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「って、なんで目の前に人がいるのーっ?」



ドアを開けて華麗に消えようとしたはずなのに、目の前にいた壁……じゃなかった人間に体当たりして逃走を阻まれた。

勢い余った私は、背中をドアに打ち付けてしまい目じりに涙が浮かぶ。



「あ、悪い悪い。大丈夫か?」


頭の上から降ってくる、まったく悪いと思っていないその口調。

足、踏んでもいいですか?


殺気を込めつつパンプスの踵を目の前の大男の爪先に向けて落とそうとした途端、ぎゅっと腕を引っ張られて狙いがずれた。


「チッ」


舌打ちは癖です。謝りませんけど、いつもはやらないように気を付けています。



しかし腕に押し付けられたぼよんとするもの二つの感触に、頭に上っていた血がちょっとだけ冷えた。

そのぼよんの上についている顔を、どこかで見た記憶があったからだ。

一生懸命私を止めている彼女の顔が、連の部屋の記憶と重なる。



「あー、と。挿絵の……」



腕にしがみついている小っちゃい子に話しかければ、ぶんぶんと大きく縦に首を振る彼女。

あれ、目がうるうるしてます。

「はい、挿絵描いてる桜子です!」


あぁ、そうだ。

蓮の本の挿絵を描いてる人って、一度紹介されたことあった。



「おい! ここ開けろ! 葉月?!」


ドンドンと背中をつけているドアがものすごい音を響かせていますが、とりあえず無視。

目の前の大男も同じ考えなのか、でかい手を伸ばしてドアを抑えた。


「で、桜子さんはなぜここに?」


素朴な疑問。

だって、蓮の実家っていうか私の家に何の用?



桜子さんはうるうるしていたお目目をもっと見開いて、もう一度ぎゅっと腕に力を入れてきた。



「桜子の所為なんですぅぅぅっ!」

「は? 何が?」

「桜子がいけないんですぅぅっ!」

「だから、何が」

「桜子が……」



「端的に結論を纏めてから、口を開いてください」



ごめんよ。ほぼ初対面の桜子さんとやら。

私は短気という名の性格も、含有されている女なものでね。


ひくっ、と驚いたように震えた桜子さんは、小さく頷いて私から離れた。

うむ。理解力のある子は、嫌いじゃないよ。


桜子さんは少しだけ考えるように視線を彷徨わせてから、何かを決意した様に私にそれを向けた。



「桜子が、この大男に古藤さんを襲ってもらったんです」



「その言い方で通じるか、馬鹿桜!」



今度は目の前の大男が叫んだ。

……さっき蓮を押し倒してたの、この人か。

へー



胡乱な視線を向ければ、焦ったように大男は両手をぶんぶんと振る。


「違うから、襲ってないし! いや、あの体勢はそう見えるかもしれないけど、ちょっと悪ふざけが過ぎたってのもあってるっちゃーあっるけど、いやだからその……! とりあえずその眼はやめろ!」


「えー……。桜子さんに命じられてそんな事しちゃうって……、もしかして……ていうか蓮も……っ」



驚愕の事実を叫び倒そうとした私の口が、横から出てきた掌が思いっきり塞いだ。

はっ、鼻まで塞いでるんだけど! 殺す気か!


「やめろ、変な想像するな! しかも外でそんなこと言うんじゃない!」


突如割り込んできたのは、蓮の声。


いや、あんたの声の方がご近所さまに響いてると思います。



ていうか。

あれ? どこから出てきた。


その疑問に答えるように、少し離れた窓から司たちがこっちを見ているのが視界の端に移った。

そうか、窓! 不覚!


なんとか掌から鼻を救出し、少ない空気を肺いっぱいに吸い込む。



「ややこしくなるから、お前ら消えろ! いなくなれ! むしろそのまま社会から抹殺されろ!」

「ちょ、それひどくねぇ?!」



わけわからない言い合いを、蓮と大男が始めたその瞬間。




「桜子が次に描く、BL小説の挿絵モデルになって貰ってたんです。古藤さんに、強制的に☆」




桜子さんの頭の中で、エア報告書が纏まったらしい。



「は?」



今の声は、隼かな。



「ですから、指示された体勢が描けなかったので、担当に頼んでやってもらいましたの」



“もらいましたの”。……じゃないでしょ!?

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