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悪魔倶楽部  作者: ぴらみっど
聖界編
327/359

火の鳥



 外に出た三人は頭や視線を振って周辺の状況を確認する。

 樹流徒が地下牢獄にいた時間は長く見積もっても三十分に満たない。その短い時間の内に戦闘がかなり激化していた。町に入り込んだ悪魔の数が急に増えた証拠である。第四天の台座を守護していた天使の部隊が壊滅したのかもしれない。


 エレベーターの頭上には見張りの天使が待機していたはずだが、彼らはいつの間にか姿を消していた。悪魔に倒されたか、あるいは味方の援護に向かったのだろう。地下牢獄の檻は合言葉を知らなければ破れない。悪魔が合言葉を知っているはずもないので、見張りの天使が持ち場を放棄して味方の援護に向かおうと判断しても、決して不思議でなかった。


 遠くの空で異形の影が十前後、激しく動き回っている。一体の悪魔が天使の集団を相手に苦戦していた。悪魔の数が増えたとはいえ、依然この町では天使の方が圧倒的に多いのである。

 天使の集中砲火から逃げ回る悪魔の影を、ウリエルの視線が追う。彼は複雑そうな顔をしていた。悪魔に対して決して良い感情は持っていないが、過去の真実を知った今、彼らを以前ほど敵視も出来ない。そんな表情に見える。


 ウリエルは悪魔と戦うつもりなのだろうか。地下牢獄から彼を解放した樹流徒としては、勝手な頼みだがウリエルには悪魔に手出しをしないで欲しかった。もし悪魔が問答無用で襲い掛かってくればウリエルは自己防衛ために戦わざるを得ないだろう。その行為まで止めるつもりはない。ただ、自ら積極的に戦いを仕掛けるのは控えて欲しかった。

「悪魔と遭遇したら戦うつもりか?」

 樹流徒が聞くと

「心配せずとも悪魔などに構っている暇は無い。奴らがこちらの進路を妨害しない限りは放っておく」

 ウリエルは明らかに樹流徒の心中を読んでそう答えた。

 空に閃光が走り、悪魔の影が消滅する。侵入者を排除した天使たちは次なる標的を求めて四方へ散っていった。

「行きましょう。第六天に続く台座は町の中心にあります」

 ガブリエルが次の行動を促す。

 樹流徒は相槌を打ち、ウリエルは黙諾して、三人は空へ舞った。


 町はとても広いが樹流徒の飛行速度を考えれば中心部までの距離は決して遠くない。しかしそれはあくまで単純な距離の話である。実際の道のりは遠く険しかった。樹流徒たちの行く手には数多くの天使が待ち受けている。

 地下牢獄からまだ百メートルも進まない内に早速天使が迫ってきた。数は四。男の天使三体に女の天使一体という編成だ。彼らは皆、剣や槍や弓などで武装している。また全員が簡素な白い衣を身につけており、一名だけ衣の上から肘当てやすね当て、そして小さな胸当てを装備していた。


