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悪魔倶楽部  作者: ぴらみっど
魔界冒険編
187/359

ガーゴイル3兄弟


 空から舞い降りた異形たちの正体は、竜の頭部と、爬虫類の皮膚に覆われた人間の体、それからコウモリの羽と長い尻尾を持つ悪魔だった。

 この悪魔を樹流徒は知っている。なにしろ、これまで何度か樹流徒の前に現れてはことごとく葬られてきた種族である。間違いない。どこからどう見てもガーゴイルだった。


 着地した三体のガーゴイルは樹流徒に視線を集める。それぞれの手に握り締めたサーベルの銀色に輝く刃が不穏な空気を醸し出していた。

 これから戦闘が始まるかもしれない。そんな雰囲気を鋭敏に感じ取ったのか、花の上で眠っていたグリマルキンは脱兎の如く駆け出した。そのまま森の奥に駆け込んで姿を消す。


 グリマルキンの離脱を確認してから、樹流徒はガーゴイルを睨んで身構えた。ガーゴイルは言葉を喋らない悪魔だ。会話や説得は一切通じない。闘争本能に身を任せて飢えた獣のように襲い掛かってくる。今までがそうだったから今回も同じだろうと樹流徒は微塵も疑っていなかった。


 そんな彼の中にあったガーゴイルの常識は、いきなり覆えされる。

「やっぱりそうだ。オマエ、賞金首の首狩りキルトだな?」

 なんと悪魔の一体が口を利いた。


 虚を突かれて、樹流徒は構えを解く。これまで遭遇したガーゴイルたちは皆例外なくギャアギャアと鳴いてはむやみに襲撃してくる者たちばかりだった。なのに、いま目の前にいるガーゴイルは確かに喋った。

「お前たち、喋れるのか?」

 尋ねると

「そりゃそうさ。オレたち三兄弟は特別だからな」

 ガーゴイルの一体が至極機嫌良さそうに言った。


 特別……たしかに普通のガーゴイルとは違うらしい。

 三兄弟を名乗るこのガーゴイルたちを多少注意深く観察すると、外見も普通のガーゴイルとは少し違っていた。瞳の形にそれぞれ個性があるのだ。一体はまるで怒ったように鋭い目を、別の一体は笑ったような目、そしてもう一体は悲しそうな目をしている。そのため三者三様の表情を示しているように見えた。


「こちらの質問に答えてもらおうか。オマエ、首狩りキルトだな?」

 怒り顔のガーゴイルが表情通りの口調で凄む。

「だとしたらなんだ?」

「なぜ、オマエが魔界にいる?」

「答えなければ駄目なのか?」

 樹流徒は質問をかわした。相手が普通のガーゴイルではないことだけは分かったが、まだ素性がはっきりしていない。もしかするとベルゼブブの手先かもしれなかった。おいそれと魔界に来た目的を話すわけにはいかない。まずは相手の正体や目的を詳しく確かめたかった。


「お前たちはベルゼブブの手先なのか?」

「なに? ベルゼブブ?」

 樹流徒の質問に、怒り顔のガーゴイルが元々つり上がっていた目を余計鋭利な形にした。

「オレたちがベルゼブブの仲間なんて冗談だろ?」

 と陽気に喋るのは、笑顔のガーゴイル。

「そうだよ。オレたちはベルゼブブなんかより断然“サタン派”だよ」

 最後、泣き顔のガーゴイルが涙声を発した。


 サタン派?

 聞き覚えの無い言葉に、樹流徒は内心で小首をかしげる。

 それを察したのか、怒り顔のガーゴイルが丁寧にも解説を始めてくれた。


「悪魔の中には、かつてオレたちの王だったサタンを尊敬するサタン派と、現在実質上魔界を牛耳っているベルゼブブとつるんでいる“ベルゼブブ派”のニ種類がいるってだけさ。サタン派でもベルゼブブ派でもない奴らも大勢いるけどな」

