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いくら一軒家の玄関と言えど、成人した大人が二人も立っていればせまっ苦しい。
眉を顰めて少し壁際によれば、がっ、と音がしそうなほど性急に両肩を掴まれた。
その途端背中を這い上がる、震え。
それは今まで蓮相手に感じたような甘いものではなく、……悪寒。
「葉月、ちゃんと話を聞けって!」
焦ったような蓮の声も、私の震えを止めることはできない。
「……なせ」
「はづ……、え?」
小さな声だったけれど、蓮は聞こえたらしい。
私は思いっきり肩を揺らして、蓮の腕を力任せに払い落とした。
「他の男に触った手で、私に触るな!」
驚きに見開かれた、蓮の目。
頭に血が上った、私の呼吸音。
しんとしたその空間で、ぽつりと誰かが呟いた。
「……男?」
その声に、弾かれた様に蓮が再び私に手を伸ばす。
けれど。
「なっ、何だよ陸!」
一番近い所にいた陸が、庇うように片手を私達の間に滑り込ませた。
「いや、何するっていうか先に確認いい?」
意外にも、冷静キャラは陸だったらしい。
さすがの隼も、男、というワードにぽかんと口を開けていた。
しまった、高校生には刺激が強かった?
「他の女を触った、じゃなくて?」
ゆっくりと問いかけた先は、私。
浮気も信じられないけど、陸の驚きポイントはそこだったらしい。
いや、そうだよね、私もそこが一番引っかかるところかもしんない。
皆の立場なら。
「……さっき蓮の所に行ったら、男と致す寸前だったっていうかギリギリアウトだった」
あ、もっと直接的な言葉言っちゃった。隼、空、ごめん。
「ぎりぎりあうと……」
呟いたのは、司。
蓮に対して、上から下まで視線を動かしたのが分かる。
私もつられて、蓮を見た。
かろうじてコートは羽織ってるけど、ボタンの外れたシャツにチャックは閉まってるけどスナップの外れているジーンズ。
冬だというのに、靴下をはいていないサンダル履きの足元。
髪はぐちゃぐちゃに乱れていて、ほんのり赤みの差した頬と肌にうっすらと浮かぶ汗。
「マジか!」
全て理解したとでも言うように叫んだ司に、焦ったように蓮が足を踏み出す。
「違う! 司さん、違うって! これは仕事中で……っ」
「なんで物書きが、仕事中にそんな恰好?」
「いや、打ち合わせで!」
「なんで打ち合わせ中に、そんな恰好?」
……
普段焦ったとこなんか見た事もない蓮のこの態度が、物凄く真実味を増していると思うのはきっとここにいる八名全員の考えだろう。あ、私入れて九名か。
まー、とりあえず。
そんな事後……じゃないな、こんなに早く来たという事は、相手にお預け喰らわしてきたって事ね……の状態、見たくないんだけど。
てことで。
「私は消えます。ドロン!」
言うが早いか、ドアを開けて外に飛び出した。