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12、春祝祭に似合わない物騒な影

(さてと、ジュジラーに準備物の方は頼んだから、あとは連絡とか交換すればいいか。ジュジラーがわたしの本当の姿を見たら、きっと驚くだろうなぁ)

 ジュジラーに準備の方は頼んできたので、今日することは特にない。

 あとやることといったら、思いっきり遊ぶことだろう。

 なので、大衆食堂を出たアシリアとオーウェンは港の方に向かっていた。

 目当ては勿論、魚介類の屋台である。

「さあ、オーウェン!! 昼食も食べたことだし、海鮮系の屋台に行くよ!!」

「えっ、やっぱり、まだ食べるんですか? 塩作りの話にあんなにも精を出しておきながら、食べ物の方が大事なんて……。みんなが転けるわけですよ」

「転けたのって、そんなことが理由だったの? ふーん、でもさ、春祝祭は今日だけだよ? 食べないと損でしょ。今できることを楽しまなくちゃ」

「…………」

 楽観的なアシリアとは反対に、オーウェンは頭を抱えた。

 それもそのはずだろう。

 オーウェンは、アシリアが面倒な事に巻き込まれるのを避けるために追随したのに、結果巻き込まれてしまったのだから。

 それに、領地を救うと言われれば、文句も言えない事態である。

「大体、旦那様の許可なしに浜辺の場所なんて使って良かったんでしょうか。言ってからの方が良かったのでは?」

「あー、あれは本当に気にしなくていいよ。あそこの浜辺は、わたし専用《、、、、、》って言ってもいいところだから」

「せ、専用ですか?」

「うん。わたしが顔隠さなくても遊べるようにって、お父様が用意した浜辺なの。わたしが使わないなら土地の無駄でしょ?」

「なるほどです」

 オーウェンが微妙な顔で納得したのを横目で確認して、残り少ない時間を楽しもうとアシリアは気持ちを切り替えた。

「ふっふふ〜ん、ふ〜、ん?」

 港への道を下っている途中、気になるお店があったのでアシリアは足を止めた。

 アシリアが足を止めたのは、宝石や貝殻扱っている昔風なお店だった。

「へぇ、なかなかいいね。海鮮食べる前に見てってもいいオーウェン?」

「分かりました。どうぞ、好きなだけご覧になって下さい」

 オーウェンにも許可を取ったので、アシリアはお店の前に立ち、中を確認する。

 お店の中には、質が良い宝飾が沢山あった。

 宝飾などには興味はなかったアシリアだが、一つ一つの精緻な細工に目が輝いた。

「想像以上っ!!」

「ふーん、アシリア様が宝飾店ですか? 食べ物好きにしては珍しいですね」

「失礼ね。こんな格好しているけど、わたしだって女よ」

「ああ、そういえばそうでしたね」

 失礼なことばかりサラリと言うオーウェンの足を、無言でアシリアは踏みつけてやる。

 ショートブーツとはいえ、踵が多少あるので痛いだろう。

 痛みに顔を歪ませてたオーウェンを、天罰だ! と笑いながら、アシリアは店の中に入った。

「ん? オーウェンはなかにはいらないの?」

「私は興味がございませんので」

 お店の中に足を踏み入れたアシリアだが、オーウェンは店の外で待っているようだ。

 つれないなと思ったが、あれこれ言うのも面倒だったので、アシリアだけで宝飾を見ることにした。

「っ?! うわぁ綺麗ッ!! この耳飾りとかわたし好みだ!」

 いい雰囲気の店だなぁ、と思いながら見回っていると、奥の台の上に置いてある耳飾りに目がいった。

 小ぶりのサファイヤがあしらわれた耳飾りで、金具と装飾自体はシンプルなものだが、それが返って青の石の素晴らしさを際立てていた。

「値段も買える範囲だ。それに、こっちの耳飾りも……」

 気に入った耳飾りの横には、金具の部分のデザインが微妙にちがうが、同様に緑の石があしらわれたものも置かれていた。

 緑の石は、オーウェンの瞳の色と同じ深い緑色で、彼に似合いそうだなと思った。

(んー、この緑もなかなかいい形で惜しいな。あぁ、そうだ。オーウェンに今日のお礼として渡そう)

