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悪魔倶楽部  作者: ぴらみっど
激動編
170/359

ゲェム開始



 静かな空間の片隅で、何かがメリメリと軋むような音を立てる。

 黒猫の悪魔が自動販売機を無理矢理こじ開けようとする音だった。魔界の住人が持つ凄まじい腕力を前に、金属の鍵はあっけなく壊れる。自販機の前面が冷蔵庫のように口を開いた。機械の箱は勢い余って前のめりに傾き、開いた口の奥からジュースの缶を大量に吐き出す。

「あーあ。やっちゃった」

 黒猫の悪魔は大きな背中を丸め、あちこちに転がった缶をせっせと拾い集める。


 そのような光景が繰り広げられているあいだ、樹流徒は、老騎士の悪魔フルカスから裏道化師の細かなルールやゲームの進め方を教えて貰っていた。

 その話をまとめると以下の通りになる。


《裏道化師の遊び方》

【一】

 このゲームの基本的なルールはワイルドポーカーと同じである。各プレーヤーは五枚の手札で役を作り、最終的に一番強い手役を揃えた者が勝者となる。

《役の強さ》

ノーペア(役なし)<ワンペア<ツーペア<スリーカード<ストレート<フラッシュ<フルハウス<フォーカード<ストレートフラッシュ<ロイヤルストレートフラッシュ<ファイブカード

 ちなみに“ロイヤルストレート”(スートの違うA、K、Q、J、10の並び)は存在しない。


【二】

 このゲームではジョーカーのカードを使用しない。そのため、まずはジョーカーをトランプの束から抜いておく。

 続いてプレーヤーの中から最初の“親”を一人決める。決め方は自由だが、暴力などを使用するのは違反。平和的かつ平等な手段で決定しなければいけない。


【三】

 親はカードをシャッフルして全員に五枚ずつ配る。配り方は、親から時計回りの順にカードを1枚ずつ配り、それを五回繰り返す。こうして各自の手元に来た五枚のカードを“手札”と呼ぶ。

 全員に手札が配り終わったら、親は残りのカードを全部裏にして重ねたままテーブル中央に置く。このカードの束を“山札”と呼ぶ。


【四】

 それぞれのプレイヤーは自分の手札を確認する。

 続いて、親から時計回りの順にカード交換をする。各プレイヤーは手札から不要なカードを好きな枚数だけ捨て、同じ枚数だけ新しいカードを山札の上から貰うことができる。捨てたカードのことを“捨て札”と呼ぶ。また、カードを引く行為を“ドロー”と言う。

 ただし、カード交換のときに注意しなければいけないことが一つある。“ドローは全て親が行う”ことだ。親以外のプレーヤーは不要なカードを捨てるのみで、山札から引く新たなカードは親から受け取らなければいけない。

 また、カード交換は行なわなくてもよい。最初に配られた手札で勝負できる。


【五】

 全員のカード交換が終了したら、勝負に入る。親から時計回りの順に手札を公開する。


【六】

 通常のポーカーであれば【五】が終了した段階で最も手役が強い者が勝者となる。しかし裏道化師ではまだ勝負の行方は分からない。

 最後に、山札の一番上に置かれたカードをめくって表にする。このカードを裏ジョーカー表示カードまたは表示カードと呼ぶ。この表示カードよりも数字がひとつ大きいカードは、スートに関係なく全てジョーカーとして扱われる。表示カードがKだった場合はAがジョーカーになる。こうしてジョーカーに変化したカードを裏ジョーカーと呼ぶ。

 裏ジョーカーはワイルドポーカーのジョーカーと同じで、あらゆるカードの代用として扱える。


【七】

 裏ジョーカーにより全員の手役が変化しているかどうかを確認して、一番強い役を揃えた者が勝者となる。

 そして次のゲームへ進む。ゲームが一回終了するたびに親を時計回りの順番で交代する。

 以降は【三】~【七】の繰り返しである。


【その他のルール】

(一)複数のプレーヤーが同じ強さの手役を揃えた場合、数字が一番強い者が勝者となる。数字はAが最も強く、あとは2<3<4……10<J<Q<Kとなっている。また、数字の強さも同じだった場合はスートが強い者を勝ちとする。スートの強さはクラブ<ダイヤ<ハート<スペード。


