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悪魔倶楽部  作者: ぴらみっど
魔界冒険編
275/359

魔法のローブと白い仮面



 泉で返り血を洗い流してくるように言われた樹流徒は、ピクシーと共に邸の玄関から外へ出た。建物の裏手へ回り頭上を仰ぐと三階に立派なバルコニーが見える。未だ空を飛びまわっている悪魔の影も視界に入ったが焦る必要は無かった。惑わしの森と呼ばれるこの一帯にいる限り空の敵に見付かる心配は無い。


 邸の裏には深い草むらと木々が生い茂り道らしい道はどこにも無かった。その中をピクシーは迷わず速いスピードで進んでゆく。遅れないように樹流徒は後をついていった。辺りはとても静かで自分の足音以外は物音一つ聞こえない。動物は冬眠し、鳥は暖かい場所を求めて飛んでいってしまったのか、惑わしの森にも彼らの影は見当たらなかった。


 木々の間を縫いながら十分も歩くと、前方に大きな泉が見えてくる。人が泳げるほど広い泉だ。深さも相当ありそうだった。この寒空の下でも水の表面は凍りつくことなく透き通っている。泉の周りには若々しい黄緑色の草と、大きな蕾をつけた白い花が咲いていた。


 美しい光景に目を奪われながら樹流徒は水辺に近付いてゆく。

 泉の水面に彼の顔が映ったとき、草陰に潜んできた光の玉が幾つも宙を舞った。光はすぐに薄れ、その中から蝶の羽を持った小人が姿を現す。ピクシーと同じ妖精たちだろう。どれも簡素な作りのワンピースを身につけており、青、ピンク、黄色など色は様々だった。中には服と同じ色のとんがり帽子を被っている妖精もいる。

「ニンゲンだ」

「なんで魔界にニンゲンがいるの?」

「このニンゲン血まみれだよ」

「悪魔殺し」

 彼らは返り血に染まった魔人の姿を見るなり散り散りになって逃げてしまった。ある者は草の茂みに突っ込み、またある者は「オベロン様、ティターニア様。大変です」などと叫びながら邸に向かって飛んでゆく。

 急に現われたかと思えばすぐに消えてしまった妖精たちの姿を、樹流徒は半ば呆気に取られて見送った。そんな彼の横顔にピクシーが気遣いの言葉を掛ける。

「気にしないで下さいキルト。皆、こんな場所にニンゲンがいるとは思わず驚いているだけなんです」

「俺は気にしてないが、妖精たちを怖がらせて悪かったな」

「いえ……。では私は近くの木陰で待ってますから、全身の血をゆっくり洗い流してください」

「ああ、ありがとう」

 ピクシーの姿が消えると、樹流徒は服を脱いで泉で体を洗い始めた。透き通った水は見るからに冷たそうだったが、実際に触れてみると見た目以上に肌を刺激した。ピクシーは「ゆっくりどうぞ」と言ってくれたが、こんな冷水に長々と浸かっていたら風邪を引いてしまう。


 冷たさと傷の痛みに耐えながら全身をくまなく洗うと、樹流徒はついでに服も洗った。そういえばこの白い服は誰が着せてくれたんだろう? と改めて不思議に思う。魔王ベルフェゴールと戦って気絶して、次に目を覚ましたときにはこの服を纏っていたのだ。

 その後強敵との連戦で服はボロボロになってしまったが、今でも辛うじて衣類としての形状を保っていた。メイジから貰った黒衣と同じく魔界の繊維で織られた服なのだろう。黒衣のように再生はしないが、かなりの耐久力がある。お陰で戦闘ごとに服を代えずここまで旅を続けることができた。

 だが残念ながらこの服もそろそろ限界が近付いている。あちこちが焦げたり破れたりしているし、返り血を完全に吸っており泉の水で洗っても血が落ちなかった。いい加減どこかで新しい服を調達しなければいけない。


