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14、救出作戦 其の二

 

 変なことをブツブツと呟いていた二人の護衛者は、オーウェンが百回くらい頭を叩いた辺りから、気を取り戻したようだった。

 まだボーッとしているが、まずよしとしよう。

「すみません、アシリア様。取り乱してしまいました」

「構いませんオーウェン。しかし、何の話を??」

「アシリア様には関係ありません。私たち護衛者の沽券にかかわることなので……」

「ふーん」

 アシリアを除いた三人の奇妙な会話が終わったので、試しに内容を聞いたがオーウェンは答えてくれなかった。

「さてと、警邏隊の連中に来てもらった方が事態の収拾が早くつきそうなので、連絡はしておきましょう。すまんが、鳩の準備を。おいっ」

 オーウェンに言われ、ハッとした若手の護衛者が懐から伝書鳩を取り出した。

 伝書鳩は鳩の帰巣(きそう)本能を利用したもので、遠隔地に情報を伝える便利な方法だと思うが、送る先に不安を感じた。

「ねえオーウェン。警邏隊なんて呼んでも役に立たないのでは?」

「そうなのですが、明らかに奴隷貿易に手を出したとなれば、話は別です。貴族とはいえ、その領地の規則には従って貰わなくてはなりませんから」

 無断で屋敷に入ることができない警邏隊であるが、なにか異常があれば突入はできる。

 例えば、盗賊の襲来で兵が倒され、門は開きっぱなしで、屋敷の住人を救出するためにやむおえず…………などそうだ。

 そして、なぜか奴隷貿易をしていた現場に居合わせ、屋敷の住人を拘束したとなれば合法である。

 文句は言えまい、というのがオーウェンの考えた策だった。

「警邏隊の知人に連絡がつけておきます。私達は警邏隊がここに着く前に、門の扉を開けて敵兵を縛っておけば、警邏隊に奴隷のことも露見して、解決のはずです」

 オーウェンは状況と指示の内容を書いた紙切れを伝書鳩に括り付けると、空に向かって飛ばした。

 知り合いの警邏隊に伝書鳩を送ったそうなので、そのうち警邏隊も来るだろう。

 つまり、これから問題となるのは、これからどうやって奴隷達を救出して、さらに敵を倒すのかということだった。

「それで、どうやって入りますか? わたしが中から門でも開けて来ますか?」

 話を聞いていて、まずやることと言ったら、あの門を突破することだろう。

 高いとはいえ、アシリアにも越えられそうな高さの塀であるので、腕まくりして行こうとしたら、オーウェンが物凄い力で肩を掴んだ。

「何ご自分で行こうとしているのですか? 中から開ける役はわたしがやります」

 不満な目で見つめるアシリアを無視して、オーウェンは誰にも気付かれず門に近づいて行き、颯爽と塀を乗り越えて見えなくなった。

「はぁ、オーウェンが門開けに行くのなら、わたしは武器確保ね」

 それなら、武器確保 兼 敵討伐に行くかと片方の手も腕枕したら、次は二人の若手護衛者に肩を掴まれた。

「それは、俺たち護衛者がやることです」

「アシリア様はここで待っていて下さい」

 自身の手には生憎と長剣がないので、武器確保にそこら辺の敵の兵を襲って行こう! と思ったのに、アシリアはお留守番決定だった。

 二人の護衛者が腰から護身用の短剣を取り出し、武器調達と周り兵がいないのか巡回に行く。

 その背中を見ながら、アシリアは心の中で悪態をつきまくった。

(どうしてわたしばかり止められるのよーッ!! 少しはわたしに敵とか寄越しなさいよ!!)