(二)役の強さが同じ場合、数字やスートに関係なく裏ジョーカーの枚数が少ない方が勝つ。このルールは(1)よりも優先される。

 例その一:同じワンペアでも、スペードのA+裏ジョーカーのワンペアより、ダイヤとクラブの2のワンペアのほうが強い。

 例その二:同じスリーカードでも、A+裏ジョーカー2枚のスリーカードより、2のワンペア+裏ジョーカー1枚のほうが強い。


(三)ゲーム中にトランプ以外の武器・道具を使用してはならない。

(四)他のプレーヤーに対して危害を加えてはならない。


「チップを賭ける場合はもう少し複雑なルールになるのだが、今回はこんなところだろう」

 フルカスはそう言ってルール説明を締めくくった。


 ポーカーを知っている者にとってはそれほど複雑なルールではなかった。カードを配る行為は全て親が行うことと、最後の裏ジョーカー。これさえ覚えておけば大体問題ないだろう。

「もう一度説明した方がいいかな?」

 老騎士は尋ねたが、樹流徒は断った。


 黒猫の悪魔がテーブルに戻ってくる。彼は腕いっぱいに抱えたジュースの缶を一本ずつ樹流徒たちに配ると、残りは全部自分の足元に置いた。

「現世は夢のような場所だよね。だってあんな箱においしい飲み物がいっぱい入ってるんだよ」

 と、ご満悦の様子だ。黒い毛皮に覆われた両耳が独立した生物のようにぴょこぴょこと動いている。

「現世のじゅーす(・・・・)が相当気に入ったみたいだね。あのキカイの箱を壊すの、これで何回目だい?」

 白猫の悪魔が朗らかに笑った。彼の言葉から察するに、黒猫の悪魔が自販機を破壊するのは今回が初めてではないようだ。


「ではルール説明も終わったことだし、さっそくゲェムを始めようか」

 老騎士はテーブル上に散らばっている麻雀牌かき集めてケースの中に片付ると、それを床に置く。

「ただ、その前に互いの名を名乗っておこうか。私の名はフルカスだ」

 続いて、改めて己の口から名を明かした。


「僕は樹流徒だ」

「オレは“ゴク”っていうんだ。で、そっちの黒いのが“マゴグ”」

 白猫が二人分の名を名乗る。

「ボクたち兄弟なんだよ。二人まとめて“ゴグマゴグ”って呼んでね」

 最後に黒猫がのんびりした声で言った。瞼を半分閉じたまま、うつらうつらと頭をゆらしている。頭に載せた王冠が今にも落ちそうだった。


 簡単な自己紹介が済んだところで、いよいよゲームが始まる。

 樹流徒はこの特殊ポーカーで三連勝すれば晴れて自由の身となる。四人組のポーカーで三連勝するのは決して不可能ではないが、簡単なことでもない。とても微妙な条件だった。しかし樹流徒はそれを飲んだ。飲んだ以上はやるしかない。


 フルカスがトランプのケースに手を伸ばす。中からカードの束を取り出した。


「念のために聞いておくが、イカサマは無しだろうな?」

 樹流徒はふとそれに気付いて尋ねる。一応確認しておかなければいけないことだった。

 老騎士は髭の下に隠れた口を動かして答える。

「我々の中でイカサマが発覚した場合はおぬしを解放しよう。ただし、おぬしがイカサマをした場合は……」

「した場合は、なんだ?」

「いや、その先は言わないでおこう」

 フルカスは不気味に笑う。もし樹流徒がイカサマをしたら一体どうするつもりなのだろうか。とはいえ、ルール違反を犯すつもりなど毛頭ない樹流徒が恐怖を感じることは無かった。


 フルカスはトランプの中からジョーカーを取り除きながら

「最初の親は私でいいかな?」

 と、正面の樹流徒に尋ねる。

 樹流徒はすぐに首肯した。ゲームが一回終了すれば親は交代する。それにゲーム上親が有利になりそうなルールもない。誰が最初の親をやっても大した問題ではなかった。


 フルカスは頷き返すと、慣れた手つきでトランプをシャッフルする。ゲームの最中、トランプの束に触れることができるのは親のみだ。

 シャッフルが終わると、フルカスはカードの山を裏側にしたまま上から一枚ずつ時計回りの順に配った。それを五回繰り返して、全員にカードが五枚ずつ行き渡ったところで手を止める。そして残ったカードの束をテーブル中央に置いた。


 続いて各プレーヤーは自分の手札を確認する。樹流徒は、自分の眼前に配られた五枚のカードを拾い上げて、表側を見た。

 彼の手元に来たカードは、クラブのA。ダイヤのQと9。クラブの8。そしてハートの2だった。

 今の段階ではノーペアだ。樹流徒には、これが良い手なのか悪い手なのか分からなかった。なにしろポーカーの大会に出たことなど一度も無い。ただ、一見して余り期待できそうな手には思えなかった。もし救いがあるとすれば、Aという最も強い数字が一枚手に入ったことだろう。