 激戦を経てボロ雑巾に変わり果てた服を、樹流徒はまさに雑巾みたいに固く絞って水気を切った。そしてそのボロ雑巾を身につける。布が肌にぴたりとくっついて着心地などあったものではないが、贅沢は言っていられない。

「待たせたなピクシー。もう出てきていいぞ」

 呼ぶと、待ちかねていたように木陰から彼女が飛び出してきた。「ゆっくりどうぞ」とは言いつつも、樹流徒が泉から出るのを待っているあいだ退屈していたのだろう。

「では戻りましょう」

 ピクシーは樹流徒の肩に止まった。


 帰りも道案内をしてもらい、迷わず邸に戻ってこられた。

「あれ? アナタたち……」

 ピクシーが目をぱちぱちさせる。

 玄関を開くと、そこに三人の妖精が待っていた。活発そうな目つきをした男の子、とんがり帽子を被った明るい表情の女の子、そして丸々とした体型の男の子だ。それぞれ青、ピンク、緑の襟付きワンピースを着ていた。

「待ってたよ。キミ、首狩りキルトだよね?」

「オベロン様の言いつけでアナタの着替えを用意してあげたのよ」

「これに着替えたら客室へ行ってね」

 代わる代わる喋る彼らの眼下には、白いシャツと黒のパンツ、下着、黒革のブーツなど、着替え一式がきちんと並べて置かれていた。

 丁度着替えを用意しなければいけないと思っていた樹流徒は、折り良く望みの物が手に入って幸運を感じる。同時に心の中でオベロンに感謝した。

「じゃあねー」

 用件を伝えた三人の妖精はすぐにどこかへ飛んで行ってしまう。樹流徒がお礼を言う暇は無かった。一体どこで着替えをしたら良いのか尋ねるタイミングも与えてもらえなかった。


 仕方なく樹流徒は階段の陰で素早く着替えを済ませることにする。今まで着ていた白い服は跡形も無く焼却し、オベロンが用意してくれた服に袖を通した。その上から黒衣を纏う。着替えを終えた樹流徒は全身の八割が黒に染まった。

「とっても似合ってますよキルト」

 ピクシーからは絶賛してもらえた。


 血を洗い流し服を変え全身さっぱりした樹流徒は、妖精から言われた通り客室へ向かった。

 部屋に入ると、そこにはオベロンとティターニアがいた。彼らはテーブルを挟んで一番上座の席に座っている。テーブルの上にはいつの間にかパンやスープといった料理がところ狭しと置かれ、食欲をそそられる香りが湯気と一緒に漂っていた。暖炉の中では薪が燃え、パキ、パキ、と小さな音を鳴らしている。のどかな雰囲気だった。よもや戦場の真ん中でこんな温かい景色に出会えるなんて、樹流徒は思ってもみなかった。

「すっかり見違えたな。その服は私が見立てたものだが、想像以上に似合っている」

 オベロンが装いを新たにした樹流徒を褒める。

「折角ですから一緒にお食事でもしながら現世のお話など聞かせて頂けませんか?」

 ティターニアには上品な笑みを浮かべた。

 助けてもらった恩もあるし、この誘いは断れなかった。樹流徒は迷うことなく誘いを受けてオベロンの二つ隣の席に着席する。ピクシーは樹流徒の傍から離れてティターニアの肩に居場所を決めた。


 落ち着いた雰囲気の中で食事をしながら、樹流徒はオベロンとティターニアから交互に質問される形で様々な話をした。その内容は現世のありとあらゆる事柄に及び、オベロンは近代以降に普及した機械文明に関する話や、世界政治や、現世の自然環境につていの話に特別強い興味を示した。一方、ティターニアは服装の移り変わりや人間たちの娯楽、それから食文化や流行の音楽など比較的世俗的な話に関心を見せた。二人とも現世に召喚されたことはあるが全て遠い昔の話なので、最近の現世がどうなっているのか全く知らないのだという。


 また、話は現世だけでなく樹流徒個人についてまで及び、何故人間であるはずの樹流徒が悪魔じみた姿を持ち、魔王を退けるまでの力を手にいれたのか? という質問などに、樹流徒は答えられる範囲で全て答えた。

