ衰弱しているであろう少年には悪いと思ったが、アシリアは少年の首に手刀落とした。

 意識を奪う方法で、吸血鬼に効くかはわらかなかったが、手刀を落とされた瞬間、血を吸うことを辞めた少年の体から力が抜けた。

「ふぅ。お腹を空いている吸血鬼は、見境なく血を吸うから気をつけないといけないんだった。大丈夫か?」

「う、うん」

 大丈夫だとは言っものの、体が怠くなるほど血を吸われていた。

 目眩も感じてき始めた頃、誰かが近寄ってくる音がした。

「……リア様っ!! アシリア様っ!!」

 オーウェンの声だった。

 周りにいた人たちに緊張が走るが、アシリアは仲間だと告げるとホッと息をついていた。

「アシリア様っ!! ご無事ですかっ?」

 オーウェンはアシリアを見つけると、真っ先に駆けつけてきた。

 そして、アシリアの腕にある噛み痕を見て、顔を青くした。

「お、お体に傷がありますっ! 誰に」

「これは、誰かにやられたとかじゃないから。それよりもオーウェン話を聞いて」

 アシリアは自分の身体に寄りかかる少年が吸血鬼であり、まだ血が足りない状況にいることを告げた。

「……そして、ここで問題なのですが、この吸血鬼の少年を、警邏隊に引き渡すことは外交上よくありません」

 アシリアは倒れないように体に力を入れて、オーウェンに伝えた。

ブルート()の協定が崩れてしまうことは、あってはいけない……)

 力の強い個体である吸血鬼を、血目的で誘拐していていたと公的に知られれば、協定が危うくなることが考えられた。

 アシリア自身、これは隠していい問題じゃないと思うが、そんな私情を挟んで国同士戦争が起きる方が怖かった。

「オーウェン。この少年を屋敷に連れて行きましょう。お父様が後はなんとかしてくれると思います。これ以上問題が大きくならないようにしないといけません」

「承知しました」

 オーウェンもアシリアの考えを悟り、頷いてくれた。

(頭が痛い……でも、これだけは話さないと)

 アシリアはこれからの事を話そうと、捕まっていた人々の方を見上げた。

「皆さん。あと少しすれば、警邏隊の人たちが来ます。警邏隊に状況の方は説明しているので、安心して保護されて下さい。皆さんの身を守ることに

ギルバート家(、、、、、、)もまた協力を惜しみません」

 獣人の人たちにも分かるように、アシリアはルラ語でも同じことを話した。

「ギルバート……? えっ??」

 ギルバート(、、、、、)という名を聞いて、人々の顔に戸惑いの色が浮かんだ。

 オーウェンたちもアシリアの発言に驚きの色を浮かべて、止めようとするが手で制した。

「『ギルバート……あの、失礼ですがギルバート公爵家のことですか? 貴方様はギルバート家に属する人間なのですかっ?!』」

 ギルバート公爵家と言ったら、ルーツィブルト王国では有名な家だ。さらに、他の国でも一目置かれる存在でもあった。

 それを知って、畏まって頭を下げようとする人をアシリアは止めた。

「そんなふうに頭を下げないで下さい」

 そんなことをして頂くために、ギルバートの名を出したのではないと、アシリアは必死に言い聞かせた。

「ただ、このことは、秘密にしておいて下さい。状況がややこしくなるので」

 こればかりは釘を刺しておく。ばれるとお父様が忙しくなって過労死してしまう。

「もちろんです。しかし、何故このような重要なことを教えてくれるのですか?」

 助けてくれた人がギルバート家に列なる人など、話さなければ分からなかった事である。

 それをなぜ話してくれたのか、人々の顔に疑問が浮かんでいた。

「それは、わたしは皆さんには知っていて欲しかったからです。この国の警邏隊の地位は低く、高位の貴族に手出しは出来ません。皆さんを守ろうとしても出来ないかもしれません。それで不安を感じてしまうかもそれませんが、ギルバート家は皆さんの味方です。絶対に守ります。だから安心していて下さい」

「ありがとうございます。貴方様の誠意、確かに受け取りました」

 アシリアの強い言葉に、人々は感謝を伝えてくれた。

「さあ、オーウェン行きましょう。警邏隊の皆さんが来る前に退散しないと」

「アシリア様っ?!」

 警邏隊が来る前に脱出しなければ、計画が崩壊してしまう。

 アシリアは少年を抱えて立とうとしたが、立ちくらみで倒れそうになった。

 しかし、オーウェンがなんとか支えてくれたので、倒れることはなかった。

「結局、貴方は倒れるのですね……」

 オーウェンから呆れた声が聞こえ、負けじとアシリアも言い返す。

「別に食べ過ぎではないですよ?」

 そう言うと、オーウェンは苦笑した。

「そのようですね。しかし、約束は守らなくては」

「オ、オーウェンっ?!」

 自身の体がオーウェンに抱えられたことによって浮き、アシリアは咄嗟のことにびっくりした。

 膝の裏と背中に腕を回され、恥ずかしくて抵抗するが、オーウェンは気にせず部下の二人に命令を下していた。

「お前たちは、この少年を運んで来て下さい。では戻りますよ」

「承知しました」

「じゃあ、俺余りみたいなので先行って、安全を確保してきます」

「ああ、気をつけて行け」

 

 

 そうして、アシリアたち四人は、速やかに屋敷を脱出した。

 遠くで警邏隊が突入している音が聞こえ、アシリアはホッと息をついた。

「アシリア様?」

 ぐったりしているアシリアを心配したのか、オーウェンが顔を除いてきた。

「すみません、疲れたので寝ますね。本当にありがとうございました、オーウェン」

 全てが終わって安心したせいか、疲労がどっとアシリアを襲った。

 ここで意識が消えても大丈夫だと知っているので、アシリアはオーウェンの腕の中で眠りについた。

 

 

 

 

※改めて、ブグマ等ありがとうございます!!

これから、もっと恋愛要素を取り入れると思います

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