 樹流徒たちと四名の天使は十分な間合いを取って向かい合う。互いに警戒している様子だった。

 天使の瞳という瞳が二名の脱獄囚を凝視する。

「ガブリエル様、ウリエル様。なぜアナタ方がここに?」

 男の天使が驚きに目を丸くした。

「いつ、どうやって脱獄したのですか?」

 別の男は不審顔を作って息を荒くする。普段抑揚の無いであろう天使たちの表情が、この時ばかりは豊かだった。

 彼らの眼中に樹流徒の姿は映っていないらしい。それだけ天使がガブリエルとウリエルの脱獄に驚いている証拠と言えるだろう。

 天使たちの質問にウリエルは応じず

「黙って我々を行かせて欲しい」

 要求だけを述べた。

「どこへ行き、何をするおつもりですか?」

 女性天使の質問にも

「時間が惜しい。黙って我々を行かせてくれ」

 やや語気を強くして、ウリエルは同じ答えを返す。

「今すぐ牢にお戻り下さい」

 男の天使が武器を構えた。

 一触即発の雰囲気に、ガブリエルがひとつ前へ進み出る。

「私たちは目的を果たすまで牢に戻れません。ですがアナタたちと争いたくありません。どうか私たちに道を譲ってください」

 彼女が言っても、天使たちは「なりません」と一向に折れない。

 双方引くつもりが無いのは明白だった。

「仕方あるまい」

 強烈な殺気と共にウリエルの両手が激しい炎を纏った。

「最後にもう一度だけ頼もう。大人しく我々を先に進ませて欲しい。でなけば実力で道を作る」

 それは頼みというより警告や脅迫の類であったが、天使たちは考えを改めない。

「主の命に従い、我々はアナタ方を止めます」

 言い終えたときにはもう、炎を纏ったウリエルの手が天使の腹を貫通していた。

 瞬時に間合いを詰めてきた彼に驚いて、他の天使たちは群れを崩し後退する。

 炎の手に貫かれた天使はたちどころに全身灰となって、灰は風に流されながら聖魂と化した。


 ウリエルの先制攻撃で天使たちは完全に浮き足立っている。

 好機と判断したか、ガブリエルが動く。彼女の手の先から白い空洞が生まれ、銀色の鎖が何本も飛び出した。無限に伸びる鎖は残った天使三体のうち二体をいとも簡単に捕縛する。素早い反応で鎖を避けた天使も、逃れた先に回り込んでいた樹流徒の爪に胸を貫かれて絶命した。


 白い空洞が口を閉じて鎖を噛み千切る。切り離された鎖は二体の天使を捕えたまま落下した。

 天使は受身も取れず頭や背中から地面に叩きつけられる。その程度の衝撃で死ぬ彼らではないが、身動きは取れないままだった。いくら四肢に力を込めても、地面を転がっても、体に巻きついた鎖は解けない。

「あの鎖はある程度時間が経過すると勝手に消えます。今の内に先へ急ぎましょう」

 ガブリエルは地上でもがく天使たちを見つめながら言う。彼女は敢えて相手を殺さなかったのだろう。殺さず戦闘不能にするために鎖で捕縛したのだ。

「相変わらず汝は甘いな。天使に対してはもとより、ニンゲンに対しても、下手をすれば悪魔に対してさえもそうだ。その甘さが戦場では命取りになりかねないぞ」

 ウリエルが苦言を呈すると、ガブリエルは褒められでもしたように柔和な笑みを浮かべた。実際彼女にとって「甘い」という言葉は「優しい」という意味の褒め言葉なのかもしれない。


 天使の襲撃を退けた樹流徒たちは先を急ぐ。目的地は近くて遠い。今の戦いは長い連戦の始まりに過ぎないのだから。


 予想通り、その後も町の中心を目指す三人の前に、次から次へと新たな天使が立ちはだかった。

 樹流徒たちと対峙した天使の反応は、紋切り型の挨拶でもするかのように皆同じだった。まずはじめにガブリエルとウリエルの脱獄に驚き、次に二人がどうやって牢を出たか、牢を出て何をする気かを問う。そして最後には大人しく地下牢へ戻るように警告するのだ。天使たちの反応にわずでも違いがあるとすれば、樹流徒の存在に言及するかしないかくらいだった。しかしそれも天使らにとってはセラフィム二人の脱獄に比べれば大した問題ではないらしい。ほとんどの天使が胡乱(うろん)な目で樹流徒を一瞥するだけで、彼らの関心はおよそ全てガブリエルとウリエルの存在に向けられていた。


 道を塞ぐ天使に対して、ウリエルはもう「先へ行かせて欲しい」などと説得はしなかった。説得しても天使たちが決して引かないことを理解しているのだ。現にガブリエルは懲りずに相手を説得しようと試みるのだが、耳を貸す物は誰一人いなかった。天使たちは口を揃えて「主のため」「主の命に従い」を唱え、頑として三人を先に進ませようとはしなかった。