「ところでアナタは何故魔界に来たのです?」

 というティターニアの質問に対しては「ベルゼブブと会うため」としか答えられなかったが

「俺は魔界を混乱に陥れたいわけでもなければ悪魔と敵対したいわけでもない。それだけは信じてくれ」

 という樹流徒の言葉に、二人はとりあえず納得してくれた。


 喋っている時間の方が飲食をしている時間より何倍も長くなってしまった。一時間か、それとも二時間くらいか、樹流徒たちはたっぷり時間をかけて夕食を終えた。話せることは全て話し尽くしてしまった感がある。それほど多くの食事を取ったわけでもないのに樹流徒はこの上ない満腹感を味わった。

「非常に興味深い話の数々だった。もっと詳しい話を明日の朝まで聞いていたいくらいだ」

 オベロンはすっかりご満悦だ。ティターニアも「今の内に現世旅行へ行ってみようかしら」と言うほど樹流徒の話に刺激を受けたようだった。

 ティターニアの肩に止まっているピクシーはほとんど言葉を発しなかったが、三人の言葉にじっと耳を済ませて、笑ったり驚いたり無言の相槌を打ったりしていた。


 今更ではあるが、オベロンとティターニアは妖精族の王と女王であった。二人は夫婦だという。これは樹流徒が質問するまでもなく食事中の会話でオベロン自身が明らかにした事実である。

 オベロンたちは自身に関する話だけでなく、樹流徒にとって非常に有益な情報も聞かせてくれた。ティターニアによればベルゼブブの居城は“背信街(はいしんがい)”と呼ばれる巨大都市の中心にそびえ立ち、そこへたどり着くには惑わしの森から歩いて五、六十日もかかるという。

「この森を出てずっと西へ向かえば街がある。そこで馬車を借りれば“ケプトの町”まで送ってくれるだろう」

 とオベロンは助言を与えてくれた。ケプトの町は数千の悪魔が暮らす大きな町で、そこから歩けば半日程度で背信街にたどり着けるらしい。


 現在地からベルゼブブがいる場所までの具体的な距離が分かって、いよいよ魔界の旅も終わりが見えてきた。これまでの冒険を振り返って樹流徒は多少感慨深い気分になった。そのあとベルゼブブに対する復讐心がむくむくと湧いてきたが、折角楽しい食事をしている最中なのだから、この感情は背信街に到着するまで取っておくことにした。


 食事と会話が済むと、樹流徒は邸の三階にある大広間へと案内された。大広間には絨毯とシャンデリアの明かりと窓があるだけで他には何も無かった。それもそのはず、その大広間はダンスホールだったのである。オベロンたちは月に何度か友人たちを招いてここで舞踏会を開くらしい。

 樹流徒が大広間に到着すると、そこにはすでに“ドワーフ”と呼ばれる妖精が十数名集まっていた。ドワーフはピクシーよりも体がずっと大きく、樹流徒の腰くらいまで身長があった。全員白い髭を生やした老人の姿をしており、とんがり帽子と厚手の服を着ていた。

 彼らの手にはそれぞれ弦楽器が抱えられていた。ヴァイオリン、チェロ、コントラバスの他にも魔界独自の楽器もある。ドワーフは非常に手先が器用な種族で、それらの楽器も自分たちで作ったのだという。

 オベロンが目配せをすると、ドワーフたちは自分が作った楽器を奏で始めた。その旋律に合わせて樹流徒たちは踊った。と言っても樹流徒は生まれてこの方ダンスなどした経験がないので、ピクシーと向かい合って指と手を繋いでゆっくり回ったり体を揺らしてみたり簡単なステップを踏んでみたりしただけだった。それでもピクシーは終始楽しそうだった。

 初々しいダンスを見せた樹流徒・ピクシー組とは好対照に、オベロン・ティターニア組は熟練された優雅な演技を披露した。彼らの一糸乱れぬ息の合った動きは、ダンスの事など何も知らない樹流徒ですら魅入るほど見事な技だった。降世祭で踊った黒猫の悪魔バステトの演技と比べても甲乙つけ難い。


