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スキル表

 何はともあれ、まずはスキルに目を通さなければならない。

 机の上に無数の文字が浮かんでいる。

 まずは、ステータスという欄があった。


 筋力。知力。素早さ。体力。精神力。器用。柔軟。運。頑強。


 とある。試しに『筋力』を軽く指でタッチすると、+-の記号が出た。プラスの横には10という数字が。-の文字の横にも10という数字がある。

 プラスを押してみる。『筋力1』となり、机の一番右上に表示されていた1000Pという数字が990Pと変化した。


 なるほど、今の操作で筋力にポイントを割り振ったという訳か。んー、戻すのは出来るのだろうか。


 『筋力1』にもう一度触れると、今度は +20 -10 と表示された。

 -10を押すと『筋力1』は『筋力』になり、右上の990Pが1000Pに戻る。


 割り振ったスキルポイントは戻すことも可能と。しかし、触れたら説明文の一つでも出ると思ったのだけど、他のはどうなんだ。

 ステータス欄ではなく、パッシブスキル欄を見てみる。パッシブスキル、つまりスキルを所有しているだけで効果のある能力の事なのだが、隣にアクティブスキル――意識的に発動させなければいけないスキルも存在している。

 しかし、あの女教師もどきが何者なのかはわからないが、本当に小説やゲームを勉強したようだ。こんな感じのシステムは良くあるのでやりやすい。


 パッシブスキルは無数にあり、見るに関するスキルだけでも


『鷹の目』『千里眼』『透視』『未来視』『過去視』『魔眼』『邪気眼』


 とまだまだある。小説やゲームで見たことのある能力を片っ端から集めた感じだ。全部のスキルを合わせたら万単位は軽く超えているだろう。

 このスキルも仮に『邪気眼』へ振ってみたのだが、ステータスと同じように更にポイントを注ぎ込み強化することも、ポイントを戻すことも可能だった。

 そして、やはり説明が出ることは無い。


 俺もこういった設定の小説をそれなりに読み込んできていたので、文字だけでも大体の事は理解できるつもりだ。だが、それは俺の予想でしかなく、確実ではない。

 あの女教師もどきの質問を受け付けない態度と、他人と相談やアドバイスを禁じると明言したことも引っ掛かる。つまりは、他人と共有されると困る何かがこのスキル割り振りには含まれているということだ。

 文字から判断した勝手な思い込みに、今後の人生を託すわけにはいかない。


 俺はスキル表をスクロールしていき、目的の項目を見つけた。

スキル表の最後の方に『オプション』という欄がある。

 そこに触れると、オプションと言う文字の下に幾つかの文字が新たに現れた。


『チュートリアル』

『説明』

『BGM』


 よっし、これだ。まずは『チュートリアル』だ。

 『チュートリアル』の隣には定番の+-が表示されたのだが、俺はそれを見て思わず唸ってしまった。

 なっ、なんでそんなに高いんだよポイント!

 +の隣には100という数字が堂々とその存在を主張していた。

 こんなのに1000Pの内100もつぎ込んでいいものか。いや、まてよ……ポイントは後で戻せばいいのだけの話じゃないか。見た後に戻せば問題ない。


 そう判断し『チュートリアル』に触れる寸前、オプション欄の脇にとても小さなコンマのような記号が目に入った。じっと目を凝らすと、それはコンマではなく極小の文字のようにも見える。


「まさか」


 そのコンマのようなものに人差し指と親指を近づけ、タッチパネルの液晶で画面を拡大する方法で指を広げた。

 すると、思った通りその部分の映像が拡大され、コンマのようなものが文字であることがわかった。そこに書かれていた文字を読んだ瞬間、眉間にしわが寄ったのが自分でもわかった。


『オプションにつぎ込んだポイントは戻すことができません』


 ああ、わかったよ。これは最悪のパターンだ。似たような展開を読んだことがある。

 この女教師もどきが、神なのかその手下なのか、はたまた悪魔やそういった存在なのか、そんなことはどうでもいい。わかることは素直に俺たちを簡単に強くさせる気はないということだ。

 初めにこういった事を口頭で説明しておけばいいものを省略――いや、あえて言わなかった事といい、まだ他にもこのスキル表には何かあると考えた方がよさそうだ。


 となると、どうするか。ポイントを戻せないというデメリットをあえて隠していたのだから、このオプションは罠の可能性が高い。だが、スキルを文字だけで判断するのは危険すぎる。

 ポイントが戻らないとわかっていてもチュートリアルである程度の情報を仕入れておいた方がましなのか?


