Ⅱ 大老将
ティノと祖父は、牧畜のヘウローをヘウロー広場に解き放ち家に戻った。
「ただいま、母さん」
「おや、買い物早かったじゃない?」
「特に買うものなかったから……」
「ははは……ティノは菓子食べると太るって気にしてるんじゃ、あははは」
「お爺ちゃんったら、お母さんには内緒だって言ったでしょ!!」
「悪い、悪いなぁ~」
「しょーがない人なんだから」
「ティノがダイエット? あなたは今のままでも十分可愛いわよ」
「人を笑い者にして……」
「あらぁ? お母さんはあなたを褒めてるのよ」
「ふんっ、知らない!!」
ティノはふてくされて部屋へと戻っていった。
ティノの部屋。
亡くなった実父の形見の物が部屋じゅう飾られてある。一番大事にしている写真は写真立てに入れて机上に飾られてある。
「ただいま……お父さん。今日ね……ヘウローの荷車に乗った兵隊みたいな子に会ってきたわ。それがね……お父さんみたいな勇敢な子で……あたし、その人と話したの。とても格好良かったわ」
遺影代わりの写真立てに向かって生前の父親と話すかのように語りだしたティノ。
暖かい微笑みがこぼれる。写真立ての父親の肖像に向け笑顔を作ってみた。
ティノはあの時のヘウローの名前を思い出した。
「レイフリーだったような気がしたわ……」
「ティノや、入るぞ」
祖父が入室しだした。
部屋の床に胡座をかいて勝手に語ってきた。
「さっきは口が滑った。すまぬな」
「ううん……」
祖父の気にかかる内容は、孫の身体事情ではなく、買い物中の他国民の接触にあった。
少年軍勢と祖父間には、はっきりした理由がある。いや祖父の詳細のことは、後々明かされるであろうから、今は伏せておくとして、ティノの意志を確認したくて堪らなく思っていた。
「さては、買い物途中出会った荷車の男児を気にかけていたのじゃろう?」
図星の上、顔を赤らめたティノだった。
「えー……もう顔なんて忘れたし、気になんてしてないわよ」
と、目を上の空状態でしらを切った。
「モジモジしながら話すのか? 最近の子供は変わってるのう……」
「用ってそれだけ? だったらもう出ていって!! ホラッ」
孫娘に両手で背中を押され、強制退室させられた祖父だった。
「や~れやれ、ティノには困ったわい」
その翌日。
早朝から男の老人の姿は農牧周辺をくまなく探しても見かけなかった。
そうである。ティノの祖父が姿を眩ましたという。
「母さん。お爺ちゃん見なかった?」
「私もさっきから呼んでたけど……どこにもいないわ」
「昨日までは、ハキハキしてたのに……まさか、徘徊かな?」
その老人は、リィフドー集会所手前で人を待っていたのだ。家族に告げずになんて迷惑な高齢者なのだろうか。
老人と待ち合わせたのは……何やら動物で牽引している荷車団体がぞろぞろと一斉に現れてきた。
「おはようございます。もしや、大老将様であられますか?」
代表が手前で立て膝スタイルで正しい礼儀作法をやってのけた。
「わたくしは、当地スオムセまで派遣されしスデムより参りましたヘウロー隊隊長、トゥリタ・ジーシムと申し上げます。以後お見知りおきを……」
「そんな礼儀は良い。さあ、おもてをあげなさい」
トゥリタが俯せた顔を話相手に見せた時、酷く驚いては退きだすのであった。
「あなたは……先日の、荷車のご老人!? 先日はすみませんでした」
「いやいや、そんなことはもう良い……その事は忘れて付いてきなされ」