表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

息をのむ、音。

それは、私か。ここにいる誰かか。



返事を待つように私を見つめる蓮をじっと見返して、ゆっくりと頭を縦に振った。



「ホント……っ」


嬉しそうに笑う蓮の声を、思いっきり遮る。

「えぇ、本当。でも、二年くらい後でもいいんじゃない?」

「……は?」


ぴきりと固まった蓮。

私はゆっくりと立ち上がった。



「まぁ、今回の事、半分は謝る。私の勘違いだったのもあるし」

「え、だったら……」


呆然と片膝ついたまま見上げてくるその顔は、とっても可愛いけれど。

中身が真っ黒なのは、とうに理解してるからね。


ぽかん、と開いている口に何か詰め物でもしましょうか?


「でもさ。付き合い始めも流された感が半端ないのに、結婚まで流されたくないもの」


確かに今回の事に関しては、蓮が悪いところはほんの少しだったかもしれない。

むしろ被害者的な雰囲気だけど。


でもね?

だけどね?

結婚に関して言わせてもらえば……


「あんた、絶対外堀埋めてたでしょ」


この状況を考えれば。


びくりとするのは、近くに控える二家族の面々。

「私がその気になっていないのに、また流されたくない」



本当はさっき蓮に会うまでその気ではいたけれど、そこは華麗にスルー。

なんかもう、言われるままになってる気がしてきたし!

だれがこのまま頷いてやるか!


そして蓮を一瞥すると、私は部屋に上がるべく足を踏み出した。

とりあえず部屋を片付けない事には、今日の夜に寝る場所がない。



「……分かった、葉月」



リビングのドアまで辿り着いた時、後ろからぼそりと声が掛けられて足を止めた。

「え?」

座り込んでいた蓮が、ふらりと立ち上がる。

「二年っていうのは、とりあえず目安って事だろ?」



……あれ?

さっきまでの情けない表情が、なんか一変してるんだけど……?



「結婚が嫌でも、俺の事が嫌でもないって事はさ」



ゆっくりと向かってくる蓮の真っ黒い雰囲気に、思わず一歩後ずさった。

いろいろあって勢いで今日は突っ走っていたけれど、もとは口も達者じゃなければ強くもない。

憤りというガソリンが無くなれば、即エンスト起こしそうな今の私。



そしていつの間に復活したのか、蓮はいつも通り以上の威圧感をまとっていた。



傍まで来た蓮が、少し屈んで私の目を見据える。



「葉月が、その気になればいいんだろ?」


「へ?」



ぐいっと腕を取られて、廊下に押し出される。

蓮はニヤリと笑うと、顔をいまだ固まっている面々へと向けて爽やかに言い放った。


「お騒がせしました。誤解も解けましたので、俺達は当初の予定通り今日から一緒に暮らします」



……



「はぁ?! 当初の予定? 一緒に暮らすって初耳なんだけど!?」


いきなり何言いだしてるわけ!? っていうか、


「外堀埋めてた事、おおっぴらに開き直るんじゃない!」

何が、当初の予定通りだ!


けれど復活した蓮は、人の話を聞いちゃいない。


「という事で、どうぞ楽しく食事してください」

何が、楽しくお食事だ!

「ちょっ、止めてよ! みんなして呆けてないで!」

慌ててリビングを覗き込めば、なぜかほっとしている皆。


「え、なんで皆してほっとしてるの? ここは“娘をなんだと思ってる!”とかいうところじゃないの!?」


皆の態度に驚いて叫べば、だってねぇと司が苦笑した。

「結婚するのが嫌なわけじゃないんだろ? ただの誤解だったみたいだしさ。まぁ妹と蓮が同棲っていうとなんか悶えそうだけど」

「って言いながら、何気に私を追い出してない?」

「蓮くん以上にあんたを御せる人間なんていないんだから、ありがたく貰ってもらいなさい」

「はぁ?」

母親の言葉か、それ! いくら蓮がお気に入りだからってさ!



と、突っ込みつつ、男前を自負する私を宥めてフォローしてくれるのは確かに蓮だけどさ!

……自分で理解できちゃうところが、結構つらい所だな。


「段ボールが無駄にならなくてよかった」とか、こっそり話してるのちゃんと聞こえてんだけど!? 母親×二!!




「とにかくもう遅いし、一度戻りなさい」

お父さん、私が戻るところはここじゃなくて蓮のマンション限定なのですか??


「ではそういう事で。葉月、行こう」

車借りるよ、と蓮が陸に言うが早いか、再び掴まれる私の腕。

そしてリビングから出ようとした蓮が、思い出したように桜子さんへと目を向けた。




「言い忘れてた。桜子、後で覚えてろよ?」

言われた途端、桜子さんはぺろりと舌を出して可愛い……いやごめん、ぶりっ子状態でむかつく感じの甘い声を上げた。

「やだぁ、古藤センセてば気づいてたのぉ~? いや~ん、わ・す・れ・て?」


気づく?


意味が分からず蓮を見れば、冷たく目を眇めていた。

「ふざけるな。行くぞ、葉月」

「え? うわっ、ちょっと! 私、まだ了承してな……っ」



……後ろで聞こえる桜子さんの舌打ちの音と、蓮の真っ黒オーラに何もいう事も出来ず、引きずられるまま陸の車に放り込まれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