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自分が異世界に転移するなら  作者: 昼熊
贄の島編

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得たもの、失ったもの

 椿さんの亡骸を見つめながら、いつまでも感慨に浸っている場合じゃないか。

 俺は糸を操り丸太小屋の中から佐藤の死体を引きずり出す。

 ついでに、丸太小屋の中にいる人々へ糸を這わせ、全員が寝ているのを確認する。椿さんの叫び声と戦闘音は相当なものだったのだが、彼らが起きる気配はない。

 睡眠薬がかなり強力なようだ。もしかしたら、麻酔に近いのかもしれないな。


 二人の死体を並べ『捜索』で生徒手帳のポイントを確認する。二人とも背中より少し下の腰部分に反応がある。糸で腰付近を弄ると、同じ感触が二つあった。

 アイテムボックスか。誰にも見られたくないモノを入れておくにはそこが一番安全だよな。

 転移者をあれだけ殺していれば、アイテムボックスの一つや二つは手に入る。

 糸でアイテムボックスを引き剥がすと、それを手にする。


『所有者が死亡したことにより、アイテム権限が移ります。このアイテムボックスを所有しますか? はい いいえ』


 見慣れた文字が頭に浮かぶ。俺は迷わず二つとも自分のものにした。そうしなければ、アイテムボックスの中身を取り出すことができない。

 佐藤と椿の生徒手帳をアイテムボックスの中から見つけ、この場に抜き出す

 佐藤の生徒手帳から見ておくか。


 まず目に飛び込んできたのは名前だった。

 俺と同じく偽名を使っていたのか。本名は佐伯 竜鬼。権蔵君が知ったら羨ましがりそうな名前だな。

 顔写真が本人と同じなので別人の生徒手帳ということは無いだろう。


 性別、男。年齢42歳。レベルは13なのか。転移者を二人殺したにしてはレベルが低いような。もしかして、生贄としてこの島に送られた現地人は転移者より少し経験値が少なめなのか。

 そう考えると辻褄が合うが、それを検証するわけにもいかないな。

 ステータスはどうなっている。


 身体能力は10を少し超える程度で精神力と知力は20を超えているのか。ステータスレベルは筋力、頑強、素早さ、器用、柔軟、体力、運は1レベルしか取っていないのに、知力、精神力は3レベルまで上げている。

 国盗り系のシミュレーションゲームなら内政を任せたくなるステータスだな。


 この偏った能力の上げ方は所有しているスキルに関係してそうだが、それだけではないと思う。状態異常系が充実しているであろう、椿さんのスキルに抵抗できる数値にする目的もあったのではないだろうか。

 かなり頭が切れた人物だったようなので、椿さんがいずれ自分を殺すことも念頭に入れた上での能力値。今となっては問いただす手段はないが。


 さて、次が本命のスキルか。一体何を選んだのか。


『説明』4『速読』2『瞬間記憶』3『共通語(会話)』2『状態異常耐性』3『心理学』3『命中精度』3『譲渡』2『千里眼』2『話術』2


 初めて見るスキルが多い。

 説明の高さにまず驚愕してしまう。ここまで上げればスキルを覚える条件がわかるのか。説明を上げるのも考慮しておかないといけないな。

 彼らが漏らしていた『速読』『瞬間記憶』もちゃんとある。


 『状態異常耐性』は、やはり椿さんへの対抗処置なのだろう。いざという時の為に備えていた。お互いに腹を探りあう関係だったのか……仲間が桜さんで良かったと、つくづく実感したよ。


 『命中精度』は銃の補正か。使われていたら厄介だったな。


 『心理学』これは相手の表情から大体の感情を読み取ることができるのか。嘘の判別にも使えると。成功率は知力が影響する。

 囲炉裏を挟んで正面に座っていたのも、俺の表情が良く見える位置に陣取る為だったのかもしれないな。


 『千里眼』『話術』は理解できるのだが『譲渡』とはなんだ。記憶にないスキルだが、説明を見ておくか。


(自分の所持しているスキルを他人に受け渡すことができる。渡した当人はそのスキルが失われる)


 奪うことのできる『奪取』と全く逆のスキルなのか。しかし、自分のスキルを渡して何のメリットがある。椿さんや春矢のような『奪取』スキル持ちに見逃してもらうために取ったのだろうか。生きていたら聞いてみたかったな。


 スキルはこんなものか。後はアイテムなのだが『食料飲料水一週間分』や『文房具一式』『アイテムボックス』と必需品を理解したラインナップ。他には『44マグナム弾 0発』『ホルスター』『S&W M29』とある。

 俺は拳銃に詳しくないので銃の名前はわからないが、このエス&ダブリュー29というのが拳銃の事だろう。この銃はアイテムボックスにはなく、上着の下、佐藤のわき腹付近に収められていた。


