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「あぁ、嫌な事思い出した」


時間にして数分だったと思う。

それにしては長いと思っても、そこは綺麗に流してほしいなお話的に☆ヨ・ロ・シ・ク!




三年の時の事を思い出して、苦い気持ちが胸に広がった。


あの後、よくわからないまま言いくるめられて、いつの間にか私は蓮と付き合う事になった……ようだ。

いやなんで曖昧かと言えば、その後一年くらい私はその事実を認めず蓮の恋人態度を思いっきり流してたから。



連に告白されて、初めて知る事実がいくつもあった。

私の事が好きだった連は、それを私の家族や自分の家族に公言していた事。

連が私に貼りついていたのは女子への牽制ではなく、私に近づこうとする男子への牽制だったという事。


そんなことしなくたって、近づく奴なんかいないっての。


そう言ったら、溜息つかれたけど。




まぁ、元々連に対して好きの気持ちはあったわけで。

それが恋人仕様の態度をとる連に対して、恋愛感情に変わっていくのにそんなに時間はかからなかったわけで。

ただ、実は外堀埋められていたことに素直になるのが癪に触っただけで。

それでまぁ、一年後、こっちも認めてオツキアイになったわけ。



あの頃私が思っていた通り言葉を使うのが上手い蓮は、大学に在学中から物書きの道を進んでいる。

私は販売員。普通になんの捻りもなく、販売員!

無表情で嫌がられていた顔も、おばちゃん相手だと“カッコイー”“ヅカ?”という、喜んでいいのか悲しんでいいのか分からない微妙な感じで、好意的に受け入れられているみたい。





一応付き合って結構経つし、このまま結婚とかなるのかなーと漠然と考えていたわけですが。



「これかよ」



よもや社会人三年目、オツキアイ期間六年? 七年? の終わりが、あの状況とか。

はは、笑えないし。いや、反対に笑うしかない?



そういえば、今日もバレンタインだった。

何これ、なんの符合? いらないんだけど、そんな運命。



アルバムを閉めて、元あった場所に戻す。

そして立ち上がると、いくつか洋服をバッグに詰めて適当に化粧品をそこに落した。

店に制服あるから、通勤はラフな格好で大丈夫だしね。

職業柄出張もあるから、ビジネスホテルにも慣れてるし。

今からでも、シングルならとれるでしょ。


バッグを肩に担いで、立ち上がった。


流石に憐みの目で見られるの嫌だしとりあえず今日はホテルに泊まって、本格的な引っ越しはもう少し後でも大丈夫でしょう。

アパート探さなきゃなー。



そんな事を考えながらドアを開ければ、目の前に司と蓮の兄貴である陸がドアに耳を当てていただろう体勢のまま突っ立ってた。



「……何してんの」

思わず眉を顰めれば、びくっと身体を震わせて二人がドアの前から飛びのく。

「いっいや。何って、ほら、あの」

「……要領得ない。脳内で纏めてから、報告よろしく」

司がしゅんと下を向くけど、身長差あるからへたれた顔が晒されてますよ。


二人を押しのけて廊下に出れば、さっきと同じ状態で合計八名様が私を出迎えた。


「皆、何してるの。リビングに戻ったら?」


せっかくのごはん、冷めちゃうじゃない。

そう言外に含めれば、ぎこちなく頷いて階段を下りていく面々。

何その、地獄に向かうかの悲壮な雰囲気。



後ろから皆の後をついて階段を下りながら、思いっきり溜息をついた。


とたん、びくりとする八名様。


こりゃもう、ホントしばらくどこかで泊まっていた方がいいわ。

この雰囲気が続くとか、同情でも冗談でもやめて欲しい。



リビングにぞろぞろ入って行く全員を見送った後、私は玄関でパンプスに足を突っ込んだ。



「え、葉月。お前どこに行くんだ?」

一番後ろにいた陸が、慌てた様に玄関に飛び出てくる。

「どこって、どこでもいいじゃない」

いちいち“蓮に振られてここに居たくないから、ホテルでしばらく泊まります☆”なんて報告しなきゃならないわけ?


眼光鋭くなった私に恐れをなしたのか、陸が口を噤む。


長男! 年下女子に気圧されてどーするの! と、まぁ心の中の叫び。



「……蓮兄のとこに、行くんだよ……ね?」

「はぁ?」


リビングのドアから恐る恐るという体で顔を出した隼の言葉に、思わず胡乱気な声を上げてびくつかせてしまった。


ん? この反応は、やっぱり蓮の浮気の事は知らなかったっていう事?

あれ? さっきの私の考えは早とちり?

なら、もっとここにいるの嫌だわ。

もし蓮がここに来たら、何も考えずにあわされちゃいそうだよね。

暫く、顔見たくないし。



「蓮の所にはいかないよ。ていうか、今そこから帰ってきたばかりだし」


おぉぉ? 驚愕の表情って、こういう事言うのね。


目を見開く皆の顔を一様に眺めてから、口端を軽く上げた。


「蓮なら、今頃、他の男と……」



「それは冗談でも言うなぁぁぁっ!」




さっき見た事実を告げようとした私の言葉を遮ったのは、勢いよく玄関に飛び込んできた元知り合いの声だった。



元。元ね。もう、幼馴染でも知り合いでもありません、赤の他人さま。

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