 例外なく、最終的には戦闘へ突入する。

 ウリエルとガブリエルの実力は他の天使を圧倒していた。悪魔で例えればベルゼブブに近いか、もしかすると同等の実力かもしれない。そう考えると、いま樹流徒の傍らには二体のベルゼブブがいるのだ。こんなにも恐ろしく頼もしい味方はなかった。


 たとえこの世界の天使が下層の住人より強くても、樹流徒たち三人が固まって行動している限り相手にならない。勝負が始まってもあっという間に決着がついた。戦闘に要する時間よりも、その前に交わされる会話の方が長いくらいである。


 今また樹流徒たちは二十体もの天使に囲まれるが、苦戦の予感は無かった。

 ウリエルは虚空から身の丈三倍はあろうかという剣を呼び出す。赤い刀身はそれ自体が炎であるかのように絶えず火の粉を撒いていた。炎の大剣だ。普通ならば持ちあげるだけでも苦労しそうなその武器を、ウリエルは片手で軽々と操った。彼がひと薙ぎすると炎の如き大剣は本物の猛火を放つ。真紅の刃と紅蓮の炎が一度に四体もの天使を斬り、燃やし尽くした。


 一方、ガブリエルも空中から武器を取り出す。彼女が手にしたのは二メートル近い長弓。白を基調とした板に黄金色の金属で美しい装飾が施されていた。ガブリエルが弦を弾くと虚空に光の矢が生まれ、天使の体を射抜く。光の矢は相手の肉体を一切傷つけず、代わりに射抜いた者を一種の麻痺状態に陥らせた。


 やはりガブリエルは相手を殺したくないようだ。鎖で捕縛した天使たちと同様、光の弓で射抜いた者たちも多少時間が経過すれば体の自由を取り戻すのだという。ずっと身動きが取れないままでは、この世界にやってきた悪魔になぶり殺しにされてしまうからである。

 ガブリエルの不殺行為に対して樹流徒は敬意を抱きながらも、自分はそこまで器用な真似はできないと思った。己の身を守るためにも、一刻も早く先へ進むためにも、今は全力で戦うしかない。


 また、ガブリエルのやり方が決して正しいとも言い切れないのだった。彼女は天使たちを殺さないように戦っているが、生かしておいた天使たちは、この世界にやって来た悪魔たちを殺すだろう。天使を生かすことは間接的に悪魔を殺すことに繋がる。では天使の命を遠慮なく奪うのが正しいのか? と問われればそれも決して肯定できない。きっと正解など存在しないのだ。戦争とはそういう矛盾を沢山抱えたモノなのだろう。


 樹流徒は不快な気持ちを胸で噛みながら氷の鎌を振り回して敵の命を刈り取る。天使に痛覚があるかどうかは知らないが、せめて痛みを感じないように可能ならば一撃で葬ってやるのが、対戦相手にしてあげられるせめてもの情けだった。

 図らずもその行為は敵を短時間で撃破する結果に繋がる。二十体もの天使は、戦闘開始からわずか一分足らずで半分以下に減っていた。残った天使を全滅させるまで樹流徒たちがどの程度時間を要したか、語るには及ばない


 次の世界目指して猛進する三人は、戦闘の度に多少の時間をかけながらも、気が付けば町の中心部に到達していた。樹流徒一人で正面突破を図っていたらこんなに早くたどり着けなかったはずである。下手をすればルシファーみたく大勢の天使に囲まれて身動きが取れなくなっていたかもしれない。


 町の中心は円形の広場になっており、中央に転送装置が設置されていた。さすがにそこは守りが厳重で、天使の数は三百程度だが個々の実力は高そうに見える。とりわけ台座のすぐそばに佇んでいる一体は戦う前から間違いなく強敵だと分かった。若い男の姿をした戦士風の天使である。白と青の衣の上から銀の甲冑を纏い、背中から一対の翼が生えていた。手には美しい装飾が施された銀の剣を握り締めている。


 樹流徒たちが上空に姿を現わすと、台座を守る天使たちが光の弾丸や弓矢などを狂ったように飛ばしてきた。

 ガブリエルは両手を前に出して黄金色に輝く魔法陣型の盾を展開する。かなり範囲が広い盾で、それはガブリエル本人だけでなく隣の樹流徒とウリエルも守った。大きさだけでなく頑丈さも兼ね備えており、地上から飛んでくる攻撃の雨を全て受け止めてびくともしない。


