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001 キャラクターエディット!

 

 目の前には輝くような銀の髪と金色に光る瞳をした少女が立っている。


 人間から美しくないところをすべて取り除いて、美しい物だけで作り上げたような、人形めいた造り。


 完璧過ぎる容姿は無機質な印象を与えてしまいそうなのに、笑顔を浮かべれば途端に雰囲気が変わり、どこか小動物のような愛らしさを見せるのだ。


 きっと誰もが少女を目にすれば目を留め、記憶に深く刻まれるに違いない。

 そんな美しさがあった。


「完璧だ……!」


 鏡を見てボクはつぶやいた。


 --


 みんなはゲームはやるだろうか?


 アクション、ミステリー、恋愛……色々あるが、ボクが好きなのはRPGだ。

 特に好きなのは、RPGの中でも、キャラクターエディットがあるゲームだ。


 用意されている主人公もそれはそれでドラマがあるが、やはり、自分で作ったキャラがストーリーを進めるのは、どこか没入感が違う。


 自分の理想のキャラを作って旅をさせるのは、それはそれは楽しいものなのだ。


 では、もしも、自分がゲームのような世界に行けたとしたら? 現実でも好きな見た目に変わることができるのなら……?



 ――絶世の美少女になろうと思ってもしかたがないよね?




 新しい人生はドラゴンだった。

 魔法がある、ファンタジックな世界で、選ばれし勇者どころか、人間でなかったことは残念であったけれど、ドラゴンへの転生はボクの心をそれはもう、ときめかせた。


 幼児が大好きになるのは電車か恐竜または人形と相場が決まっていると思うけれど、ボクが大好きになったのは恐竜の方だった。

 大きくなった時の夢は? と聞かれて『かいじゅー!』と答えたような記憶もある。

 多分、2つ上の兄が怪獣のフィギュアを誇らしげに見せびらかしてくることが原因に違いない。


 だから死んだと思ったら、何かに閉じ込められていて、棺桶か!? と驚いたら卵の中でした、から始まった人生は、全くの異文化であたふたし続ける毎日だった。


 それでも、ドラゴンはみんな同族に優しく、いい人達ばかりだったこともあって、楽しい生活を送れていたのである。


 そんなボクの名前はシンシア。

 ドラゴンの女の子である。


 え、なら女の子なのになんでボクなんていうんだって?

 確かに性別は女の子として生まれたけれども、ボクが性別が女であることに気づいたのは生まれてから数年後だった。

 好き勝手に遊び回っていたボクの遊び相手は自然と男の子たちで、気づいた頃にはもうボクに馴染んでしまっていたのである。


 ――だってしょうがないじゃないか。みんなだってトカゲのオスメスなんて見分けらんないでしょ? 自分の性別に気づかないくらいだから、遊び相手が男の子ばかりであることになんて気づかなかったのだ。



