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悪魔倶楽部  作者: ぴらみっど
魔都生誕編
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魔都生誕



「いやぁ酷い有様だね。まさにこの世の終わりってカンジ?」

 公園への移動中。男は辺りを見回しながら平然とそう語る。

 その非常にさばさばとした態度は、改めて見ても少し妙だった。人という人が道路に倒れたまま意識を取り戻さないのだ。普通ならばもっと慌てるか、落ち込んでいても良いはずである。余りにも危機感や悲壮感に欠けていた。かと言って、男がショックのあまりおかしくなったようにも見えない。


 隣を歩く樹流徒は黙って男の言葉を聞いていた。男の態度は不謹慎に見えなくもないが、そこに明確な悪意を感じるわけではない。

 それに樹流徒は今、相手をいちいち咎めるような心持ちではでなかった。


 男がひとしきり喋ってようやく静かになると、樹流徒は彼に話しかける。

「倒れている人たち……みんな死んでしまってるんですか?」

 あえて言葉を選ばずに直截的(ちょくせつてき)な表現で尋ねた。

「そのハズなんだけどさ。君が生きてるんだから他にも生存者いるかもね」

 男は即答した。

「そう言うアナタはなぜ無事なんです? あの光を浴びなかったんですか?」

「それは秘密。ところで君、本当に普通の人間だよね?」

「どういう意味です?」

「いや別に。特に深い意味は無いんだ、うん」

 男は取り繕うように微笑した。


 それから程なくして、二人は市営の公園に到着した。

 数本の外灯、時計、水道、それに公衆トイレとベンチが設置されている。あとは適当に刈り揃えられた芝生と濁った池があるだけの、だだっ広い場所だ。

 普段は市民にとって憩いの場となっているこの空間も、現在は異様かつ殺伐とした光景を晒している。犬のリードを握ったまま倒れている老人や、池に架かった橋の手すりにもたれかかり動かない青年などの姿が見えた。


「ベンチに座ろうか。あの辺には誰も倒れてないしね」

 という男の提案で、二人は公園の一角に置かれたベンチへ向かう。


 空よりも少し鮮やかな水色をしたその長椅子には、大人三人が余裕を持って座れるだけのスペースがあった。

 男はそこに腰掛け、樹流徒は彼の斜め向かいに立つ。


「君も座ったら?」

 男は掌でベンチを軽く二度叩く。

「結構です。それより話を聞かせて下さい」

「はは。つれないなぁ……。で、何を話すんだっけ?」

「僕たちを襲った黒い光の正体についてです」

「うん。そうだった。でもそれを説明するには先に話しておかなきゃいけないことがあるんだ」

「何です?」

「まずはじめにね。今回の一件は“悪魔”の仕業なんだよ」

「え」

 男の口から悪魔などという、予想だにしない単語が飛び出して、樹流徒はまともに返事が出来なかった。直後には小馬鹿にされたような気分になる。そのくらい突然の展開だった。


「驚いた? 君はモチロン悪魔を知ってるよね? 天使と悪魔の悪魔だよ」

「知ってますけど空想の産物ですから」

「いやそれが実在しちゃうんだな。信じられないだろうけどさ」

 男はそう答えてから

「ところで、君もあの巨大な“魔方陣”は見ただろ?」

 まだ得心がいかない樹流徒を半ば無視する形で、話を先へ進める。


「魔方陣って、もしかして上空に現れた変な図形のことですか?」

「そうそう。ご名答。あれは俺らの住む“現世”と悪魔たちが住む“魔界”とを繋ぐ扉なんだよ」

「現世と魔界を繋ぐ扉……」

 樹流徒は小首をかしげる。正直この()の話にはついてゆく自信が無かった。公園に来る前、男の口から「非常識でブッ飛んだ話になる」という前置きはされていたが、些か予想の範疇(はんちゅう)を超えていた。


「あの魔法陣は悪魔が出現させたんだ。つまり、悪魔がムリヤリ俺たちの世界に大穴を開けて通路を作ったってワケ。ホント迷惑な話だとは思わないかい?」

「信じ難い話ですが……悪魔と魔法陣のことは分かりました。けど、結局あの黒い光は何だったんですか?」

「それは今から説明しようと思ってたとこだよ。あの光はね、ニつの世界が繋がった瞬間の衝撃によって発生した現象なんだ。霊的な現象に近いって言えばいいのかな?」

「霊的な現象と言われてもピンとこないです」

「うん。まぁそれがフツーの反応だよね。でもそうとしか説明のしようが無いんだ」

「はぁ……」

「無理に信じろとは言わない。でも、とりあえず今は非科学ありきで話を進めさせて貰うよ。そうしないと何も言うこと無くなっちゃうからね」

「分かりました」

 樹流徒は、納得はできないが首を縦に振った。


「さて。魔法陣から降り注いだあの黒い光は、本来普通の人間が耐えられるようなものじゃないんだ。だけど君だけは何故かこうして生きている。これは一体どういう事なんだろうね?」

「それは僕が聞きたいです」

「君自身に心当たりは無い?」

「ええ」

 樹流徒は首肯する。本当に心当たりなどなかった。

 男は「なるほどね」と呟きながらニ、三回小さく頷く。


「ちなみに俺は今回の現象を“魔都生誕”と名付けた」

「マトせいたん?」

「そう。この都市は魔界と繋がっちゃったわけだからね。魔都と呼ぶにふさわしいでしょ。今日はその魔都が生まれた日。誕生日というわけだ」

「……」

 今回の事変を引き起こしたという悪魔。その悪魔が住むという魔界。

 現世と魔界を繋ぐ扉・魔法陣。

 そして魔都生誕……


 もう滅茶苦茶だった。樹流徒は、己の中で現実や常識といった概念が脆くも崩れてゆく音を確かに聞いた。




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