 ガブリエルの盾が消える前に、樹流徒とウリエルは別々の方向へ飛び出した。

 樹流徒はダミーを三体生み出して囮にすると、乱れ舞う攻撃をかわしながら空中の天使に接近。炎の爪と氷のレイピアで二体を撃破した。ウリエルも炎の大剣で天使を一体葬る。


 直後、ガブリエルは背後から接近する不穏な影に気付いて盾を解除した。

 彼女は身を翻すと、目の前に現れた天使に対して意外にも自ら接近戦を挑んでゆく。相手はガブリエルの三倍はあろうかという巨漢の天使だった。ごく普通の長槍を装備しているが持ち主の体が大きいので短い槍に見える。

 ガブリエルは槍の一突きをかわしながら相手の懐に潜り込む。すかさず巨漢のみぞおちを掌で押した。刹那、彼女の手に白銀の光が宿る。

 巨漢は大げさに見えるほどの勢いで後方へ吹き飛んだ。凄まじい衝撃力である。悪魔と同様、天使の能力も見た目では測れない。今見せた身のこなしといい、相手を吹き飛ばした力といい、ガブリエルは非力そうな外見や非暴力的な雰囲気とは裏腹に格闘能力に長けていた。

 その光景を偶然にも視界に捉えていた樹流徒は、ガブリエルの動きに驚きつつ、こう思った。

 ――彼女にはそれほど余裕が無い。


 先刻承知の通り、ガブリエルは極力天使たちを傷つけないように戦っている。これまで彼女は何らかの手段で相手の動きを封じるという戦法に徹してきた。それがここに来て初めて接近戦を挑み、相手に直接ダメージを与えたのである。余裕を失ったガブリエルがやむを得ず取った行動と考えるしかないだろう。いかに彼女がベルゼブブに匹敵する力の持ち主だったとしても、相手を殺さず、なるべくダメージを与えずに戦おうとすれば苦戦を強いられる。

 ただガブリエルの凄いところは、余裕が無くても相手の命を奪わないことだった。誤って殺さないように攻撃を手加減している。彼女に吹き飛ばされた巨漢の天使は地上に墜落したが、大してダメージを負っていないらしく、すぐに立ち上がった。


 厳しい戦いを強いられているのは、何も不殺という縛りの中で戦っているガブリエルだけではない。持てる力を遠慮無く発揮している樹流徒とウリエルもそれなりに苦戦していた。敵の攻撃が激しく自由に動けないとはいえ、合わせて三体しか敵を落とせなかったのである。先ほどまでならば十秒もあれば一人で同じ数を倒せていたのに。やはり台座を守護している天使たちは、この世界最後の砦だけあって全員戦闘能力が高い。

 彼ら屈強な天使の中でも一際強そうだと樹流徒が目したのは、台座付近に佇む戦士風の天使である。

 その天使は頭上を仰いでいた。周囲の天使とは違って一切攻撃はせず、ただジッと空を睨んでいる。

 と思えば、彼は急に動いた。軽やかに空へ羽ばたき、ウリエルめがけて一直線に飛び掛かってゆく。一騎打ちの勝負を挑もうというのか。


 戦士風の天使にウリエルの相手を任せて、他の天使たちは樹流徒とガブリエルに遠距離攻撃を集中させた。ガブリエルは逃げ回るだけで反撃の機を得られない。

 樹流徒は鋼の体に変身すると、敵の攻撃を受け止めながら反撃が可能だった。天使が大勢固まっている場所に狙いを定めて、両手から火炎砲を、口から三発の青い火球を一斉発射する。

