破滅の歌
ミカエルは全身から白煙を上げながら膝を突く。先刻まで埃一つ付着していなかった聖なる衣は、雷光に触れた空気の熱を浴びて袖や裾が溶けていた。ミカエル自身も頬や手の甲など全身の数ヶ所に火傷を負っている。軽傷には見えないが、ミカエルだからまだその程度で済んだと言えるだろう。
「主よ。もしアナタを目覚めさせたことにお怒りなのでしたら、お許しください。全ての天使と全宇宙の秩序のため、ミカエルたちはそうせざるを得なかったのです」
ラファエルは許しを請う。
神は何も答えない。十二の瞳は全てあらぬ方向を見ている。
「それともアナタの復活を妨げようとした私にお怒りなのですか? ならば私は贖罪に殉じましょう。私の命と引き換えに、その怒りをお鎮め下さい」
そこまで言っても、神は返事をしなかった。
樹流徒には神がほとんど機械に見えた。ミカエルとラファエルの訴えに対して神が無反応なのもその一因だが、理由は他にもある。
殺気がまるで感じられないのだ。神は強烈な気配こそ帯びているものの、殺気を放っていない。つまり神は殺意の欠片もなく樹流徒たちを攻撃してきたのである。殺気を感知できなければ不意の攻撃を避けるのは難しい。神が放った最初の攻撃をあわや樹流徒が被弾しそうになったのもそのためだった。
神とは斯様な存在なのか。外見こそ神と呼ぶに相応しい威容を誇っているが、ミカエルたちの訴えに反応しなかったり、殺気も無く攻撃をしてきたりと、まるで心を感じない。単に感情の起伏が乏しい者ならば、人間はもとより天使や悪魔の中にも大勢いる。だが彼らにも個々の感情や思考が確かに存在していた。その点、神は明らかに己の意思を持っていない者のように見える。そのような者が今までずっと神と崇められ天使たちの信仰を得ていたなど、樹流徒には到底思えなかった。あれは本当に神なのか? と疑問すら覚えた。
現にラファエルも明白な違和感を覚えたようである。神に許しを請うていた彼だったが、不意にぎくりとしたような顔をした。
「違う……。あれは主ではない」
いきなりそう断言する。神の御前も憚らず、神に向って「神ではないと」言い放ったのだ。
「どういう意味だ?」
樹流徒が詳しい説明を求めると、それにもラファエルは畏れず答える。
「復活の儀式により主はお目覚めになったかに思われた。しかしあの体には未だ主の魂と御意思が宿っていない。つまりあれはただの抜け殻だ。シオリが宿した力によって動いている人形に過ぎない」
「じゃあ……あれは本来の神じゃないという事か」
そこまで会話が進んだとき、神が動く。異形の胴体から生えた六本の手が三人に向いた。
神は樹流徒に向けた手の先から巨大な魔法陣を展開し氷塊を召喚する。樹流徒の視界を半分覆うほどの桁外れに大きな氷塊だ。一方、ラファエルに向けた手からは銀色に輝く竜巻が、そしてミカエルに対しては小さな炎の弾が放たれた。
樹流徒は全力疾走で横に駆けて頭上から降ってきた氷塊の落下地点から逃れる。氷塊は大地に激突すると鼓膜が破れそうな轟音と強烈な衝撃波を起こしてバラバラに砕け散った。かと思えば次の瞬間には大きな氷の破片が全て幻のように忽然と消滅してしまう。
そこから少し離れた場所ではラファエルが銀色の竜巻に襲われていた。ラファエルは素早く跳躍して回避したが、竜巻は地を這って彼を追跡する。気付いたラファエルが六枚の翼を広げ急上昇して逃れても竜巻はさらに彼を追った。両者の追いかけっこはラファエルが何度か方向転換をして逃げ回っている内に終わる。竜巻の大きさと勢いが急速に減衰してそのまま消滅した。
一方、ミカエルは飛来する小さな炎に対して、大げさなほど素早く遠くまで逃れていた。彼の判断は的確だった。地面に落下した火の玉は、その大きさからは到底想像できない規模の大爆発を起こしてミカエルが立っていた場所とその周辺を火の海と化す。炎が天へと駆け上り白い空を赤赤と染めた。
