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ちょっと今回長めです。



あれは確か。高三の冬――





「佐山さん。大体ねぇ、蓮くんが自分に釣り合うと思ってるの?!」

何が。

「幼馴染だからって、ずっと隣を独占してるのがおかしいって言ってんのよ!」

いや、別に独占してないし。

「あんたがいるせいで、傍に誰も近づけないじゃない!」

近づきゃいいでしょうが。邪魔しないし。

「男みたいな性格で無表情で、何考えてるかわかんないんだってば!」


それは余計なお世話だ。

男みたいな性格に生んだ両親と、そういう風になった環境を作り上げたうちの兄貴と蓮含めた隣家の四兄弟に言って欲しい。


呆れた雰囲気が伝わったのか、私を囲んでいた女の子の中でずっとしゃべっていなかった女子生徒が、震える声で口を開いた。


「本当に、蓮くんと付き合ってないの?」

「付き合ってないから、ホント。もう、いい加減にしてくれない?」


面倒くさそうに答えれば、相手の女子生徒達は目を潤ませながら準備室を出て行った。






「……泣きたいのは、こっちだっての」



私は傍の机に軽く腰かけて、片手で顔を抑えた。

これで何度目だ。蓮との事を、聞かれるの。

本気で頭が痛くなってきて、思わず呻いた。


しかも、私が悪者だし。



古藤 蓮は、私の隣家に住む同級生。

所詮、幼馴染という奴。

まぁ、今のご時世、あまりそういうご近所付き合いも少ないと思うんだけれど、蓮達の両親が共働きで母親同士が仲が良かったこともあって、古藤家四兄弟はよくうちに預けられていた。

そうなれば、誰だって仲良くなるというもの。

特に同い年の蓮とは、一緒に行動していた。



それが小学生を終え、中学生になり。

高校に入って、そして今年三年生。



幼い頃から整った顔をしていた蓮は、ベビーフェイスのまま大きくなって。

きゃーきゃー言われるわけじゃないけど、それなりにおモテになる。

でも誰とも付き合わないらしくて、その八つ当たりの矛先が思いっきり私に向くわけですよ。



高校で女の子に呼び出された回数、もう、忘れた。

どうせなら、男子こいよ!

嫉妬以外の告白を聞きたいんですけど!


流石の私も、幼馴染だからと言って四六時中一緒にいるのはおかしいと分かってる。

だけど、だけどさ……。



「葉月、こんなところで何してんの?」



声と共にひょこっと出てきた蓮は、可愛い顔をにこにこと満面の笑みにしながら私の傍へと歩いてきた。


軽く殺意を覚えるけど、致し方ないよね?

間違って殴っても、正当防衛だよね? ←それは違う



女子生徒はさ、私が付きまとってるようなこと言うけど。

反対だから、全くの思い違いだから!!

こいつの方が、まとわりついてきてるんだからね!?




「……掃除当番。もう、戻る」

ぼそりと告げれば、まぁまぁと宥めるように私の肩を軽く叩く。

「ちょっと話あるから」

話ぃ? 今の私には、何にもないけど!?