 要約すると“サタンを敬う悪魔と、ベルゼブブの仲間と、そのどちらでもない者がいる”という話だった。

 意外にも事細かな説明に、樹流徒は普通に聞き入る。


「お喋りはここまでだ。オマエの首に懸かった賞金、オレたちが貰い受ける」

 笑顔のガーゴイルが勝ち誇ったように言って、樹流徒を指差した。やはり彼らの目当ては首狩りキルトの賞金らしい。

「死んでも悪く思うなよ……。頼むから恨むなよ。お願いだから」

 泣き顔のガーゴイルがサーベルを構える。震える声に合わせて刃の先端も小刻みに揺れていた。


「できれば見逃してもらえないか?」

 樹流徒はガーゴイル三兄弟を説得する。相手はベルゼブブ派(・・・・・・)の悪魔ではないらしいので、可能な限り戦闘は避けたかった。

 無論、そのような事情はガーゴイルたちに何の関係もない。彼らは三角形を作って樹流徒を囲んだ。


 声も無く、怒り顔のガーゴイルが剣を前に突き出して樹流徒の背後から突進する。その動きに引っ張られるようにほかのガーゴイルたちも剣を構えて飛び出した。


 相手を十分に引き付けてから、樹流徒は地面を蹴る。ガーゴイルの誰かがあっと短い声を発したときにはもう宙に逃れたばかりか、背中から漆黒の羽を広げて空高く舞い上がっていた。

「アイツ、空を飛びやがったぞ」

「そういや首狩りって悪魔の能力を奪うって話だからな。飛んでもおかしくないよな」

「笑ってる場合じゃないよ。どうしよう。このままじゃ逃げられちゃうよ」

「追うぞ」

 口々に言い合ってから、三兄弟は一斉に羽を広げた。


 逃げる樹流徒をガーゴイルが追跡する。「普通のガーゴイルとは違って特別」と豪語するだけあって、三兄弟の飛行速度は、通常のガーゴイルよりも数段速かった。

 できれば彼らを振り切ってどこかに身を隠したかった樹流徒だが、すぐに逃げ切れないと判断して作戦を変更する。眼下に広がる不毛の大地に降り立った。


 追いついたガーゴイル三兄弟も着地する。

「折角見つけた大物だ。絶対逃がさないからな」

 怒り顔のガーゴイルがそう言ったときには、泣き顔のガーゴイルがサーベルを構えて突進していた。弱気な表情や言動とは裏腹に勇猛果敢だ。

「馬鹿。一人で突っ込むな」

 怒り顔が声を張り上げてたところで時既に遅し。樹流徒は、敵が振り払ってきたサーベルを爪で叩き折った。さらに喫驚した相手に隙が生まれたと見るや蹴りを見舞う。


 腹を蹴られた泣き顔のガーゴイルはアルファベットのUを横に倒したような形になって、派手に吹っ飛んだ。着地すると、タイヤのように勢い良く地面を転がる。

 その様子を指差して、笑い顔のガーゴイルがけらけらと陽気に喉を鳴らした。


 ようやく停止した泣き顔のガーゴイルは地を這うようにして兄弟たちの元へ辿り着く。

「あいつ強いよ。どうしよう」

 兄弟の足にすがり付いて情けない声を上げた。

「懸賞金の額を考えれば強いのは当然だろ。あはははははは」

 笑顔のガーゴイルは腹を抱えて笑う。何がそんなにおかしいのかは不明だが、そのまま窒息してしまいそうなくらい、ずっと笑いっぱなしだった。

「しかし想像以上の手強さだ。オレたち三人だけでは荷が重いかもしれん」

 怒り顔のガーゴイルがむむと唸った。


「これ以上向かってくるつもりなら、命を奪うからな」

 樹流徒は敢えて冷酷な言葉を選んで脅しをかける。そうすることで敵が逃走してくれれば狙い通り……だったのだが、残念ながら上手くいかなかった。

「やっぱりここはアイツ(・・・)を呼ぶしかないんじゃない?」

 笑顔のガーゴイルが何やら提案すると、ほかニ名が頷く。


 彼らのやりとりを見る限り、仲間を呼ぼうとしているのだろう。ガーゴイルたちは大空に向かってギャアギャアと鳴き始めた。まるで普通のガーゴイルになってしまったかのようにけたたましい雄叫びを繰り返す。遠くにそびえる岩山の向こうまで届きそうな大合唱が、辺り一帯の空気を震動させながら虚空に吸い込まれていった。


