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悪魔倶楽部  作者: ぴらみっど
聖なる組織編
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話し合い



 意外……と言っては失礼かも知れないが、南方は思っていたよりも早く組織のメンバーを集めてくれた。

 樹流徒が一階ロビーで待つことほんの数分。複数の人影が固まっていた。ただし人数は多くない。南方、ベル、八坂兄妹の、たった四名である。皆、すでに樹流徒と面識がある者たちばかりだった。

 他のメンバーが召集を無視したわけではない。南方によると、現在アジトの中にいるのはこの四人で全員らしい。


 樹流徒たち五人は小さな輪を作って顔を向かい合わせた。

「貴様。素直に去ったかと思ったら、また来たのか」

 最も遅れて姿を見せた八坂が、開口一番不満を漏らす。両腕を組み、射るような視線を樹流徒へ向け、足は今すぐこの場を離れたそうに落ち着きが無い。体全体で樹流徒に対する敵意を表現していた。

 そんな兄の態度を、隣に立つ妹の早雪がたしなめる。

「駄目だよ“令司(れいじ)”。相馬さんに失礼だよ」

「失礼なものか」

 八坂兄妹の兄――令司は言い返した。

「組織の部外者を安易に信用するわけにいかない。悪魔の力を使うなどという得体の知れん輩は特にな」

 そう吐き捨て、樹流徒と妹の両方に対して顔を背けた。


「小競り合いなら後でやってくれ。それより、急な話があるんだって?」

 ベルが場を収めつつ話を先へと促す。

「はい。単刀直入に言います」

 樹流徒はそのように前置きをしてから

「この市はレビヤタンによって壊滅させられます」

 言葉通り直截簡明(ちょくせつかんめい)な説明をした。


 ほかの四人全員が口を閉ざす。不意打ちを食らったような顔。訝しげな表情。そして冷笑。一人一人微妙に異なった反応を見せる。ただ、彼らの反応は、樹流徒の口からもたらされた情報を容易に信じることができないという点において一致していた。話の内容が内容なだけに、仕方がないかも知れない。樹流徒自身もこの話を詩織から聞かされたときは、今の南方たちと同じような顔をしていたはずである。