 美しい曲に乗ってひとしきり踊ったあと、樹流徒はティターニアからダンスの手ほどきを受けた。ステップを間違えて体がよろめいたり、ティターニアのつま先を何度か踏んでしまったりしたが、彼女は常に笑みを崩さなかった。ダンスでは笑顔も大切な要素なのだという。

 手ほどきを受けている内にある程度樹流徒の動きからぎこちなさが取れてくると

「なかなか筋が良い。これを機にオマエもダンスを始めたらどうだ?」

 とオベロンに勧められた。


 楽しい時間はあっという間に過ぎて、気付けばすっかり夜が更けていた。窓から外を覗いてみると、空を飛びまわっている悪魔の数が若干減っているように見える。ベルゼブブの手先がそろそろ樹流徒の捜索を諦めたのか。或いは反ベルゼブブ派に手こずっておりそちらに戦力を割いているのか。

 少なくとも後者ではなさそうだった。窓越しに遠くの景色を透かし見ても、戦闘の光はひとつも見えなくないし、音も聞こえない。反ベルゼブブ派の悪魔は鎮圧されたか、撤退したのかもしれなかった。

 ヴィヌたちはまだ生きているだろうか? ふと、樹流徒の心は戦場へと舞い戻った。


 すると頃合を計ったかのようにオベロンの口から情報が入る。

「先ほど妖精に外の様子を見に行かせた。どうやら森での戦闘行為は完全に終了したらしい。だが依然辺りにはベルゼブブの手先が徘徊している。捜索範囲を広げるために空の悪魔も何割か森に降りてオマエを探し始めたようだ」

「反ベルゼブブ派は撤退したのか? それともやられてしまったのか?」

「そこまでは分からない。が、ヴィヌやペイモン、それにアドラメレクといった面々が戦域から離脱したという報告は受けている」

「アドラメレク? 彼も反ベルゼブブ派のメンバーだったのか」

 樹流徒は多少驚いたが、それ以上に納得した。目的は不明だが反ベルゼブブ派のメンバーは自分を助けてくれた。アドラメレクも初めから自分を魔晶館から逃がすために館の中で待機していたのでは……と、彼は推測する。

「今夜は邸から出ない方が良いでしょう。明日になればベルゼブブの配下もアナタの捜索を諦めるかもしれませんから」

 そう言ってティターニアは、邸に一泊するよう樹流徒へ勧めた。オベロンも「妥当な判断だ」と同意する。

 二人の厚意を受けて、樹流徒は邸で一夜を明かさせてもらう事にした。あいにく邸の中に宿泊用の客室は無かったが、壁と天井と安全があるだけで樹流徒にとっては十分過ぎるほどだった。


 樹流徒は一階客室の床を借りた。部屋のカーテンを閉め切って、暖炉の傍に体を横たえる。何となく外の様子が気になってなかなか寝付けなかったが、努めて何も考えないようにして目を閉じていたら、いつの間にか眠っていた。


 翌朝、樹流徒はピクシーに起こされて目を覚ました。

「キルトってば何度声を掛けてもなかなか起きてくれないんだもん。死んじゃったのかと思いましたよ」

 ピクシーは少々呆れたように言う。樹流徒は相当深い眠りに落ちていたらしい。

 彼が目を覚ますとすぐにオベロンとティターニアが揃ってやってきた。

「残念な(しら)せだ。今朝になっても追っ手は森に残っている。お前が見付かるまでずっと居つく気かもしれないな」

 開口一番オベロンが言った。


 樹流徒はカーテンを半分開いて窓越しに上空を仰ぎ見る。太陽が輝く青空の下、確かに異形の群れが元気良く飛び回っていた。

「もう一日、邸の中で様子を見ますか?」

 ティターニアはそう言ってくれたが、樹流徒は首を横に降った。いつ去るかも分からない敵の動きをずっと待ち続けるわけにはいかない。それにこれ以上オベロンたちの善意にぶら下がっているのも気が引けた。そもそも恩返し目当てでピクシーを助けたわけではないし、その恩はすでに十分過ぎるほど返してもらっている。あらゆる観点から考えて、もう戦場に戻らなればいけなかった。

