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007 首輪

 

 馬車に乗せられて案内されたのは王都の東区の奥まった場所にある屋敷だった。

 案内されたボクを迎えてくれたのは執事のアリエスさんだった。

 優しいおじいさんという感じだが、ぴしっとしており、年齢を感じさせない。


 見られてわたわたとするボクにも気にせず『この子の部屋を用意して欲しい』というカイルに『かしこまりました』と答えて、用意してくれた。


 部屋は高そうな絵画が飾ってあったりしながらも、とてもゆったりできる感じで居心地が良さそうだった。

 執事さんから話を聞くに、ここはカイルが幼少の頃住んでいた屋敷で、今は主に王都勤務のため、向こうに住んでいるらしい。


 いつもいるわけではないが、休みに戻ってくるため、ゆっくりできるように常に部屋を整えているとか。

『良ければ坊ちゃまとは仲良くしてあげてください』だって。


 ここに連れてきたのはボクが初めてらしい。


 なんと、イケメンなのに、カイルは友達が少ないようだ。いや、イケメンだからこそなのかもしれない。

 自分に笑顔を浮かべるカイルを多い浮かべる。

 初めての人間の友達だ。仲良くなるのに問題は一切ない。


「ボク、カイルの親友になるよ!」


「応援しております」


 へへと笑うボクに、目尻を下げ、穏やかに笑った。


 --


「これおいしい!」


「それはよかった」


 カイルもそうだが、屋敷の人たちも歓迎してくれているようだった。

 夕食は数人で作ったとは思えないくらいにたくさんで、贅沢に香辛料が使われたシチュー。


 屋台の味の強いものばかり食べていたボクにとって、体に染み入るような温かい味だった。

 なるほど、カイルは彼らにとても愛されているみたい。


「後で部屋に行くよ。話したいことがあるから」


「うん」


 その頃にはもう、ボクはカイルを信頼しきっていた。

 それこそ、男友達のグレンと同じくらいに。


 人生を生きてきて、誰にも悪いことをされたことなかったから、誰かが自分に対して悪いことをするなんて思えなかった。怖い目にあったばかりなのに、と言われると反論できないが、なにせ、自分を助けてくれたあいてなのだから。



 --



「うっぐ……なん……で?」


 ギチギチと音を立てながら、緑色に光る首輪がボクの首を締める。

 緩めようと、引きちぎろうと、必死に手を伸ばしても、指は首をなぞるだけ。


 出会いの記念に大したものではないけど、アクセサリーを贈りたいと言われて、目を閉じた瞬間だった。


「捕まえた」


「え?」


 その言葉を合図にするように、淡い魔術の光が首に集まり、首輪の形を造り閉め出したのだ。

 えずいて、涙が零れそうな中、助けを求めてカイルを見ると、そこにいたのは今まで見せていた優しい、人好きのする笑顔は消え、どこか獲物をなぶるような冷たい笑顔を浮かべる男がいた。


 全く別人みたいだ。


「【俺を害することを禁じる】」


 言葉が、光り輝く文字に変わって、ボクの体に吸い込まれる。

 文字が全部消えた途端に首を締め付ける力は消えた。


「お前は、俺のものだ。ドラゴン」


「なんで!?」


 竜が人間になれることを知るものはいないし、力のある魔術師であっても、人間ではないと見破ることはできないと村では習っていたのに。

 頭をぐるぐると駆け巡るなぜに答えが一切でないままに何故が増えてゆく。


「王家所有の森で狩りなどするから見られるんだ。それは、隷属の首輪。もうお前は俺に逆らえない」


「ど、ドラゴンを支配なんてできるはずがない!」


「なら、試してみようか。抵抗できるならしてみるといい」


 脅しだ。ハッタリだ。


 そう信じたいのに、全く同様せずに真っ直ぐこちらを見る目に心が揺らぐ。

 抵抗しなきゃいけない。カイルをやっつけてしまえばいい。何のためにグレンと魔術の練習をしたのか。


 なのに、嗜虐的な笑みを浮かべながら近づいてくるカイルを攻撃しようとすると、体から力が抜けてしまう。

 ゆっくりと、ボクが抵抗しようとする様子すら楽しそうにして、あっという間に顔が触れるくらいに近づいてきて……そのまま――


 唇と唇が触れた瞬間に全身がしびれるような感覚に目を見開く。

 押し付けられるように触れた感触。擦れるだけで、頭のなかが真っ白になる。


(なにこれなにこれなんだこれ!)


 ぬるりと唇を割って入ってくる感触に、嫌悪感を感じているのに、快感というしかない衝撃に、立っていられなくて、電池を切った人形みたいに崩れ落ちる。


 快楽の余韻のようにびくんと体が跳ねた。



「キスひとつで腰を抜かしたの? こんなのが竜の弱点だなんてね」


「ぐっ」


 まさか、男の、それもキスひとつでこんなになるなんて!

 あんまりにもあんまりな状況だが、これはきっと……



 体が、敏感すぎるんだ!


 食事の味に、思った以上に美味しさを感じて、いっそ感動していたほどだったのは、単純に竜の味気ない生活との落差だけが原因じゃない。


 最高の体をイメージして作ったこの美少女の体に、こんな罠があったなんて!

 キッと睨みつけても全く気にした様子を見せない。


「これで、お前は俺のものだ」


 首輪で繋いで操るつもりか、このイケメンめ!

 でも、絶対、この首輪を破って自由になってみせる!


 ボクは無意識のうちに甘い痺れの残る唇をなぞりながら、誓ったのだった。



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