 自身の逃亡を許しくれた上に、護衛として付いてきてくれたオーウェンへの礼にしようと思った。

 この国では、男性が耳飾りをつけることは珍しいことではない。

 じゃらじゃらしたような目立つ宝飾は流石につけないが、シンプルなものはつけているのをよく目にする。

 それにオーウェンが昔、銀細工のリングんを耳につけていたので、首飾りとかよりも、シンプルな耳飾りなら無難だと思った。

「すみませーん、この二つ下さい」

 宝飾関係を買う予定はなかったが、お金は十分にあった。

 どれくらい必要になるのか検討がつかなかったので、纏まってお金を持ってきたのが功を成した。

 さらに、宝石も馬鹿みたいに大きくなかったので、お金は十分に間に合い、まだ海鮮を食べられるのでホッと息をついた。

「オーウェン、終わったよ!」

「早いですね。なんかいいものでもありましたか?」

「ええ、いい買い物が出来ました!」

 外で待っていたオーウェンに声をかけると、ニコニコしたアシリアの顔を見て微笑んだが、次の瞬間手にあるもの見て顔をひきつらせた。

 オーウェンの目の先、つまりアシリアの掌の上には、青の耳飾りとは対のようにみえる緑の耳飾りがあった。

「あの、どうして二つなのですか?」

「青はわたしで、緑がオーウェンの。昔耳飾りとかつけてたのよね。今でもたまにつけてるし」

「そ、そうですか。そんな似てるもの……」

「いいからさ」

 緑の宝石がついたイヤリングを渡そうとすると、オーウェンは恐縮して受け取ろうとしない。

 いきなり、宝飾を渡されたら誰でも驚愕するよね、と思いつつもアシリアは諦めるつもりはない。

 なんたって、この耳飾りはオーウェンに似合いそうなのだ。是非とも付けている姿を見たい。

 反対に青の耳飾りは、不細工な自分ですみませんだが、なによりも大切にするので許して欲しい。

「遠慮しないで貰って。これは今日のお礼だから」

「いや、でも……」

 渡そうとしても、オーウェンは頑なに受け取ろうとしない。

 なのでアシリアも、強行手段に出ることにした。

「甘いねオーウェン!!」

「ちょ、待ってください」

 オーウェンの制止を無視して、アシリアは彼の耳を掴んで緑の耳飾りをつけてやる。

 オーウェンの両耳につけることが成功して、どんな感じなのか見上げてみると、案の定とても似合っていた。

 光を浴びて、深緑や浅緑と変わる石の色合いが綺麗だった。

「うん、やっぱり! 羨ましいくらい、似合うね!」

「お、お金を払うので値段をっ」

「オーウェン、それは今日のお礼だから。それに、これから事業のことでもっと手伝って貰うから、前払いだと思って」

 恐縮するのなら、他にもやって貰うことがあると言って、言いくるめた。

 事業のことを知っているオーウェンがいた方が、円滑に物事が進んでいくだろう。

 アシリアが直接視察とかに行けない分、オーウェンには動いてもらうつもりだ。

「よし、わたしもつけよう」

 まだ不服そうなオーウェンを無視して、アシリアも同様に、自身の耳に青の耳飾りをつける。

 石の部分が少し揺れるが、邪魔になる感じでもないので、我ながらいい買い物をしたと思った。

「…………」

「ん?」

 オーウェンが何か言いたげに見てくる。

 主にアシリアの耳を。

「どうしたの?」

「……いや、とても似ているな、と。まさか同じ型のものとかではないですよね」

「ちゃんと見れば違うよ。微妙にだけど」

「…………ああ、要らぬ誤解が」

「…………なにそれ。変なオーウェン。もう置いてくよ」

 ブツブツと何かいいながら、その場で空を仰ぐオーウェンを無視して、本来の目的地、港の方面にアシリアは足を向けて歩いた。

 

 