 フルカスとゴグマゴグも各自の手札を確認していた。白猫のゴグはどこか嬉しそうな顔をしている。恐らく良い手札が舞い込んだのだろう。

 チップを賭けた通常のポーカーでは、それぞれのプレーヤーが相手の表情や手を読み合って駆け引きをする。例え自分の手役が弱かったとしても、強気にチップの値を吊り上げれば相手を勝負から下ろせることもある。その心理戦こそがポーカーというゲームの本質であり醍醐味だ。


 しかし、今樹流徒たちが行なっているゲームにはチップが掛かっていない。故にフォールド(手札が悪いとき自らゲームから降りること)が存在せず、単純に強い役を揃えた者が勝つ。基本的にはポーカーフェイスを作る必要もなければ、相手の表情や仕草から心理を読む必要もないのだ。

 故に、ゴグが嬉しそうな顔をしているのもブラフなどではなく、本当に良いカードが舞い込んだだけと考えて間違いないだろう。

 彼とは対照的に、黒猫のマゴグは全く表情が変わらない。ずっと眠たそうな顔をしていた。これも一種のポーカーフェイスかも知れない。


 手札の確認が済み、次はカード交換に入る。親から時計回りの順番で好きな枚数だけカードを捨て、同じ枚数だけテーブル中央の山札からドローできる。ただしカードのドローは全て親が行なわなければいけない。他のプレーヤーが行うのは手札から不要なカードを捨てる行為のみである。


 今回の親はフルカスだ。彼は手札五枚の中から三枚を裏にして捨て、山札から新たなカードを三枚引く。この場合、彼が手元に残した二枚はワンペアが揃っている可能性が高い。


 フルカスのカード交換が終了し、次はゴグの番。

 ゴグは手札から一枚だけカードを切った。それを見たフルカスが山札からカードを一枚ドローし、裏にしたままゴグの前に差し出す。


 カードを一枚しか交換しなかったということは、ゴグの手は最初からツーペアが出来上がっているのかも知れない。その場合だと狙いはフルハウスだ。フォーカードということは通常まずあり得ない。

 一方、もしツーペアが完成していないとすれば、狙いはストレートかフラッシュだろう。ただ、手札を確認したときのゴグの表情を考えると既にツーペアが確定している可能性の方が高そうだった。そうでないとすれば3、4、5、6のように数字が連続したカードが四枚揃っているケースが考えられる。この例だと2と7どちらのカードが出てもストレートが完成する。


 ゴグは山札から手に入った一枚のカードを確認した。特にがっかりしてもいなければ、逆に嬉しそうな様子でもない。期待していたカードが手に入らなかったのかも知れない。


 次は樹流徒がカードを交換する番。

 彼は今一度自分の手札を確認した。クラブのA、ダイヤのQと9。クラブの8。そしてハートの2……この場合、最も強いAを残して残り四枚を交換するか、もしく五枚全てを交換するか、どちらかを選択するのがセオリーと言えそうだ。素人の樹流徒にはそう思えた。プロのギャンブラーだったらどうするかは分らない。


 数秒考えたあと、樹流徒はAを残してカードを四枚交換することにした。ゴグの手役がツーペアだと仮定すると、樹流徒はそれ以上に強い手を狙っていかなければいけない。だとすればAのスリーカードを狙うのが最も現実的に思えた。交換したカード四枚の中にエースが二枚入っていればいい。


 樹流徒は四枚の捨て札をテーブル上に置く。

 すかさずフルカスが山札の上から四枚ドローして樹流徒の前に差し出した。


 Aが二枚欲しい。来い、A。来い。

 樹流徒は軽く念じて、交換したカードの表を確認する。無論、念じたくらいで思った通りのカードが手に入るならば苦労は無い。ギャンブルに祈りなど意味は無い。そんなことは樹流徒にも分かっていた。


 ところが、彼の予想は良い意味で裏切られた。ダイヤのAが手に入ったのである。それだけではない。スペードとハートのKまで一緒に舞い込んだ。残り一枚はクラブの3だった。

 さすがにAのスリーカードとはいかなかったが……しかしAとKのツーペアである。上出来だった。それなりに幸運な展開と言えるだろう。この手役ならば初戦から勝ちを拾えるかもしれない。

 

 最後に黒猫のマゴグがカードを交換した。彼は手札の内三枚を残して、二枚を交換。運良くはじめからスリーカードが揃ったか、そうでなければストレート、フラッシュ狙いだろう。


