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004 おのぼりさんにみんなやさしい

 

「40万リルがせいぜいですな」


 思ったよりずっと小さい換金額にボクはがっくりした。



 --



 ドラゴンの村から飛ぶこと数時間。

 王都近くの森に飛び降りてから王都にやってきた。

 人の出入りがとても多く、たくさんの馬車が行き交っており、さすがは王都だと感心する。


 整理された通りにはたくさんの店が並び、多くの呼び込みと、美味しそうな料理の匂いが漂ってきており、その気もなしに体が引き寄せられてしまう。


「よう、見慣れないかわいらしいお嬢ちゃん。他国からやってきたのかい? どうだい、アユの塩焼きは。他所よりたっぷり太ってうまいぜ」


 あぶられて油を滴らせており、とても美味しそうだ。

 ゴクリと喉が鳴る。


「うぅ。食べたいけど、今はお金がないんだ。換金してから、来るから……」


 ぐうぐうとなりだす腹の虫にぎゅっと抑えるが、それでも漂う匂いに大きくぎゅーと鳴き声を上げられてしまう。

 ニカっと笑う屋台のおじさんはなんだか嬉しそうだ。


「おお、そりゃ残念だ。でも、お嬢ちゃんのお腹は正直者みたいだな。一本上げるよ。お代はまた来た時に払ってくれりゃいいさ。何を売りに行くのか知らないけど、腹の音鳴らしてたら足もと見られちまうぜ」


 手渡されたアユのお腹にかぶりつくと、濃厚な味が口に広がる。

 じゅわぁっとしてホクホク。塩気も調度良く実に美味しい。

 がっつくように食べ終え、おじさんにお礼をいって串を返す。


 王都にはたくさんの店があり、食のレベルもかなり高いみたいだ。

 記憶にある塩焼きの味よりぐっと味わい深い気がする。


 だがそれを味わいつくすためにも、お金が必要だ。

 ボクは背中に背負ったリュックの中でジャラリと音を立てるこいつを使って王都を味わい尽くすつもりなのだ。



 --



 と、意気込んで入った先は王都の中でも、高級街に当たる東区だ。入り口にあたる南区は屋台や行商が多くいたが、東区は町並みが美しくカラフルになった代わりに、人の出入りが減り、行き交うのも馬車が多くなっている。


 その馬車も馬や従者の質がぐっと上がっているのがわかる。

 そんな町並みの中でも高級感あふれる、宝石店にボクは入る。


 そう、ボクは王都に来るにあたり、事前に金になるものを集めていた。

 狩った獲物は売るのが難しいし、そこまで単価は上がらないだろうと睨み、高くてかさばらなさそうな、宝石の原石に目をつけたのである。


 竜は人間ではいけない山や谷にも行けて、場所によってはそれこそ、宝石がゴロゴロしている場所があり、事前に調べて集めていたのだ。

 もっとも、宝石に興味のないドラゴンたちには『なんでそんなものを集めるの?』と不思議がられたが。


 グレンには『お前は光ものが好きだもんな』と呆れられた。

 そう、ドラゴンたちは大して宝石類が好きじゃないらしいが、ボクは大好きだ。


 別に身につけたいわけじゃないが、前世でも河原でキラキラする石を見かけるとついつい拾ってしまう。カラスみたいなやつだな、と前世の兄に言われたことがある。


 ――さて、肝心の原石たちはいくらになるか。

 リュックにたくさん入れてきたお気に入りの石達にニヤニヤしながら店員に話しかけ、奥から店主が出てきて――しっかりした査定の時間の後に、『40万リルがせいぜいですな』と言われたのである。


 金額的には40~50万円と言ったところで、数ヶ月大人しく生きていく分には問題無いだろうが、着飾って美味しいものを食べていい宿で暮らそうとするとあっという間になくなりそうな額だ。


「も、もう少し高くならないんですか?」


「可愛らしいお嬢さん。私もそうしてあげたいところではあるけどね。原石を宝石にするためには加工に出さなければいけないし、原石自体はそこまで値がつかないんだ。宝石の値の殆どは技術料だからね。とはいえ、魔力がこもった原石はそれなりに値が上がる」


 この石とこの石が高く見積もらさせてもらったよ、と言われたが、逆に言うと、ジャラジャラとたくさん持ってきた割に2つだけ。

 他は大体が加工に向かないものや向いてもそこまで値の付かないものばかりだったらしい。


「そうですかぁ……」


「多分どこに売りに行ってもコレだとあまり値は変わらないだろうね。アクセサリーならもうちょっと値段をつけれたと思うよ。家出の資金にするならそういったものにしたほうがいいね」


「い、いえで……」


 どうやら、見た目から宝石店の店主は貴族のお嬢さんあたりの家出と判断したらしい。

 まあ、村の女の子であれば水汲み、料理洗濯と様々な労働の痕が手に出るし、変身の術のついでに生み出された服は見た目こそ周りの街娘と似たようなものであっても、非常に作りが良くなっている。

 お忍びのためわざわざ作らせたように見えてもしかたがないかもしれない。


「まあ、うちの商品なんて売りに来たらどこの子かはすぐわかるから、間違いじゃないかもしれないけどね。

 ……もし、お金がなくなってしまったらまた来なさい。仕事を紹介しよう。決して、そのへんの男に簡単に儲ける方法があると言われてもついていってはいけないよ」


 どうやら宝石商の主人はいい人らしい。

 家出をするな、家に帰れとは言ってこなかったが、するならこうしなさいあれに気をつけなさいと色々教えてくれた。


 おすすめの宿と自分の名前を出せば安くはならないかもしれないが、親切にしてくれるだろうと言われてお店をあとにする。

 買取額も数えると、50万になっていた。


 ――これもかわいい効果だろうか? 美少女は得だなぁ。




本日も3話更新予定です(1/3)


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