「よっし、筋力全振りだ!」


 隣の痩せこけた青年の声が聞こえる。横目で表情を確かめると、目を輝かせぶつぶつと呟きながら筋力へスキルポイントを振り込んでいるようだ。


「こういうのは、特化させた方が強いって決まっている。平均上げなんて馬鹿のすることだ」


 隣にいる俺にギリギリ届くような音量で呟いている内容を頭の中で吟味する。

 筋力に全部注ぎ込む。悪くない判断かもしれない。力さえあれば、どんな状況でも有利に事が運べるだろう――ただし、それがゲームであればだ。

 これから行くことになる異世界レッカンテプニン大陸には魔法や不思議な力が存在しているのだろう。さっきちらっと見たスキル欄に


『属性魔法』『オーラ』『精霊魔法』『神聖魔法』


 といった文字があった。

 怪力というだけで生き残ることは難しいのではないだろうか。それも、ある程度の武術の心得があるのであれば、その筋力も活かされるかもしれないが、見たところ運動すら滅多にしないタイプだ。

 それに、このステータス欄の能力もどういった能力なのか何の説明もない。上げたところで素直に強くなるとは限らない。


 ……よっし、まずはこれを取ろう。俺は悩んだ挙句にようやく何を取るか、一つ目を決めた。





 俺が選んだ物は『説明』だ。これを得るには100P必要でオプション欄なので戻ってこないポイントだが、これは必要経費と考えていいだろう。

 今最も大切なのは情報だ。このスキルの意味を完全に把握しなければ、異世界での未来は無い。


「さて、予想通りなのか」


 『説明』を得た俺は、まず『筋力』に触れる。

 前と同じく+と-の記号が現れ数値が書かれている。そして、その隣に新たな文章が書き込まれていた。


(体中の筋力が強化され身体能力が向上する。レベル1なら本来の能力×1 レベル2であれば本来の能力×2 となる)


 ……おい、おいおいおい! 今、軽くスルーしそうになったが、これとんでもないこと書いてあるぞ!

 強化される内容は予想に近かったが、最も大事な部分が予想外過ぎた。それは、レベル1なら本来の能力×1という記述だ。

 つまり、ステータスの能力は最低でも1は取っておかないと、本来の力の×0になるってことだよな。知力をとらなければ考えることすらできず、筋力がなければ武器を持つどころか、自分の体すら支えられないことになる。

 やばい、ステータス欄の能力は最低でも1とっておかないと駄目だ!

 俺は慌ててステータス欄の


『筋力』『知力』『素早さ』『体力』『精神力』『器用』『柔軟』『運』『頑強』


 をレベル1だけ取っておいた。

 これで90P消費。『説明』も含めて190Pものポイントを使ってしまった。これで異世界に行ったとしても、今の自分と同じ身体能力だということになる。


 マイナスを抱えたままでなかったことを喜ぶべきだな。隣の全振り君はこのままでは、異世界に行った途端に考えることも体を動かすことすらできず、棒立ちのまま死ぬことになるのだろうか。無駄に立派な筋骨隆々の生々しい死体が棒立ちになっている姿を想像し、俺は彼に声を掛けそうになった。