幸い今回は三人とも難を逃れたが、大規模な自然現象にも匹敵する神の攻撃に緊張感が高まる。神が動き出したときには細心の注意を払わなければいけない。油断は死を意味している。
それはそうと、やはり神は攻撃の際に殺気を放っていなかった。殺気だけでなく神の挙動一つ一つから喜怒哀楽の感情が一切感じられない。まさに機械。まさに抜け殻だ。神にはまだ本来の意識が戻っていないというラファエルの言葉が真実味を帯びてきた。
「どういう事だ? 復活の儀が失敗したというのか?」
その可能性にミカエルが思い至る。
十分考えられる話だった。ミカエルがどのような儀式をしたのか、その儀式にどれだけの確実性があったのかは分からないが「少なくとも神を完全な状態で復活させるのは不可能だ」とルシファーは指摘していた。神の力と命の欠片は、NBW事件の被害者四人が有している。その内一つしか持たない詩織を利用しても神を完全復活させるのは不可能という理屈である。
その点はミカエルも重々承知していただろう。承知した上で彼は儀式を実行せざるを得なかったのだ。ウリエルの反乱が起こり、悪魔との戦争が始まったことで、聖界は未曾有の危機に陥り、天使たちは追い詰められていた。ゆえに、ミカエルはたとえ不完全だとしても急いで神を蘇らせる必要があった。
ところが不完全な儀式のせいで、神の魂と意識は蘇らず肉体だけが動き出してしまった。つまり無意識の神が暴走を始めてしまったのだ。これはミカエルにとって完全に誤算である。証拠に今ミカエルの瞳は動揺の色を浮かべていた。神の復活は実質的に失敗したのだから動揺するなという方が無理である。
一方、樹流徒もミカエルとは別の理由で内心焦っていた。その理由とはもちろん、神と融合した詩織の安否である。彼女はまだ生きているのか? 最悪な未来が脳裏に浮かんでしまう。それは意識の中から何度排除しても、詩織の姿を見れば否応なしに蘇ってきた。「彼女はもう二度と目覚めない」というミカエルの言葉がどうしても頭から離れない。
表面上冷静なラファエルも多少は戸惑いを感じているはずだ。ミカエルほどではないにせよ神の不完全な復活に衝撃を受けているはずだし、樹流徒ほどではないにせよ詩織の安否を気にしているに違いない。
ただ、このとき樹流徒はまだ知らなかったのである。いま自分たちが感じている焦りや動揺は、まだ絶望の序曲に過ぎないことを。真の恐怖はすぐ目前に迫っていることを。
苦境に立たされた三人に追い討ちをかけるように、最悪の事態が起きた。
始まりは突然だった。神の背には計二十四枚の翼と羽根が生えている。内、白い翼の一枚がぼんやりと銀色の光を帯びたのである。
その神秘的な輝きから樹流徒は得体の知れない凄まじい力を感じた。神が強力な一撃を放とうとしているのかもしれない。そう警戒する。逆に言えばそれ以上の危機感は覚えていなかった。ミカエルとラファエルも同じだろう。
彼らの認識は、次に神が取った行動により一変する。
出し抜けに謎の旋律が一帯の空気を震動させた。それは口無き神の顔が奏でた歌だった。この世のものとは思えぬほど美しい歌声だ。雄雄しさと優しさと気高さに満ち満ちている。だが、その旋律には樹流徒が考えもしなかった不吉な意味が込められていた。
神が奏でた旋律を聞いた瞬間の、ラファエルとミカエルの驚きようは異常だった。二人とも目を見開き我を失ったように全身を固める。
「どうした?」
二人の様子を不審に思って樹流徒が声を掛ける。
ラファエルははっとしたように樹流徒の方を見た。
「そうか。君には主の御言葉が分からないのだね」
「言葉? 今の歌が?」
