006 イケメン騎士現る
そこには驚くほど美しい少年がたっており、ぎょっと目を見開く。
金髪碧眼で引き締まった体をしているが、スマートだ。
年の頃は15、16だろうか。どうやら騎士らしく、グレンの元になった騎士と格好が少し似ている。
違うのは衣服が圧倒的に仕立てが良いことだろうか。
身につけた小物すべてが品が良く、手入れされている。
何より引きぬかれた剣の意匠が美しく、数打ちのものとははっきり違うことを示していた。
まだ若く、騎士になってまだ浅いだろうに、そのかっこは様になっている。
目が合うと安心させるように微笑みを浮かべた。
彼の登場に、ほっと安堵していた。
未だ掴まれたままなのに、まるで物語の主人公が助けに来てくれたと言わんばかりのシチュエーションだったからかもしれない。
「さて、続けるか? その子を離せば追わないと約束してやる」
「ぼっちゃん騎士がなめやがって……」
「それが答えか?」
突然の乱入者に、シンシアを捕まえていた男はシンシアを盾にするように前に出して体を掴んでいたが、舌打ちすると、シンシアを突き飛ばすと、炎に焼かれたもう一人の男に肩を貸して裏路地の奥へと逃げてゆく。
開放されたことにほっと一息をつくと、キンっと剣を収める音が響く。
「大丈夫だったかな? ダメだよ、かわいい女の子が一人で出歩いちゃ」
「あ、ありがとうございます」
キラリと輝く笑顔を浮かべられる。正直眩しい。
男の人体を作るならこいつだったらキャラメイクしなくても即決だったと確信するレベルに理想的だった。
イケメンで気遣いもできるし、これはモテるんだろうなあと顔をじっと見つめてしまう。
女の子にとっての王子様成分を煮詰めたらこうなるんだろうか。
「怖くなかった? ゆっくり話をしたいけれど、まずは場所を変えよう。いつまでもこんなところにいてはいけない。いいね?」
「は、はい」
開放された安堵に力が抜けてしゃがみこんでしまったボクに彼はそっと手を差し出す。
恐る恐る手を取ると、包むようそっと握り返され、優しく持ち上げられる。
「俺の名前はカイル。騎士だ。君の名前は?」
「シンシアです」
「そう、綺麗な名前だね。君にぴったりだ」
恥ずかしげもなくまっすぐ言われる賛辞に顔が火照るのを感じる。
わあ、これがチヤホヤされるってことか! 美少女すごい、イケメンすごい。
しかも、このイケメン、ただ表通りに連れて行ってお終いではなく、王都案内までさせて欲しいと提案をしてくる。
「そこまでしてもらうわけには……」
「そう言わないで欲しい。キミが一人でまたこんな目に合わないかと考えるとそれだけで胸が張り裂けそうになる。それに、王都には観光できたのなら、悪い思い出で終わってほしくないんだ」
と、ここまで言われれば断るほうが相手に悪いだろうと言う気分になり、手を引かれるままに王都を回ることになる。
ここでも彼のイケメン力が発揮されているのか、一人で美味しいものを食べて回るだけの観光より、解説付きで感動を伝え合える相手がいるのがとても楽しい。
いつのまにかあれはなに? これはどう? とはしゃぎながら、いつの間にか手を引く方になって、笑顔で街を回っていた。
その事に気づいたのは日が暮れだした頃だ。
「日が落ちてきたね。シンシアはどこに泊まっているの?」
「えーと、紹介された宿に行こうと思うけど」
名前を伝えるとカイルはうーんと困ったように笑う。
「値段の割に良いと評判のところだね。けど、女の子一人で安心といえるほどじゃない。酒場も兼業しているから、たまに騎士が騒ぎを止めに行くことはあるし……ちょっと心配だな……」
なんと! 宝石店店長さん! 話が違わないだろうか!
とはいえ、逆に言えば騎士が止めに入ってくれるところであると言えるし、たまにということなら安全な方かも知れない。警察立ち寄り店、みたいな。
それに、値段の割によいということはやはりおすすめということなのだろう。少なくとも、適当に宿を探すよりはずっといいはずだ。
「そうだ! 俺の屋敷に来ない? そんなに大きいところじゃないけど、部屋はだいぶ空いてるし……」
「ええ? それは流石に迷惑なんじゃ」
「そんなことない。新しく出来た友達を家に招くのはふつうのことさ」
「ともだち……」
「俺はもうそのつもりだったけど、シンシアは違ったかな?」
「ううん。カイルは友達!」
寝るところまで借りることに若干の申し訳無さを感じていたが、友達と言ってくれるならこれ以上遠慮するほうが悪いかもしれない。
確かに、都会っ子のカイルは王都のことをよくわかっていて、一緒に遊ぶのはとても楽しかった。
むしろもっといっしょに遊びたいくらいだ。
「それは良かった」
微笑むカイルにボクは笑い返した。
本日も3話更新予定です(3/3)
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