開始の前夜
真っ暗な空は、星が今も光っているのか分からないくらい明かりに包まれていた。
今の日本は、電力を中心とした生活を送っていた。前の生活よりはるかに便利・進化していった。
だが、電力をたくさん使うと言うことはそれなりのデメリットが隠れていたのだ。
原因不明の病気が発症しているが、それがどんな原因で起こっているのかは説明がつかないままだが、環境変化で起こっているのではと一つの意見が出ている。
ここ最近、技術開発・機械製造に力を入れすぎている節があり、そこで発生するガス、ゴミを処分するのに発生する有害な物質が増えていく事に不満の声があったが、それによりどこの世界にも負けない技術、力を手に入れた日本だった。
眠ることを知らない日本。
そう、世界的に呼ばれ始めた頃にその”ゲーム”が始まった。
日本の心臓部に位置する場所は永遠に眠ることが無い。
『TOKYO』のど真ん中に国のすべてを管理するタワーで1ヶ月に一度に日本各地の代表者が一堂に集まり、各地の情報・状況報告などを主に話し合いをする会議が行われる。
タワーの地下にある部屋で行われている会議には47人の代表者達が静かに各報告を行っている。
各地のエネルギー配当の確認、予算状況の報告等を代表者各自のスクリーンに映し出し話し合いが行われていた。
スクリーンに注目する者もいれば、資料に目を通している人もいる。
「・・・これで、静岡の報告を終了させていただきます」
「ご苦労様です。では次の県の・・・」
「ちょっといいかな?」皆の視線は、一人の男に向く。
「どうかいたしましたか?」
「もうさ、報告とかいいんじゃないかな?毎月毎月同じ報告内容ばかりで集まる意味無いと思うけど」
「ですが、これは先代の天皇様が決めたことでして・・・我々が取り消すわけには・・・」
「じゃあ、俺が取り消すよ。今日でこの会議は行わず、全てこちらで管理を行うことにする」
その発言に疑問を持った者が立ち上がり「待ってください!では、我々はこれからどうすればよろしいです!?それに、全てを管理するのにも人がいるでしょう」と少し声を張り上げる。
「人はいらない、全て機械で管理をする」
「き、機械で、ですか?」
「最近の機械は素晴らしい、人間より頭が良い。無能な人間よりも優秀だ」その男は立ち上がり、ゆっくり歩き回る。
「人工知能を兼ね備えれば機械であろうと人間のように考え、話せることができる。人間よりも知識が豊富であり、利口で無駄口もたたかない、文句も言わない。最高の品物だ。要するに、人が管理するよりも機械で管理する方が良いと言っているのだ」
男は手元に用意されていたパネルで何かを操作しながら話を進めていく。
「だが、機械には意思が無いと言う事が最大の利点だ」
「り、利点?」
「そう、利点だ。命令された事だけを忠実に行う、最大の利点。人間のように欲に惑わされることも、意思が変わることも無い」スクリーンに何かを映し出すとそのスクリーンには信じられない事が映し出されている。
“国民による、国民の為の、国民のゲーム『国民ゲーム』”
「国民ゲーム・・・?」
誰もがどんなゲームなのか見当もつかず、唖然とスクリーンを見つめる。先ほどの話とこれがどんなつながりがあるのか分からない。
「そう、国民ゲーム。国民全員が参加し楽しめるように、かつ日本の機械がどれだけ優秀であるかを他国に示すことを目的とした計画だ」
「そんな事をなさらなくとも日本の機械は世界で優れている事は立証されています。それ以上無いかと・・・」代表の一人がなだめるように話をしたが、男は気にせず話は続く。
「国民には我々が考えたミッションをこなしてもらい、賞金を目指してもらうと言う簡単なゲーム。だが、それだけでは楽しくないだろ?だからこれを使う事にした」
そう言うと手に持っている携帯をブラブラと揺らしながら見せてくる。
「携帯がどうかしましたか?」
「この携帯を“命”として使うのだ」
周りは一斉に騒ぎ出す。携帯を“命”として?何を言っているのかまったく理解できない。
それよりも国民が何故そんなことをしなければならないのか。この話の流れだと強制的なように聞こえる。
きっと国民は納得すら、いやデモが起きるくらい反発する事が目に見える。
