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悪魔倶楽部  作者: ぴらみっど
魔界冒険編
255/359

呆気ない幕切れ



 黒い包囲網が標的とその周囲に不気味な影を落とす。

 アプサラスはまだ魔法壁を使えなかった。先ほどのように槍を高速回転させて盾にしても一方向からの攻撃にしか対応できず、前後左右から襲い来る針を全て叩き落すのは不可能である。それ以前に羽衣を槍に変化させている時間が無かった。

 この危機的な状況に際してアプサラスは驚くほど素早く的確な判断を見せる。彼女は周囲を完全に包囲される前に、こちらへ接近しながら広がる針の群れの小さな隙間を見つけて、そこめがけて迷わず跳んだのだ。あと半瞬でも決断が遅れていたら彼女の全身は串刺しになっていただろう。

 黒の包囲網を突破したアプサラスはそこから数メートル離れた場所に着地を決める。ただし無傷の脱出劇とはいかなかった。彼女の上腕に針が二本、縦に並んで深々と刺さっている。針の間を通り抜けるときに被弾していた。


 四方から吹き荒れる黒い雨が、直前までアプサラスがいた場所を埋め尽くす。針と針がぶつかり合って無数の火花を散らした。獲物を見失った数千の針はいずれも地面に落下するなり液状になって砂に吸収される。アプサラスの体に刺さっていた針も溶けて消えた。


 アミトはもう走り出している。獰猛な目と牙を剥き、血にまみれた脚で猛然とアプサラスの真正面から突っ込む。風の如きその走りは傷の影響を全く感じさせない。

 猛然と襲い来るアミトを迎撃すべく、アプサラスは手を振り上げた。彼女の眼下で白い光が輝き、地の底から氷の花が飛び出す。それは背の高い壁となってアミトの行く手を遮った。

 既に一度使用した能力。一度見た能力である。アプサラスの腕が動き出した時点でアミトは回避行動に移っていた。砂を跳ね上げる獣の四肢が、標的に接近するのを一旦諦めて横に駆ける。


 地上に現れた氷の花は、透明な茎にびっしりと並ぶ棘を伸ばした。コンマ一秒ごとに一本ずつ飛び出す棘が長い槍となってアミトを襲う。獲物に対して反撃するタイミングどころか息つく間も与えない。

 アミトはジグザグに走って氷の棘をかわしながら、アプサラスを中心とした大きな円を描いて走る。氷の花から飛んでくる攻撃が止むと、即座に立ち止まって口から黒い炎を吐き出した。


 黒い火柱は宙を伝いながら加速度的に膨張する。アプサラスの眼前まで届く頃には花の根元から茎の上部を覆い尽くすまでに膨れ上がった。

 アプサラスは花の陰に隠れて身を守る。黒い炎に包まれても氷の花はびくともせず、表面が少し溶ける程度のダメージしか負わなかった。そしてアプサラスを守る盾の役割を果たすと地中に沈んでゆく。


 攻防はまだ途切れない。花の陰に身を隠しながらアプサラスは反撃の一手を打っていた。彼女は顔の前で掌を上に向け、大きな水の玉を浮かべていた。宙でゆらゆらと揺れる水の玉は、アプサラスがふっと息を吹きかけると破裂して前方に飛び散る。一粒一粒の水滴が弾丸となってアミトとその周囲の空間を襲った。


 命中した。樹流徒はそう直覚した。水滴の弾丸はかなり広範囲に飛び散り、アミトが逃れる場所はどこにも無い。観衆は何が起こったか把握する暇すら無かっただろう。あっという間の出来事だった。いかに動作が機敏な悪魔でも、こればかりは避けようがない。たとえ魔王級の悪魔が全力で駆け、跳躍しても回避は間に合わなかったはずである。