樹流徒の耳には鳥肌が立つほど美しい旋律にしか聞こえなかったが、ラファエルたちには意味のある言葉として聞こえたらしい。
「もっとも、魂が宿らないあの抜け殻は主であって主ではない。今の言葉もあの方の御意思とは無関係に発せられたものだ」
「それで、神の抜け殻は何と言ったんだ?」
「聞き間違いであって欲しいのだが……」
ラファエルは今までになく神妙な面持ちでそう前置きをしてから、神の言葉の内容を語る。
「主はこう仰られた。“これより新たな宇宙を創造する”と」
新しい宇宙の創造……果たしてそれが物理的にどんな現象を指すのか、細かい事は分からなかった。ただ途方も無い規模の現象であることは樹流徒にも容易に想像がつく。ミカエルとラファエルの反応からして何か大変なことが起きようとしているのも分かった。
具体的にどう大変なのかはラファエルの口から聞かされる。
「主は新たな宇宙を創造し、今ある宇宙を消滅させるおつもりだ」
「宇宙を消す……」
「そうだ。主は宇宙誕生に必要な真空エネルギーを溜めている。真空エネルギーは凄まじい勢いで膨張したあと熱エネルギーへと転化しビッグバンを起こす。その後もさらに膨らみ続けるだろう。結果、聖界は滅びる」
「そんな馬鹿な」
「聖界だけじゃない。今、聖界と繋がっている現世や魔界も終焉を迎える」
ラファエルは断言する。決して脅しや冗談ではないだろう。
眠りから目覚めた神が世界を滅ぼす。天使も悪魔も、誰もが想像していなかったであろう急展開だった。ラファエルの言葉が本当ならば、最早戦争などしている場合ではない。神を止めなければ全員この世から消えてしまうのだから。
ミカエルの端正な唇がわなわなと震えていた。すでに樹流徒も知っての通り、ミカエルが神を復活させたのは、ミカエル自身の望みよりも全ての天使のためという気持ちが強かったからだ。もし神を失えば天使たち自分たちの存在意義も、信じていた絶対の正義も、全てを無くしてしまう。それを防ごうとミカエルは、おそらく不本意ながらも詩織を連れ去ってでも神を復活させた。しかしその結果が聖界の終焉と天使の全滅では皮肉極まりない。
「主よ! なぜです? 我々天使はこれまでアナタに尽くしてきました。なのにこの仕打ちはあまりにも無慈悲ではありませんか」
ミカエルは叫ぶが、おそらく無意味な行為だった。いまの神は自我が存在せず無意識に行動しているに過ぎない。ただの破壊者として暴走しているだけなのだ。
「しかし新しい宇宙の創造なんて可能なのか?」
樹流徒は疑問を呈する。全知全能の神ならば可能だろうが、今の神は不完全な力しか持っていない。にもかかわらず宇宙創造などという超大規模な現象を起こせるのだろうか。
「主が完全な状態ならば瞬時にも可能なことだ。しかし不完全な復活ゆえに、現象を起こすまで時間がかかるのかもしれない」
「なるほど。逆にそういう風にも考えられるか……」
ラファエルの説明に樹流徒が納得していると、神の背中に開いた二十四枚の翼と羽のうち、今度は漆黒の羽が暗色の光を宿した。呼応して神から放たれる得体の知れない力が増幅する。宇宙創造に必要な真空エネルギーがさらに溜まったのだろう。
こうなると樹流徒たちはなんとしても神の暴挙を食い止めなければいけなかった。
ただし事はそう単純ではない。樹流徒とミカエルは、それぞれ究極の選択を迫られていた。
宇宙創造を止めるには、神を攻撃し、場合によっては倒す必要がある。だがその結果、神と一体化している詩織の身に最悪の事態が起こらないとも限らない。神の宇宙創造を止めなければ現世、魔界、聖界、三つの世界が滅びる。龍城寺市と繋がる根の国にも被害が及べば四つの世界だ。だがそれらの世界を守るために、詩織の命を犠牲にしてしまう危険性がある。彼女の命を顧みずに神を止めなければいけないのか? 重い選択が樹流徒の両肩にのしかかっていた。