「何をおっしゃっているのか、分かっているのですか?まさかそんな子どものような遊びを現実になさろうと考えているのですか?」代表者の一人が馬鹿にしたような言い方で、何を言うか試しているかのように言う。
「そうですよ?嘘だと思いました?ははは、私、嘘をつくのは嫌いなんですよね」真顔で話す。
あの顔からすると嘘ではない事は本当のようだ。
「ふ、ふざけないで下さい!いくら全ての主権をあなたが握っているからだとしても、この計画を通すことはできません!!」
「あのさ、誰もあんたら老いぼれ達の意見なんて聞いてないんだよ。ただ報告してるだけであって、あんたらには拒否すら無いんだよ?」鋭い視線を部屋全体に向ける。
何かを突き刺す様な冷たい視線に言葉すら出てこない。
ただ、自分のしたいことをする子どものようだ。
「私たちは黙らせられても、国民は黙っていませんよ!貴方は全国民を敵にまわすことになる事を分かっていないのですか!?」
「国民の為のゲームなのに何故、国民を敵にまわすことになる?」
「全国民が望んでいるわけではありません・・・!」
「じゃぁ、望んで居ない国民は反逆者として処理しなきゃね、君たちみたいに」
「しょ・・・り?」法で裁くのか?それともどこかに捉えて置くのだろうか。
扉をゆっくりと開く音が聞こえ、皆振り向くとそこには数人の白いスーツを来た人たちが立っていた。
「だ、誰ですかこの人たちは・・・!?」警察には見えない。白い服装をした人たちは何故この部屋に入ってきたのか理解できずにいた。
「日本はすごいね。ロボットと思えないほどの自然な動きができるモノを作れるんだから」
「ロボット!?」見た感じは普通の人間にしか見えない、これがロボットだとは想像もできない。
「このロボットはね、私の言う事を理解して実行してくれるんだ。本当に機械って利口なモノだよ」
「何をなさるつもりなのですか・・・?」声が震えている事に気づかなかった。無意識に体が震えて汗も流れている。
人間の感とは本当に恐ろしいものだ、無意識に思ったことが本当に当たってしまうのだから。
今ここにいる私たちは、死ぬ。
もう、この国はオシマイだ。
エレベーターの中で静かにため息をつく。なんだか頭が痛い、寝不足だろうか・・・。
「天皇様、体調が優れないようですが・・・」と何処からか優しい女性の声が語りかけてきた。
「ただの寝不足だ、心配することはない」
「ですが・・・」
「心配するな!機械は黙って命令だけを聞いていれば良いんだ!」
「・・・分かりました」
頭がガンガンする・・・、気分が悪い。すぐに部屋に戻り眠りたい気分だ。
聞き覚えのある着信音、メールのようだ。
「誰からのメールだ?」
「弟様からです」
「・・・読んでくれ」
「『兄さん、久しぶり。忙しいことを承知してメールをしてる。会って話したいことがあるんだが、暇があれば合わせる。連絡待ってる』以上です」
久しぶりの弟からメール、会って話したい事?勝手に出て行った弟が今となって会いたいと言われるとは思わなかった。
「めんどくさい」ふと心に思ったことが口から出てしまった。
だが、そんな事も言えないくらい楽しい事が始まる。
そう思っただけでワクワクしてくる。
「電話をつないでくれないか?」
「どちらに?」
「藤元 克也に」プルルルルと呼び出している音がエレベーターの中に響いていると突然切れる。
『どうしました?』
「克也か?俺だ、例の計画を明日実行して欲しい。できるよな?」
『はい。では明日の零時に開始する形でよろしいでしょうか?』
「あぁ、後はお前に任せる」
『分かりました』
藤元と言う男に要件を伝えすぐに切ると、最上階でエレベーターが止まる。
開くとそこには一つの扉だけがあり、横には何かをかざす為の機械が搭載されてある。
そこに自分が持っていた携帯をかざすと何かが外れた音がすると扉は自動的に開き中に入ると明かりが部屋を照らす。
シンプルな家具で揃えられ、余計なモノが置いていないシンプルな部屋だ。
一番に目が行く大きな窓にはTOKYOを一望できるぐらいの広さを見せつけるかのように正面にある。
雨が振っているTOKYOを見ながら「これからTOKYOがどう変わるかが楽しみだな」と小さく呟いた。