 が、寸前のところで堪える。あの女教師もどきが言っていたじゃないか。


 アドバイスや相談をしたらポイントが失われると。


 心は痛むが、自分が助かる為にここは何もしないでおくしかない。鼻歌交じりに、スキル表を覗いている彼の目には、異世界に降りた自分の活躍が映っているのだろうか。

 いたたまれなくなり、俺はそっと目を逸らした。気持ちを切り替えよう。今は自分の事だけをまず考えるんだ。


 大きく何度か深呼吸をして気分を切り替えるとスキル表に目を凝らす。

 パッシブスキルの説明は殆どが予想通りの内容で、やはりスキルのレベルを上げていくと能力が強化していくようだ。これも小説やゲームではお馴染みの設定になっている。

 そこで、今自分がどれだけの時間を消費したのか気になり、何となく女教師へ目をやる。すると女教師は俺に気づいたようで、いつの間にか手に持っていた差し棒を伸ばし、女教師もどきの頭上をその先で叩く仕草をした。


 釣られて眼をやるとそこにはデジタル時計を巨大化したようなものがあり、65:43という数字が表示されていた。その数字が徐々に減っていく様子から、あれが残り時間なのだと理解し、教えてもらったことに一応頭を下げておいた。

 女教師もどきが驚いたように目を細めているな。あんたが俺たちを罠にはめて楽しんでいる性悪女だとしても、してもらったことに変わりはない。頭を下げるぐらい常識だろうに。

 俺は視線を机へと向け、残り一時間近くとなった時間を有意義に使う為、再び思考を開始しようとした。


「絶対ある筈よ……隠しスキル、隠しスキル」


 全振り君とは俺を挟んで反対側に座っているセーラー服を着た、そういった関係の水商売の方かと勘違いしてしまいそうな、色気が溢れ出ている女性がいる。目を限界まで見開き、何かを必死になって探していた。


 呟いていた内容から考えて、特別なスキルを探しているのだろう。こういったスキル物の小説にはお決まりのテンプレと呼ばれるものがある。

 使えないと思っていたスキルが実は意外な使い道があり大活躍するという流れか、普通では得ることのできない特別なスキルが存在し、それを手に入れた主人公が活躍するというのが定番中の定番だろう。


 隣のコスプレ風女性は、スキル表のどこかにそんな力を秘めたスキルは無いかと探しているのだろう。俺もそれは考えたのだがステータスとオプションの件を考えると、相手がそんな分かりやすいスキルを普通に用意してくれているのだろうかと、疑問に思う。


「あ、あった! 奪取スキル」


 コスプレ風女性は嬉しさのあまり言葉が漏れてしまったらしい。慌てて口を押えるが、彼女の周辺にいたクラスメート達は聞き逃さなかったらしく、一斉に手元のスキル表を覗き込み、瞼を限界まで開いて懸命に探している。

 奪取スキルか。スキル物テンプレの一つと言ってもいいだろう、相手の能力を奪うスキル。俺もそういった話が好きで何作か読んだことがある。その力に憧れは正直あるのだが。


 俺はとっくに見つけていた『奪取』という文字に軽く触れた。


(倒した相手の所有するスキルを一つ奪える。レベル1では奪ったスキルの所有数1 レベル2スキルの所有数3 レベル3スキル所有数6)


 となっている。この説明では奪う時の条件が不明で、簡単に奪えるとしてもレベル1では相手のスキルを一つしか所有できない。

 ならスキルポイントを上げれば強いのではないかと考えるが、このスキルを得るのに必要なポイントは何と500Pである。ちなみにレベル2に上げるには1000P必要となる。見つけた女性はこれだけポイントを消費するなら、強力に違いないと考えているようで迷わず取得したようだ。


 ……歯がゆい。右の青年も左の女性も赤の他人なのだが、このままでは異世界に降りたところで死ぬ運命しか見えない。いや、彼らだけではない。何人かは俺と同じことに気づいているだろうが、大半はこの問題に気付いていないように見える。

 自分だけ力を得ようとしてクラスメート達を騙しているわけではない。むしろ、安全に教える手段があるなら迷わず伝えたい。だが、自分の命を引き換えにしてまで行動できるほど、俺は出来た人間ではない。