と言っても、きっと蓮は聞き入れることはないだろうから面倒くさくなって上げた腰を再び机に戻した。


「何」


イライラが収まらず、つっけんどんになる私を許せ。

半分は蓮の所為だから、甘んじて受け止めろ。


「何があったって、聞いてもいい? 凄く不機嫌だよね、葉月」

「……」


蓮は、人の話を聞くのが上手い。

そして、話し方も上手い。

その内、その才能を生かす職業にでもつくんじゃなかろうか。

反対に、私は脳内で考えることが多く、口に出すことが少ない。

無言実行と言えば聞こえはいいけど、言葉にしなきゃコミュニケーション成立しない。

分かってはいるけれど、幼い頃から口の上手い蓮が傍にいたから、余計な事を言わない性格になってしまったわけ。


なんだ。これもある意味、蓮の所為じゃないの。




いちいち報告するのも面倒で、なんでもないと告げて目を逸らした。

隣に立つ蓮は、ふぅん、と呟いたけれど、引き下がる雰囲気がない。


「なんか、女の子達がここから走って出て行ったみたいだけど」

「そこまで見てんなら、察しつくでしょうよ! いちいち面倒なんだから!」

こうやって私が口を開く様に、仕向けるのだ。


「何、また俺に近づくなって? 懲りないよねぇ、皆。俺が葉月に纏わりついてんのに」



それを今すぐ、さっきの女子生徒の前で言って来い! ……て思ったけど、それはそれでやっぱり八つ当たりされそうだからやめて欲しいわ。



連にとって私は恋愛対象じゃない。

幼馴染で、恋愛抜きで付き合えて、周りの女子を牽制できるから。

そういう存在。




「せめて男子から告白されるとかの呼び出しを、卒業までに受けてみたいよ。毎回、蓮がらみでうんざり」


大げさに肩を落として溜息を吐き出せば、なんだか微妙な顔の蓮と目があった。

あ、ごめん。真剣な顔か。


「ね、葉月。今日って何の日か知ってる?」

「はぁ?」

何の日?

直ぐに脳裏に浮かんだ答えに、思いっきり顔を顰める。


「知ってるわよ、それで責められたんだから」



日本中の(一部抜いた、私もこっちに含まれる)女性が、わくわくどきどきし。

日本中の(一部抜いた、蓮が含まれる)男性が一喜一憂する日。



バレンタイン



蓮にバレンタインのチョコを渡したい女生徒にとって、いつも一緒にいる私が邪魔なんだそうだ。

んなもん、気にせず押し切ってくればいいのに。

まぁ、一年次に下駄箱に入れられたチョコを見て「地面や廊下を歩く靴の上に置かれたチョコとか、あまり食べたくないよね」とにっこり笑い、二年次に机の中に入れられたチョコを見て「見知らぬ人からいきなり食べ物貰うとか、どんな罰ゲーム?」と冷たく笑った蓮に受け取ってもらうためには、直接渡すしかないわけだから。



ようするに、連は受け取りたくないだけ。

幼稚園の時に一人の女の子から受け取ったが最後、私も私もと群がった女の子達に押しつぶされて泣きべそかいてたあの時から、一切貰わなくなった。


蓮もそこら辺を考えて、今日はいつも以上に私に貼り付いてるんだろうしね。

けっ、女にとっても男にとっても、私にとってもサイテイな奴だな。



ベビーフェイスのお目目を私に向けても、何も出ませんよ。

私はバレンタインなんて代物、幼稚園時に捨ててきましたからね。



胡乱気な視線を蓮に向ければ、真剣な(はず)の表情のまま握りしめた右手を私の前に突き出した。

勢いで掌を出してしまった私に、罪はないと思う。


ぽとりと落とされる、光る何か。


「?」


話題的にチョコでもくれるのかと思った私が感じた、冷たい硬質な感触。


「は?」


ナニコレ


脳内で、ぽつりと呟く。


いや、物は分かってるんだけど。

指輪……だよね? あ、若い子的にはリング? あ、私も若いか~、あはははー


……じゃない!


慌てて掌に載せたまま、その指輪を蓮に押し付ける。


「いらないわよ、こんなの!」


「こんな、の?」


にっこりと笑った、蓮の目が笑ってないし!

流石の私にも蓮のお怒りが分かって、なんとなく言い訳を連ねる。



「指輪とか、貰う理由ないし! 私チョコなんて用意してないから、ホワイトデーだよね? とか、阿呆なこと言えないからさすがに!」


あわあわとまくし立てる私に、蓮は手を伸ばして指輪を取り上げる。

思わずほっと息を吐く私は、次にきた衝撃に脳内が真っ白になった。



あろうことか指輪を私の左手薬指にはめると、その上から唇を寄せてきたのだ。



ちゅ、というリップ音をワザと響かせてそのまま上目づかいで私を見上げる。



「ねぇ、葉月。外国だと、バレンタインって男からも大切な人に贈り物をする日なんだってさ」



……指に息がかかるので、どいてくれませんか?

びみょーに濡れている指が、涼しい気がするのです。



「だから、俺から俺の大切な人へ贈り物」



くさっ、くさいよ蓮くん! やってることが、鳥肌立ちそうなくらい寒いんですけど?!

あぁ、しかも! 聞きたくないこと言われそうな気がするんですよ! 間違いなく!


思わず逃げようとした私の手を、ぎゅ、と蓮が握った。



「佐山 葉月さん。君の事が好きです」




「……は?」




……男子から告白されるとかの呼び出しを、卒業までに受けてみたいよとはいいましたが。



その相手は決して蓮ではないぃぃぃっ!


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