 その必中とも言える一撃を、何とアミトは避けてしまう。アプサラスの攻撃に観衆が一驚を喫したとき、すでに異形の獣はどこかへ消えていた。

 一瞬の攻撃と、刹那の回避。驚きに次ぐ驚きに、観衆は最早何が起きているのかまったく状況が飲み込めていない。何だ? 何だ? と、皆混乱をきたした目でアプサラスの姿を凝視し、消えたアミトの行方を探し求める。


「後ろだ、アプサラス」

 樹流徒は思わず声を発した。戦士の間からリングの仲間まで声が届くはずも無いが、我知らず声が出た。アミトが発する殺気の位置を、樹流徒は会場の誰よりも早く捉えたのである。ガルダもまだ視線をリングの中に彷徨わせている最中だった。


 樹流徒の言葉に、ガルダたちの視線は揃ってアプサラスの背後へと向かう。

 その場所に、音も無く異形の獣が姿を現した。一体いつの間にアプサラスの背後に回りこんだのか。誰の目にも追えない速度での移動だった。

 アミトが何をしたのか、樹流徒には大方見当がついている。ほぼ間違いなく、彼女が使ったのは瞬間移動の能力だろう。いつか現世で樹流徒と鬼ごっこ勝負をした少年の悪魔も瞬間移動の使い手だった。他に使い手がいたとしても、別段不思議ではない。

 むしろ驚くべきは能力そのものではなく、アミトが今の今まで瞬間移動の能力を隠していたことである。アンドラスと対戦したときは勿論、先ほどアプサラスから手痛い反撃を食らったときでさえ、アミトはこの能力を使わなかった。本当にここぞというときのために取っておいたのだろう。とんでもない隠し玉だった。

「アミトのヤツ、まだあんな能力を隠し持ってやがったのか」

 アンドラスが度肝を抜かれる。

「なんという奴だ……」

 ガルダですら唸った。

 そのあいだに、アミトの口から青い腕が吐き出されていた。アミトには相手の心臓を潰す赤い腕のほかにもう一本、相手の動きを封じる青い腕がある。先ずは青い腕でアプサラスの動きを封じてから、もう片方の腕でトドメを刺そうという狙いかもしれない。


 誰もがぞっとするような獣の瞳で、アミトは獲物の後姿を見つていた。

 その視線に気付いたのか。背後からの奇襲であったが、アプサラスは神がかり的な反応で後ろを振り返った。のみならず、彼女は振り向きざまの攻撃で眼前に忍び寄っていた青い腕を切り落す。いつの間にかアプサラスの両手は氷の刃物と化していた。彼女は剣の形をした氷を両手に纏って咄嗟に相手の攻撃をなぎ払ったのである。無論、狙い済ました一撃では無いと断言できる。そんな時間的余裕は無かった。背後の危険を察知したアプサラスが夢中で振り向きざまの攻撃を繰り出し、それが運良く偶然にもアミトの青い腕を切り落としたのだ。

 攻撃側からすればたまったものではない。ここまで温存しておいた瞬間移動を使い、完全にアプサラスの背後を取って放った一撃が、偶然も重なって防がれてしまったのである。もしアミトが有象無象の悪魔だったら、青い腕を切り落とされた時点で愕然としていただろう。次の一手など決して存在しなかったはずである。


 そこへいくと、アミトという悪魔はつくづく曲者だった。

 アプサラスが切断した青い腕の陰から、別の影がするりと伸びる。赤い腕である。アミトは青い腕を吐き出した直後に、赤い腕を吐いていたのだ。万が一にも最初の一撃が防がれた場合を予測してなければできない連続攻撃だった。


 青い腕を切り落としただけでも奇跡的と言えよう。続いて襲い来る赤い腕をアプサラスが防ぐことなど不可能だった。

 血の色をした五本の指がアプサラスの首を掴み、そっと締め付ける。

「いけない。あの手に捕まったら……」

 ガネーシャが言うよりも早いか、獲物を捕らえた赤い腕が根元から黒く染まり始めた。ほぼ同時、アプサラスの瞳孔がいっぱいに広がる。彼女の両手がダラリと垂れ下がり、全身が痙攣を始めた。