 こうして全員のカード交換が済むと、次はいよいよ手札の公開に突入する。カードの交換と同様、親から時計回りの順番に手札を晒してゆく。


 先ずはフルカスが手札を公開した。10のワンペアた。

 次にゴグが公開。カードを一枚しか交換しなかった彼は、やはりツーペアが揃っていた。4と6のツーペアだ。

 しかし樹流徒の手役の方が強力である。彼はAとKのツーペアをテーブル上に並べた。

 最後にマゴグが手札を晒す。彼の手はノーペアだった。スートも数字もバラバラだが、2、3、4のカードが一枚ずつあることから、恐らくストレート狙いだったのだろう。


 これで全員の手役が明らかになった。通常のポーカーであれば、この段階で勝者が決まる。今回の場合ならば樹流徒の勝ちだった。


 しかし、特殊ゲーム・裏道化師はここからが本番。そう、まだ裏ジョーカーによる逆転の可能性が残されているのだ。山札の一番上に置かれたカード(裏ジョーカー表示カード)をめくり、そのカードより数字が一つ大きいカードが全てジョーカーに変化する。誰が笑うことになるか、まだ分からない。


 もっとも、マゴグの勝利はすでに消えていた。彼の手役はノーペアだし、数字もスートもバラバラ。仮に裏ジョーカーの恩恵を受けることができたとしても、最高でワンペアにしかならない。ツーペア以上が確定している樹流徒とゴグには届かなかった。


 あとの三名には勝利の可能性が残されている。樹流徒とゴグは手役がスリーカードやフォーカード、フルハウスになる可能性はあるし、フルカスの手がスリーカードになる可能性も十分にある。また、全員裏ジョーカーを所持していないという可能性も考えられた。その場合は誰も手札の強さが変わらないので樹流徒の勝ちとなる。


 裏ジョーカー表示カードをめくるのは親の役目だ。老騎士の指先が山札に伸びた。特に勿体つけることもなく、一番上のカードが表側にされる。表示カードの図柄が露になった。


 果たして現れたのはハートの5だった。それにより、6のカードが全てジョーカー扱いになる。

 6のカードを持っているのはゴグだった。彼の手札にある6のワンペアが裏ジョーカー二枚に変化する。ジョーカーはあらゆる数字とスートのカードして扱うことができる万能カードだ。ゴグは6のほかに4のワンペアも所持していた。つまり4のワンペアと裏ジョーカー二枚により、4のフォーカードが完成する。


 第一ゲームの勝者はゴグに決まった。裏ジョーカーが判明する前まで最も強い手役を揃えていた樹流徒は、最後に勝利を逃した。

「うむ。これが裏道化師の怖さだな」

 フルカスは指先で顎鬚を弄る。

「いきなり身をもって思い知らされた」

 樹流徒は努めて冷静にそう言い返したが、正直に言えば少し悔しかった。

「今回のような逆転はそう頻繁に起こることではない。いきなりこのような派手な展開が見れたことは、ある意味運が良かったかもしれんぞ」

 と、フルカス

「そうかも知れないな」

 樹流徒は答えてから

「早く次のゲームに進もう」

 皆を急かした。


 彼の要望通り、場は早々に第二ゲームへ突入する。親は一ゲーム終了ごとに時計回りの順で交代する。

 次の親であるゴグがテーブル上のカードを全て集めてシャッフルした。ポーカーは全てのカードを使いきるか、ある程度の枚数を使い終わるまでシャッフルしないことが多いが、裏道化師では一ゲームごとに必ずシャッフルする。


 それが済むと、ゴグは全員にカードを五枚ずつ配った。

 各プレーヤーは自分の手札を確認する。樹流徒の手元に来たのはクラブのQ、ダイヤのJと5、スペードの10と3だった。第一ゲームでAを残して四枚換えをしたのと同様、今回も数字の高いQを残して四枚換えるか、それとも五枚全て換えるのが良さそうだ。ただ、Q、J、10のカードがあるので、裏ジョーカーの要素を考慮すればストレートを狙えるかもしれない。


 手札の確認が終わり、カード交換に移る。まずは親のゴグが三枚交換した。

 次は樹流徒の番。今回、彼は思い切ってストレートを狙って二枚交換することにした。Q、J、10のカードを残し、ダイヤの5とスペードの3を切る。ゴグが山札からドローした二枚のカードを受け取り、表側を確認した。


 果たして樹流徒の狙いは外れた。彼の手元に来たのはクラブの4とスペードの2。ノーペアである。この時点で、彼の負けはほぼ決定していた。仮にいずれかのカードが裏ジョーカーになってもワンペアにしかならない。第一ゲームのマゴグと同じ状態だ。