「あっ、ホタテだ!!」

 行ってみると、港の方も同様に活気付いていて、沢山の屋台に目が奪われた。

 美味しい匂いがするホタテが三つほど刺してある串を二本買って、アシリアの気分は上がった。

 相変わらずオーウェンの方は、非難の目を向けてくる。

 気になって、そんなに似ているのが嫌だったの? と聞いみると、「そうではありません」とだけ言われた。

 話したくないなら気にしなくていいか、と楽観的に考える。

 それよりも、ホタテの美味しさには、頰が落ちる勢いだった。

「おいひい〜〜っ!!」

「…………そんなに食べて、動けなくなったってしりませんよ」

 オーウェンから小言が飛んでくる。

「そしたら、オーウェンに運んでもらう!!」

「お断りします」

 アシリアの提案は即刻断れた。

 もちろん、オーウェンの反応をアシリアは予想済みであったが。

「それなら宿屋も頼んでおかないとね〜」

 そうニコニコしながら言って、宿屋を探すふりをすればオーウェンは苦々しい顔をした。

 そしてボソッと呟いた。

 とても不本意だ、と主張する声で。

「運びます」

 倒れるつもりはないが、一応運んでくれるそうなので大げさに喜んでおく。

 不細工な女が倒れていたなんて、噂になったら悲しい以外の何でもない。

 その前にオーウェンに回収してもらわなくては。

「さてさて、次の屋台に行く…………なにあれ」

 次の店を品定めしていたら、裏道を通る変な集団を見つけた。

 どこの屋台に行くか、と目を凝らしていなかったら、発見出来なかっただろう。

 腹を空かせて獰猛な目になっていたとかでは断じてないと思う……多分。

 オーウェンに分かるように指を指すと、彼も同様に首を傾げだ。

「わかりませんが、怪しいですね」

 ボロボロの服を身に纏った人々がゾロゾロと歩いている。

 その周りを数人の男が取り囲むように並んでいる。

 しかし、人がいない裏道をコッソリ歩いていて、さらに盛りがっているせいか、誰もその集団に気づいていなかった。

 正体がわからなくて、うーん、と首を捻っていたら、縄のようなものと鎖のようなものが遠目で見えてしまった。

「え? 鎖っ!」

 アシリアはびっくりして、声を出しそうになったが、オーウェンが口を手で塞いで声は漏れなかった。

 穏やかに行われている春祝祭を、危うくぶち壊しにする上に、敵に気付かれて逃げられるところだった。

「オーウェン、ありがとうございます」

「いえ、お構いなく。それよりも、あれは……」

 オーウェンが顔を顰める。

 アシリアの顔にも怒りの色が浮かんだ。

 人を鎖で繋ぐことが意味することなど、一つだった。

「あれは、奴隷でしょうね」

 オーウェンの言葉にアシリアも頭を縦に振る。

(この領で、よくもそんなことをっ)

 ギルバート領では奴隷貿易を禁止している。

 有名な話であるので、それを分かってやっているのだろう。理由はどうあれ、奴隷売買をしているのは重大な犯罪であった。

「まず、警邏隊を呼びましょう」

 オーウェンは近くに警邏隊がいないか周りを見渡した。しかし、運が悪いことに近くに警邏隊はいなかった。

「オーウェン!! 敵が移動してます! これじゃあ、逃げてしまいます!」

 その間に敵と奴隷たちは、複雑に入れ組んだ路地裏を移動している。

 このまま指をくわえて悪事を見逃すことなど、アシリアには出来なかった。

「わたしは、彼らを追います」

「アシリア様! それは危険です」

 もちろんオーウェンは反対する。

 しかし、アシリアの決意は変わらなかった。

「今、彼らを救わなかったら、手遅れになるかもしれません。別にオーウェンが来ないのなら、わたしだけでも対処してみせます。彼らが逃げている間に、オーウェンは応援でも呼んでいればいいのでは?」

 港への方へ行こうという動きが見えるので、敵はきっと領の外に奴隷を運ぶのだろう。

 船で出てしまったら、それこそ奴隷を救えない。

「アシリア様の身の安全を私は重視しなくてはなりません。私が応援をつれてここに戻っても、アシリア様がいなかったら意味がないのです。アシリア様こそ応援を」

 アシリアの決意が固いと察したオーウェンは、自分一人だけで行こうとするが、それを許すつもりはない。

 敵は何人いるのかわからないのだ。

 今確認しただけで五人はいる。

 オーウェンはアシリアの身を危険を案じて一人で行く気だが、アシリアにとってもオーウェンは大切の存在だった。

「オーウェン、貴方を一人だけで行かせるつもりはありません。わたしも行きます。その方が安全です」

「し、しかしっ」

「わたしは無理をしません。それに、もし敵が来ても、わたしと一対一で勝負して勝てる人間など、この国にはいますか(、、、、)?」

「そ、それは」

 アシリアの問いに、オーウェンは言葉に詰まった。

「オーウェン……」

 アシリアは横目で犯人たちの動きを確認しながら、オーウェンを静かに見上げた。

 オーウェンを見上げるアシリアの瞳は、早く決断しろ(、、、、、、)、と彼に訴えていた。

「…………」

 しかし、アシリアの期待とは反対にオーウェンは口を閉ざした。

 やむおえない。アシリアは自分だけで敵を追うことを決心した。

 それぐらい時間がないのだ。

 犯人たちの方に振り返って一人で追おうしたとき、オーウェンがアシリアの肩を唐突に掴んだ。

「っ?! はなしっ……」

「アシリア様の決意は分かりました。だから、くれぐれも無理はしないで下さい」

 自分を行かせない気だと思ってしまったアシリアは、オーウェンに「離してっ!」と言いそうになった。

 しかし、オーウェンの口から紡がれた言葉に、目を見開き安堵した。

「オーウェンっ! ええ、分かっています。無理はしません」

 オーウェンが自分と一緒に来てくれるのなら、これ以上の強みはない。

 アシリアが犯人を早速追おうとしたとき、またもやオーウェンに肩を掴まれた。

止める気ではないのは分かっているが、何故? と怪訝な顔で見ると、オーウェンは無言で自分の背後にアシリアを移動させた。

「先に私が行きます。アシリア様に前など行かせられませんから」

「そういうことですか…………譲りましょう」

 先頭を行くのを、二人で争う必要はないと思ったので、アシリアは素直にオーウェンに従った。

彼ら(奴隷)を敵から、一刻も早く助けないと)

 オーウェンの背中の向こう側にいる敵たちを、またそれに関わる人間を、絶対に許しはしないと、アシリアは心に誓った。

 

 

※アシリアの言葉に、きっと突っ込みたいところがあると思います。

その話はいずれ別の話でっ!!

また、オーウェンが非難交じりの目でアシリアを見ていたシーンですが、あれは周り視線、主に公爵一家と使用人の目が厳しくなることを非難してます。

周りの人間:「貴様、何お嬢様と同じ耳飾りしているんだ? ああん?」

的な感じです。

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