 増援が現れる前に逃げてしまおうか。そう樹流徒が判断しかけたとき、ガーゴイル三兄弟の合唱がピタリと止む。すでに樹流徒が離脱するタイミングは失われていた。

「来たぞ」

 ガーゴイルたちの顔は揃って頭上を仰いでいる。彼らの視線を辿ってみると、謎の巨大な物体が、今まさに分厚い黒雲を突き抜けて天空より姿を現そうとするところだった。


 それは全身を紫色の鱗に覆われた竜だった。空から家が降ってきたのではないか、と思わせるほどの巨躯を持つ竜が、一対の羽をはためかせ、樹流徒の頭上に暗い影を落とす。

 圧倒的な迫力に寸秒目を奪われていた樹流徒だが、すぐ我に返って走り出した。ぼうっと突っ立っていたら空から降ってくる巨竜に踏み潰されてしまう。


 樹流徒が十分に距離を取った頃、空から飛来したモノが着陸した。その衝撃で大地が微動し、砂埃が舞い上がる。

 間近で見ると、巨竜の迫力はより際立った。先刻川で出会ったあの巨大鰐をひと呑みにできそうな大きさだ。子供の頃、樹流徒は頭の中で竜の姿を想像したことがあるが、それを遥かに超える迫力を持った生物が、今、現実のものとして目の前に現れた。


「こいつは“ガルグユ”。オレたちの心強い相棒だ」

 怒り顔のガーゴイルが巨竜の脚を撫でる。

「さあいけ、ガルグユ。首狩りキルトを倒すんだ」

 ガーゴイルの命を受けて、巨大竜ガルグユが咆哮する。口から吐き出された大音声が突風となって樹流徒の全身を襲い、彼が身に纏った黒衣をバサバサと煽った。

 本能的に危険を感じて樹流徒は飛び退く。これまでとは少し勝手が違う巨大な敵を前にして、わずかな戸惑いを覚えた。

 巨大な敵といえばレビヤタンが記憶に残っているが、樹流徒はあの悪魔と直接戦っていない。大きな虹色の孔雀・アンドロアルフュスとは戦ったが、あの悪魔とてガルグユに比べれば一回りも二回りも小さかった。こんな大きな竜を相手にどうやって戦ったらいいか、樹流徒が迷うのは必定(ひつじょう)であった。


 ひとまず相手の出方を窺おうと、樹流徒は受けに回る。

 すると、ガルグユは雄叫びを放った口を開きっぱなしにしたまま、いきなり喉の奥から煙を吐き出した。緑に染まった毒々しい有色気体が凄まじい勢いで流れ出し、あっという間にガルグユの前方を埋め尽くす。

 その攻撃に一驚を喫した樹流徒だが、横っ飛びで地面を転がって何とか回避した。

 漂う緑の煙は、地面に生えていた枯れ草を腐敗させ、見るも無残な形にしてしまう。まともに浴びたら、樹流徒もミイラになっていたかも知れない。


 敵の恐ろしい攻撃に戦慄しながらも、樹流徒は即、反撃に転じた。ガルグユめがけて電撃を放つ。

 それを見たガーゴイル三兄弟がおおっと声を合わせて驚きを露にした。ただ、一番驚いたのは攻撃を放った樹流徒本人だった。

 まだ魔法陣を展開してもいないのに、電撃が放たれたからである。これまでは電撃や火炎砲を使用する場合は例外なく魔法陣を宙に描かなければいけなかったのに、今回はそれを完全に省略して攻撃を放っていた。