 そんな感じで、ドラゴンとして生まれてすでに10年と半年。

 早熟で長寿なドラゴン。同じ年に生まれた幼なじみたちは続々と成人と認められて仕事を持ち始めているが、ボクはまだだった。


 成人。

 そう、ドラゴンは人化の術を使えるようになると大人と認められるのである。



 --



「シンシア。ようやく人化できたのか? 別にそんなにこだわらなくていいだろ。みんなと同じくその辺のやつから適当に選べばいいのに」


「ずっと使う体なんだから、可愛い方がいいでしょ。こう、男なら誰でも守りたくなるキュートな感じじゃないかな。個人的には出来に大変満足したんだけど、どう?」


 ノックもせずに部屋に1人の男が入ってくる。

 うふんと笑顔をサービスするが、人間の少女に変わったボクの顔を見て、子供にするようにぞんざいに頭をガシガシと撫でてくる。


 彼は同じ年に生まれて一緒に育った幼なじみ、グレンだ。

 ボクと同じくらいの力とセンスがあって、友達であり、兄弟みたいなものであり、ライバルでもある。家族と言ってもいいかもしれない。


 そんな、グレンはボクと違い、10才になって早々に人化の術を覚えた。今は大人として竜の村で仕事を始めている。


 半年の差がついた理由は――もうだいたい想像はついただろうか。


 人化後の姿は最初からこうだと決まっているわけではなく、頭にその姿を思い浮かべながら行う必要がある。

 ただ、明確な人間の姿をイメージすることが他種族であるドラゴンには難しいらしく、普通にやると、失敗した福笑いのようなバランスが崩れた見た目になるため、大抵は適当な村を訪れ、そこに住む人間の姿を盗み見て、同じ姿に変わる。


 関心の薄い彼らは、対象を性別と体つきくらいでしか選ばない。

 さらに、大抵は騒ぎにならないよう、人の少ない村を盗み見て行う結果、人間化したドラゴンは――結構芋い。更には着飾る気もないし、化粧もしないわけで、どこの農村な方々ですか? という感じだ。


 ただし、グレンは違う。


 みあげる形になる高身長の赤い短髪で、目が細くするどい。

 表情に感情が浮かんでいないように見えるため、どこか怖い印象を受けるが、よく見ると僅かに目尻が緩んでいる。

 たまにしか見せれくれない笑顔は女性なら惹かれずにはいられないイケメンだ。


 グレンはボクに選んでくれと頼んできたため、どうせならと巡回中のイケメン騎士を選んだおかげでとっても顔がいいのだ。

 映画で出演したら絶対ファンが付くだろうなと確信するほどだ。


 もっとも、ドラゴンはだれも人間のイケメンらしさを理解しないため、イケメンにも関わらず、グレンはちやほやされることはないみたいだけど。


 だからきっと、ボクが美人になろうが、大した反応はない。

 村にいる限り、評価されるのは竜体であり、人間の姿は仮初の体で、どうでもいいもの扱いだ。

 だが、それでも人の美醜がわかるボクとしては村娘Aになる気なんてさらさらなかった。


 世界で一番……いや、せっかく自由に姿を変えられるなら人を超えた美しさ、可愛さを、と思ってこっちの世界の美人さんを参考にしながら、半年かけて作り上げたのである。

 そんなボクの感動の力作だが、やはり竜の感性からするとさほど違いはないらしい。


 グレンはボクと顔を合わせても、ポッとかハッ……みたいな感動が感じられない。

 なんというか、美人な子猿と普通の子猿のどっちがかわいい!? と聞かれて『で、どっちが美人の小猿なの?』と答える無感動さがあった。


 ボクの気持ちを台無しにしないでほしい。


「これがねえ。ちっちゃいだけじゃん。竜の姿のお前ならともかく、人間はこんなのがいいの?」


「そうだよ。ボクが男だったら連れて帰りたくなること間違いないね」


 ふんすとボクは胸をはる。


 ちっちゃくて可愛い子がドヤッと胸を張っているのだ。

 どう見てもかわいい感じになっているはずである。見るものが見れば手元に抱き寄せかいぐりしたくなること間違いないだろう。


 ボクなら、こんな子が目の前にいたらそうするはずだ。


 だが、子供の可愛さオーラでさえも、他種族視点のドラゴンには通用しないらしく、グレンは背を向ける。


「ま、なんでもいいけど、成人の祝に、狩りに行こうぜ。この間、森でブラックバッファローの群れを見つけたんだ。ありゃたくさんいるな」


「へー。そりゃいいところ見つけたね」


「ああ、さっさと行こう。――固定(キープ)するの忘れるなよ。また半年待つのはごめんだぞ」


「あ、そうだった。固定(キープ)


 淡い光が俺を包む。これで作った体が決定された。

 イメージ的には、決定ボタンを押して、キャラエディットが終了した、みたいな感じだ。


 ようやくボクの冒険が始まるわけだ。


本日3話更新予定です(1/3)

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