 その旨を伝えると、オベロンとティターニアは特に残念そうな顔も嬉しそうな顔もせず、あっさりと受け入れた。

「多分キルトならばそう仰るだろうと、先ほどオベロンとお話しをしていたところですわ」

 ティターニアがそのように明かす。

「だからオマエには旅立ちの準備としてこれを用意しておいた」

 続いてオベロンが手を叩くと、廊下に控えていたドワーフが一人部屋に入ってきた。

 彼の両手には厚手の布で作られた緑色の衣服が置かれている。さらにその服の上にはプラスチックのような素材で作られた真っ白な仮面と、それよりも多少くすんだ色の皮袋が乗っていた。


「これはドワーフが作った魔法のローブだ。花の香りがするからニンゲンの匂いが隠せる上、森の中で着用すると自分の姿を完全に消せる効果がある。これさえあれば森から脱出するのは容易いだろう。そちらの仮面はオマエの素顔を隠すための道具だ。白い皮袋には馬車賃が入っている」

「先日、楽しいお話を聞かせて頂いた私たちからのささやかな気持ちです。どうぞお受け取り下さい」

「だが、ここまでしてもらうわけには……」

 過分な礼に樹流徒が多少戸惑っていると、オベロンが隠微な笑みを浮かべる。

「もしオマエが手配書通りの人物だったら、実際にここまでしようとは思わなかった」

「昨晩共に時間を過ごして、キルトの人となりはそれなりに分かったつもりです。アナタならばこの魔法のローブを悪用する心配は無いでしょう」

 二人にそこまで言われたら、断るのが却って悪い気がしてくる。樹流徒はありがたく魔法のローブと仮面と馬車賃を受け取った。


 それからすぐ樹流徒は邸を発つことにした。

「敢えて見送りはしないでおこう。行くが良い、ニンゲンの子よ」

「もう二度とお会いすることは無いのでしょうね。ですが不思議とそのような感じがいたしません。それでは御機嫌よう……」

 客室の中で別れの挨拶を交わして、妖精王と女王は静かに退室した。


 彼らが去った余韻がわずかに冷めた頃、樹流徒とピクシーも部屋を出た。

 黒ずくめの服の上からローブと仮面を身に着けた樹流徒は、さながら何かの映画に登場する怪人のような風貌になっている。

「その格好も似合いますよ」

 ピクシーが樹流徒の耳元で言う。

 気の利いた返事が思い浮かばず、樹流徒は無言で軽く頷いた。


 玄関に近づいた時、また樹流徒の耳元でピクシーが言う。

「森の中では方角も良く分からないでしょう? だから私が町まで案内しますよ」

 突然の申し出に樹流徒は足を止める。

「いいのか?」

「はい。これは助けて頂いたお礼とかじゃなくて、単に私がそうしたいんです。だって追っ手の目を盗んで町まで行くなんて楽しそうじゃないですか」

「妖精族は親切な種族だな」

「それ以上にイタズラ好きですけどね。でも争いは好まない平和を愛する種族なんですよ」

「ああ。だから早くこの森にいる悪魔たちを撤退させないといけないな」

 そのためには一刻も早く背信街に着いてベルゼブブを倒さなければいけない。樹流徒は気持ち足早に歩き出した。

「オベロンから貰ったローブがあれば森の中で敵に見付かる心配はないと思う」

「はい。そうですね」

「だが、もし一度でも戦闘に巻き込まれたらピクシーは大人しくこの邸に戻ってくれ。万が一お前に怪我でもさせたら、お前にも悪いし、オベロンとティターニアにも悪いからな」

 そう前置きをしてから、樹流徒は玄関扉の取っ手を掴んだ。




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