 見殺しにしているような最悪な気分だが、気持ちを切り替えるんだ。このことで動揺して自分が死ぬようなことになっては間抜けにも程がある。


「あ、共通語」


 誰かの零した声が、俺の集中を崩しにかかる。

 その声が聞こえた何人かがはっとした表情になり、慌ててスキル表を操作していた。

 俺もそのことが完全に頭から抜けていたので、言語関連のスキルに目を通す。


『共通語』『エルフ語』『ゴブリン語』『帝国語』


 等、言語だけでも100種類はある。それも殆どが会話と、読み書きに分かれているようだ。さすがに、知力の低そうな魔物系に文字は存在しないようだが。

 そしてこれが地味にポイントをくうのだ。『共通語』話すだけなら50Pで済むのだが、文字も取得となると更に50P合計100P必要となる。


 異世界で言葉が通じない。これはかなりのデメリットだが自分たちが何処に転移されるのかわからない今。共通語が通じない僻地かもしれない。

 そもそも、共通語が大陸で何処まで普及しているかも不明だ。まずは、生き残ること重視でスキルを取り、余裕があれば取っておきたい。忘れずに候補としておこう。

 生活重視を前提なら職人系もありなのだが――


「よっし、錬金術だよな。まずは」


 俺の心の声を代弁するかのように、今度は斜め前の生真面目そうな四十代の男が口にした。

 錬金術。これもよく見る設定だろう。武器防具だけには留まらず回復アイテムや、最終的には建物や兵器まで作り出す小説なんて、何度も目にしてきた。

 とまあ、心の中で毒を吐いてはいるが、俺も同じことを考えて既にチェック済みだ。


『錬金術』(この世界にあるあらゆるものを作りだせる可能性がある。能力が高ければ存在しない新たな物を創造することも可能)


 説明で見られる文章はこれだけだ。レベルが上がればどうなるかも書かれていない。正直怪し過ぎる。そもそも、錬金をするとしてその材料をどうやって見分けるというのだろうか。それに町から始まる安全な出だしならまだしも、魔物がいる場所に放り出されたらどうすることもできない。


「鑑定はどこにあんだ」


 今度は後方から少し乱暴な口調の若者の声が響いてくる。皆集中しているのはいいのだが独り言が多い。この状況が夢見た展開だとしても、やはり不安なのだろうか。アドバイスも相談もできないので、独り言が多くなっているのかもしれない。

 もしくは、わざと聞こえるように言って周りの反応を確かめて、自分の判断が正しいのか見極めているのかもしれないな。


 こういった場で、自分は閃くが相手は気がつかない俺だけ特別。なんて主人公的考えは消し去った方がいい。俺より頭が良い人や発想力がある人なんて幾らでもいる。ここは周囲の声に惑わされず情報を収集し、最良の道を見つけるしかない。

 ちなみに『鑑定』は物を手に取った時にその値段がわかるだけとなっている。


「しっかし、もうちょい説明があってもいいよな……」


 もう、何処から聞こえてきたかもわからないが、それには同意するよ。女教師もどきもそうだが、スキル表は明らかに説明不足だ。俺の様に『説明』を取得してもそう思わずにはいられない。


「このスキル、どのレベルまで上げればいいのかな」


 若い女性の悩む声を聞き、俺もスキルを確認する。まだ、殆どとっていないスキルなのだが、ステータスをレベル1しかとっていないので、せめて2ぐらいは取るべきかと悩んでしまう。使えそうな筋力だけでも上げるべきかもしれないな。


 あ、スキルのレベル……まてよ、もしかして。俺はあることを思いつきスキル表を見直す。そして、それを見つけ自分の愚かさに呆れ、自分自身を殴りたくなった。

 異常な状況下で戸惑うのはわかるが、こんなの基本中の基本だろ。


 『説明』に触れると『説明1』の隣に+200Pの文字があった。


現在取得スキル

『筋力』1

『知力』1

『素早さ』1

『体力』1

『精神力』1

『器用』1

『柔軟』1

『運』1

『頑強』1


『説明』1


残りスキルポイント 810

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