「おい、どうしたんだよ? 何でアプサラスは抵抗しないんだ?」

 慌てふためくアンドラスの疑問にガネーシャが答える。

「抵抗しないんじゃなくて、多分できないんだ。あの赤い腕のせいで」

「私も噂で聞いたことがある。アミトの腕に捕まった者はほとんど身動きが取れなくなるらしい。そしてあの腕が完全に黒く染まった時、相手は心臓を潰され絶命に至る」

 ガルダの声が冷たく響いた。

「冗談だろ? それって、もうアプサラスは助からないってコトじゃねぇかよ」

 余計焦るアンドラスの言葉に、誰も返事をしなかった。樹流徒は言葉が見付からない。厳しい表情でリング上の光景を見守るくらいしかできなかった。多分、ガルダも、ガネーシャも。


 そして死のカウントダウンが始まる。

「切り札を上手に使わないと、アナタのように無様な負け方をするのよ。来世ではせいぜい気をつけることね……。と言っても、私に心臓を食われた者の魂は二度と転生できないんだったわ。だからアナタとは永遠にお別れね。お気の毒様」

 開きっぱなしの口でアミトが笑った。そこから伸びた赤い腕は根元から徐々に黒く染まってゆく。全てが黒に染まったととき、アプサラスの命は終わる。

 身動きを封じられたアプサラスは返事もできない。軽い握り拳を作った手だけが、かろうじて彼女の意思で動いているようだった。

「ところでアナタたちの中にいたニンゲンじみた悪魔……。アレ、首狩りキルトでしょう? 聞いた話によれば、彼に殺された悪魔も魂を奪われて永遠に転生できないそうじゃない。何か自分に近しいモノを感じるわ。別に嬉しくも何ともないけれどね」

 アミトは軽口を叩く。それでも一度アプサラスの策に引っかかっている彼女は油断の無い目をしていた。

 赤い腕が、段々と黒い腕と呼んだ方が良い状態になってくる。


 どうにかならないのか? このままアプサラスはなす術もなく命を奪われるのか?

 樹流徒は軽く歯噛みする。確実に死が訪れるという場面で、仲間に加勢できないことが苛立たしかった。味方の死を覚悟していなかったわけではない。自分たちが己の意思で命懸けの決闘に参加していることも理解していた。だが、それでも……


「風の流れが妙だな」

 何の脈絡もなくガルダがそのようなことを呟く。

「風の流れ? 何悠長なコト言ってるんだよ? このままじゃアプサラスが死んじまうンだぞ」

 アンドラスは怒り七割と呆れ三割といった調子でガルダに噛み付く。

 彼の反応はもっともだった。仲間が死を目前にしている今、風向きや風の強などと些末(さまつ)な事を気にしている場合ではない。

 ただ、樹流徒には今の状況でガルダが大した意味もない言葉を口走るとは思えなかった。

 風の流れに異変の気配があるのか? それに何の意味が? 樹流徒はリング上を注視する。

 彼が目視できないほど小さな動きが、とっくに起きていた。


 アミトたちの足下で砂が微動する。少し強い風が吹いたのである。降世殿の客席に点在する出入り口から吹き抜けた風だろうか。それにしては強い風だった。

「なあ、ちょっと寒くないか?」

 見物客の一人が自分の体を抱えながら、隣の悪魔に声をかける。

「そりゃあ、アミトの恐ろしさを見せ付けられれば寒くもなるだろうよ」

「いや、そうじゃないんだよ……」

 悪魔は首を(かし)げる。


 最初は本当に小さな変化だった。樹流徒が目視できない程度の、アミトが何も気付かないほどの変化。会場の中でも気温や気流の動きに特別敏感な悪魔くらいしか分からなかったであろう。まだその時点では異変と呼ぶほどでもない、極めて小さな変化だった。