 誰もいなくなった物陰で文句言っていたら、一人の敵兵が見えて、アシリアは口の端をあげた。

 敵兵は限りなく戦闘不能にしておかないと警邏隊も異常とは見ないだろう。

(オーウェンは扉を開けるのに時間がかかるでしょうし、一人くらいわたしが戦闘不能にしても問題ないわよね)

 短剣がないと言っても、戦闘不能にできないわけではない。

 敵兵に気付かれないように、背後から近付いたアシリアは、男の頭に思いっきり回し蹴りをぶち込んだ。

 手加減はしたつもりなので、首から変な音はしたが死んではないだろう。

「うん、死んではない。気絶しただけね」

 脈を確認してから、男の腰からベルトを取り、それで手と足の自由を奪い、一応口に布を噛ませておく。

 そして、敵の腰にさしてあった長剣を手にして、元いた場所に戻った。

「……あら、戻っていたの? オーウェン」

「門の近くにいた兵は少なかっ…………何やってんるんですかっ!? アシリア様」

 中から門を開け終わったオーウェンがいたので、声をかけるととても絶句された。

 オーウェンは二本の長剣を入手したようで、一本を渡そうとしていたようだが、アシリアの手には既に物があった。

「何って、あの若手の護衛者からお零れを貰ったので、回し蹴りをして武器を拝借したところよ」

「彼奴らは何をしているんんですかね。大体アシリア様も、無理はしないとっ」

「遅くなりました〜! 周りの敵は殆ど沈めてきましたよ」

「ギルバート領ほどの大きさじゃないし、単純な屋敷ですから楽々です」

 一周してきたのか二人の護衛者が走ってきた。

 穏便にかつ早さも申し分なかったのだが、オーウェンは切れ気味だった。

「…………」

「これ、アシリア様の……あれなんで持ってるんですか?」

「オーウェンさんが持ってきたんですね。なら要りませんでしたね」

 一本の長剣を渡そうした護衛者たちは、アハハハーと笑っていたが、オーウェンの顔を確認して青褪めた。

「アシリア様が自分で調達したんです。敵を逃しましたね。あとで鍛え直します」

「ヒィィーーッ?! えっ、アシリア様ご自分で調達したんですかっ?!」

「うん」

「なーーーーっ?!」

「そんな……あぁ怖いよ特訓」

 オーウェンに鍛え直して貰えるなんて光栄じゃないかと思って見ていたが、二人の護衛者はガックリと首を落としていた。

 確かに指導は厳しそうだからなぁ、と哀れみそうになるが、是非強くなるためにも頑張って欲しいという視線を送っておいた。

「お仕置きはさておき、門は開きましたし、行きますか」

「はーい、オーウェン」

「はい、オーウェンさん……」

「僕も頑張ります……」

 しょんぼりしているが、二人の護衛者としての実力は本物なので、オーウェンの言葉に負けず、頑張って欲しいと他人事のようにアシリアは思った。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「…………なんか拍子抜けしますね」

 若手の護衛者の一人がつまらなそうに呟いた。

 屋敷の中に入ったら、戦闘が始まると思ったのだが、敵と遭遇せずに馬鹿みたいに広い廊下を四人は歩いていた。

 それが一番なのだが、アシリアも同感で、先ほどまで沸々と湧いていた怒りが収まってきていた。

「既に逃げたとか?」

 ここまで静かなら、敵が逃げてしまったという可能性も出てきて不安になった。

 それなら、奴隷の方たちはどうなったのだろうか。

(彼らを救えなかったの……?)