 確認の為に『S&W M29』に触れておく。


(スミス&ウェッソン社が開発したリボルバー(回転式拳銃)である)


 エスダブリューじゃないのか……。この名前どこかで聞いたことがあるな。確か親父が良く見ていた映画で、破天荒なアメリカの刑事がぶっ放していた威力の高い拳銃か。

 前提条件もない武器だが弾丸が0なので、利用価値はもう無い。ホルスターに回転式拳銃というのは、正直男として心が疼くものがあるが、アイテムボックスで眠ってもらうことにしよう。


 あと一つアイテムに『昏睡薬』とある。

 説明では服用した者は抵抗に失敗すると三時間眠り続けるとあった。これだけの騒ぎでも起きないわけだ。




 次は椿さんの生徒手帳か。

 レベルは椿さんが宣言していた通り47。年齢は触れる必要はないな。

 ステータスはオール20のレベル4。脅威の全ステータス80となっている。

 我ながらこんな相手に良く勝てたな。正面から殴りあったら確実に負けるステータスの差がある。

 ここからが問題のスキルになるわけだが。


『共通語(会話)』1『奪取』5『窃盗』5『麻痺』4『呪い』4『混乱』4『睡眠』4『衰弱』4『不老』5『料理』4『硬質化』4『狂化』4

 

 となっている。『奪取』が5レベルで止まっているということは、これ以上になると消費ポイントが更に桁外れとなるということか。

 『窃盗』も上げているのは『奪取』スキルに絡んでいるのかもしれないが、俺の『説明』2レベルでは、それに関する情報を得ることができない。


 そして、状態異常系スキルの充実さが半端ない。


『麻痺』4『呪い』4『混乱』4『睡眠』4『衰弱』4


 発動条件は全て同じで相手に触れたら発動できる。レベルが高いので物や武器を通して発動することもできる。この能力のおかげで俺は糸で相手に触れることができなかった。

 この状態異常系は二人が殺した転移者の一人がまとめて所有していたのではないだろうか。低いレベルなら消費スキルも少ないので、一気に取ることは可能。

俺は考えもしなかったスキル構成だが、人それぞれ考えが違うのだと感心させられる。


 この『不老』というスキルは誰もが欲しがるスキルだな。設定が気になるので見ておくか。


(老化が緩やかになる。レベル1、二分の一。レベル2、三分の一。レベル3、四分の一)


 つまり、レベル1あれば二年で肉体的には一歳増えたことになるのか。レベル5あるから、六年で一歳。これは羨ましいな。

 後のスキルは……椿さんのあの防御力は『硬質化』だったのか。


(体が鋼鉄のように硬くなる。レベルが上がれば硬度も上昇する)


(頑強の値が加算される)


 となっている。そして、お馴染みの注意書きがある。


(ただし、レベル1では関節が動かず、能力発動時は身動き一つできない。レベル2では辛うじて動ける。レベル3ゆっくりと動く程度なら可能)


 つまり、レベル5か4まで上げなければ、まともに動くことすらできないスキルか。

 所持していても序盤は使い道に困るスキルだ。成長性はあるが、高レベルにならなければ宝の持ち腐れだ。

 次のスキルは俺を最後まで苦しめてくれた『狂化』か。


(身体能力スキルを一時的に向上させる。持続時間、レベル1、10分。レベル2、20分。レベル3、30分)


 レベル4なら40分。それだけ逃げ切れば時間切れとなったのか……無理だ。一つのミスが死に繋がる逃走劇を40分も続けられるわけがない。

 更に説明を見ていく。


(向上率はレベル1、ステータス1、5倍。レベル2、ステータス2倍、スキルレベル+1.レベル3、ステータス3倍、スキルレベル+2)


 ああ、うん、あれだ。レベル4ならステータス4倍のスキルレベル+3という流れか。本当に良く勝てたな俺。

 これでデメリットがなければ喉から手が出るぐらいに欲しいスキルなのだが。


(使用後は半日動けなくなる)


 まあ、これぐらいは許容範囲だ。

 ソロで生きている人は滅多に使えないスキルだな。だが、あれだけ強力なスキルがこの程度で済むわけがない。


(発動中は生命力を消費して動くので、10分ごとに寿命が1年奪われ、1年分歳を取る)


 中々えぐいデメリットだが、これは『不老』と相性がいい。この二つのスキルは偶然別々の転移者が所有していたと考えるより、同じ人がこの組み合わせを理解した上で取っていたと考える方が自然だな。


「はぁー、目が疲れる。スキルの考察はこれぐらいにするか」


 椿さんとの戦いはどう多く見積もっても30分がいいところだろう。寝たふりを続けていた時間も30分ぐらい。『昏睡薬』の説明を見る限り、あと二時間は蓬莱さんや権蔵君は眠り続ける。