 そのマゴグはカードを三枚交換。老人は良い手が入らなかったのか、手札を5枚全部を交換した。


 全員のカード交換が終了して手札の公開に移る。

 ゴグの手役は9のワンペアだった。この時点で樹流徒の勝利は完全に消えた。仮に樹流徒が裏ジョーカーでワンペアを作ったとしても、裏ジョーカーを含まないゴグのワンペアには負けてしまう。

 樹流徒は敗北が確定した手札を晒す。

 マゴグはKのワンペアだった。

 そして最後にフルカスが手を公開……彼の手は7と5のツーペアだった。五枚換えをしてツーペアが揃うとは非常に運が良い。この時点で一番手役が強いのは彼だ。


 最後に裏ジョーカー表示カードが確認される。山札の一番上に現れたのはダイヤの3だった。よって4のカードが全てジョーカーになる。

 クラブの4を所持している樹流徒の手役がワンペアになった。他に4を所持している者はいない。


 しかし、勝者は変わらず。第二ゲームをものにしたのはツーペアを揃えたフルカスだった。


 特に交わす言葉もなく、第三ゲームへ突入。

 樹流徒に親の番が回ってきた。彼はテーブル上のカードを集めてシャッフルする。気持ちがはやっているせいか、それほど入念にカードを混ぜることもなく全員にカードを配った。


 手札を確認すると、ハートのJ、クラブの9、スペードの6と3。そしてクラブの3だった。3のワンペアが揃っている。相当弱い数字のワンペアとはいえ、数字もスートもバラバラのノーペアよりは良い気がした。フラッシュやストレートを狙えそうな手でもないし、ここは3のワンペアを残して残りのカードを捨てるのが無難そうだ。裏ジョーカー要素も考慮すればスリーカードが完成する確率は決して低くない。


 樹流徒は3のワンペアを残して、山札からカードを三枚ドローした。手に入ったのはクラブの5と4、そしてスペードの2。残念ながら3のカードは手に入らなかったが、良いカードが来た。もし裏ジョーカー表示カードがAか2ならばストレートに化けるし、3か4ならばスリーカードになる。


 今回親の樹流徒は、他プレーヤーのカードもドローする。

 マゴグは四枚換え。フルカスは前回に続いて五枚換え、そして最後にゴグが一枚換えをした。

 どうやらゴグには良い手が入ったようだ。第一ゲームと同様ツーペアが揃っているか、数字が連続したカードや、スートが同じカードが四枚揃っているのだろう。


 カード交換が終了し、手札の公開へ。

 先ずは親の樹流徒から。3のワンペアを公開。このままではまず勝てないが、残りのカードを見ると2、5、4。裏ジョーカーの恩恵を受けて一気に手が強くなる可能性が高い。

 一目見ただけでそれを理解したのだろう、黒猫のマゴグが「良い手がきたねえ」と、語尾を間延びさせた声で言った。

 続いて公開された彼の手役は前回と全く同じKのワンペア。これは特に珍しい現象ではない。


 本当に珍しい出来事はその後に待っていた。

 次にフルカスが手札を公開する。五枚のカードがテーブル上に並べられた。


 樹流徒は己の目を疑った。フルカスの手前に並べられたカードを見ると、数字はバラバラだが、ダイヤのカードが五枚、見事に揃っていた。フラッシュだ。


 フラッシュという役自体はそれほど珍しくない。揃えたとしても驚くには値しない手だ。

 しかし、今回老騎士が完成させたのはただのフラッシュではない。“カードを五枚換えしてのフラッシュ”である。つまり五枚連続でダイヤのカードを引いたのだ。これはそうそうあり得ることではない。


 たしかフルカスは第二ゲームもカードを五枚交換してツーペアを揃えていた。これは相当な強運と言えるだろう。


 最後にゴグの手が公開される。スペードのA、スペードのK、クラブのQ、スペードのJ、ダイヤの10だった。ポーカーのローカルルールではこのような手をロイヤルストレートという役として扱うこともあるが、裏道化師ではただのノーペアである。


 この時点でフルカスの勝利が確定した。仮に樹流徒やゴグの手が裏ジョーカーのお陰でストレートに発展したとしても、フラッシュのほうが強い。これでフルカスは二連勝である。

 一応裏ジョーカー表示カードの公開も行なわれたが、誰の手にも影響は無かった。


 裏ジョーカーの効果で勝者がひっくり返った試合は第一ゲームのみ。フルカスが言った通り、派手な逆転はそうそう頻繁に起こることではないのかも知れない。


 樹流徒がまだ一勝も挙げられぬまま、勝負は第四ゲームへ突入してゆく。






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