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10 最終話

「……桜子さんに言ってたのって、どういう事?」


有無を言わさず車を出した蓮に、恐る恐る声を掛けてみる。

いや本当は怖いんだけど、当事者としては一応聞いておかないと。


理解することは、重要です。


私の言葉にピクリと片眉を上げた蓮は、小さく溜息をついて口を開いた。



「あそこにいた担当の加藤、あれ桜子の彼氏」

「えっ、あの大男と桜子さんが!?」

犯罪でしょ!? 見た目、大人と子供でしょ!?

私の絶句加減に気が付いたのか、信号で車をとめてから蓮がこっちを見た。



「お前が今頭の中で考えたその理由がネックで、加藤は桜子に全く手を出していない。だから、八つ当たりだよ。今日、俺が葉月にプロポーズすること話した後、いきなり言い出したからな。構図が描けないだのなんだのと」


「八つ当たり……」



思わず、がっくりと肩を落とす。

その間に青信号になったのか、静かに車が動き出した。




「ワインもプロポーズの前祝みたいなもんで加藤が持ってきたから、桜子的には余計癪に障ったんだろ」



……加藤……、原因の大本はお前か。



「今日の私って……」


溜息が深くなるのは、仕方ない事だと思う。



結婚の話が出るかなと期待していった蓮のマンションで、あんな光景見せられて。

自宅に戻れば、両家が宴会。しかも、私の部屋には段ボール。



「なんかもう、疲れた。この数時間ありえないこと満載で」

「まぁ、驚くよな。俺もいきなり葉月が出て行った時、どうしようかと思ったよ」



はは、と苦い笑いを零す蓮に、さっきまで昂ぶっていた感情がやっと落ち着いてきたからか、ほんの少しだけ罪悪感を持った。

蓮にとっても、呆然とする出来事だったに違いない。

外堀埋めて勝手に結婚とか同棲とかを進めていたのは頭にくるけど、自分も結婚を意識していたと言えばそうなのだから。



「あの、蓮……」


冷静になってきた私は、謝るべきだと判断した。

私も被害者な気がするけど、それでもこのあと蓮の部屋に行くわけだから。

このままの状況で二人きりになるという恐ろしいことは、避けるべきだとやっと思い至った。


声を掛けた時、丁度マンションの駐車場についたところで、蓮はバックで車を止めた後さっさとベルトを外して車から降りてしまった。


「ちょ、待って」


慌てて外に出ると、車の鍵を閉めた蓮に再び腕を取られて前にのめった。

ぐいっと強く引かれてもつれる足に、慌てて体勢を立て直す。

けれど止まる事のない蓮に、エレベーターに押し込まれた。



なんだか、また怖い雰囲気になってるんですけれど……??

