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夢の中で

作者: 穐亨

突然、なんの脈絡もなく泣きたくなることがある。

僕はそれを、『あっち』の世界の僕が泣いているのだろうと、そう思うことにしていた。

小さい頃から、見る夢はいつも決まっている。

ここではない世界で、僕ではない僕がそこにはいる。

僕はとても弱い子どもで、その上に泣き虫だ。家族はいなくて、代わりに仲の良い友達がいてくれる。

彼はとても強くて、頭がよくて、周りの大人たちからも一目置かれている。僕はそんな彼が誇らしくて、でも時折、一緒にいるのが辛くて仕方がなかった。

彼がどうして僕と仲良くするのか、ずっと不思議に思っている。だがその理由を訊ねるのは怖いことで、僕は自分の心に知らんぷりしては、またこっそり一人で落ち込み泣くのだった。

現実の僕も、似たようなものだ。家族はいるけれど、大して取り柄もなくて、本当に仲の良い友達もいない。自分がつまらない人間だと知っているから、他人に話しかける勇気もなく、同級生とも距離を置いてしまう。


「自分の周りの人間関係なんて、たかが知れてるんだから。世界には貴方を今取り巻く人々よりも、はるかに膨大な数の人々が存在する。限られた狭い世界の中での評価なんて気にすることはない。貴方を好きと言う人は、この世界には必ずいるから」


そんな言葉を聞いたのは、いつだったか。その時僕が思ったのは、「こんな狭い世界での人間関係すら上手く構築できない自分が、より広い世界でどうこうできるわけもない」ということだった。

学校を卒業して、多分進学して、そして社会人になって……そして、その時僕はどうなっているんだろうか?

社会的地位とかではなく、僕は果たしてまっとうな人間関係を築けているのだろうか?

今はいなくても困っていないけど、恋人は? 結婚相手は? それとも、何年後、何十年後もやっぱり「いなくても困らない」と言って、そういった相手を見つけようともしていないのだろうか。そもそも、何で他人と暮らさなければならないんだろう。血の繋がった家族でさえ、喧嘩をしたり鬱陶しく感じたりするものなのに。プライバシーを侵害されることが当たり前で、自分の気持ちを抑えながら、気を遣いながら毎日を暮らさなければならないなんて、考えただけで気が狂いそうだ。

友達がいるなら、それでも良いかもしれない。でも、これまでの十数年間で、継続して仲良くしている相手もいないのに、大人になってから友達なんてできるものなのだろうか? 社会人になってから心の中まで隠さず話せる相手なんて、そうそう見つかるものではないような気がするのだけど。

それとも、実はみんなそうなんだろうか。僕だけでなく、みんなそうなんだろうか。学校で仲良く喋っている彼らは、僕から見るととても仲良さそうだけど、実はうわべだけの関係でしかないのだろうか。家で一緒に暮らしてる父母も、毎日気が狂いそうになるのを必死で抑え込みながら、上面の笑顔で暮らしているのだろうか。

人間は「社会的動物」だって習ったのは、何の授業だったか。だけど、実はみんなそんな関係しか築けていないのだとしたら、人間が「社会的動物」であるなんて嘘っぱちだ。そう振る舞うのが上手なだけ。それとも、そう振る舞うことすらできない僕は、もはや人間失格なんだろうか。

また、涙がつぅと流れてくる。『あっち』の僕が泣いている。きっとそうに違いない。だって僕は、ちょっと人間失格なだけで何の不自由もないのだから。

『あっち』の僕が泣くと、彼はふと現れて、少し慌てて僕の頭を撫でる。それは少し煩わしくて、でもあたたかくて、まるで小さい頃、母に撫でられたような心地になって、僕は静かに泣き止むのだ。

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