 二発の火炎砲は直撃こそしなかったものの、地面で弾けて何本もの炎の柱を周囲へ飛び散らせた。天使三体が火柱に飲み込まれて燃え尽きる。一方の青い火球も天使の魔法壁に防がれて不発に見えたが、鳥、蛇、獣、へと姿を変え、別の天使に襲いかかった。そして敵に触れると大爆発を起こし爆発の中心にいた天使を塵と化える。爆発の近くに者も炎に飲まれ、死にこそ至らないものの戦闘不能に陥るダメージを負った。


 樹流徒の攻撃が天使を驚かせている間にも、ウリエルと戦士風の天使による激しい一騎打ちが空中で展開する。

 ウリエルは雷を纏った剣を装備していた。身の丈三倍はあろうかという炎の大剣とは違い、形状はごく普通の剣だ。その雷剣と相手の剣が火花を散らせる鍔迫り合いをしていた。


 戦士風の天使はウリエルを睨む。

「主の存在を疑い、偽りの言葉で数多くの天使を惑わし、さらには反乱を起こして聖界の地を汚した大罪人よ。これ以上罪を重ねれば牢獄への幽閉だけでは済まなくなるぞ」

「聞け“アブディエル”。私は一度として嘘偽りを述べたことはない。我々は今まで神にたばかられていたのだ」

「この期に及んでアナタはまだそのような虚言を申すか」

 アブディエルと呼ばれた戦士は鍔迫り合いの体勢から自ら後ろへ跳ね返ると、ウリエルに掌を向けた。手の先から白銀の炎が広がり、さながら吹雪のような激しさでウリエルへと襲い掛かる。


 ウリエルは魔法壁で炎を凌ぐと、雷剣を斜めに振り下ろした。剣の先から雷が伸びて長い鞭となり、アブディエルの頭上めがけて落ちる。

 アブディエルは剣を寝かせて雷の鞭を受けた。その動きを見越していたであろうウリエルは振り払った雷剣を素早く返し、第二、第三撃を放つ。

 上から、右から、左からと襲い来る雷の鞭をアブディエルは全て冷静に受け止めた。ウリエルが足下を狙って振り払った鞭も急上昇して回避すると、逃れた先で剣を真っ直ぐ振り下ろして空を切り裂く。

 彼の挙動に合わせてウリエルの頭上に白い空洞が浮かんだ。危険を察知したウリエルは横へ逃れる。空洞から灼熱の炎が降り注ぎ、ウリエルがいた場所を通過して地面に激突した。不運にもその場に居合わせた天使一体が炎に飲み込まれて命を落とす。


 回避行動を終えたウリエルは雷剣の代わりに炎の大剣を装備した。彼は目にも止まらぬ速さでアブディエルに接近すると、長大な武器を遠目から振り払う。アブディエルは後ろに下がってやり過ごした。ウリエルはまたすぐに換装して雷の剣に持ち替えると相手を追う。

 ここでもう一度下がればウリエルの勢いに飲まれると直感したか、アブディエルも武器を構えて応戦した。剣と剣がぶつかり合い、力と力がせめぎ合う。

 再び鍔迫り合いになったと言うにはいささか短いぶつかり合いだった。互いの刃がカチカチ鳴いたかと思えば、アブディエルの体が退く。自ら後ろに飛んだのではなく吹き飛ばされたのだ。ウリエルの長い脚がすっと伸びてアブディエルの腹に蹴りを見舞っていた。

 そこからアブディエルが体勢を立て直してダメージから回復するまでに要した時間はわずか一、二秒。それだけあればウリエルが追い討ちをかけるには十分だった。


 六枚の翼が紅蓮の炎を纏う。それをいっぱいに広げたウリエルの姿はさながら火の鳥だった。

 アブディエルめがけて火の鳥が大空を駆ける。アブディエルは魔法壁を張った。衝突の寸前、ウリエルの全身は真っ赤な光に包まれる。虹色の輝きと赤い光がぶつかり合った。魔法壁は粉々に砕け散り、アブディエルは火の鳥の突進を浴びる。彼の体は全身に燃え移った炎と共に大地へ落下していった。その様をウリエルは少し物憂げな表情で見つめる。しかし次の瞬間にはアブディエルの仇と迫ってくる新たな敵へ鋭い視線を投げた。




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