 が、それは、あまりにも突然に、大きな異変となってアミトに牙を剥く。

 にわかに風が荒れ、リングのあちこちから白い冷気が立ち上り始めたのである。尋常な勢いでは無かった。強さを増した風は忽ち竜巻になる。白い風が戦場の中で激しく渦を巻き、砂の大地が物凄い勢いで氷土と化していった。それに伴って会場の気温が急激に下がる。一階席の中で数十名の悪魔が体を震わせた。その光景は二階席、三階席へとすぐに広がる。ガチガチと歯を鳴らすほどの寒さではないが、悪魔たちの口から吐き出される息が白くなっていた。審判ヴォラックが構築した魔空間の防壁が無ければ、もっと寒くなっていたかもしれない。

 異様な熱気に包まれていた降世殿の中は、気が付けば冬の世界と化していた。アミトの体も震えている。彼女の場合、寒さではなく恐怖に震えているのかもしれない。氷土と化した地面がアミトと同化しようとするかのように、彼女のつま先を伝って脚の表面を凍りつかせていた。


「そうか。結界だ!」

 興奮気味にアンドラスが叫ぶ。

「結界?」

「ああ。アプサラスのヤツ、リングの中を動き回りながら、密かに氷の結界を張ってたンだよ。小規模な結界なら自分の意思や指先一本動かすだけで発動できるからな。赤い腕に捕まって身動きが取れなくなっても使えるってワケだよ」

 まくし立てるように言う。樹流徒には詳しいことは分からないが、アプサラスが起死回生の反撃に転じたことだけは理解できた。

「彼女は、我々の想像の上を行った」

 と、ガルダは感心している。

「接近戦を仕掛けるアミトに対しアプサラスが回避に徹したのは、相手の不用意な飛込みを誘って必殺の一撃を与えるためだった。しかしそれだけではなかったのだ。アプサラスは回避に徹して反撃の機を窺うのみならず、戦場内に氷の結界を発動させるための準備まで並行していた。赤い腕に捕まった場合の切り札として……」

 リングの中で渦を巻く冷気の竜巻はより強烈に吹き荒れ、戦場の大地に存在するもの全てを凍りつかせる。


 黒い腕が完成するまで待てなかった。アミトは忌々しげな顔で瞬間移動を使い上空に逃れる。

 決して脱出不可能と思われた窮地から逃れたアプサラスに、多くの観衆が興奮した。凍えた体に熱を蘇らせるように。会場の寒さを吹き飛ばすように。これから起こる逆転劇への期待を乗せて、異形の波が揺れる。雄叫びを上げる。


 ところが、戦況は観衆が思っている通りには動いていなかった。

 氷の結界が生み出した冷気は、リングの遥か頭上まで届いていない。アプサラスが繰り出した大技も虚しく、アミトは瞬間移動の能力を使って高い場所に逃れ、いとも容易く冷気の範囲から脱していた。獣の四肢はは凍り付いたままだが、それを気にしている素振りも無い。


「おい。アレ見ろよ」

 熱の冷めきった顔で観客がリングを指差す。そこにはアプサラスの逆転劇どころか、その希望を断つ光景が無残にも横たわっていた。

 アプサラスが地面で(うずくま)っているのである。氷の床に座った彼女は苦しそうに自分の肩を抱え、まるで動く気配がない。

「まさか、赤い腕の効果が持続しているのか?」

 ガネーシャは壁に額をくっつけてアプサラスの姿に釘付けになる。

「おい! しっかりしろ。どうしたんだよ?」

 喜びも束の間、とは正にこの事だろう。歓喜と興奮ではしゃいでいたアンドラスが頭を抱えた。


 宙に浮かぶアミトは殊更嬉しそうな目で、リングに蹲る対戦相手の背中を見下ろす。

「残念だったわね。さっきアナタの腕に黒い針が刺さったでしょう? あの針には遅効性の麻痺毒が含まれていたのよ。もうアナタは二度と動けないわ。絶対にね」

 勝利を宣言するように、絶望を突きつけるように、異形の獣は興奮気味に叫ぶ。

「何てことだ……」

 一度はアプサラスの逆転劇に喜びかけた悪魔が頬の筋肉を引きつらせる。 


「けど驚いたわ。まさか私の近接攻撃を凌ぎながら氷の結界を張っていたなんてね。この私でもそこまでは読めなかった。決闘の読み合いで私が負けるなんて……甚だ屈辱だわ。それでも結局勝つのは私だけれどね」