ここはやっぱりさっさと謝って、お怒りを少しでも解いてもらった方がいい。


「ね、蓮? さっきは、誤解してごめん」


階数表示を見ていた蓮は、視線だけ私に向けた。


「何が、ごめん?」

うわ、声ひくっ。


「だから、勘違いして……」

「怒ってるのはそこじゃない」


私の声を遮ると扉の開いたエレベーターから私を引き出して、すぐ傍のドアを開けた。




蓮の、自宅。


よもやまさか、またここに来られるとは思わなかった。

さっき、別れたつもりになってたし……


玄関の鍵を閉めて中に入れば、さっきのままのリビングに辿り着く。

むしりとる様に破いた、包装紙。

転がった小箱。



どれだけさっきの自分が、怒り狂っていたのか、周りが見えていなかったのかよくわかる。



「ねぇ、葉月」



いつの間にか後ろに来ていた蓮が、ゆっくりと両腕を肩に回してきた。

「怒ってるのはね。葉月が、俺を信用していないのが分かったからだよ」

「信用?」

てっきり勘違いの上、チョコを食べちゃったことに対して怒られていると思っていた私は、意外な言葉に首を傾げた。

「そう、信用、だよ」

回した手で、髪をゆっくりと梳く。

ふるりと思わず震えてしまった私を、宥めるようにその指先が耳元を擽った。


「だってさっきの状況を見て、問い詰めることもせずに俺を切ったでしょ? それだけの存在なのかと思ったら、結構な衝撃だった」



あ……、そういう、事。



確かにそうだ。

もし仮に本当に蓮が浮気していたとしたら、問い詰めて文句もさんざん言うのが普通の彼女なのかもしれない。

なのに私は、何も言わずに……


「ごめん」


罪悪感、半端ないです。

よかった、蓮が追いかけてきてくれて。

じゃなければ、明日からしばらく姿を隠そうと思っていたから。

誤解が解けないまま、終わっていたかもしれない。




視線をあたりに向ければ、浮気じゃない事くらいよくわかる。

置いてあるグラスは、三つ。二人だけじゃない事、なんであの時気が付かなかったのか。

テーブルの向こうには、打ち合わせで使った書類が数センチの厚みで積んであるし。


あれ? そういえば……


「バレンタインチョコの箱が置いてあったよね? 小さい箱」

それで勘違いしたっていうのも、ちょっとあるんだけど。


そう問いかけると、考えている風だった蓮が私の左手に指を伸ばした。


「中身は、チョコじゃなくて“これ”」


ゆっくりと撫でられたのは、薬指にはまった指輪。

そう考えれば、本当に小さな箱だった。

チョコなんて、二つ位しか入らないぐらいの。



「指輪を用意して葉月にプロポーズするつもりが、男に襲われ葉月に逃げられ、散々だった」



チョコも、私食べちゃったし……。



「ホント、ごめん」

蓮は、くすりと笑って私の首筋に顔を埋めた。

「いいよ、葉月戻ってきてくれたし。あれだけ怒ったってことは、それだけ俺の事を想ってくれてるんだってそう思えたのもあるしさ」



……だから、いちいち言葉が甘い!



けれど、今はそれが嬉しくもあって。



「結婚はまだって言ってたけど、同棲は許してくれるんだからもういいよ」



……許したつもりはないけど、きっと彼の中で決定済みなんだから、もうそれいいや。

私も、一緒にいられるならって……そう思うし。



それよりも、今、一番気に掛かっていることがあって。


「……うん、でもほら……本当にごめん。チョコ……」



バレンタインなのに……。


やっぱ、欲しいものだよね? 当日……。




そう思ってすぐ傍にある顔を窺えば、目線だけこっちに向けた蓮の笑みに背筋がぶるりと震えた。

それはさっき腕を掴まれた時に感じたものとは意味の違う、震え。



「大丈夫だよ、葉月」



微かに掠れたその声は。



「え、な……」



艶っぽいその視線は。



「葉月を食べれば、その体の中にあるチョコも俺が食ったようなもんだろ?」



……は? たべ……?



意味を理解して、一気に顔に血が集まってくる。



「それ違う! 屁理屈! 人間は食べられません!!」



ひょいっと後ろから抱えられて、足が宙に浮く。

お姫様抱っこじゃないだけいいね☆ じゃないよ! よくないよ!

向かってるのは、寝室っていう恐ろしい場所だよ!!


どこでだ! どこでスイッチ入ったぁぁ!!



「……散々振り回されたんだ。桜子たちの分も、葉月が責任とってよ」


ふぅっと耳元に息を吹きかけられて、硬直した。


「……ちょっ、ちょっと待って!! 待ってってば!」


桜子さん達の分とか、私、関係ないよね!?

慌てて体を捻れば、そのままベッドに落とされて。

とっさに体を起こそうとしたけれど、覆いかぶさってきた蓮にそれを阻まれる。



……さっきの体勢、逆バージョン。

あ、いや加藤さんじゃなくて、私に人が変わっているけど。



って現実逃避しても、変わらないよねぇ? 現実は!



「まぁ、それはついで。本当の俺の目的は、葉月をその気にさせる事」


「その気?」


蓮はゆっくりと顔を近づけてくると、目を細めて私を見つめた。



「葉月をその気にさせれば、……すぐに結婚してくれるんだろ?」



「……!!」



にやりと笑う捕食者の笑みに、私の喉は声を出すことを放棄した。




私が一番の被害者なんじゃないの? これ!!
















翌日。


荷物を取りに自宅へと戻った私は、同棲・結婚の報告をすることになりました。

何があったとか……、聞かないで。ね……?


完結となります^^

お読み下さりありがとうございました。

お時間のあるお客様、最後のご案内……という名の私の反省話……にお立ち寄りいただけましたら、篠宮が跳ねて飛んで喜びます(笑

おまけもあるよ☆←

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