002 ドラゴンの村
グレンを追うようにして、前世よりはるかに大きく天井の高い家を出る。
ドアも、よくあるアパートのドアと比べれば2、3倍大きいだろう。
まあ、子供とはいえ、ドラゴンが出入りする部屋なのだから、仕方がない。
ボクが住んでいるのは村にある、子供の竜がすむための家で仔竜館と呼ばれている。
他の家と比べるとすぐわかるがとても巨大で、他の家がよくある田舎民家なのに、仔竜館は作りがかなりしっかりしている豪邸である。
村では仔竜が成人となり、人間体になれるまでは、この屋敷で暮らす。
理由はやはり簡単でドラゴンが大きいからだ。
すべての家族のすべての家をドラゴンサイズで作ってしまうと、あらゆるものが大きくなり不経済だし、親は子どもと違い人間体で生活するのだから、やはり不便になる。
ドラゴンは子供を親が育てる、と言うよりは群れが育てる、という感じらしく、子供はこの仔竜館で年をとった老竜にまとめて育てられるのだ。
成人した後は、個々の自由で、それぞれの希望に合わせて、職に就く。
基本的には既にその仕事をしている竜がいるので、その竜の元で仕事を学ぶことになる。
仕事を教える竜と教わる竜は一種の家族の関係になり、その相手こそが、竜にとっての親と言える。
竜にとっては親とは産みの親ではなく、育ての親であるという感じだ。
グレンは狩人を希望していたので、狩りの得意な竜の元で生活しており、既に一人前と言われているらしく、村で食べる肉は彼らが狩ってきたものだ。
竜なんだしみんな自分で狩ってくればいいんじゃないか? という疑問は当然だが、竜体はエネルギー消費量が大きいので、竜のままでいると毎日大きな獲物を仕留めないといけなくなってしまう。
それが村分となればどうなるか。
この人数が生活すればあっという間に大型の生き物は枯渇し、場所を移すことになるし、移った先の獲物を食い荒らすことになる。
要するに、竜のままでは、集まって生活ができない。
昔はそれこそ、世界中に散らばり生きていたらしいが、広い生活圏を必要とするため、他の竜と出会うことすらなく、また出会って家族を産んでも一緒に生活していられないため、年々出生率や生存率が低下。
このままではよろしくないと、人化の術を皆で習得して村を作り始めたのが始まりだったらしい。
竜も好きで孤独生活をやっていたわけではないらしく、今ではこうやって村でみんなでわいわいしながら、たまーに竜に戻って翼を伸ばす、のんびりスローライフを堪能する種族になっている。
「シンシア! 無事に子供を卒業できたのね」
屋敷を出て声をかけてきたのは太陽に焼けて茶色くなった金髪の少女。
顔にはそばかすをたくさんつけているが、満面の笑顔だ。
「ルージュ、おはよ」
「おはよう。ちっちゃいのにしたのね。不便じゃないかしら」
「かわいいからいいんだ」
「またシンシアのよくわからないこだわり?」
「ああ、まただ」
またじゃない。
今まで生きていて特別にこだわったところなんて見た目くらいのつもりだが、生まれる前からドラゴンだった彼らからすると、また意見が違うらしい。
「シンシアはいつも変わってるわよね。ねっ、これからどうするの?」
「ボクらはブラックバッファローを狩りに行く予定だよ」
「将来についてのつもりだったけど狩りに行くのね。なら引き止めるのも悪いかしら。行ってらっしゃい」
いってらっしゃいと手をふるルージュ。
彼女は幼なじみの1人で仲のいい女友だちだ。
グレンと同じように美形になってもらおうと企んでいたが、趣味は合わなかったらしく、『こっちの子のほうが便利そうだわ』とかわいいお嬢様の隣りにいた冴えないメイドを選んでしまった。
一緒にいるなら美少女がよかったのにと思っても、まあ、しかたがないだろう。
(竜にはわからないこだわりだもんなあ)
ふうとため息をついて空に飛び上がる。
光りに包まれ、体は巨体に変わる。
ボクは全身が白い竜で、グレンは全身が真っ赤の竜。
グレンはドラゴンらしい配色の上に、鱗も硬そう。逆にボクはツルンとしていて、鱗が目立たないすべすべタイプだ。
と言っても、魔力で強化されているためか、人間とは比べ物にならない。磨き上げられた白銀のような体でグレンもよく、白くて綺麗な体だとほめてくれる。
……ほめてくれる。ほめてくれるが、正直、人間の美醜がわかる反面、竜体の見た目の良し悪しははっきりわかっていない。
ドラゴンとしてボクの見た目は一体どうなんだろうか。褒めてくれるのだから悪くはない……といいなと思っている。
本日3話更新予定です(2/3)