 彼らが起きてきたときに、この事を説明しなければならない。それを考えるだけで頭が痛くなるが、避けて通るわけにはいかない。

 夜が明ける前に彼らを起こし、説明して日が昇る前に桜さんたちの元へ帰るのが理想だな。

 彼らが起きる前にやるべきことをやっておくか。


 まずはゲイボルグの回収なのだが……なのだが……。

 椿さんが倒れている直ぐ近くに、楕円形の両端を鋭くしたような形の穴が開いている。試しに覗いてみるが、底が見えない。星明りで光量が足りないのというのはあるのだが、たぶん昼間見ても同じ結果だろう。


「まあ、一応な」


 裁縫用の糸をするすると穴の中へと落していく。50メートルは長さがあるのだが、最後まで伸ばしても糸の先端が何かに触れることはなかった。

 何処まで潜っていったんだゲイボルグよ……。

 落しただけで狂化発動中の硬質化を貫いたゲイボルグだ、そのまま地面に落ちればこうなるよな。ああ、わかっていたさ。だからこそ、切り札として最後までとっておいた。


「充分役に立ってくれたから、すっぱり諦めよう。ご苦労様でしたゲイボルグ」


 命を助けてもらったお礼を込めて、穴に向かい頭を下げた。

 回収が不可能となった今、他にやるべきことは……って、一番大事なことをすっかり忘れていた。自分自身のレベルアップの確認と能力値上げだ。

 レベル47の椿さんを倒したことにより、莫大な経験値が俺に入った。47を超えるレベルになるとは思えないが、30後半に手は届くだろう。

 これで春矢に対抗できる力が手に入るかも知れない。

 椿さんを殺したという罪悪感は残っているが、自分が強くなるという喜びは隠しきれず、俺ははやる心を抑えて生徒手帳を開いた。


「ん?」


 あれ? これ俺の生徒手帳だよな。写真も名前も俺で間違いない。

 ずっと生徒手帳ばかり見てきたから、目が疲れているのかな。夜空に浮かぶ星々を眺めて、心と眼球を落ち着かせ……って、うおい!

 もう一度、生徒手帳に視線を落とすとそこには――レベル25とあった。

 何故、レベルが上がっていない……おかしいだろ、佐藤を倒しレベルが25まで上がった。これは間違いない。そして、ゲイボルグを使って……使って。

 まさかっ!?

 俺はあることに思い当たり、生徒手帳のアイテム欄を見た。


 『アイテムボックス』『アイテムボックス』『アイテムボックス』『傷薬1』『ミスリル製の鍬』『ミスリル製の鎌』『包丁』『S&W M29』


 これだけのアイテムがある。アイテムボックスの中にはレーズンや糸も入っているが、生徒手帳に表示されるのは、スキルポイントを消費して得たアイテムだけになる。

 新たに得た二つのアイテムボックスには二人が所持していたアイテムも入っているのだが、俺の生徒手帳には表示されていない。

 アイテムの権限を移していないからだ。アイテムに触れるとアイテムボックスを得た時と同様に頭に文字が浮かび、アイテム権限を自分へ変更しなければならない。そうして、初めて自分の物となる。

 銃は糸に気を通して掴んだ際に権限を移し終えている。


 そして、アイテム欄の何処にもゲイボルグの名が見当たらない。触れることすら叶わなかったので、あのゲイボルグの所有権は死んだ冒険者のままだった。

 たぶん……おそらく……きっとだが……所有権を移さず、所有者が誰かにレンタルする権限を発動させなかった武器アイテムで倒したら、経験値はその人には入らない……ということなのか?


「いやいやいやいや! 待て待て待て待て!」


 じゃあ何か、椿さんから得る筈の膨大な経験値は、誰に吸収されることなく夜空へと飛んでいったということか……ふざけたシステムにしてくれたな、あの女教師もどきがっ!

 俺の脳裏にはあの女教師が、口元に手を当て高笑いする姿が浮かんでいた。


「ははははははははっ……はぁぁぁ」


 乾いた笑いとため息が俺の口から漏れていく。

 惜しいなんて言葉では表現しきれないぐらいの痛手だが、仕方ない……か。

 ここで悔しがるのは相手の思う壺のような気がする。そもそも、命懸けの戦いに勝利し、生きているんだ。これだけで充分じゃないか。

 強がりが半分以上だが、生き延びた喜びを忘れてはいけない。

 魔物を殺し、人を殺してまで生きている。贅沢を言い過ぎると罰が当たるというものだ。


「でも、惜しいな……」


 俺の本音は夜風に飛ばされ、闇夜に消えていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 格上のジャイアントキリングしたのに何もかもマイナスなのは心折れる。3年くらいは引きずる
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