「ええと、キルト君? レビヤタンって、魔界の深海に棲む、あの超巨大悪魔のことだよね?」

「らしいですね」

「確か、別名リヴァイアサン……だったか。ヤツが龍城寺を滅茶苦茶にするってのか?」

 念を押すように、ベルが尋ねる。

 樹流徒は無言で首肯した。

「う~ん。唐突な話だね。でもそれが本当だとしたら相当ヤバいよ」

 南方が少々オーバーリアクション気味に頭の後ろを掻く。

「ところでアンタはどうしてそんなことを知ってるんだ? ソースは?」

 続いてベルが樹流徒に対して情報源の所在を尋ねる。当然の疑問だろう。

 聞かれることは樹流徒も分かっていた。分かっていたが……

「それは答えられません」

「貴様、ふざけてるのか?」

 令司が一歩前に踏み出る。腰に携えた刀がカチャリと鳴いた。

 すかさず早雪が令司の腕を掴み、強引に引き戻す。兄の扱いには慣れている風だ。


「僕の言うことを信じるかどうかは皆さんそれぞれの判断に任せます」

「ふうん……。取り敢えず話は分かった。でもアンタ、一体何が目的で私らに情報を与える? 避難を促してるのか? それとも改めて共闘の申し出をするため?」

「前者です。地下鉄駅でも地下街でもいい。とにかく皆さん地中に隠れてください」

「情報の出所もハッキリしないような話を信頼するはずがないだろう。俺たちを罠に陥れるための虚言じゃないのか?」

 令司は、樹流徒の話が偽りであると決め付けるように、強い疑念を露にする。

「でも彼は少なくとも悪魔の味方では無いよ。それはこれまでの戦いで明らかだ」

 南方が物柔らかな口調で樹流徒を擁護するも

「だからといって俺たちの味方とは言い切れないだろう」

 刀を返すように、令司は鋭く反発した。

 彼は、それ以上は何も口にしない。素早く踵を返すと、歩き出した。五人の輪から外れてゆく。「待って」と引き止める妹の声にも反応せず、さっさと階段を上っていった。

「兄がごめんなさい相馬さん」

 軽く頭を下げると、早雪も令司の背中を追ってロビーから姿を消した。


 大した話し合いも出来ないうちに、人の輪が三角形になる。

「ま、こんな風になるかもしれないって、多少は想定してたよ。俺は最後まで聞くつもりだから、話を続けてくれキルト君」

「はい」

 南方の優しい言葉に、樹流徒は相槌を打った。気を取り直して話を再開する。


「レビヤタンは……仮に僕たち全員で立ち向かっても敵わない相手かも知れません」

「それは少し聞き捨てならないな。アンタ、私らの実力をどれだけ知ってるんだ?」

 侮ってもらっては困る、と言いたげにベルの眉が吊り上がった。

「いや。キルト君の言うことは正しいと思うよ。あの悪魔が相手だとしたら、ちょっと俺らの手には余るんじゃないかな」

「じゃあどうする? 相馬の忠告通り敵が去るまで地下に(こも)るのか?」

「ベヒモスを召喚します」

「あ? なんだって?」

「ベヒモスを現世に呼び出してレビヤタンと戦ってもらいます。僕が急いでここに戻って来た理由は、その方法をアナタ方に聞くためでもあるんです」

 バルバトスから授かったアイデアを、樹流徒が告げる。


 それを聞いたニ人は、どちらからともなく顔を見合わせ

「へえ。なるほど。ベヒモスか。いやあ大胆な手を考えたもんだね」

 南方が顎に手を添えて、感心したように頷いた。

 かたや、ベルは乾いた笑みを浮かべている。

「確かに面白い発案かも知れない。けど残念だったな」

「何が残念なんです?」

「私らの組織は悪魔召喚を禁じてンだよ」

「それは、イブ・ジェセルが悪魔と対立する組織だからですか?」 

「ああそうさ。分かってるじゃないか」

「というか、俺たちの普段の主な活動目的は“悪魔を召喚する人間を取り締まること”だからね」

「おい。どさくさに紛れて余分な情報まで漏らすな」

 ベルが南方を睨みつける。

「あはは。ごめんごめん」

「ま、とにかくそういうことだ。私らは立場上、悪魔召喚をするわけにはいかないし、させるわけにもいかないんだよ」

「そこを何とかなりませんか?」

「無茶言うな」

 ベルの声には段々と苛立ちがこもり始めているようだった。

「アンタが私らの手を一切借りずにベヒモスを召喚するって言うなら、見て見ぬフリをしてやってもいい。それが許容限度だ。無論、レビヤタンが現れなければそれすら許さないけどな。とにかく私らは積極的な協力は一切しない」

「そうですか……」

 組織の人間が、悪魔召喚に関する知識や情報を持っているのは間違い無さそうだ。問題は、その情報をどうやって彼らの口から引き出すかだか……ベルの頑として譲らぬ態度を前にすると、一度は粘った樹流徒も諦めざるを得なかった。


 ところが、この怪しい雲行きは次の瞬間にガラリと変わる。

「うん。いいよ。今回だけは特別だ。悪魔を現世に召喚する方法を教えてあげる」

 突然南方が、樹流徒の願いを受諾したのである。

 これには樹流徒も驚いたが、ベルの方はもっと驚いたらしい。

「待て。何勝手な約束してやがる」

 彼女は凄い剣幕で南方に詰め寄る。 

「だってしょうがないじゃない。他にあの悪魔を止める手なんて思いつかないしさ」

「ならばせめて隊長が戻ってくるまで待て。本当に敵が出現するかどうかも不明なんだぞ」

 南方とベル、組織の者同士の間で軋轢(あつれき)が生じる。

「お願いします。敵は今すぐ出現してもおかしくないんです」

 言い争いを眺めている時間が惜しい樹流徒は、語気を強めて割り込んだ。

 ベルの咎めるような視線が、南方の顔から樹流徒に移る。

「レビヤタンが現れるまで時間が無いってことか? どうしてそんなことまで分かる?」

「すいません、それも……」

 答えるわけにはいかなかった。

 ベルは深い吐息を漏らす。「話にならない」とでも言いたげな、憮然たる面持ちになった。


「まあまあベルちゃん。今回の件は俺の独断ってことでいいからさ。頼むよ」

 南方が顔の前で両手を合わせて懇願する。

「アンタがどうしてもそうするって言うなら私が止めても無駄だろ? だったら私はベヒモス召喚について何も聞かなかった事にさせてもらう」

「いやあ。ありがとね」

「けど、あとで組織からどんな罰を受けても知らないからな」

「罰?」

 樹流徒は南方の顔に視線を移す。

「ああ。大丈夫、大丈夫。事情を話せばきっと許してもらえるよ」

 南方は柔和な笑みで答えた。

「私はレビヤタン襲来の話がデマだと期待するよ。一応、いつでもここを脱出できるように最低限の準備だけはしとくけどさ」

 ベルは最後にそう言って、二人に背を向けると、足早に廊下の奥へと消えていった。




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