 そういえば……。

 以前、南方の口から再三に渡って聞いた話を、樹流徒は思い出した。

 “魔法陣とは、異世界同士を繋ぐ扉である”。

 そのため、現世で戦っているときは、魔界の雷を呼び出すのに魔法陣を介さなければいけなかった。

 しかし今樹流徒がいる場所は魔界。魔界の雷を召喚するため魔法陣を通す必要がないのだ。だから魔法陣の展開を省略して、電撃を放つことができたのだろう。


 魔法陣を展開する手間が省けるのなら、当然ながら攻撃発射までの時間も短くなる。樹流徒が魔法陣を描こうとしたときにはすでに電撃が放たれていた。加えてガルグユは体が大きい。攻撃が命中するのはほとんど必然だった。

 青い雷が巨竜の硬そうな皮膚の上を駆け巡る。ガルグユがその場で身悶えするような動きを見せた。


 一見効果があったように見えたが、実際はほとんど通じなかったようである。ガルグユはすぐに走り出すと、樹流徒に接近して遠目から尻尾を振り払った。

 まるで低いフェンスが突進してくるようだった。樹流徒は真上に跳躍して何とかやりすごしたが、少しでも動き出しが遅かったら尻尾に吹き飛ばされていたか、最悪巻き込まれて下敷きになっていた。


 上空に跳んだ樹流徒は羽を広げて宙に留まり、地上のガルグユめがけて火炎砲を放つ。

 巨大な炎がゴウゴウと唸りを上げてガルグユの背中に命中した。耳を(つんざ)く雄叫びと共に巨竜が地団太を踏む。電撃を浴びたときよりも明らかに効いていた。


 ガルグユは上空の樹流徒を仰ぎ見ると、口内から緑色の毒息を放射する。それに素早く反応した樹流徒が空中を旋回して逃げると、あとを追ってガルグユの首も動く。緑色の煙が樹流徒の下からしつこく迫った。


 あと少しで毒煙に追いつかれそうになったが、ガルグユの息が切れるほうが早かった。

 何とか窮地を脱した樹流徒は、敵めがけて急降下する。ガルグユが振り上げた手を回避しながら、頭に乗った。

 間髪入れず腕を振り上げて、巨竜の頭頂部に爪を突き立てる。妙な手応えが指に伝わってきた。ガルグユの全身を守る皮膚は柔らかいようで硬い。まるで分厚いゴムだ。樹流徒の爪は刺さったには刺さったが、ガルグユの皮膚下まで到達しなかった。


 蚊にさされた程度の痛みしか感じなかったのか、ガルグユは蝿を追い払うように首から上だけ振る。その強い力に逆らえず、樹流徒は姿勢を崩して宙に放り出された。

 そこへガルグユが無造作な動きで振り払った手が襲う。空中にいる樹流徒は回避できない。全身が一斉にびっくりしたような衝撃を浴びながら、樹流徒は地面に叩きつけられ、跳ね、そして転がった。