 アミトは怒りと喜びが入り混じった声を震わせる。(たてがみ)が逆立った。狐色の毛が夕日よりも真っ赤に染まる。

「頑張ったご褒美に、一番痛くて強烈な攻撃で逝かせてあげる」

 地上で蹲るアプサラスを狙って数千本の長い毛針が宙に解き放たれた。針と針が猛火を(ほとばし)らせながら集まって一本の巨大な炎の槍と化す。それはアプサラスに狙いを定めて真っ直ぐ落下した。

「アプサラス。逃げろ。逃げてくれ」

 アンドラスが叫んでも、リングまでは届かない。仮に届いてもアプサラスの体が動かなければどうしようもなかった。


 荒れ狂う冷気の渦を突っ切って、炎の槍が無防備なアプサラス背中を容赦なく貫通する。

 断末魔の叫び声すら上げなかった。アプサラスの体が炎の中で崩れる。焚き火の中に放り込んだ紙切れだって塵になるまでもう少し時間がかかるだろう。それくらい余りにも早く、呆気なく、アプサラスの肉体は燃え尽きた。死の瞬間に観衆が怯える。残酷なショー目的で観戦していた者でも身を仰け反らせ肩を震わせた。


 炎が消えると、アプサラスがいた場所から赤い光の粒が漂う。

「ああ……アプサラスの魂が……」

「彼女の魂が散ってゆく」

 砂の上には何も残らなかった。氷の結界から放たれた冷気だけが未だ低空で渦を巻き荒れ狂っているだけである。


 儚く漂う光の粒が一つ残らず消えた。

 ある意味拍子抜けするような決着に、観衆がざわつく。

「アプサラスが負けた……」

「待てよ。じゃあ、今回の祭りは月の国が勝ちで決まりってコトか?」

 観衆の一部が絶望に沈む。これで太陽の国は二敗一分。仮に樹流徒とガルダが連勝しても、月の国の勝利は揺るがない。

 何とも呆気ない幕切れだった。第三戦の結末もそうだが、今回の降世祭自体、少し呆気ない終わり方になりそうだった。

「やったぞ! これで世界はまた千年のあいだ今の姿を保ち続けるんだ」

「アナンタたちに賭けて良かったぜ」

 観衆の一部が歓喜に沸く。世界の維持を望む者。賭博で月の国が勝つほうに賭けていた者。月の国を支持する者たちの大半が狂喜乱舞した。彼らは同志と肩を組んで、勝利の凱歌を歌う。

 が、中にはやはり物足りなさそうな顔をしている者もいた。

「月の国が勝ったのは嬉しいが、第三戦で決まってしまうとは思わなかったな……」

 そう言って悪魔の一人が眉間に浅いシワを寄せる。


「そんな。アプサラスが死んじまうなんて……」

 アンドラスの肩からすっと力が抜けた。

「まあ、命懸けの決闘だからねぇ。死者が出るのは当たり前だよ」

 口ではそう言いながら、ガネーシャは海よりも深い吐息を漏らす。樹流徒とガルダは何も言わず、まだじっとリングの中を見ていた。


 両国の誇りと世界の行方を懸けた決闘の結末が見えれば、祭りは半分以上終わったようなものである。

 幾分妙な雰囲気に包まれた会場の真ん中で、勝利に酔う異形の獣は満足げに笑っていた。





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