かたやミカエルにとって、神は今でも絶対の存在であり、天使と全宇宙にとって必要不可欠な存在である。たとえ神が暴走して聖界と宇宙を滅ぼそうとしても、ミカエルは簡単に割り切って攻撃などできないだろう。神に逆らってでも聖界と天使たちの命を守るべきか。それとも、たとえ神が暴走していたとしても彼が宇宙創造を望むならばそれに従うべきか、彼は選択しなければいけないのだ。
そんな二人とは異なり、唯一自分なりの答えを持っているのがラファエルだった。
「聖界に住む天使たちのため、そして現世で生きるニンゲンたちのためにも、私は主を再び安らかな眠りにつかせよう。それが主の望みであると私は信じる」
彼は自分自身に確認を取るように、改めて決意を述べた。
「眠りに就かせると言っても、どうするつもりだ?」
嫌な予感を覚えながら樹流徒が尋ねる。それはきっとミカエルの疑問でもあった。
「主がシオリの力を源にして動いているならば、彼女を主の体から引き離す。そうすれば全て解決するかもしれない。でも、もしそれが無理だと判断すれば……」
ラファエルは神妙な顔で一拍置いてから
「無理と判断すれば、残念だがすぐにでもシオリの命を断つしかない」
「……」
樹流徒は言葉を失った。今の状況を考えればラファエルの答えは現実的である。しかし樹流徒の個人の感情はそれを受け入れられない。神の体から詩織を無事に引き離すという案は理想的だが、それが不可能だった場合彼女を殺すという案には同意できなかった。
ミカエルは賛成も反対もしない。彼の場合はそれどころではなかった。
「私は主に逆らう事などできない。たとえあの体に主の魂が宿っていなかったとしても、主がこの世を滅ぼそうとしても……。だが、私は聖界に住まう天使たちの命を見捨てるわけにもいかない。教えてくれラファエル。私はどうすれば良い?」
ミカエルは戸惑いに満ちた瞳でラファエルを見つめる。正しい答えと救いを求める目だった。本来それを受け止めるのが神の存在なのだろうが、彼はもうこの世にいないも同然である。
主を愛する者としての感情。天使の長としての感情。双方がせめぎ合ってミカエルを苦しめていた。彼の立場や心境を考えると、樹流徒もおいそれとミカエルを糾弾する気にはなれない。第一、いまさら彼を責めたところで何かが変わるわけでもなかった。
ラファエルは神を眠りに就かせることを決断し、ミカエルは神への忠誠と天使の長としての責任の間で板ばさみに合って身動きが取れずにいる。
そして樹流徒は、ラファエルとミカエルの中間的な心境に置かれていた。神の体から詩織を解放したいという答えは持ちながら、それを確実に成功させる方法が分からずに身動きが取れない。
力尽くで詩織を救出できれば良いが、それを試みるのは危険だった。何しろ詩織と神がどのような状態で繋がっているか分からない。人間の喉から魚の骨を取り除くように神の体内から詩織の体を取り出せるのならば何も迷う必要はないが、果たしてそう上手くいくのだろうか。たとえば詩織と神が神経レベルで繋がっていれば神に与えた痛みは詩織にも伝わるかもしれない。その痛みで詩織がショック死する危険性がないと、誰が断言できるだろう。できるのはミカエルくらいだ。復活の儀式を行なった彼だけは詩織がどのような状態で神と結びついているか知っている。だがミカエルは語らないし、彼が語らなければ樹流徒は詩織を救出するどころか、おいそれと神に攻撃することさえできないのだった。
それも承知の上で神と戦おうというのがラファエルである。彼の行動を樹流徒は止めなければいけなかった。
「待ってくれラファエル。神を攻撃すれば伊佐木さんにどんな影響があるか分からない。俺は彼女を殺したくない」