 墜落した樹流徒めがけてガルグユは容赦なく毒息を吹きかける。まだ起き上がっていない樹流徒が広範囲に広がる緑の煙から逃げる術はなかった。

 ガーゴイルが「当たった!」と叫ぶ。


 大量に吐き出された毒息は、あっというまに樹流徒を包み込んだ。勝利を確信したのだろう、ガーゴイルたちの歓声が重なり合う。

 ただし、それは束の間の喜びだった。

「ちょっと、あれ……」

 泣き顔のガーゴイルが、樹流徒の倒れていた場所を指差す。

 そこには七色の防壁に守られて毒ガスを遮断した樹流徒の姿があった。

「おお、魔法壁も使えるのか。アイツやるなあ……」

 笑顔のガーゴイルが腕を組んで一人頷く。隣に立つ怒り顔が「感心してる場合か」と叱声を浴びせた。


 ガルグユは樹流徒に向かって突っ込む。まるでモンスタートラックの突進だった。まともに食らったら人間はおろかそこらへんの悪魔ですらきっとひとたまりも無い。

 樹流徒は真横に向かって全力疾走して難を逃れた。続いてガルグユが足が振り上げたのを察知して、すぐさま羽を広げて上昇する。

 巨竜の足裏が、樹流徒の立っていた場所を踏み潰した。周囲の砂や小石が飛び上がり、地面に小さな亀裂が走る。


 上空に逃れた樹流徒は、風上に回りこんで口から白煙を吹いた。その白煙は麻痺毒――傷とシワに全身を覆われた老人の悪魔・エウリノームが使用した能力である。

 風に乗って流れる麻痺毒の煙を、ガルグユの巨大な鼻の穴が全て吸い込む。

 樹流徒は立て続けに何回も麻痺毒の息を吹きかけた。それらも全て巨竜の鼻が吸引する。

「こら。敵の攻撃を吸い込む奴があるか。吐き出せ」

 ガーゴイルが怒鳴っても、もう手遅れだ。

 ガルグユが反撃の毒息を吐き、それを樹流徒が回避すると、状況が一変した。


 巨竜の全身が痙攣を始め、ふらふらとたたら(・・・)を踏んだかと思ったら、だらりと首を下げてそのまま力なく大地に打っ伏す。

 体内に麻痺毒が回ったのだ。体の痙攣はすぐに収まったが、ガルグユは地に全身を預けたまま動かなくなってしまった。


 怒り顔のガーゴイルは絶句する。ぽっかり開いた口から「まさかガルグユがやられるなんて」という台詞が聞こえてきそうだった。

「どうしよう。ガルグユが動かない。このまま死んじゃうの?」

 泣き顔のガーゴイルはとても心配そうだ。元からそういう表情をしているのもあるが、真剣に巨竜の身を案じているように見えた。三兄弟にとってガルグユはとても大切な相棒なのだろう。


「麻痺毒を食らわせただけだ。呼吸さえ止まっていなければそのうち動けるようになる」

 相手を安心させつつも、樹流徒は爪を構えて三兄弟に迫った。

「待て。オレたちの負けだ」

 怒り顔のガーゴイルが強気な口調で言う。

「ははは。降参、降参」

 続いて笑顔のガーゴイルがサーベルを投げ捨てた。どちらも命乞いをする者の態度ではなかった。


 何にせよ、誰の命も奪わす戦いが済んで、樹流徒は安堵に近いものを覚えた。こういうときだけは、強い力を持つのも悪くないと思える。自分の力が強ければ強いほど相手を殺さず制することができるから。


 戦闘中に地面を転がった樹流徒は全身の砂を払う。この場に長居する理由もないので、すぐに去ろうとした。

 それを、踵を返しかけたところで思い留まる。

「そうだ……お前たち、魔界血管の場所を知らないか?」

 ついでだと思って、ガーゴイル三兄弟に尋ねてみた。


 返事をしたのは、怒り顔のガーゴイル。

「知ってるが……魔界血管といっても二ヵ所あるからな」

「そうなのか?」

「ああ、片方は上の階層、もう片方は下の階層に繋がっているんだ。オマエ、そんなことも知らずによくこの階層まで来られたな」

「現世からこの階層まで一気に飛んできたからな」

「ほう? 良く分からんが……まあいい。それで、オマエは上の階層と下の階層、どっちに行きたいんだ?」

「下だ」

「じゃあ、ここからあっちに向かってずーーーーーーーっと真っ直ぐ飛んで行くといいよ」

 笑顔のガーゴイルが遠くの空を指差した。「ずっと」の長音符の長さからして、魔界血管は相当遠くにあるのだろう。

「そしたら“忘却の大樹”って呼ばれてるとんでもなくデカい樹が見えてくる。魔界血管はその中だ」

「分かった。ありがとう」

 魔界血管の在り処が判明して、樹流徒は俄然やる気がわいた。

 すぐ出発しようと、今度こそ体を反転させようとする。


 それをもう一度思い留まらせたのは、樹流徒を呼び止める声だった。

「待った。もう少し経てばガルグユは動けるようになるんだろ? だったら、コイツの背に乗るといい。オレたちが忘却の大樹まで連れてってやる」

 言いながら、怒り顔のガーゴイルは巨竜の頭を撫でた。

 すでに麻痺毒の効果が薄れてきたのか、ガルグユは烈風の如き鳴き声で元気に返事をした。




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