11、春祝祭の裏側で行われる悪事 (とある悪者視点)
「おらっ!! とっとと歩けやっ!」
「ぐっ」
祭の音がかすかに聞こえてくる薄暗い路地裏に、野蛮な男の声と、何かが殴られる音が響いた。
その音は、春祝祭で賑わっているとはいえ、平和な路地裏で響くには、異質ともいえる音だった。
「早くしろカスっ!」
鎖が当たって響く音や、殴られる音、さらに少年の呻き声は、聞くに耐えないほど苦痛だった。
「ヴッ、ぐっ……」
ドカッドカッと男に殴られる十歳もいかない男の子の体は、ボロボロの外套に包まれていた。
白の上等なシャツは泥や血で汚れ、所々見える白い肌には、青黒い痣が斑点のように散らばっていて、暴力の痕が残っていた。
「おい、やめろよ。そいつはまだ子供なんだぞ。お前には心がねぇのかよ」
殴る音が大きくて心配したのか、野蛮な男の仲間が呆れて注意した。
しかし仲間に注意されても、男が少年を蹴る足の動きは一向に止まらない。
「そんなの知ってる。だが、俺はこのガキみたいな奴が一番嫌いなんだよ。上の奴が生かしておけなんて言わなきゃ即刻ひねり殺してるとこだよ」
「はぁ? なんだよ、それ。ったく、顔だけは避けろよ。そいつ顔はいいからな」
「はいはい」
地面に転がっている少年の背中を男は足で蹴り上げる。
少年が頭に被っていたフードが脱げて、銀髪が地面に広がった。不思議なことに、少年の銀髪は毛先だけが黒色に染まっていた。
「…………ルイ…………助けて」
必死に出したのか、かさついた少年の口から言葉が漏れた。
その声を聞いた男は、鼻でフンっと笑った。
「ああん? 助けてだと? おまえに助けなんて来ねえよ。いい加減諦めたらどうなんだよっ!」
男は少年の髪を乱暴に掴み上げる。
「ヴッ……」
蹴られた痛みがあるせいか、少年は顔を歪める。
歪められた顔を見た男は、口の端を吊り上げ、残酷な笑みを浮かべた。
「ったく、ルイ、ルイ、ルイうるせえんだよ。だいたいこの領地を出たらおまえはどこかに売られるんだ。助けなんて求めたところで無駄な足掻きだよ」
「…………」
無言を貫く少年を一瞥して、男は飽きたとばかりに少年の頭から手を退けた。
そして、やることもないのか、男は仲間のいるもとに戻った。
「なあ、ギルバート領はまだ抜けねぇのかよ?? 祭の中でどさくさに紛れてこいつらを運ぶんだよな?」
「そうだが、ここは奴隷貿易禁止の土地だ。下手に動くとばれる」
路地裏から警邏隊の姿を見て、男は舌打ちをした。
ギルバート領。それは盗人や罪人にとって、生きにくい領で有名であった。
金に靡く役人が一切おらず、悪事にも手を染められないのだ。
「はあ、なんでそんな土地に来たんだよ。面倒くさいだけじゃねえか」
橋は一本しかないし、そもそも、ここに来るために祭りで賑わう領民に紛れて来なければならなかったのだ。
面倒以外に、何にでもなかった。
「そんなの分かってる。だが、うざい追手がいただろ。安全な道の隙間をぬって来たら、この土地に来ちまったんだよ。来なければいいのなら、こんなところ来なかったさ」
「おいおいまじかよ。ここからは船とかで運ぶんだろ? 荷物検査とかされたらどうするんだよ。こいつらバレねぇか?」
ギルバート領の港から出る船には必ずと言ってもいいほど、検査があると聞く。
もし、荷物検査でもされたら奴隷売買をやっていたとばれて、捕らえられるだろう。
「それは、大丈夫だ。貴族の連中の権力でなんとかなる。だが、警邏隊にバレたら危険かもな。ギルバート公爵は奴隷貿易を禁止してる」
この逃亡には、ルーツィブルト王国の貴族中でも上の連中が絡んでいる。それがこの逃亡者たちにとって強みだった。
「じゃあ、早く運ぼうぜ。人は多いから、警邏隊の奴らは気付かねぇよ」
「そうだが、用心はするもんだ」
男たちは十数名の奴隷を立たせると、暗闇に身を潜め移動し始める。
「なあ、運び終わったら、女とか捕まえてきてもいいか? 娼館とかあるんだろ?」
「やめろ、この領地では問題を起こすな。ここには目と鼻が効くシャドーがいる。下手に手を出すと痛い目を見るぞ。それと、娼館とかはない」
「シャドー……か」
『シャドー』は暗殺とか危険な情報の収集とかやってる闇社会の連中のことを指す。
シャドーは貴族が大金を出して雇っていることが多い。
ギルバート領の領主も雇っているとしたら、危険度は大いに増す。
ただでさえつまらない逃避行なのに、娼館とかの娯楽もないので、男は苛立って壁を蹴った。
「ちっ、娯楽もないな」
「ふん、この運びが終わったら、あとは遊べるぞ。それより、警邏隊の奴らがどっかに行った。こいつらを隠して置くための屋敷は貴族から提供されてる。行くぞ」
「はぁ、面倒くせえな」
「そう言うな。ちなみにその屋敷には、護衛者を雇ってある。安心してよいぞ」
「それは、いい。久しぶりに寝れるな」
逃避行中は滅多に寝れなかったので、安眠できるところがあるのは有り難かった。
男は数十人の奴隷が繋がった鎖を引っ張って、屋敷の場所へと向かった。
その時、上機嫌な男は気付かなかったが、不思議な色合いの髪の少年の口から言葉が紡がれていた。
──ルイ、早くきてよ……じゃないと僕死んじゃうよ
と小さい声で…………
※事件の前置きです……ここまで長かった。
報告遅れましたが、読み返して文字と誤字等を直しております。直す前に読んでしまった方々、大変申し訳ありませんでした。
ちなみに、気づいた方もいらっしゃると思いますが、あらすじの内容も変わってたりします……