「それは私も同じだよ。しかし今、主を止めなければ少なくとも聖界、現世、魔界という三つの世界が滅びる。君は一人の仲間と三つの世界と、どちらを選ぶ?」
ラファエルの問いに、樹流徒は即答できなかった。詩織の命を取るか、三つの世界に住む者たち全ての命を取るか、簡単に選べるはずが無い。
だが選ばなければいけないのだ。早くしなければ神が新しい宇宙を生み出してしまう。
樹流徒は今まで生きてきた中で一番頭を捻った。必死に考えて、考えて、考え抜いた。
そして答えを出した。
「俺はどちらも選ばない。伊佐木さんも救ってみせるし、宇宙創造もさせない」
「……」
「だから頼むラファエル。神が宇宙創造を始める直前まで、伊佐木さんを助ける手段を一緒に探してくれ」
「もしそれでも彼女を助ける方法が見つからなかったら?」
「それは……」
樹流徒は奥歯をぐっとかんだ。
「そのときは俺が神を止める」
それはつまり、時間内に詩織を救う方法が見つからなければ、せめて樹流徒が自分の手で詩織を殺すという決断だった。
ラファエルは涼しげな、下手をすれば冷ややとも思える顔付きになる。
「宇宙創造の直前までシオリを救出しようと粘った結果、全てが手遅れになったらどうする? 私たちだけでなく、全ての天使と悪魔、そしてニンゲンも滅びるのだよ?」
「分かっている。でも俺は最後まで仲間の命を諦めたくない」
「ニンゲンという生き物は時に醜くあがこうとする。己の力を過信し、いかなる運命にも、人智を超えた存在に対しても、逆らおうとする。多くの天使がその醜さや浅ましさを嘲笑い、あきれるものだ」
たしかウリエルも似た様なことを言っていた。
この調子だとラファエルは提案に乗ってくれそうに無い。しかし彼を恨むのはお門違いというものだ。ラファエルの言っていることは間違っていない。手遅れになる前に詩織の命を奪って宇宙の危機を回避するのが最も合理的な考え方なのだろうから。
樹流徒はラファエルの説得を諦めた。こうなったら自分一人の力で詩織を救出するしかない。そう覚悟を決めた。
ところが、ラファエルの言葉にはまだ続きがあったのである。
「しかし私は、君たちニンゲンの、その醜さが好きだ。その醜さは我々が持っていない心の強さでもある。私はきっとその強さに惹かれたのだ。ガブリエルも同じだろう。だから我々はニンゲンに好意を持った」
「……」
「キルトよ。私は君の……いや、ニンゲンが持つ力と可能性に賭けてみよう。シオリを救う方法を最後まで諦めずに探そうじゃないか」
そう言ってラファエルは最初に出会ったときと同じ穏やかな笑みを浮かべた。
これほど頼もしく嬉しい言葉は無かった。もう迷いは無い。樹流徒は神と詩織を見つめる。
樹流徒個人の感情で言えば、神(光の者)には感謝の気持ちがあった。光の者は全人類の始祖であり、彼が授けてくれた力によって樹流徒は魔都生誕の影響から生き延び、今日まで戦ってこられた。だから、もし詩織を助けることができたら、そのあとは神を倒すのではない。ラファエルが言ったように、神を安らかな眠りに帰してあげようと思った。
神の二十四枚の翼と羽のうち、三枚目が輝く。合わせて宇宙創造を引き起こす真空エネルギーの密度が高まり、世界滅亡までのカウントが進んだ。
「エネルギーの高まり具合から計算して、おそらく全ての翼が光ったときが宇宙創造の瞬間だ。その一歩手前……つまり二十三枚目の翼が光ったときが最後だと思ってくれ」
ラファエルの言葉を樹流徒は肝に銘じた。
なんとしても制限時間の内に詩織を救出する方法を見つけ、それを実行しなければいけない。
ラファエルはミカエルをちらと見た。
「できればどのような儀式で主を復活させたのか知りたいが、ミカエルは話さないだろうな」
それを話すことは神に対する反逆行為になる。そしてミカエルは神を裏切れない。詩織を救出する方法を聞きだすのは困難だろう。