 悔しくて唇を無意識に噛んでいたとき、オーウェンたち護衛者の間に緊張が走った。

「なんだ〜〜、敵さんは四人しかいないじゃーん」

 前から声が聞こえ、目線を向けるとザッと二十人くらいの男たちがいた。男たちは、長剣や槍を手にしている。

「ちっ、四人しかいねぇのかよ。余裕だぜ。奴隷連れて逃げるか悩んだけど、四人ならつまんねぇ」

 背後からも声が聞こえてきたので、確認すると前よりも多く、三十人の男がいた。

「罠にはめられていたということかしら」

「そのようです」

「これからどうしますか? オーウェン」

 オーウェンは前と後ろの状況を見る。

そして下した判断は、

「……前を突破します。一人だけ厄介そうな人はいますが、私たちが道を開きます」

 オーウェンの言葉にアシリアは前を向く。

「行きます」

 オーウェンが動いたのを合図に三人は走り出す。

 若手の護衛者が剣を構えるのと同時にアシリアも剣を構え、繰り出される敵の攻撃を弾き返す。

「はぁあっ!!」

「ぐああああ!!」

「なんだとっ!!」

「こ、こいつらっ! 強いぞっ! 手を抜くなっ!」

 後ろから迫る敵兵よりも先に血路を開こうとするオーウェンと二人の護衛者。

「くそっ……! まずは固まれっ!!」

 アシリアも鋭い攻撃を打ち込み、なんとか前の敵の壁に穴が開いた。

 敵も舐めていた態度から一変して、隊列をくみかえている。

 その時間は敵によって隙で、アシリアたちにとって好機だった。

「敵が組み直しているうちは、一先ず安心です。さあ、アシリア様、行ってください」

「えっ」

 これから敵を倒す気でいたアシリアは、オーウェンの行動に動きを止めた。

 オーウェンはアシリアの体を前に向かせ、敵との間に自身の体を挟んだ。

 そして、それに従うように他の二人もオーウェンの前に立った。

「あなた様は、先に行ってください。まだ敵兵はいるでしょうが、ここにいる兵が殆どのはずです」

「それなら、わたしもっ!」

「アシリア様、そんなこと言ってる暇はありません。あなた様の剣は複数には向きません。ここにいられると私たちが大変なのです」

「でもっ」

「自身の剣の弱点は、アシリア様が一番知っているでしょう」

「それは……」

 役立たずだと言われているようで、アシリアは悲しくなった。

 しかし、オーウェンの言う通り自分の剣の弱点をを、誰よりも理解しているのはアシリア自身だった。

 彼らの邪魔にならないように動くのが一番だった。

「わかりました。オーウェンに従います。必ず無傷でいてください」

「もちろんです」

 オーウェンが微笑んだのを仮面越しに分かって、アシリアは躊躇わず前の廊下の道を走った。

(今のわたしに出来るのは、一刻も早く奴隷の皆さんを救出すること)

 オーウェンたちにもう一度無傷なまま会えると信じて、アシリアははしった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 アシリアが背中を向けて走っていたのを見て、オーウェンは目の前で隊列を組み直す敵に視線を向けた。

 二人も前を向くが、顔にはどこが不満の色を滲ませていた。

「オーウェンさん、アシリア様を一人で行かせて大丈夫だったんですか? 先に敵がいれば危なくないですか?」

「僕もそう思いました」

「いや、こちらだけで既に敵は六十はいます。ここに集中しているはずです。アシリア様の方には少ないでしょう」

「しかし、我らの一人がどちらかがついていた方が安全なのでは?」

 オーウェンがハッキリと言うが、二人の護衛者は非難の声を上げ続ける。

「大丈夫だと何度言わせるんですか? アシリア様は強いです。ああ言いましたが、弱点など感じさせませんよ」

「それなら何故、こちらで戦わせないんですか?」

 隊列を組み終わったこちらにジリジリ近寄ってくるの見ながら、オーウェンは小さい声であるが、ハッキリとした口調で言った。

「アシリア様は、人を倒すことよりも、人を救うことの方が似合うんですよ」

「…………」

「…………」

 自分でもそんな理由でアシリア一人を行かせたのを、心のどこがで馬鹿だと思う。

 でも、アシリアほど人のために怒りを感じて、自身のことように嘆く主人には、困っている人を救う姿の方が似合っていた。

「それに、こちらを早くすませば、追いつきますよね? 私と同じ人数倒せなかったらしばきます」

「こ、怖い。オーウェンさんの方が敵の人数分より怖いです。でも、確かにアシリア様には人を救う姿の方が似合いますね」

「同感です。あの天使な顔で救われたら、天使どころじゃないですよね。慈愛の女神様です」

 口の端をニヤリと笑ったオーウェンを見て、敵の猛勢よりも怖いと感じているのか二人の護衛者もブルブルしながら剣を構えた。

 しかしオーウェン同様、その口は笑っていた。

 それを横目で見ながら、オーウェンはアシリアの背中が遠くにあるのを確認して、目線をまた前の敵に戻した。

 

 


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